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線形時不変システム(Linear Time-Invariant)とは何か? — なぜ回路解析で exp(iωt) を入れるのか —

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Last updated at Posted at 2026-03-04

はじめに

電子回路、制御工学、信号処理の教科書を読むと、必ず次のような説明に出会います。

入力が

e^{i\omega t}

のとき、出力(定常解の場合)は

H(i\omega)e^{i\omega t}

になる。

そしてそこから

  • Bode線図
  • 周波数応答
  • フーリエ解析

が説明されます。

しかし多くの場合、

  • なぜ指数関数なのか
  • なぜ出力が同じ形になるのか
  • そもそも $H(\omega)$ とは何なのか

などを深く理解されないまま使われていることがあります。

その結果、

「そういうものだから覚える」

という状態になってしまいます。

しかし実際には、ここには非常に美しい数学構造があります。

そのキーワードが

\boxed{\text{LTI (Linear Time-Invariant)}}

です。

日本語では

  • 線形時不変システム
  • 線形時不変微分方程式

cf. 日本語の Wikipedia にも説明があります。LTIシステム理論

と呼ばれます。

この記事では

  • LTIとは何か
  • なぜ指数関数が特別なのか
  • なぜBode線図や周波数応答が成立するのか

を順番に説明します。

1. LTIとは何か

LTIとは

  • Linear(線形)
  • Time-Invariant(時不変)

という2つの条件を満たす系のことです。

つまり

\boxed{\text{線形} + \text{時間シフト不変}}

という意味です。

電子回路や制御理論の多くは、このLTI系として扱われます。

2. Linear(線形)とは何か

線形とは、重ね合わせの原理が成立することです。

入力と出力の関係を

u(t) \rightarrow x(t)

と書くとします。

もし

u_1(t) \rightarrow x_1(t)
u_2(t) \rightarrow x_2(t)

ならば

a u_1(t) + b u_2(t)

を入力すると

a x_1(t) + b x_2(t)

が出力になります。

これが

\boxed{\text{線形性}}

です。

抵抗・コンデンサ・インダクタだけで構成された回路は、この線形性を持っています。

3. Time-Invariant(時不変)の数学的定義

「時間不変」という言葉は誤解されやすい言葉です。

よくある誤解は

時間不変 = 時間微分がゼロ

というものですが、これは全く違います。

時間不変とは

\boxed{
\text{入力を時間シフトすると出力も同じだけシフトする}
}

という性質です。

数学的定義

系を演算子

T

で表します。

入力 $u(t)$ に対して出力が

x(t) = T[u(t)]

になるとします。

このとき任意の時間シフト $a$ に対して

T[u(t-a)]
= x(t-a)

が成立するなら、この系は

\boxed{\text{時不変}}

です。

演算子で書くと

T S_a = S_a T

ここで

S_a f(t) = f(t-a)

は時間シフト演算子です。

つまり

時間シフトと系の作用が可換

という意味になります。

4. 線形時不変微分方程式

多くの回路や物理系は次の形になります。

a_n \frac{d^n x}{dt^n}
+
a_{n-1} \frac{d^{n-1}x}{dt^{n-1}}
+
\cdots
+
a_0 x
= u(t)

ここで

a_i = \text{const}

ならば、この方程式は

t \rightarrow t-a

という時間シフトに対して方程式の形が変わりません。

これを

\boxed{\text{線形時不変微分方程式}}

と呼びます。

5. なぜ指数関数が特別なのか

ここで最も重要な事実があります。

指数関数には次の性質があります。

\frac{d}{dt} e^{i\omega t}
= i\omega e^{i\omega t}

つまり

微分しても形が変わらず、定数倍になる

このため

e^{i\omega t}

は微分演算子

\frac{d}{dt}

固有関数になります。

6. 微分方程式に指数関数を入れる

一次遅れの例を考えます。

\tau \frac{dx}{dt} + x = u(t)

入力を

u(t)=e^{i\omega t}

とします。

出力を

x(t)=X e^{i\omega t}

と仮定します。

微分すると

\frac{dx}{dt}=i\omega X e^{i\omega t}

代入すると

X(1+i\omega\tau)=1

したがって

H(i\omega)=\frac{1}{1+i\omega\tau}

になります。

7. 何が起きたのか

ここで重要なのは、

\frac{d}{dt}

という演算が

i\omega

に置き換わったことです。

つまり、指数関数に対しては、

\boxed{
\frac{d}{dt} \rightarrow i\omega
}

と置き換えて計算できます。

その結果、

微分方程式が

\text{微分方程式が周波数領域の代数方程式}

に変わります。(代数方程式は、多項式を等号で結んだ方程式の総称)

8. Bode線図の意味

Bode線図は

H(i\omega)

  • 振幅
  • 位相

を周波数ごとに描いたものです。

つまり

各周波数の波をどれだけ通すか

を表しています。

9. フーリエ変換との関係

任意の信号は

x(t)
= \int A(\omega)e^{i\omega t}d\omega

の形に分解できます(定数係数は省略しています)。

つまり

任意の信号は無数の周波数の波の重ね合わせ

です。

LTI系では指数関数が固有関数になるため、
各周波数成分は互いに混ざらず独立に振る舞います。

そのため

A(\omega)

H(i\omega)

を掛けるだけで出力が求まります。

まとめ

LTI解析とは

\boxed{
\text{微分方程式を指数関数で対角化する}
}

ことです。これは線形代数でいう「固有値分解」と同じ構造です。

その結果

  • 周波数応答
  • Bode線図
  • フーリエ解析

は対角化された綺麗な世界での分析方法となります。

おわりに

回路解析で突然現れる $e^{i\omega t}$ を代入する、
というのは単なる計算テクニックではありません。

それは

線形時不変システムを最もシンプルに解析するための関数

なのです。

この視点が見えると、回路解析は

「公式を覚える科目」から「構造を理解する科目」

に変わるはずです。

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