1. はじめに
超新星残骸(SNR)の内部には
- 前方衝撃波(Forward shock, FS)
- 接触不連続面(Contact discontinuity, CD)
- 逆衝撃波(Reverse shock, RS)
が並び、噴出物(ejecta)と星間物質(ISM)が3つの面で分割された結果として 4 層構造
$未加熱~ ejecta ~ | ~ RS ~ | ~ 加熱 ~ ejecta ~ | ~ CD ~| ~ 加熱 ~ ISM ~ | ~ FS ~ | ~ 未加熱 ~ ISM ~ $
が形成される。
しかし、
- なぜ FS と RS が 2 つ発生するのか?
- なぜ接触不連続が必ず存在するのか?
- Sod shock tube(Riemann 問題)と何が違うのか?
- なぜ SNR のマッハ数は "上流" だけで定義するのか?
- なぜ自由膨張が終わり Sedov–Taylor 期に移行するのか?
という 「なぜ」 について、ここでは 流体方程式(Euler/MHD)の特性構造に基づき、
これらを定性的に説明してみます。(厳密な話は教科書で勉強してください。)
⚠️ SNR の上流・下流を絶対に間違えないように!
SNR の衝撃波では、動いているのは“ガス”ではなく“衝撃波の壁”の方である。
だから、普通の山を流れる川をイメージすると混乱します。
代わりに、こう想像してみましょう:
あなたは川の中に立っている。すると急に、川底そのものがあなたに向かって猛スピードで動き出す。
水(=星間ガス)はほぼ静止しているのに、"川底が突っ込んでくる"ので、その境界に衝撃ができる。このとき、川底が迫ってくる方向が上流、衝撃が通過した後が下流です。
SNR も同じで、
- 外側(星間空間側)=衝撃波にまだ押されていない → 上流
- 内側(中心側)=衝撃波が通過して加熱・圧縮された後 → 下流
という構図になります。“川底が動く不思議な世界”を思い浮かべて、中心側=下流は絶対に混同しないようにしましょう。
2. Euler / MHD 方程式の「特性構造」が SNR を決める
2.1 Euler 方程式とは何か
Euler(オイラー)方程式は、18 世紀に Leonhard Euler(1707–1783)が確立した、
粘性ゼロの流体(理想流体)の運動を支配する最も基本的な方程式です。
Navier–Stokes 方程式の特別な場合であり、
- 粘性なし(viscosity = 0)
- 熱伝導なし
- 内部摩擦なし
といった理想化のもとで成り立ちます。
この方程式の重要性は、
- 流体力学の基礎方程式であり
- 衝撃波・音波などの高速現象を支配し
- 数値流体力学(CFD)では Riemann 問題や特性速度の議論の基礎になる
という点にあります。
● 圧縮性流体とは何か(非圧縮との違い)
流体が「圧縮性」と呼ばれるためには、
✔ 密度 ρ が位置と時間によって変化する
ということが本質です。
非圧縮性(例:常温・低速の水)の場合は $\nabla \cdot v = 0$ が近似的に成り立ち、密度はほぼ一定。
しかし、空気の流れ・音波・衝撃波・天体流体(星間ガス、太陽風) では、速度や圧力の変化によって密度が大きく変化するため、圧縮性(compressible) の扱いが必須になります。
圧縮性が重要になると、
- 速度 v
- 密度 ρ
- 圧力 P
- 内部エネルギー(温度)
が相互に影響し合い、単純な速度場の議論では済まなくなります。
Euler 方程式はまさにこれらを 保存則 の観点から統一的に扱う枠組みです。
● Euler 方程式は「保存形」で書ける(保存則とは何か)
1 次元の Euler 方程式は、
質量・運動量・エネルギーの 3 つの保存則をひとまとめにしたものです。
一般形は
\frac{\partial \mathbf{U}}{\partial t}
+
\frac{\partial \mathbf{F}(\mathbf{U})}{\partial x}=0
という形になります。
「保存形(conservative form)」とは、
- ある量 U の時間変化は、境界を通る流束 F の差で決まる
- 方程式の両辺を積分すると、系全体で U が保存する
という構造になっているという意味です。
この保存形が重要なのは、衝撃波(ショック)や密度ジャンプのような不連続があっても、物理法則が破れない形として扱えるからです。数値流体力学では「有限体積法(FVM)」と相性がよく、衝撃波を正しく捕えるために保存形が必須になります。
● なぜ変数を (ρ, ρv, E) で選ぶのか?
Euler 方程式の状態ベクトルは
\mathbf{U} =
\begin{pmatrix}
\rho \\
\rho v \\
E
\end{pmatrix}
で表されます。
これには明確な理由があります。
✔(1)「保存量」を直接扱うため
各成分は、
- $\rho$:質量密度
- $\rho v$:運動量密度
- $E$:全エネルギー密度
であり、いずれも保存則が成り立つ物理量です。
速度 $v$ や内部エネルギー $e$ は保存量ではないため、そのまま方程式に入れると衝撃波を正しく表現できません。ショックを含む流れを解くには「保存量」ベースの変数が必須です。
✔(2)特性速度(固有値)がきれいに出る
Euler 方程式を線形化して固有値解析すると、
- 流れに乗った輸送速度 $v$
- 音速 $c$
- $v \pm c$ の波
といった 物理的に意味のある波動モード(音波・エントロピー波・渦波) が自然に現れます。これは、保存量で変数を取っているからうまくいく構造であり、これにより Riemann 問題や Godunov 法などの数値解法が成立します。
詳細は数値計算の教科書や、「差分法の基礎」三好 隆博 先生、などをご参照ください。
http://www.icehap.chiba-u.jp/activity/SS2018/textbook/miyoshi_SS2018_FD.pdf
✔(3)エネルギー保存を強制できる
熱力学的な内部エネルギーは
E = \rho e + \frac{1}{2} \rho v^2
として扱われます。
内部エネルギー $e$ だけでは対流で輸送される性質が複雑になるため、
「運動エネルギー+内部エネルギー」をまとめて全エネルギー $E$ を保存量として扱います。
● 流束 F(U) の意味(物理的解釈)
\mathbf{F}(\mathbf{U}) =
\begin{pmatrix}
\rho v \\
\rho v^2 + P \\
v(E+P)
\end{pmatrix}
これらは、
質量・運動量・エネルギーが単位時間にどれだけ x 方向に運ばれるか
を表しています。
- $\rho v$:単なる移動量(質量 × 速度)
- $\rho v^2 + P$:運動量の輸送(圧力が運動量を運ぶ)
- $v(E+P)$:エネルギーの流れ(内部+運動エネルギー+圧力仕事)
「圧力$P$ がエネルギーや運動量を運ぶ」という点で、圧力項が現れるのは自然です。
● まず何をしたいのか?
このままでは「3 成分がカップルした連立偏微分方程式(PDE)」なので、
どの方向にどんな波が伝わるかが直感的にわかりにくい。
やりたいことは:
「この連立 PDE を、“個々の波モード(左向き波・右向き波・接触波)ごとの 1 本の輸送方程式に分解したい」
ということです。
そのために使うのが Jacobian 行列の固有値分解です。
● 線形化して特性構造を見る
ある背景状態 $ \mathbf{U}_0 $ のまわりの微小摂動 $ \delta \mathbf{U} = \mathbf{U} - \mathbf{U}_0 $ を考え、
方程式を一次まで線形化すると
\frac{\partial \,\delta\mathbf{U}}{\partial t}
+ A \frac{\partial \,\delta\mathbf{U}}{\partial x}
= 0,
という形になります。ここで
A = \left.\frac{\partial \mathbf{F}}{\partial \mathbf{U}}\right|_{\mathbf{U}_0}
は 3×3 の Jacobian 行列です。
● A を固有値分解する:波モードへの分解
行列 $A$ を固有値分解すると
A = R \Lambda R^{-1}
と書けます。
- $\Lambda $:固有値を並べた対角行列
- $R$:対応する右固有ベクトルを並べた行列
ここで「新しい変数」
\mathbf{W} = R^{-1}\,\delta\mathbf{U}
に変換すると、方程式は
\frac{\partial \mathbf{W}}{\partial t}
+ \Lambda \frac{\partial \mathbf{W}}{\partial x}
= 0
となり、対角行列のおかげで 3 本の独立な輸送方程式に分解されます:
\frac{\partial w_i}{\partial t}
+ \lambda_i \frac{\partial w_i}{\partial x}
= 0
\quad (i=1,2,3).
ここで
- $w_i$:それぞれの「波モード」の振幅
- $\lambda_i$:そのモードの伝播速度(特性速度)
です。
つまり 固有値 $\lambda_i$ が「その波がどちら向きにどの速さで走るか」を表していることになります。
● Euler 方程式の固有値(特性速度)
1 次元 Euler 方程式の場合、固有値は
\lambda_1 = v - c_s,\quad
\lambda_2 = v,\quad
\lambda_3 = v + c_s
となります。ここで
c_s^2 = \left(\frac{\partial P}{\partial \rho}\right)_s
は断熱音速です。
→ 物理的な意味
-
$v \pm c_s$:
背景流速 $v$ に対して、音波が左向き/右向きに伝わるモード
→ 左向き音波・右向き音波 -
$v$:
圧力は連続だが、密度・温度だけが不連続になり得る
エントロピー(接触)モード
→ 接触不連続面(CD)の動く速度
● なぜ「3 つの波」になるのか?
Riemann 問題(左状態 $U_L$、右状態 $U_R$ を与えるショックチューブ問題)では、
- 固有値が 3 つ → 独立な波モードが 3 つ
- それぞれが「左向き音波」「接触モード」「右向き音波」に対応
するため、一般解は
\text{左向き波} \;-\; \text{接触不連続} \;-\; \text{右向き波}
という 「3 つの波」構造になります。
(MHD の場合は固有値が 7 個になり、fast / Alfvén / slow / contact の 7 モードに分解される、という話につながります。)
2.2 MHD になると固有速度は 7 個になる
MHD の固有値:
v \pm c_f, ~~ v \pm v_A, ~~~ v \pm c_s, ~~~ v
- fast:高速磁気音波
- Alfvén:磁力線の張力波
- slow:圧力+磁場結合したモード
- contact:密度・温度だけ不連続、圧力・速度は連続
しかし構造自体は Euler と同じく 左右の波+接触不連続 である。
もっと詳細な話は下記などを参照ください。
3. Sod shock tube(標準 Riemann 問題)では Reverse Shock が出ない
Sod Tube(標準 Riemann 問題、衝撃波管問題)については、下記を参考ください。(Sod は人の名前です。)
その上で、Sod Tube 問題ではSNRで言うところの Reverse Shock が出ないことを考えてみます。
3.1 初期条件は「静止した左/右状態」
典型的な Sod tube の条件:
(\rho_L,P_L,u_L)=(1,1,0),\quad
(\rho_R,P_R,u_R)=(0.125,0.1,0)
静止状態 $(u_L=u_R=0) $ からスタート。
3.2 一般解:希薄波 – 接触不連続 – 前方衝撃波
左高圧 → 左向きは 希薄波
右低圧 → 右向きは 衝撃波
\text{rarefaction} - \text{CD} - \text{shock}
重要
Sod shock tube では逆衝撃波(RS)は絶対に出ない。
理由:
- 左領域は「膨張」しか起こらない
- 衝突・減速・反射を引き起こす壁/高密度層が存在しない
- 衝撃波の "減速" という物理がモデルに存在しない
勘違いしやすいところなので、重要な注意事項をまとめておきます。
SNR の逆衝撃波(RS)は、Sod shock tube とは異なる初期条件・境界条件が必要であり、同じ 3 波構造の中に“自然に含まれる”わけではない。
すなわち:
- Euler 方程式の数学は「RS を許す」
(左向き音波モードがショックになる可能性がある) - しかし Sod shock tube の物理では「RS は絶対に立たない」
(衝撃波が減速しない・密度勾配が無い・反射条件が無い) - SNR の物理では「FS が減速し、追突で RS が必ず立つ」
(密度勾配 + 減速 + 特性線交差により RS が必然)
という “数学と物理の違い” を区別して理解する必要がある。
SNR の RS は Euler方程式が許すモードの一つではあるものの、その発生は特定の物理条件(減速する衝撃波・密度勾配)に深く依存する点が Sod shock tube との重要な違いです。
4. SNR は Sod shock tube と初期条件がまったく違う
4.1 ejecta の自由膨張
SNR の ejecta は静止ではない:
v_{\rm ej}(r,t)=\frac{r}{t}.
→ すでに高速流が存在する
Sod shock tube の静止条件とは本質的に異なる。
4.2 密度勾配が全く異なる
ejecta:
\rho_{\rm ej}(r,t)\propto r^{-n},\ (n \sim 7–12)
外側 ISM:
\rho_{\rm ISM}=\rho_0(\text{一定})
→ 外側に向かって密度が 上昇 する構造があり得る
Sod tube 問題では左右とも均一。
4.3 forward shock(FS)は必ず減速する
外部 ISM は慣性が大きいため、
V_{\rm FS}(t) = \dot{R}_{\rm FS}(t)
\quad\text{は必ず減速する。}
SNRを想定した点源爆発については、
などを参考にしてください。
Sedov–Taylor 期では:
R \propto t^{2/5},\quad V \propto t^{-3/5}.
(Sod shock tube には「衝撃波が減速する」という物理がない。)
5. Reverse Shock(RS)は "減速した forward shock の反射波"
5.1 post-shock gas の速度が FS の減速に追いつけなくなる
post-shock gas の速度:
u_2 = \frac{2}{\gamma+1}V_{\rm FS}.
過去に高速で進んでいた FS は、将来必ず減速する。
すると:
u_2 > \frac{2}{\gamma+1}V_{\rm FS}(t)
→ post-shock gas が「動きすぎて」整合性が壊れる
(後ろから追突するイメージ)
U2の式をランキンユゴニオから導出する解説
post-shock gas の速度
u_2 = \frac{2}{\gamma+1} V_{\rm FS}
はどこから来るのか?Rankine–Hugoniot からの導出をです。
1. Rankine–Hugoniot 関係式(1D Euler)の基本
衝撃波面の速度を $V_{\rm sh}$、
上流(1)と下流(2)の物理量を $(\rho_1, v_1, P_1)$、$(\rho_2, v_2, P_2)$ とする。
衝撃波面の静止系で保存則を使うと、
質量保存より:
\rho_1 (v_1 - V_{\rm sh}) = \rho_2 (v_2 - V_{\rm sh})
(衝撃波面を表現する標準の関係式)
上流は静止(SNR の場合):
v_1 = 0
とすると:
\rho_1 (- V_{\rm sh}) = \rho_2 (v_2 - V_{\rm sh})
2. 強衝撃波近似(SNR の FS に適用可能)
SNR の FS は典型的にマッハ数 $M \gtrsim 100$ の 強衝撃波。
このとき、Rankine–Hugoniot の圧力・密度の関係は:
密度ジャンプ比(強衝撃波)
\frac{\rho_2}{\rho_1}
\simeq
\frac{\gamma+1}{\gamma-1}
(γ = 5/3 のとき → 4)
3. 下流速度 $u_2$ の導出
質量保存式にこの密度比を入れる:
\rho_1 (-V_{\rm sh})
=
\frac{\gamma+1}{\gamma-1} \rho_1 (v_2 - V_{\rm sh})
ρ₁を消して整理すると:
-V_{\rm sh}
=
\frac{\gamma+1}{\gamma-1} (v_2 - V_{\rm sh})
両辺を展開して v₂ について解く:
v_2 = \frac{2}{\gamma+1} V_{\rm sh}
4. SNR 文脈での意味
この式は次の物理を表す:
- 衝撃波が速度 $V_{\rm FS}$ で走ると
- 衝撃波の後ろ(post-shock gas)は、衝撃波の約 0.75 倍の速度で進んでいく
γ = 5/3 の場合:
u_2 = \frac{2}{\gamma+1}V_{\rm FS}
= \frac{2}{8/3} V_{\rm FS}
= \frac{3}{4} V_{\rm FS}
つまり FS が 4000 km/s なら、下流ガスは ~3000 km/s で外側へ流れる。
5. ここが SNR 進化の鍵
もし FS が減速すると、
u_2 (過去の高速時代に作られた値)
>
\frac{2}{\gamma+1} V_{\rm FS}(現在)
となり、
post-shock gas が「衝撃波に追突する」状態になる。
その“追突の力学的整合性”を取るために内向きの反射衝撃波 = Reverse shock が形成される。
これが SNR 進化におけるRS 形成の根本的メカニズム。
5.2 圧力過剰を解決するために逆向き(内側)に衝撃波が立つ
この状況を解決する唯一の解が
\boxed{\text{reverse shock(内向きの衝撃波)}}
である。
RS の本質
SNR の RS は、forward shock が減速した結果できる “反射衝撃波”
→ Riemann 問題の一次解ではない。
数学的に見ると、逆衝撃波(RS)の形成は次の二本立てで理解できる
- 双曲型方程式の特性線(characteristics)の交差 → 古典解の破綻 → ショック生成
- 自己相似解(Chevalier 1982)の存在:FS–CD–RS の三構造を持つ解しか self-similar に存在しない
ここでは(2)は論文の結果に委ね、(1)の本質だけまとめる。
「追突の整合性」= Rankine–Hugoniot を満たす不連続(ショック)の挿入
-
forward shock (FS) が減速すると、過去の高速 FS によって作られた post-shock gas の特性線 $v+c_s$ が、新しく生成される特性線を追い越そうとし、特性線が交差する。
-
特性線の交差は、Euler 方程式の古典解(C¹ の滑らかな解)が 存在できない(=解が多価になる) ことを意味する。
-
そのため、解を 弱解(weak solution) に拡張し、ある曲面 $r = R_{\rm RS}(t)$ を不連続面として挿入する必要がある。
-
不連続面の前後で、質量、運動量、エネルギー、が保存される条件が Rankine–Hugoniot 関係式であり、その条件を満たす不連続は ショックとしての性質を持つ。
-
このショックの法線方向速度が中心向きであるため、逆衝撃波(reverse shock) と呼ばれる。
リバースショック(RS)形成の簡潔なまとめ
前提条件を確認すると、「Euler 方程式に基づく議論は 連続体近似(continuum approximation) が成立していること」が前提である。すなわち、
- 粒子同士の衝突頻度が十分に高い
- 分子間距離(平均自由行程)がマクロスケールに比べて極めて小さい
- 局所的な温度・圧力が定義できる(局所熱平衡が成立)
といった条件のもとで初めて、特性線の交差 → オイラー方程式(非線形双曲型偏微分方程式)の古典解の破綻 → ショックを挿入して弱解に拡張する という数学的議論が適用できます。
この前提の上で、Forward Shock(FS)が ISM との相互作用で減速すると、その直後にある “流体化した” ガスの特性線(v ± c)が次第に FS を追い越そうとするため、Euler 方程式の古典解(滑らかな解)が破綻する。この破綻を解消する唯一の手段として、Rankine–Hugoniot 条件を満たす不連続面を新たに挿入する必要が生じ、それが中心方向へ伝わる衝撃波=Reverse Shock(RS) として現れる。
6. 接触不連続(CD)は Euler/MHD が必ず持つ固有モード
6.1 接触不連続の条件
接触不連続(Contact Discontinuity, CD)は、“密度だけが飛んでよい” という不連続で、数学的には
[P] = 0,\quad [v] = 0,\quad [\rho] \neq 0
と表されます。
ここで $[X]$ は不連続面の前後差(jump)を意味します。
- 圧力が連続:$[P]=0$
- 速度が連続:$[v]=0$
- 密度だけ不連続:$[\rho]\neq 0$
つまり、不連続面の両側は同じ圧力で、同じ速度で“一緒に移動”しているのに、密度だけがガラッと変わるという構造が許される、ということです。
■ なぜ密度だけが飛ぶモードがEuler/MHDに“必ず”現れるのか?
理由は、Euler 方程式(および MHD 方程式)の固有値構造にあります。
(1)1 次元 Euler の固有値は
- 音波:$v \pm c$
- エントロピー波(接触不連続モード):$v$
の 3 種類のモードから構成されています。
このうち、エントロピー波(contact mode)は速度 $v$ で輸送されるモードで、運動量・圧力はそのままに、密度やエントロピーだけを輸送する自由度を持っています。
だから、数学的に必ず
- 速度は連続のまま
- 圧力も連続のまま
- 密度だけ飛んだまま動く
という解が存在するのです。
言い換えれば、
接触不連続は Euler 方程式の“固有の波動モード”そのもの
であり、特別な状況ではなく「方程式が許す標準的な不連続」です。
MHD でも同じ理由で、接触不連続(+磁場成分の不連続)が自然に現れます。
6.2 衝撃波と接触不連続面の違い
接触不連続は衝撃波と違い、
- 圧力ジャンプが ない
- 速度ジャンプが ない
- 密度だけが 不連続
- 熱は伝わらないので、エントロピーがジャンプ可能
- 流体要素は CD を“すり抜けない”(物質境界として振る舞う)
という特徴があります。衝撃波は音波の非線形 steepening に由来するのに対し、接触不連続は 輸送方程式の構造そのものが生む自由度 です。
6.3 SNR における接触不連続の物理的役割
超新星残骸(SNR)では、ejecta(超新星で吹き飛ばされた物質) とISM(星間物質) の境界には必ず CD が現れます。
- 外側へ向かって進む “forward shock(前面衝撃波)” が ISM を圧縮
- 内側へ向かって戻る “reverse shock(逆衝撃波)” が ejecta を圧縮
- その中間に 圧力も速度も連続だが密度はまったく違う ejecta/ISM の境界 が生じる
この境界がまさに 接触不連続(CD) です。
SNR の典型構造は次のようになります:
ISM → Forward shock → shocked ISM → CD → shocked ejecta → Reverse shock → ejecta
CD は、ejecta と ISM が混じらずに“向かい合う”境界として存在するため、流体試料がどちらに由来するかを決める非常に重要な指標となります。
7. SNR は "4 層構造" を必然的に持つ
7.1 なぜ 接触不連続面(CD) は「1 枚」でよいのか?
前節で見たように、SNR の基本構造は
ISM → Forward shock → shocked ISM → CD → shocked ejecta → Reverse shock → ejecta
で表される。ここでまず疑問に思うのは、
「ejecta 側と ISM 側に、CD が何枚もできても良さそうなのに、なぜ教科書では CD が 1 枚だけの "4 層構造" と書かれるのか?」
という点であろう。
ポイントは以下の 2 つである。
-
“物質起源”で見て境界は 1 回しか変わらないから
- 半径の小さい側には超新星 ejecta、
- 大きい側には ISM がある。
どれだけショックで押しつぶされようと、「ejecta 由来の流体」と「ISM 由来の流体」が入れ替わる境界は、基本的には 1 回だけ でよい。
これが「ejecta/ISM を分ける 1 つの CD」である。
-
Euler/MHD の固有モードとして“1 つのエントロピー波面”で足りるから
数学的には、接触不連続は
- 速度と圧力が連続
- 密度と組成だけジャンプする
という「エントロピー波モード」に対応している。
自然な初期条件(中心に高密度の ejecta、外側に低密度の ISM)から膨張させると、
“内側から来る ejecta” と “外側で待っている ISM” が向かい合う位置に、エントロピー波面が 1 枚生じれば十分なのである。
現実の SNR では Rayleigh–Taylor 不安定性や乱流によって CD 周辺が“もじゃもじゃ”に混ざり、多数のフィンガー構造ができる。しかし、それらは 「1 枚の CD が乱された結果」 であり、理想化した 1 次元モデルでは 1 枚の CD として捉えているだけ。
7.2 4 層構造は SNR 進化のどの時点で現れるのか?
次の素朴な疑問は、
「SNR は最初から 4 層構造なのか?それとも進化のどこかの段階で 4 層構造になるのか?」
である。
● ごく初期(自由膨張期のごく最初)
超新星爆発直後は、ejecta はほぼ真空に向かって自由膨張しているとみなせる。
この段階では、
- ejecta は自分の運動エネルギーでひたすら外側に広がり、
- 本格的な前面衝撃波(FS)も、逆衝撃波(RS)もまだ十分に発達していない。
この最初期には、はっきりした “4 層構造” はまだ成立していない。
● ejecta が ISM と本格的にぶつかり始める段階
時間が経つと、膨張する ejecta は外側の ISM に質量・運動量をぶつけるようになり、
- 外側に forward shock (FS) が立ち上がり、ISM を加熱・圧縮
- 内側では、押し返される形で reverse shock (RS) が ejecta に向かって伝播
- その間に、圧力・速度はほぼ揃うが密度と組成が異なる ejecta/ISM の境界 = CD が形成される
この段階で初めて、
未加熱~ ejecta ~ | ~ RS ~ | ~ 加熱 ~ ejecta ~ | ~ CD ~ | ~ 加熱 ~ ISM ~ | ~ FS ~ | ~ 未加熱~ ISM ~
という “4 層構造” が揃う。
したがって、
- 4 層構造は「自由膨張が ISM にぶつかることで、FS/CD/RS がそろった段階」から現れる
- その後の発達した SNR(例:若いカシオペヤ A, Tycho など)は、この 4 層構造を基本に理解することができる
と整理できる。
7.3 SN 1987A はいつ頃から 4 層構造になるのか?
具体例として、SN 1987A を考えよう。SN 1987A は、周囲に特徴的なリング構造(内側リング)を持ち、
観測的にも「いつ blast wave (爆発)がリングに到達したか」が詳細に追跡されている。(blast wave (爆発)は、衝撃波も含む爆風の一般的な総称のこと。) 概念的には、次のように整理できる:
-
爆発直後〜数年(自由膨張が支配的)
- 中心から高速 ejecta がほぼ自由膨張している。
- まだリング構造のある密度の高い CSM(周囲物質)には十分に到達していない。
- FS/RS/CD は形成されつつあるが、観測的に「典型的 4 層構造」としては見えにくい段階。
-
ejecta が CSM(青色超巨星の風、リング構造)に本格的に衝突し始める段階
- ejecta と CSM の密度勾配が強く効き、
- 外側に強い FS、内側に RS、それらの間に CD が発達する。
- この頃から、理論的には 4 層構造がはっきりした形で成立していると考えられる。
-
リングとの衝突が進むと、4 層構造上に“局所的な凹凸・輝線領域”が乗る
- 実際の SN 1987A では、リング上の clump に FS が衝突することで、多数の輝点が観測される。
- これは 4 層構造の上に、非一様な CSM という“デコボコ”が重なった結果であり、
基本の FS–CD–RS 構造 + 不安定性と非一様密度 という組み合わせで理解できる。
SN 1987A のような複雑な実例でも、「中心側:ejecta、外側:CSM/ISM、その間を FS/CD/RS が仕切る」という 4 層構造の基本図は生きている、と考えられます。
観測的に“いつから 4 層構造になるか?”と問われたときには、
「ejecta が ISM/CSM と本格的に相互作用し、FS・RS・CD が揃った時点」
と答えるのが、物理的に最も素直な理解である。
7.4 まとめ:4 層構造の「必然性」と「いつ現れるか」
-
CD は 1 枚で十分:
- ejecta vs ISM/CSM の“物質起源”の境界は 1 回だけ変わればよく、
- Euler/MHD のエントロピー波(接触モード)として自然に 1 つの CD が立ち上がる。
-
4 層構造はいつから?:
- 自由膨張だけの最初期には成立せず、
- ejecta が ISM/CSM と本格的に相互作用し、FS・RS・CD が揃った時点で初めて「4 層構造」と呼べる。
-
SN 1987A のような具体例でも:
- 複雑なリング構造や clump による局所的な輝線の違いはあるが、
- 大局的には「未加熱 ejecta – RS – shocked ejecta – CD – shocked CSM/ISM – FS – 未加熱 CSM/ISM」という 4 層構造の枠組みで理解できる。
このように、SNR の 4 層構造は「Euler/MHD の固有モード」×「ejecta–ISM の密度勾配」から必然的に生まれる標準パターンであり、SN 1987A を含む多くの SNR を見る際の基本形として有効である。
8. MHD とマッハ数(Mach number)の物理的定義
8.1 MHD では「音速」が 3 種類存在する
理想 MHD の線形波動では、圧力と磁場が結合するため、通常の音速 $c_s$ に加えて以下の 3 種類の伝播速度が定義される。
-
音波モード(sound mode)
c_s = \sqrt{\gamma \frac{p}{\rho}} -
Alfvén モード(Alfvén wave)
v_A = \frac{B_0}{\sqrt{4\pi\rho}} -
磁気音波(magnetosonic waves):
波数ベクトル $\mathbf{k}$ と磁場 $\mathbf{B}_0$ の角度 $\theta$ に依存して 2 種類に分かれる
(fast / slow magnetosonic modes)
高速磁気音速(fast magnetosonic speed)
一般形は以下の 2 本の固有値(磁気音波速度)としてあらわれる:
c_{f,s}^2 = \frac{1}{2}\left(c_s^2 + v_A^2\right)
~\pm~ \frac{1}{2}\sqrt{ \left(c_s^2 + v_A^2\right)^2 - 4 c_s^2 v_A^2 \cos^2\theta
}.
ここで:
- “+” → fast magnetosonic speed(高速磁気音速)
- “−” → slow magnetosonic speed(低速磁気音速)
よって、高速磁気音速は
\boxed{
c_{f}^2 = \frac{1}{2}\left(c_s^2 + v_A^2\right) + \frac{1}{2}\sqrt{ \left(c_s^2 + v_A^2\right)^2 - 4 c_s^2 v_A^2 \cos^2\theta }}
となる。
角度 theta の意味
\theta~=~\angle(\mathbf{k},\mathbf{B}_0)
すなわち 波数ベクトルと磁場のなす角。
衝撃波を議論するときはしばしば
\theta \rightarrow \theta_{Bn}
(衝撃波法線と磁場の角)と読み替えられ、
特に fast モードのマッハ数:
M_f = \frac{V_{\mathrm{shock}}}{c_f}
が 衝撃波成立条件(fast shock / slow shock の区別) を決める。
説明のまとめ
- MHD では「音速」が 1 種類ではなく 3 種類になる
- fast モードは「最も速い波」で、衝撃波の成立を支配する
- slow モードは磁場方向に縛られた「遅い」波
- $\theta$ によって、磁場が波の進みやすさを変える
- 衝撃波の議論では fast magnetosonic speed が基準速度になる
8.2 SNR の衝撃波マッハ数は上流で定義する
M_{\rm sh}=\frac{V_{shock}}{c_{上流}}
必ず 上流(未加熱 ISM)の音速で定義する理由:
- 衝撃波は「上流が音で逃げ切れない」現象だから
- 下流の音速は衝撃で上がってしまう(定義に使うべきでない)
9. Sedov–Taylor(断熱膨張)期への移行:
free expansion(非流体) → RS(流体化) → self-similar(断熱膨張)
9.1 条件1:掃引質量が ejecta 質量を上回る(自由膨張の終わり)
爆発直後の ejecta はほぼ衝突せず、粒子ビームのような“自由膨張(ballistic flow)” をしており、まだ流体近似(圧力・温度が定義できる状態)が成り立たない。
外側の ISM を十分に掃引し、
M_{\rm swept}=\frac{4}{3}\pi R^3 \rho_0 \gtrsim M_{\rm ej}
となる頃になると、FS による圧縮で周囲ガスの衝突頻度が増え、流体的振る舞いが重要になり始める。若い SNR(Cas A, Kepler, Tycho)ではまだこの条件が十分でなく、自由膨張的な成分が大きい。
9.2 条件2:Reverse Shock が中心へ到達(ejecta の流体化と圧力支配)
FS が減速すると、内側へ向かう reverse shock(RS) が形成され、ejecta を強く加熱する。
RS が ejecta の中心まで進むと、
- 方向の揃った自由膨張運動 $v = r/t$ が破壊され、
- 粒子間衝突により 熱化(流体化) が進み、
- 内部が高温・高圧の hot bubble(圧力支配領域) へ転換する。
このとき初めて、Euler 方程式が前提とする流体近似が十分成立し、
“圧力で膨張する 1 個のガス” としての自己相似膨張が可能になる。
現在、Cas A、Kepler や SN 1987A では RS は中心に達しておらず、完全な圧力支配に至っていない。
一方、Cygnus Loop や Vela SNR では RS がすでに消滅し、内部は完全に圧力で膨張している。
9.3 Sedov–Taylor self-similar 解(断熱膨張が成立する段階)
2 つの条件(十分な質量掃引 + ejecta の流体化)が揃うと、膨張は Sedov–Taylor 型の
断熱的・自相似的(self-similar) 振る舞いに従う:
R(t)\propto \left(\frac{E}{\rho_0}\right)^{1/5} t^{2/5},\qquad
V(t)\propto t^{-3/5}.
Cygnus Loop, Vela SNR はこの ST 期にある典型例であり、
Tycho, Cas A, SN 1987A は依然として「自由膨張+FS/RS 相互作用」の前段階にある。
10. まとめ:SNR・Sod・MHD・マッハ数・Sedov の見取り図
超新星残骸(SNR)の流体構造は、教科書的な Sod ショックチューブの一般化であり、
“外側から押す流れがあるか/減速があるか/密度勾配があるか” によって境界面の数と種類が大きく変わる。以下に両者の違いと、そこからつながる MHD やマッハ数、Sedov 期の位置づけを整理する。
10.1 Sod shock tube:最も単純な 1 次元衝撃問題
条件は極めてシンプル。
- 左右は 静止・均一(密度だけ違う)
- 減速する外力は存在しない
- 外からガスが押してくることもない
→ したがって 逆衝撃波(RS)は絶対に生じない
出てくる境界面は、たった 3 つ:
- レアファクション波(膨張波)
- 接触不連続(CD:密度だけが飛ぶ面)
- 衝撃波(shock)
これが「基礎テンプレート」。
10.2 SNR(超新星残骸):Sod の“現実版”で境界面が増える理由
SNR では状況が大きく異なる。
- 爆発で ejecta が 自由膨張
- 外側の ISM の密度が高く、膨張が減速
- 減速によって 反射衝撃波(reverse shock; RS) が必ず立ち上がる
- Euler/MHD の固有モードとして CD は必ず 1 枚形成
結果として、境界面は FS – CD – RS の 3 枚になり、内部は 4 層構造 になる。
未加熱 ejecta | RS | 加熱 ejecta | CD | 加熱 ISM | FS | 未加熱 ISM
さらに、
- RS が中心に到達し
- 掃引質量が ejecta を超えると
→ 内部が圧力支配になり、断熱膨張(Sedov–Taylor 期)へ移行
10.3 MHD とマッハ数の位置づけ
SNR を MHD で扱うと、“音速の代わりに 速い方の波(fast mode speed) が基準” になり、
マッハ数 = 流速 / 伝播の最速波 として定義される。
- 流れがこの“最速波”より速い → 超音速(超高速 MHD 流)
- 衝撃波が立つ条件は hydrodynamics と同じで、上流の音速(または fast-mode speed)より流体が速いかどうか で決まる。
11. まとめ:具体例から「抽象(方程式)」を身につけるために
ここまでかなり抽象的・数式的に整理してきましたが、「え、まだピンと来てない……」という人は、歴史と具体例から戻るのがおすすめです。
11.1 歴史のざっくりした流れ
細かい年号はさておき、流れだけ意識しておくと整理しやすいです。
-
実験室の衝撃波管(shock tube)
- Sod shock tube のような「左:高圧、右:低圧」の単純な 1D 問題。
- ここで 「希薄波 – 接触不連続 – 衝撃波」 という 3 つの波構造が教科書的に整理された。
-
爆発問題の理論化(Sedov–Taylor 型爆発)
- 点爆発が均一な媒質中で膨張するときの self-similar 解。
- 「R ∝ $t^{2/5}$」というスケーリングが出てきて、「減速する衝撃波」という概念が整理された。
-
超新星残骸(SNR)の観測と FS/CD/RS の同定
-
X線・電波観測で「外側の殻」と「内部の構造」が見えるようになり、
- 外側:加熱 ISM → FS
- 内側:加熱 ejecta → RS
- その間:組成の違う境界 → CD (接触不連続面は観測ではわからない。)
と解釈されるようになった。
-
-
数値流体計算(Euler/MHD)の発展
- Godunov 法や Riemann ソルバーにより、
1D/2D/3D の爆発・SNR 進化が直接シミュレーションされるようになり、 - 「FS–CD–RS の 4 層構造」や「MHD での fast/Alfvén/slow wave」などが
方程式の固有値構造と一対一対応することが確認された。
- Godunov 法や Riemann ソルバーにより、
歴史的には、
「実験室の shock tube → 理論爆発(Sedov) → 観測 SNR → 数値 MHD」
という “具体 → 抽象 → 宇宙への応用” の道筋で整理された、という感じでしょう。
11.2 具体例から抽象へ:勉強するときのおすすめの順番
「抽象から入るときつい」人向けに、具体例ベースで納得するルートを提案すると:
-
まず Sod shock tube を 1D コードで回す
- rarefaction・CD・shock の 3 つが “本当に 3 つだけ” 出てくることを図で確認する。
- このとき、Euler の固有値が 3 つ(v−cₛ, v, v+cₛ)しかないことと対応づける。
-
Sedov–Taylor 爆発のシミュレーション or 教科書図を見る
- 均一な媒質に対する点爆発で、FS が時間とともに 減速する 様子を確認する。
- 「衝撃波が減速するって、Sod にはなかったよね?」という差分を意識する。
-
密度勾配付き ejecta + ISM の 1D 模型を見る(あるいは論文図を見る)
-
ejecta ∝ r⁻ⁿ, ISM = const の設定で、
- 最初は自由膨張っぽい
- やがて FS が減速する
- ある時点で内側から RS が立ち上がる
-
という "RS 誕生の瞬間" を図で見ると、RS が「勝手に追加された概念」ではなく
双曲型 PDE の性質から必然的に出てくることが腑に落ちやすい。
-
-
実際の SNR(Tycho, Cas A など)の図と対応づける
-
観測論文の図で「FS / CD / RS」とラベルされた半径を見て、
- 外側:加熱 ISM(FS)
- 中間:CD 付近の不安定・混合領域
- 内側:加熱 ejecta(RS)
-
と対応させると、式で出てきた構造がそのまま空の写真に現れていることが実感できる。
-
-
最後に Euler/MHD の固有値やマッハ数の定義に戻る
- 「なぜマッハ数は上流で定義するのか?」
- 「なぜ fast モードが衝撃波条件を決めるのか?」
を、ここまでの具体例を頭に浮かべながら読むと、
抽象的な式が “構造のまとめ” に見えるようになるはずです。
11.3 この記事の位置づけ
この記事は、
- Sod shock tube → Sedov–Taylor → SNR の FS/CD/RS
- free expansion → FS 減速 → RS 形成 → Sedov–Taylor 期
といった、歴史的・具体的に積み上がってきた知識を
最終的に何が方程式の観測的構造として残るのか?
という視点で圧縮して眺め直したメモ的なものです。
もしまだモヤっとしていたら…
- まずは Sod shock tube の図と
- Sedov–Taylor 解の R(t) ∝ t²⁄⁵ の図と
- 実際の SNR の X線画像(FS/CD/RS のラベル付き)
の 3 点セットを並べて眺めてみてください。
その上で本記事に戻ると、
「あ、この 'FS–CD–RS–4層構造' って、流体近似が成り立つ前提の話で、
結局は Euler/MHD の特性構造と '減速する衝撃波' の組み合わせなんだな」
という絵がクリアになるかもしれません。