昨日、香港国際空港の待ち時間、いつも通りClaude Codeを開いたら左下のアカウント表示はあるのにサインインできない。
Codexも同じ症状。
てっきりGreat Firewallに引っかかったと思って調べ始めたら、犯人は別のところにいた。
まずGreat Firewallを疑ったけど違った
香港と聞くと真っ先に思い浮かぶのが中国本土のGreat Firewall(金盾)。
でも調べてみるとこれは的外れだった。
Great Firewallが適用されるのは中国本土のみで、香港には及ばない。
実際、空港の「HKAirport Free WiFi」自体は普通に開通していて、ニュースサイトもSNSも問題なく見れる。
つまり今回の現象は、香港政府や北京による検閲ではなく、Anthropic・OpenAI自身が自主的に課している地理制限が原因だった。
Anthropicは香港・中国本土を意図的にサポート対象外にしている
Anthropicの公式サポート地域ページを見ると、香港と中国本土はどちらも対象国リストに入っていない。
ここでの制限のかかり方が地味にえげつなくて、Claudeはブラウザ/クライアントセッションごとにリアルタイムでIPを再判定する仕組みになっている。
ChatGPTがログイン時のみIPをチェックするのとは対照的で、一度ログインできても使用中に切断されることがある。
デスクトップアプリの左下にアカウントは表示されるけどサインインできない
という今回の挙動は、ローカルにキャッシュされたアカウント情報は残っているのに、認証リクエスト自体がIPジオロケーションで弾かれている状態と考えると筋が通る。
企業側が公式に挙げている理由は主に2つある。
- 香港国家安全維持法下でのデータ提供義務にまつわる法的不確実性
- 米国輸出管理規制(EAR)のアジア太平洋地域への拡大解釈
2025年9月、制限が世界規模に拡大していた
さらに調べていて驚いたのが、2025年9月にAnthropicが**「中国支配企業」への制限を世界規模に拡大**していたこと(SCMP)。
直接・間接で50%超を中国系資本が保有する企業は、香港以外の国に登記されていても対象になる。業界の弁護士が「主要な米国AI企業がこの種の正式な公開禁止措置を取ったのは初めて」とコメントしているくらい、踏み込んだ動きだったらしい。
そしてこの調査をしていたまさにそのタイミングで、暗号資産取引所OKXが香港拠点の従業員のClaude利用を禁止したというニュースが出ていた(Crypto Briefing)。
発端は8月初旬にOKXの企業アカウントが一時停止された騒動で、その後アカウントは復旧したものの、香港・中国本土の従業員へのClaude提供自体を停止。
社内通達ではVPN利用も会社としてサポートしないと明記されたそうで、ゴールドマンサックスも同様の制限を遵守しているという。
自分が空港で遭遇した現象が、まさに同じ週に企業レベルでも表面化していたことになる。
Codexも同じ理由でブロックされている
OpenAIも他人事ではない。
2024年7月9日から香港・中国本土でChatGPT/API利用を意図的に遮断している(OpenAI Help Center)。
理由はAnthropicとほぼ同じで、米国の対中輸出管理方針への準拠である。
ChatGPTはログイン時のみIPチェックなので一時的に動くケースもあるらしいが、Codex(API系)はリクエストごとに検証されるため、香港IPでは基本的に弾かれる。
じゃあQwenやKimiならどうなのか調べてみた
ここでふと気になったのが、Qwen(Alibaba)やKimi(Moonshot AI)みたいな中華系AIならどうなのかということ。
結論から言うと、これらはむしろ香港・中国本土からの利用を前提に作られているので地域制限はほぼない。
米国の輸出管理規制は「米国企業から中国への技術提供」を対象にしたものなので、中国企業自身が作ったサービスにはそもそも適用されない。
Alibaba Qwen(Apache 2.0ライセンス)やDeepSeekは地域制限なしでアクセスできるし、KimiはMoonshot AIが開発しつつ、コンシューマー向けサービスはシンガポール法人が運営しているという情報もあった。
つまり同じ「AI」でも、供給側がどこの国かによって規制の受け方が真逆になる。
空港Wi-Fiで見れるサイト・見れないサイトの謎
余談だが、空港Wi-Fiで検索していて「表示されるサイト」と「表示されないサイト」があるのも気になっていた。
これはAI規制とは無関係な別の現象で、空港側が独自にDNSベースのカテゴリフィルタリングをかけているせいだと思われる。
公共施設のWi-Fiでアダルト・ギャンブル系カテゴリを一律ブロックするのはよくある運用である(DNSFilter)。
ただし2021年に米空港のWi-Fiフィルタを1,249ドメインでテストした調査では、実装にムラがあってブロック漏れも多かったと報告されている。
香港空港のブロック具合がまだらだったのも、政治的検閲というより単にフィルタDBのカバレッジの粗さなんだろうと思う。
Bedrock経由なら通るのか実際に調べてみた
ここまで調べてふと思いついたのが、Amazon Bedrock経由でClaudeを叩くならどうなのかということ。
Bedrockは契約上Anthropicとの直接契約ではなくAWSとの契約になるので、判定ロジックが変わるんじゃないかと考えた。
東京・ソウル・シンガポール・台北の4リージョンで違いが出るのかも気になった。
まずAWSの公式ドキュメントを見ると、こう明記されている。
Access to Anthropic models is not allowed from unsupported countries, regions, or territories
your AWS account and billing address must also be in a supported country, region, or territory
つまりBedrockでも、Anthropicモデルに限っては追加の地域ゲートがかかる。AWSアカウント自体(コンソールへのサインイン、他社モデルの利用)は香港のクレジットカードでも普通に使えるが、Anthropicモデルだけはこの制約が上乗せされる仕組みらしい。
判定に使われているのは主にAWSアカウントの請求先/税務住所で、claude.aiのように接続元IPを毎リクエストでリアルタイム判定しているという確証のある一次情報は見つからなかった。ただしGitHubで見つけた事例(pollinations/pollinations#10613)では、Anthropicのサポート対象国であるはずのパキスタンのユーザーがBedrock経由で弾かれたという報告があり、「Bedrockはネイティブのanthropic APIが要求する以上の追加的な地理制限を課している」らしい。
つまりBedrockの制限ロジックは公開ドキュメントが薄く、実態がすべて見えているわけではなさそうだった。
もう一つ実務上ハマりそうなポイントとして、Claude Code CLIをBedrockバックエンドに設定していても、テレメトリやoAuth関連の一部通信が裏で直接 api.anthropic.com に飛ぶ実装があるという報告も見つけた(openclaw/openclaw#30672)。
この場合、モデル推論自体はBedrock経由で通っても、その付随通信が制限地域のIPで弾かれてツール全体がエラーになる可能性がある。
肝心のリージョン(東京/ソウル/シンガポール/台北)の違いについては、実はあまり本質的な分岐点ではなさそうだった。
これらは「モデルがどこでホストされるか」を選ぶだけで、地理ブロックの判定軸そのものには直接関係しない。
判定はアカウントの所在地登録に紐づくと考えられるので、
- 香港住所で登録したAWSアカウントなら、東京だろうがソウルだろうが同じ理由(billing address)で弾かれる可能性が高い
- サポート対象国(日本・シンガポールなど)で登録したAWSアカウントなら、どのリージョンのBedrockでも通る可能性が高い
という整理になる。
また、台北リージョン(ap-east-2)は2025年に新設されたばかりで、モデルの提供が他リージョンよりやや遅れがちという記述もあった。
おわりに
「香港=Great Firewall」という思い込みで検索を始めたら、実際の犯人は米国企業側の輸出管理コンプライアンスだったというオチ。
しかも調べている最中にOKXの同じ話が飛び込んできて、企業の現場でもまさに今週進行中の話題だったのが妙にタイムリーだった。
Bedrock経由の地域制限については、AWS公式ドキュメントの記述が薄く、実際に香港からBedrockのAnthropicモデルを叩いて確認したわけではないので、そこは今後の宿題として残る。誰か実測したら教えてほしい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。