はじめに
GPT-5.6 は、OpenAI が 2026年7月9日に公開したモデルです。特徴は、単一のモデルではなく Sol(旗艦)・Terra(中位)・Luna(廉価)という3つのバリアントで提供される点にあります。3つとも 1M トークンの入力コンテキストと 128K トークンの最大出力を持ち、ChatGPT・Codex・OpenAI API・GitHub Copilot から使えます。
この記事では、GPT-5.6 の3バリアントがどう違い、どう使い分けるのかを整理します。具体的には、それぞれの位置づけ、新しくなったポイント(Sol の Ultra mode、セキュリティコーディングの強化)、他社モデルを含むベンチマーク比較、そしてバリアント別の価格です。コストの見積もりをしたい方にも、モデル選びで迷っている方にも役立つようにまとめました。
先に数字の扱いを断っておきます。本記事のベンチマークとコストの値は、第三者集計と各社公称値の寄せ集めで、同じ環境で同じ日に回し直した値ではありません。とくに SWE-bench Pro は、2026年7月8日に OpenAI 自身が「タスクの約30%に根本的な欠陥がある」と監査結果を公表しており、解釈に注意が必要です。この点は本文の「ベンチマークの読み方」で改めて触れます。
GPT-5.6 とは:Sol / Terra / Luna の3構成 🌞🌏🌙
まず全体像です。GPT-5.6 は、性能とコストの異なる3つのバリアントに分かれています。名前はラテン語で、Sol が太陽、Terra が地球、Luna が月です。上から順に、高性能で高価な Sol、バランスの Terra、軽量で安価な Luna という並びになります。
以下の図は、3バリアントの位置づけを示しています。
この図のポイントは、コンテキストと最大出力は3つとも共通で、違うのは「知能とスピードと価格」だという点です。難しいタスクは Sol、日常業務は Terra、大量の軽い処理は Luna、というように、タスクの重さでバリアントを選ぶ設計になっています。
共通スペックを表にまとめます。
| 項目 | GPT-5.6(Sol / Terra / Luna 共通) |
|---|---|
| 公開日 | 2026年7月9日 |
| 入力コンテキスト | 1M トークン |
| 最大出力 | 128K トークン |
| 提供 | ChatGPT(Plus/Pro/Enterprise)/ Codex / OpenAI API / GitHub Copilot |
| バリアント | Sol(旗艦)/ Terra(中位)/ Luna(廉価) |
3バリアントの使い分け 🧭
3つのバリアントは、タスクの難しさとコスト感度で選びます。以下の図は、選定の目安です。
この図のポイントは、まず「Sol の知能が本当に要るか」を最初に切り分ける点です。要らないなら、あとはコスト感度で Terra か Luna を選びます。次の表のように、役割で考えると迷いにくくなります。
| バリアント | 向いている用途 | イメージ |
|---|---|---|
| Sol 🌞 | 難しい推論、長時間のエージェント、セキュリティ解析 | 最高性能が要る本気の作業 |
| Terra 🌏 | 一般的な開発、要約、チャット | 日常業務の主力 |
| Luna 🌙 | 分類、抽出、大量の単純処理 | とにかく安く数をこなす |
何が新しいのか:Ultra mode とセキュリティ強化 ✨
GPT-5.6 で目立つ変更が2つあります。1つは Sol の「Ultra mode」、もう1つはセキュリティコーディングの大幅な向上です。
Sol の Ultra mode(並列サブエージェント)
Sol には Ultra mode という動作モードがあり、4つのサブエージェントを並列で走らせます。トークンコストは 3〜4倍になりますが、難しいエージェントタスクでの精度が上がります。実際、シェル操作のエージェント評価である Terminal-Bench 2.1 では、標準の 88.8% が Ultra mode で 91.9% まで伸びます。
以下の図は、標準モードと Ultra mode の違いを示しています。
この図のポイントは、Ultra mode が「トークンを多く使って精度を買う」トレードオフだという点です。3ポイントの精度向上に 3〜4倍のコストを払う価値があるかは、タスクの重要度しだいです。
セキュリティコーディングの大幅向上
もう1つは、セキュリティ関連のコーディング能力です。GPT-5.5 と比べて、脆弱性の発見・悪用系のベンチマークで20ポイント以上の改善が出ています。
| ベンチマーク | Sol | GPT-5.5 | 差 |
|---|---|---|---|
| ExploitBench 2 | 73.5% | 47.9% | +25.6 |
| SEC-Bench Pro | 71.2% | 45.8% | +25.4 |
| ExploitGym 3 | 24.9% | 15.1% | +9.8 |
これはセキュリティ研究や防御ツールの開発には追い風ですが、二面性のある能力でもあります。用途によっては提供側の安全対策が効く場面もあるので、そこは実際に触って確認するのが確実です。
他LLMとのベンチマーク比較 📊
ここからは、GPT-5.6(主に Sol)が他のモデルとどれくらい差があるのかを見ていきます。
繰り返しになりますが、以下の数値はベンダー公称値・第三者集計の寄せ集めで、同一ハーネス・同一日付の再実行ではありません。順位の傾向をつかむ材料として読んでください。
推論・コーディングの主要スコア(Sol)
| ベンチマーク | GPT-5.6 Sol | 測定内容 |
|---|---|---|
| Terminal-Bench 2.1 | 88.8%(標準)/ 91.9%(Ultra) | シェルベースのエージェントコーディング |
| Artificial Analysis Coding Agent Index | 80 | エージェント総合 |
| ARC-AGI-2 | 92.5% | 流動的推論・抽象化 |
| ARC-AGI-3 | 7.8% | 次世代の難関推論 |
| GPQA Diamond | 約94% | 大学院レベルの推論 |
ARC-AGI-3 の 7.8% が低く見えますが、これは各社そろって苦戦している次世代ベンチで、絶対値の低さより「まだ誰も解けていない領域」という位置づけです。
他社モデルとの比較(SWE-bench Pro)
コード修正の SWE-bench Pro を、他社と並べます。ここで大事なのは、同じベンチでも測定ハーネスによって数値が大きく変わる点です。
| モデル | Anthropic ハーネス | Scale 標準化 |
|---|---|---|
| GPT-5.6 Sol | 64.6% | 46.1% |
| Claude Sonnet 5 | 63.2% | — |
| Gemini 3.1 Pro | 54.2% | 46.1% |
| Claude Fable 5 | 約80%(論争あり) | — |
(出典: 各社公称・第三者集計 [edenai ほか]。同一環境での再実行値ではありません)
Sol は Anthropic ハーネスで 64.6% と、Sonnet 5(63.2%)とほぼ並び、Gemini 3.1 Pro(54.2%)を上回ります。ただし Scale の標準化ハーネスでは 46.1% まで下がり、Gemini 3.1 Pro と同点になります。つまり「どのハーネスで測ったか」で順位も差も変わるということです。
Web 開発の WebDev Arena では、少し順位が変わります。
| モデル | WebDev Arena Elo |
|---|---|
| Gemini 3.1 Pro | 1,487(首位) |
| GPT-5.6 Sol | 1,353 |
| Claude Fable 5 | 約1,653(別集計) |
Web 開発の対戦評価では Gemini 3.1 Pro が Sol を上回ります。軸を変えると強いモデルが入れ替わるのは、最近のフロンティアモデルに共通した傾向です。
ベンチマークの読み方:数字を鵜呑みにしない ⚠️
GPT-5.6 のベンチマークを見るうえで、避けて通れない話が2つあります。
1つ目は、2026年7月8日に OpenAI が公表した監査です。SWE-bench Pro のタスクの約30%に根本的な欠陥があると指摘されました。SWE-bench Pro は各社が競って高スコアを出しているベンチですが、そのタスク自体の信頼性に疑問符が付いた形です。この監査以降のスコアは、数値の絶対値よりも「傾向」として読むのが安全です。
2つ目は、前の節でも触れたハーネス差です。同じ SWE-bench Pro でも、Anthropic ハーネスと Scale 標準化で Sol のスコアは 64.6% と 46.1% に割れます。ベンダーが自社に有利なハーネスの数字を出すのは珍しくないので、「どの条件で測ったか」を確認する癖が要ります。
以下の図は、ベンチマークを読むときの注意点を整理したものです。
この図のポイントは、公開スコアは出発点にすぎない、という点です。最終的には自分のユースケースで動かして、精度・トークン・レイテンシを測るのがいちばん確実です。
価格 💰
バリアント別の価格を見ていきます。GPT-5.6 は用途に応じて Batch・Priority・長コンテキストの料金も用意されています。まずは標準の通常料金です。
| バリアント | 入力(per 1M) | 出力(per 1M) |
|---|---|---|
| Sol 🌞 | $5.00 | $30.00 |
| Terra 🌏 | $2.50 | $15.00 |
| Luna 🌙 | $1.00 | $6.00 |
上位から下位へ、入力・出力ともにおおよそ半額ずつ下がっていく分かりやすい階段です。用途別の料金も含めると、次のようになります。
| バリアント | 通常(入/出) | Batch(入/出) | Priority(入/出) | 長コンテキスト(入/出) |
|---|---|---|---|---|
| Sol | $5 / $30 | $2.5 / $15 | $10 / $60 | $10 / $45 |
| Terra | $2.5 / $15 | $1.25 / $7.5 | $5 / $30 | $5 / $22.5 |
| Luna | $1 / $6 | $0.5 / $3 | $2 / $12 | $2 / $9 |
Batch は通常の半額、Priority は倍額、というのが基本の関係です。加えて、プロンプトキャッシュはキャッシュ読み出しが 90% 割引、書き込みは非キャッシュの 1.25 倍です。同じ接頭辞を何度も使うワークロードなら、キャッシュだけでコストが大きく下がります。
他社と並べると、GPT-5.6 の価格帯がつかみやすくなります。
| モデル | 入力 | 出力 |
|---|---|---|
| Claude Fable 5 | $10 | $50 |
| GPT-5.6 Sol | $5 | $30 |
| Claude Sonnet 5 | $3(導入 $2) | $15(導入 $10) |
| GPT-5.6 Terra | $2.5 | $15 |
| Gemini 3.1 Pro | $2 | $12 |
| GPT-5.6 Luna | $1 | $6 |
旗艦の Sol でも Claude Fable 5 の半額で、中位の Terra は Sonnet 5 や Gemini 3.1 Pro と競合する価格帯です。廉価の Luna は Gemini 3.1 Pro よりさらに安く、大量処理向けの選択肢になります。
コスト効率で見る使い分け 💡
単価だけでなく、「1タスクあたりいくらかかったか」で見ると、モデルの実力とコストの関係がよりはっきりします。以下は Web スクレイピングのタスク(Zyte Scraping Benchmark、2026年7月)での実測です。
| モデル | 品質スコア | 1実行コスト | コード行数 |
|---|---|---|---|
| Claude Fable 5 | 0.910 | $4.74 | 239 |
| Claude Sonnet 5 | 0.879 | $1.48(導入価格) | 202 |
| GPT-5.6 Sol | 0.857 | $1.47 | 192 |
| GPT-5.6 Luna | 0.814 | $0.26 | 152 |
| GPT-5.6 Terra | 0.813 | $0.57 | 122 |
(出典: Zyte Scraping Benchmark 2026年7月 [第三者集計])
この表から読み取れることを整理します。
まず、GPT-5.6 Sol と Claude Sonnet 5 は、1実行コストがほぼ同じ($1.47 対 $1.48)です。Sol は単価こそ Sonnet 5 より高いのに、出力トークンを半分以下しか使わず、所要時間も短いため、結果として同じコストに収まっています。コーディングタスクでは、Sol は Claude Fable 5 と比べて「出力トークン半分未満・所要時間半分未満・コスト約1/3減」と報告されています。
次に、Luna の安さが際立ちます。1実行 $0.26 は Fable 5 の $4.74 の約18分の1です。品質スコアは 0.814 と最上位ではありませんが、「そこそこの品質を最安で大量に」という用途にはよく合います。
まとめると、最高品質なら Fable 5、コスパのバランスなら Sol か Sonnet 5、とにかく安く数をこなすなら Luna、という住み分けになります。私自身がもし新規で選ぶなら、まず Terra か Sonnet 5 を主力に置き、難所だけ Sol を差し、大量の下処理は Luna に回す、という構成から始めると思います。
使い方・提供形態 🛠️
GPT-5.6 は、幅広い経路で使えます。
- ChatGPT(Plus / Pro / Enterprise): 対話 UI から利用
- Codex: コーディングエージェント
- OpenAI API: アプリ組み込み。バリアントをモデル名で指定
- GitHub Copilot: エディタ統合
API から使う場合は、タスクの重さに応じて Sol / Terra / Luna を切り替えるのが基本です。1つのアプリの中でも、計画や難所は Sol、定型処理は Terra や Luna、というように役割で振り分けると、品質を保ちながらコストを抑えられます。前掲のコスト実測が示すとおり、単価の高いモデルが必ずしも1タスクあたり高くつくとは限らないので、実際に測って選ぶのがおすすめです。
まとめ
GPT-5.6 でいちばん持ち帰ってほしいのは、「1つのモデルではなく、Sol・Terra・Luna をタスクの重さで使い分ける」という一点です。最高性能が要る難所は Sol、日常業務は Terra、大量の軽い処理は Luna。この振り分けだけで、品質とコストのバランスは大きく変わります。
ベンチマークを見るかぎり、Sol は Sonnet 5 と肩を並べ、コスト効率でもよく戦えています。一方で、Web 開発では Gemini 3.1 Pro が上に立つなど、軸によって強いモデルは入れ替わります。しかも SWE-bench Pro は 7月8日の監査で信頼性に疑問が付き、ハーネス差でも数値が割れます。だからこそ、公開スコアは出発点として眺めつつ、最後は自分のタスクで実測して選ぶのが確実です。
まずは1つのワークフローで、Sol・Terra・Luna を並べて品質とコストを測ってみてください。「この作業に Sol の知能は要らなかった」と気づく場面が、きっと何度かあるはずです。
