はじめに
開発者なら一度は悩んだことがある「Windows か Mac か問題」──
使えるツールの違い、開発環境の整えやすさ、ライブラリの互換性など、OS 選びは気づけばプロダクト開発よりも疲れる「タスク」になっていることがあります。
しかし最近、この前提を揺さぶる存在が現れました。
それが Omarchy です。
本記事では、IT 歴 7 か月のど素人が、ほぼノーストレスで Linux デビューできたので、導入方法や基本操作、導入後の設定までまとめています。
個人の感想ですが、正直 Windows や Mac の初期セットアップより圧倒的にわかりやすく簡単 と感じました。
こんな人におすすめ
- そろそろ PC を買い替えようと思っている人
- OS よりも PC の筐体・スペック重視の人
- 「Linuxこわい…」と思っている人
- 特定の OS への“信仰”がない人
目次
Omarchyとは?
まずは簡単に Omarchy の概要から。
Omarchy = Omakase + Arch Linux
つまり「開発者向けに必要な設定・ツールを“おまかせ”で詰め込んだ Arch Linux」です。
読み方はおそらく「オマーチ」。
通常の Arch Linux は“素”の状態で、GUI すら入っていない玄人向け OS です。そこに Rails の生みの親 DHH(David Heinemeier Hansson)が「もっと簡単に Linux の世界へ入れるようにしたい」という思想で手を加えたのが Omarchy。
TypeCraft のインタビューでも、DHH は次のようなニュアンスの話をしています。
- Linux と Arch の思想に強く感動した
- ただ入口がとにかく狭い
- 「まず知ってもらわないと良さに気づけない」
- だから Arch の初期セットアップをおまかせ化した
上記はインタビュー内容を噛み砕いて書いているため、若干の意訳が含まれます。
実際どんなことができるの?
- ほぼすべての操作がショートカットで完結する(Super + …)
- ツールのインストールがとにかく簡単
- デフォルトのターミナル(Ghostty)がすでに快適
- 画面分割・タブ切り替えなどがノンストレス(Hyprland)
- DockerやGitがデフォルトで導入されている
あくまで私の体験ベースですが、実際にはもっと多くの“痒いところに手が届く”設定が最初から揃っています。
導入について
「Linux は難しそう…」
そう思っていた私でも、作業時間は 1 時間もかかりませんでした。
細かいカスタマイズに手を出すと沼ですが、インストールだけなら本当に簡単です。
まず何をしたらいい?
1. USB を準備する
ISO ファイルの容量が約 6GB ほどあるため、16GB 以上の USBを用意してください。
私はこれを使いました
BUFFALO USB3.2(Gen1)対応 ノックスライド 16GB
2. ISO ファイルをダウンロード
公式サイトから最新の ISO を取得できます:
👉 https://omarchy.org/
トップページにある ISO ボタンからダウンロードしてください。
3. USB に書き込み
書き込みには balenaEtcher を使います。
- https://etcher.balena.io/ からインストール
- USB を挿す
- balenaEtcher を起動
-
Select image→ ダウンロードした ISO を選択 -
Select drive→ 挿した USB を選択 -
Flash!をクリック
-
書き込み完了後、USB はそのままで OK!
次はどうする?
1. BIOS のセキュアブートを OFF にする
PC により操作方法が違います。
また、マウスやトラックパッドは使用できませんので、矢印キーを使用してください。
-
PC の電源を切る(USB 挿しっぱなし)
-
PCの電源を入れる(USB 挿しっぱなし)
電源ボタンを押してすぐに- Windows PC →
F2またはDEL - Mac(Intel) →
⌘ + R
を押しっぱなし
- Windows PC →
-
BIOS(またはUEFI)が起動される
BIOS(または UEFI)画面で Secure Boot を Disable に変更
最近のノート PC は Secure Boot が強めなので、ここを OFF にしないと USB ブートが弾かれます。
2. 起動ディスクを USB にする(ブートメニュー)
セキュアブートを OFF にしたら、次は 「USB から PC を起動する」 作業です。
-
変更を保存して BIOS/UEFI を終了します
- 画面下部に
Save & ExitやF10: Save & Exitなどと書かれているので、それを選択。
- 画面下部に
-
PC が再起動したら、すぐに ブートメニュー を開きます
- よくあるキー:
-
F12/F11/F8/Escあたりが多いです
-
- よくあるキー:
メーカーごとに起動方法が違うので、作業前に調べておく。
PC起動ボタンを押してすぐブートメニューの起動キーを連打しておく。
起動しなかった場合は再度電源をOFFにして、上記を試してください。
- 「Boot Menu」や「Boot Option」的な画面が出たら、
-
USB~~と書かれているもの(さっき作った Omarchy の USB)を選びます -
Enterで決定
-
うまくいくと、数秒〜十数秒待ったあとに Omarchy のインストーラー画面 が立ち上がります。
Omarchy インストーラーの操作
インストーラーは、画面の指示にしたがって質問に答えていくだけのタイプです。
基本的に「上から順に選んでいく」 だけで大丈夫です。
画面構成はバージョンによって少し変わる可能性がありますが、だいたい次のような流れです。
1. 言語・キーボード
-
Language- ターミナル等の言語の選択です。
- 迷ったら
Englishのままで OK(あとからも変えられます)
-
Keyboard layout- 日本語キーボードなら
Japanese - US 配列なら
USを選択
- 日本語キーボードなら
2. タイムゾーン
-
TimezoneでAsia/Tokyoを選びます。
→ これで時刻やログのタイムスタンプが日本時間になります。
3. ネットワーク(あれば)
- 有線 LAN ならたいてい自動認識されてそのまま使えます
- Wi-Fi の設定画面があれば、
- 自分の SSID を選んで
- パスワードを入れて接続
4. ユーザー名とパスワード
ここは 毎日起動後にログインするときに使うアカウント です。
ターミナル操作でいうところの usradd です。
-
Username:- 例:
taroのような、半角英数字の短い名前にしておくと楽です
- 例:
-
Password:- 前項のユーザのパスワードです。
- 長すぎなくていいので、「あとで忘れない」ことを最優先に
-
Confirm password:- パスワードの再入力です。
- 同じパスワードを入力
5. ディスク暗号化用パスワード
Omarchy は フルディスク暗号化(LUKS)を標準で使います。
- ここで入力するパスワードは、
PC の電源を入れたときに最初に聞かれるパスワード です。 - ログイン用パスワードと同じでも別でも OK ですが、心配な方は別のパスワードにしてください。
- 最初は 同じにしておくと覚えやすい です。
ここを忘れると、中のデータにアクセスできなくなるので、
1Password などのパスワードマネージャ」に入れておくのが安心です。
6. インストール先ディスクを選ぶ
次に、どのディスクに Omarchy を入れるか を選びます。
-
Install driveやSelect target diskのような項目で、-
nvme0n1/sdaなどのディスク一覧が出てくるので - 「中身を全部消してもいいディスク」を選びます。
-
ここで選んだディスクの中身は 全部消えます 。
デュアルブートしたいなら、公式マニュアルの「Manual installation」を見る必要があります。
7. 設定確認 → インストール開始
最後に、さきほど入力した内容の確認画面が出ます。
- 言語・キーボード
- タイムゾーン
- ユーザー名
- ディスクの選択
- 暗号化の有無
に間違いがなければ、「Install」や「OK」 を選択するとインストールが始まります。
- だいたい 5分くらい で終わります。(PC の速さによる)
- 進捗バーやログが流れていくので、見ているだけで OK です。
インストール完了〜再起動まで
インストールが完了すると、画面に 「Installation complete」「Reboot」 などの表示が出ます。
-
Rebootボタンを選択 -
PCが再起動するときに、
- 画面が真っ暗になったタイミングで USB メモリを抜きます
-
そのまま待つと、
- 黒い画面に「Enter passphrase for /dev/~~」のような
- 暗号化パスワード入力画面 が出ます
ここで、さきほど設定した ディスク暗号化用パスワード を入力します。
- 正しく入力できると、数秒〜十数秒後に
→ Omarchy / Hyprland のグラフィカル画面が立ち上がります。
初回起動の流れと最低限やること
はじめて Omarchy が起動すると、マウスだけではほとんど何もできない のでちょっと驚くと思います。
でも大丈夫です。基本はすべてキーボード で操作します。
1. 最初に覚える 4 つのキー
Superキー とはWindowsでいうところのwinキーです。
2. ネットワークの確認
Chromium などブラウザを開いてネットにつながるか確認します。
-
Super+Shift+B→ ブラウザ起動 - 好きなサイトを開いて表示されれば OK
Wi-Fi をあとから変えたいときは、Waybar(画面上部バー)の右上あたりのネットワークアイコンから切り替えできます。

3. 最初のアップデート
Omarchy には 「Omarchy 用のアップデート+Arch パッケージ更新」 をまとめて行う仕組みがあります。
Arch に慣れている人は sudo pacman -Syu を叩きたくなるかもしれませんが、
Omarchy 環境では公式がUpdate→Omarchyを推奨 しています。
基本操作
Omarchy は Hyprland(タイル型 WM) が標準になっているため、Windows や Mac とは操作感が大きく異なります。
よく使うショートカット
| 操作 | キー |
|---|---|
| Omarchyメニューを開く |
Super + Alt + Space
|
| アプリランチャーを開く |
Super + Space
|
| システムメニュー |
Super + Esc
|
| ウィンドウを閉じる |
Super + w
|
| ターミナル(Ghostty) |
Super + Enter
|
| ウィンドウの左右移動 |
Super + 矢印キー
|
| ワークスペース移動 |
Super + Tab
|
| 任意のワークスペース移動 |
Super + 数字
|
| ウィンドウのグループ化 |
Super + g
|
| 分割されたウィンドウのグループ化 (ワーグスペースにグループがある場合) |
Super + Alt + g
|
| グループ内のタブの切替 |
Super + Alt + 矢印キーSuper + Alt + Tab
|
| ウィンドウの最大化 |
Super + f
|
上記は私がよく使うキーですが、他にもたくさんのショートカットキーがあります。
確認方法は前項でもご紹介しておりますが、 Super + k です。
設定
ここからは「設定」パートとして、初心者が最初に触りやすい設定ファイル を紹介します。
ポイントは 2 つだけです。
-
自分が触るのは
~/.config以下のファイル(「dotfiles」) -
~/.local/share/omarchyは Omarchy 本体側のファイルなので、
基本的には触らず、上書きしたい場合は~/.configに書く
1. Omarchy メニューから安全に編集する(おすすめ)
設定ファイルは、手でパスを打たなくても、
-
Super + Alt + Space→Setup→Config→ (変更したい項目)
から開くのが一番安全です。
-
Super + Alt + Spaceを押す - 矢印キーで
Setup→Configを選ぶ - たとえば
Hyprlandを選ぶと
→~/.config/hypr/hyprland.confが Neovim で開く - 編集して
:wqすると、
→ 必要なサービスが自動 的に再起動されます
2. 日本語入力(fcitx5)
ここまで進められた方は気付いているはずです。日本語入力ができないと。
ということで、まずは日本語入力をできるようにするところから紹介します。
といいたいところですが、こちらはとてもわかりやすく解説されている記事がありますので、
下記の記事を参考にMozcを追加してください。
Zenn:Omarchyインストール後に日本語環境を快適にする
3. どのファイルをどう変えると何が起きる?
代表的な設定ファイルと「何が変わるか」について紹介します。
公式マニュアルで挙がっている主な dotfiles と、その効果です。
| ファイル | 役割(ざっくり) | こんな変更ができる |
|---|---|---|
| ~/.config/hypr/hyprland.conf | Hyprland 全般:キーバインド・デフォルトアプリなど | 新たに conf ファイルを作成したときに追記する |
| ~/.config/hypr/monitors.conf | モニター構成、解像度、配置 | 外部モニターの解像度変更、縦置きモニターの回転など |
| ~/.config/hypr/hypridle.conf | 画面消灯・サスペンドなどのアイドル設定 | 画面ロックまでの時間を伸ばす/短くする |
| ~/.config/hypr/hyprlock.conf | ロック画面の設定(テーマからのシンボリックリンク) | 基本はテーマ側で管理されるので触る機会は少なめ |
| ~/.config/waybar/config.jsonc | 画面上部バー(Waybar)の構成 | トレイアイコンを常に表示、CPU 使用率表示の追加など |
| ~/.config/waybar/style.css | Waybar の見た目(色・角丸など) | バーの高さ、フォントサイズ、色など |
| ~/.config/walker/config.toml | アプリランチャー(Walker)の設定 | 検索の挙動や外観のカスタマイズ |
| ~/.config/ghostty/config | ターミナル(Ghostty)の設定 | フォントサイズ、行間、テーマ、キーバインドなど |
| ~/.config/uwsm/default | デフォルトエディタ/ターミナルの指定 | Neovim → VSCode に変更、など(Hyprland の再起動が必要) |
| ~/.XCompose | 絵文字や名前・メールの簡易補完 | ;shrug → ¯_(ツ)_/¯ のようなカスタム絵文字など |
具体例 1:キーバインドを変えてみる(Hyprland)
例として、Super + Shift + m で開くアプリを Spotify → Youtube-tui に変える というカスタマイズをします。
-
Super + Alt + Space→Setup→Keybindings - Neovim(デフォルト設定のエディタ) で
~/.config/hypr/bindings.confが開く - 次のような行を探す(Neovimの場合、
/spotifyと入力して検索もできます)bindd = SUPER SHIFT, M, Music, exec, omarchy-launch-webapp "https://spotify.com" - それを次のように書き換え:
bindd = SUPER SHIFT, M, Music, exec, omarchy-launch-tui youtube-tuiyoutube-tuiはAURなどでインストールできます。 -
:wqで保存して Neovim を閉じる -
Super + Shift + mを押して Youtube-tui が起動すれば成功!
具体例 2:画面ロックの時間を変える(Hypridle)
Hypridle の設定で、スクリーンセーバー・ロック・画面オフの時間 を変更できます。
-
Super + Alt + Space→Setup→Config→Hypridle -
~/.config/hypr/hypridle.confが開く - 次のような部分を探す:
# 例 general { lock_timeout = 150000 # ロックまで 2.5 分 } listener { timeout = 1800000 # 画面ロックまで 30 分 } listener { timeout = 2400000 # 画面オフまで 40 分 } # 単位はミリ秒なので、例えば「ロックまで 10 分」にしたいなら: general { lock_timeout = 600000 # 10 分 } -
:wqで保存すると、自動的に Hypridle が再読み込みされます
具体例 3:キーボードの打鍵感やトラックパッドの挙動(input.conf)
キーボードリピートの速さ・トラックパッドのナチュラルスクロールなどは、
~/.config/hypr/input.conf で変更できます。
-
Super + Alt + Space→Setup→Input -
~/.config/hypr/input.confが開く - 例えば:
input { kb_repeat_rate = 50 # 1 秒あたり何回リピートするか kb_repeat_delay = 200 # キーを押してからリピートが始まるまでの時間(ms) touchpad { natural_scroll = true } } -
:wqで保存すると、自動で再読み込みされます
おまけ
Mattermost のインストール方法
最後に、Mattermost(Slack っぽいチャットツール)のデスクトップクライアント の入れ方です。
Omarchy は Arch Linux ベースなので、
mattermost-desktop という公式パッケージをそのまま使えます。
1. 一番カンタンな方法:Omarchy メニューから入れる
-
Super + Alt + Spaceで Omarchy メニューを開く -
Install→Packageを選択 - 検索窓に
mattermost-desktopと入力 - 一覧に出てきた
mattermost-desktopを選択 →Enter - パスワードを聞かれたら入力 → インストール開始
完了したら
Super + Space → mattermost と入力して起動できます
Omarchy の Install → Package は、内部的には
sudo pacman -S パッケージ名 を良きように叩いてくれるラッパーです。
2. ターミナルから直接インストールする場合
ターミナルが好きな人は、Ghostty を開いてコマンドで入れても OK です。
-
Super + Return でターミナル(Ghostty)を開く
-
次を実行:
sudo pacman -S mattermost-desktop -
インストール後、
-
Super + Space→mattermostと打てば起動できます。
-
まとめ
「OS 選びの時代は終わり?」という問いの答え
Omarchy を使ってみて強く感じたのは、
「どの OS を選ぶか」より「どんな開発体験をしたいか」で選ぶ時代になった ということ。
- GUI を使わず素の Linux をカスタムしたい人
- Mac のように洗練された環境で開発したい人
- Windows では WSL に頼らざるを得なかった人
そのすべてに「最適解では?」と思わせるだけの完成度があります。
最後に:読者へメッセージ
もしあなたが少しでも興味を持ったなら、
Omarchy を試す価値は大いにあります。
PC のスペックを最大限に活かせて、設定も簡単で、学習環境としても最高です。
「Linux は難しい」という固定観念を、最初に壊してくれる OS だと感じました。
関連リンク
- 公式サイト:https://omarchy.org/
- Omacom Learn(公式マニュアル)
https://learn.omacom.io/2/the-omarchy-manual - 参考記事(Zenn)
https://zenn.dev/agata/articles/72f70d607dd8f3
https://zenn.dev/megablacklabel/articles/c7abfda06f483d








