前回は、宇宙空間では TCP/IP が実用的ではない理由について触れました。
では、実際にどのようにして、数億キロ離れた探査機と通信を行っているのでしょうか。
今回は、NASA が運用している「Deep Space Network (DSN)」という、深宇宙通信のための通信網と、そこで使われている技術について調べてみました。
3 箇所の巨大アンテナ
DSN は、以下の 3 箇所に、巨大なパラボラアンテナが設置されています。
- ゴールドストーン (アメリカ・カリフォルニア州)
- マドリード (スペイン)
- キャンベラ (オーストラリア)
これらは、経度で約 120 度ずつ離れてます。
なぜ、この配置なのか
地球は自転しているため、もしアンテナが 1 箇所しかなければ、探査機が地球の裏側にある間は通信ができなくなります。
探査機からのデータを受信し続けたり、緊急のコマンドを送ったりするためには、
「地球のどこかのアンテナが、常に探査機を向いている」
という状態を作る必要があります。
そのため、地球を 3 等分するようにアンテナを配置し、地球の自転に合わせて、
「アメリカ → オーストラリア → スペイン → アメリカ...」
と、通信を引き継いで運用しているそうです。
2. 微弱な信号を受信する
各拠点には、直径 70m クラスの非常に大きなパラボラアンテナが設置されています。
なぜこれほど巨大なアンテナが必要なのでしょうか。
それは、探査機からの信号が極めて微弱だからです。
例えば、現在地球から最も離れている人工物である「ボイジャー 1 号」は、約 250 億 km 先にいます。(打ち上げから、もう50年近く経つんですね、、)
そこから届く電波の強さは、約 200 億分の 1 ワットと言われています。
これは、月面でこちらにライトを向けている友人を、地球から探すようなものです。
この信号を捉えるために、巨大なアンテナで電波を集め、さらに受信機の回路を極低温(絶対零度近く)まで冷却して熱ノイズを極限まで減らすという、とんでもない対応を行なってます。
3. 「切れること」を前提としたネットワーク (DTN)
非常に距離があるため、通信速度も非常に遅いです。
- 火星周辺の探査機: 条件が良ければ数 Mbps
- 冥王星 (ニュー・ホライズンズ): 約 1 kbps
- ボイジャー: 約 160 bps
ボイジャーの 160 bps という速度は、光回線を 1 Gbps とした場合、約 600 万分の 1 です。
撮影した画像を1枚を送るとしても、かなりの時間がかかりますね。。
さらに厄介なのが、「通信の切断」と「遅延」です。
探査機が惑星の裏側に回ったり、太陽フレアの影響を受けたりすると、通信は簡単に途絶えます。また、光の速さでも往復数十分かかるため、TCP のような「パケット送ったよ」「OK、届いたよ(ACK)」というやり取りを待っていたら、タイムアウトばかりで何も進みません。
そこで NASA が採用しているのが、DTN (Delay/Disruption Tolerant Networking) というアーキテクチャだそうです。
Store-and-Forward(蓄積交換)
我々が普段使うインターネット(TCP/IP)では、ルーターは宛先が見つからなかったり経路が混雑しすぎたりすると、パケットを「破棄(Drop)」します。(すぐに再送すればいいため)
しかし、宇宙でデータを破棄されたら、、また送るの?ということになりますね。
DTN では 「Bundle Protocol (BP)」というプロトコルが使われており、「Store-and-Forward(蓄積して転送)」という方式をとります。
中継ノード(衛星やアンテナ)は、次の通信相手と繋がるまで、データを捨てずに、ローカルストレージに保存(Store)して待ち続けます。そして、通信リンクが回復した瞬間に転送(Forward)します。
イメージ的には、バケツリレーのような仕組みですね。
まとめ
深宇宙ネットワーク (DSN) は、以下の特徴を備えたシステムです。
- 3 拠点配置:地球の自転による通信断を防ぐ
- 巨大アンテナと冷却技術:極めて微弱な信号を受信するための仕組み
- DTN (Delay/Disruption Tolerant Networking):切断と遅延を前提とした「Store-and-Forward」方式の通信
普段、私たちが使っている「常時接続」のプロトコルがいかに恵まれているか、再認識させられますね。
次回は、こうした特殊な環境におけるセキュリティ、特に人工衛星に対するハッキングのリスクについて調べてみたいと思います。