概要
仮説検定について学習していて、いまいちしっくりこなかった経験がある方、そのままなんとなく通り過ぎた方もいらっしゃるのではないでしょうか?本ポストでは、仮説検定について学んでいて、なんとなくもやもやが残った方や、実際にどう使うのかピンとこない方のために、私が躓いた点と、その後私なりに納得できた考え方をまとめます。コメントや示唆などいただければ幸いです。
珍しい状態とは?
何かの量(たとえば時間当たりの生産量の平均とか)が統計分布に従っていると想定します。とりあえず正規分布のような釣り鐘型の分布を想定します。1
その状況でサンプルデータをとってみます。
データにはばらつきがあります。普段通りなら分布の真ん中あたりに出やすく、端の方のデータは出にくくなります。この端の方に入るような、めったに起こらない状態を珍しい状態と考えます。
この想定の下で、良質なサンプルデータが十分取れたとします。サンプルデータを見ると、想定された分布から考えると、普通に考えられる分布範囲からかなりずれた、珍しいデータ(レアケース)になっていることが分かったとします。この場合、元の分布の想定が怪しい、ということになります。
逆にサンプルデータが想定される分布範囲におさまっていて、珍しいデータではない、ということであれば、元の想定は覆りません。
仮説検定と疑問
仮説検定では、まず「元の状態」についての仮説を置きます。これが帰無仮説です。
そしてこの帰無仮説が成り立っているとしたら、どのようなデータが発生しやすいのか、あるいは発生しにくいのか(珍しいのか)を考えます。元の状態では起こりにくいデータが実際に観測されたとき、帰無仮説が怪しいものとして棄却されます。このときに考える仮説を対立仮説と呼びます。
具体的には、
問題1
ある食品メーカーでは、新しい真空パック技術を開発した。
従来品のハムは、平均して 冷蔵保存で18日間 品質を保てる。
開発チームは、新技術によって 18日より長く品質を保てる ことを、サンプル試験で確かめたい。
これに対する帰無仮説 ($H_0$) と対立仮説 ($H_1$) は次のようになります。
$H_0$ : 新技術は、従来品より長持ちするとまでは言えない
$H_1$ : 新技術は、従来品より長持ちする
元の状態として想定するのは、品質が従来品と同程度であり、18日を超えるほど長持ちするとは言えない状態です。
別の例では次のようになります。
問題2
ある印刷会社では、チラシを自動裁断機で 横幅100.0 mm に切る工程を使っている。
機械の調整がずれていないか確認するため、1時間ごとに数枚を抜き取り、平均の横幅を調べている。
管理者は、平均の横幅が 100.0 mm からずれていないか を確認したい。
これに対する帰無仮説 ($H_0$) と対立仮説 ($H_1$) は次のようになります。
$H_0$ : 裁断機は100.0 mmで正常に裁断できている
$H_1$ : 裁断機は100.0 mmで正常に裁断できていない
問題1では新技術が長持ちする、のが対立仮説。問題2では正常に裁断できていない、というのが対立仮説です。問題1で示したいのは、新技術が長持ちすることで、問題2で示したいことは正常に裁断できることです。つまり示したいことが帰無仮説に置かれたり、対立仮説に置かれたりしています。ここが私が仮説検定を学び始めたときに混乱したポイントです。
では、何か示したい内容があるとき、それを帰無仮説に置くのか、それとも対立仮説に置くのかは、どのように考えればよいのでしょうか。これについて以下で説明します。
帰無仮説と対立仮説の設定方法
まず最初に、今考えている問題の珍しい状態とは何かを考えます。次に、そのレアケースとは、どのような元の状態を前提としたときの珍しい状態かを考えます。
ここで考えた元の状態が帰無仮説になります。帰無仮説が成り立たないときに考える仮説を対立仮説とします。
データが珍しい状態のものだとすると、この帰無仮説が棄却され、対立仮説が支持されます。
上の具体例を使うと、次のようになります。
問題1
- 珍しい状態:従来品と同程度だという想定の下では考えにくいほど長持ちしているデータ
- 元の状態:従来より長持ちするとは言えない
- 帰無仮説:改良効果がない
- 対立仮説:改良効果がある
問題2
- 珍しい状態:正常に裁断できているという想定の下では出にくいほど100.0 mmからずれたデータ
- 元の状態:正常に裁断できていると考えられる、100.0 mm付近のばらつきを持った状態
- 帰無仮説:正常に裁断できている
- 対立仮説:正常に裁断できていない
実際のデータが、元の状態の下では十分にレアだといえるなら、そのデータは元の想定を覆すものとして扱うことができます。
実問題への応用とまとめ
実際の問題に適用するときには、仮説検定の仕組み上、このように「元の状態を表す分布」と「元の分布から外れたレアケース」という形に問題設定できるかを考える必要があります。その際には以下のような業務上の都合も考える必要があります。
- 元の分布を具体的に想定できるか?
- レアケースと見なしたい状態を、その元の分布からの外れとして表現できるか?
- レアケースかどうかを判断できるデータがあるか?
- そのデータがレアケースを判断するのに十分か?
- その判断の結果として得られる結論が、今の業務課題にとって意味のある答えになるか?
このどれかが怪しいと、そもそもその問題は仮説検定向きではない、ということになります。つまり仮説検定はどんな問題にでも機械的に適用できる万能の方法ではありません。
問題2において、正常に裁断できていない状態を対立仮説とするのは、正常に裁断できているときの100.0 mm 付近のばらつきを元の状態として想定でき、そのうえで元の状態の下では出にくいほど大きくずれたデータをレアケースとして、仮説検定として自然に問題設定できるからです。
また工場の品質管理において、通常状態では正常な生産が行われていることを想定し、異常なデータ(レアケース)が検出されたときのみ対策をとる、という設計が仮説検定の性質に対して自然であるという事情もあります。別な言い方をすると、正常状態なのに異常だとみられるようなデータが得られるケースはレアケースである、ということもできます。
仮説検定を考えるときは、まず帰無仮説や対立仮説を書くのではなく、「何をレアケースとして設定したいのか」を考えると見通しが良くなるのではないかと思います。
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実際の分布としては、正規分布のみでなく、t分布、カイ二乗分布、F分布なども使われるそうです。 ↩
