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ハードウェアの品質向上に向けて

Last updated at Posted at 2019-12-11

こんにちは!株式会社バカンのハードウェア品質保証兼エンジニアのはまちゃんです。
この記事は、バカン (Vacan) Advent Calendar 2019の12日目(12/12)の投稿です。

▶︎はじめに

株式会社バカンは、飲食店やトイレなどのありとあらゆる空席情報を集め、より良い生活を実現するためのサービスを提供する会社です。
その空席情報を集めるために様々なセンサーやカメラを使用しており、それらハードウェアに不具合が生じると問題が発生してしまいます。
そのため、不具合を発生させないためにもハードウェアの品質を向上できるよう日々取り組んでいます。
今日は品質向上のための重要な手法の一つである信頼性評価/試験について、ハードウェアのライフタイムを3つのフェーズに分けて紹介したいと思います。

▶︎3つのフェーズ

ハードウェアのライフタイムは大きく3つのフェーズに分けられます。それは、

  1. 初期故障領域
  2. 偶発故障領域
  3. 摩耗故障領域

の3つです。その3つのフェーズで大まかに下図のように故障率が推移していくということが一般に知られており、バスタブカーブ(故障率曲線)と呼ばれています。
スクリーンショット 2019-12-10 14.09.14.png
初期故障領域はいわゆる初期不良、偶発故障領域は一般的な使用中の故障、摩耗故障領域は寿命に当たるフェーズです。
これら3つのフェーズそれぞれにおけるハードウェアの品質向上のための信頼性評価/試験について紹介します。

▶︎初期故障領域

このフェーズでの故障は初期不良に当たり、時間とともに故障率が減少するという特徴があります。
主に製造起因の欠陥が原因で使用開始後、早い段階で故障が発生するのが一般的です。
このフェーズでの不良をなくすためには市場に初期不良の要素を持ったモノを出さないということが大事になります。その対策として、

  • スクリーニング試験
  • エージング

などがあります。それぞれについて説明します。

スクリーニング試験

スクリーニング試験とは、市場での初期故障を減らすための選別試験です。選別のために行う試験であるため、後に紹介する環境試験などと異なり、全数に対して行います。全数に対して行う試験のため、コストやどこまで品質を担保したいか(初期的不良を弾きたいか)で実施内容が異なります。一般的には、

  • 電気的試験 : 電気的特性や動作を確認して良品から外れるものを弾く
  • 温度サイクル試験 : 熱膨張率の変化を利用してパッケージング工程起因の不良を弾く
  • バーンイン試験 : 最高動作温度下で長時間動作確認し不良を弾く

などがあり上から順に実施難易度が上がっていきます。その他、自社で発生しやすい初期不良モードを把握していればそれに対する試験を追加することもあります。
スクリーンショット 2019-12-10 16.50.14.png

エージング

エージングとは、上記のバーンインなど高負荷下での動作を指すこともありますがここでは、実使用と同様の状況を用意し、その動作下で経時させることです。時間とともに故障率が下がるのであれば、その時を待とうと言う発想です。
エージングは時間のかかる作業のため、その実施期間を定めるのが重要かつ難しいです。初期的には初期不良が発生しているのはどれくらいの期間が多いかというもので決定し、さらに精度を高めるためには初期故障率試験などを行い、初期故障領域における故障率曲線を再現することで定めるという方法があります。
スクリーンショット 2019-12-10 16.51.39.png

▶︎偶発故障領域

このフェーズは実使用での不良に当たるフェーズで、時間によらず故障率がほぼ一定であるという特徴があります。
また、3つのフェーズの中ではもっとも故障率が低く、安定した稼働を行うフェーズでもあります。
このフェーズではほぼ一定である故障率をいかに下げるかが重要になります。この故障率を決めているのは、設計や部品選定などの作り込みの部分です。そのため、対策をすることは時間がかかり難易度が高いですが、一度対策ができると安定稼動時の故障率をまとめて下げることができます。
この設計変更にあたり、どこを変更するのが効果的かといったことを探る解析手法の一つに良品解析があります。
スクリーンショット 2019-12-10 17.43.54.png

良品解析

良品解析とは、電子部品などの品質を評価する方法の一つで、故障していない通常の状態で部品もしくはモジュール単位での出来を評価する解析手法です。具体的には、CTスキャンを行うことで内部の構造を確認したり、SEM像を撮って表面状態を詳細に見たりします。
故障していない状態で作り込みの状況などを評価することによって、その設計ではどのような故障モードの可能性を持っているか、どの部分が機械的に弱いか、製造上甘い部分が無いかなどを推定することができます。これにより効果的に設計変更を行うことができます。
また、良品解析では事前に発生しやすい問題をリストアップしておくことで、それを引き起こす芽がどこにあるかという観点で実施でき、より効率的に解析を行うことができます。
スクリーンショット 2019-12-10 19.09.11.png

▶︎摩耗故障領域

このフェーズは製品寿命に当たるもので、時間とともに故障率が増加するという特徴があります。このフェーズではまず寿命を下げないことが大切です。寿命は使用環境や使用状況によって変化します。そのため、どういった環境や使用方法に弱いかということを把握しておく必要があります。その上で適切に使用環境管理や使用方法の策定を行うことが効果的です。逆にそれらをしっかりと把握し、設計変更や特殊加工により耐環境性能を向上させると、より寿命を伸ばすことも可能です。
その様々な環境での強さを把握する試験の一つに環境試験があります。
スクリーンショット 2019-12-10 18.30.29.png

環境試験

環境試験とは、市場での使用環境より厳しくした環境下にて製品の保存又は動作を行い、故障や劣化の状況を見る試験です。上記したスクリーニング試験とは異なり抜き取りで行い、その結果が同設計・同使用部品である全てのものに共通であるという考えで行います。
その試験は様々で一般的なものでは

  • 高温/低温試験 : 高温/低温下で保存又は動作を行う
  • 温度サイクル試験 : 高温と低温を繰り返し温度変化による影響を見る
  • 振動試験 : 輸送や使用時に受ける振動による影響を見る
  • 落下試験 : 落下時の衝撃にによる影響を見る

などなど、特殊なものでは

  • 塩水噴霧試験 : 塩害に対する耐性を見る
  • ガス腐食試験 : 硫黄系ガスなどによる腐食耐性を見る (←モジュールの高密度化により影響が出やすく、最近流行りの試験。温泉地など分かりやすいところだけでなく、梱包材などに含まれているもので腐食する場合も)
  • 塵埃試験 : 塵や埃に対する耐塵性能を見る
  • 防水試験 : 防水性能を見る

など、想定されるあらゆる環境に対する試験が存在し、そのほとんどがJIS規格として登録されています。そのため、知りたい耐環境性能についてJIS規格を参照し想定範囲から試験内容を作成していくことになります。
そしてその環境試験を通して故障や不具合が生じればすぐに使用不可能環境と分かり、生じなかった場合には劣化具合を確認し許容可能かの判定をすることになります。その判定の際には先ほど説明した良品解析などを用いて行います。
結果を見て適切に使用環境を管理することになります。

▶︎おわりに

ハードウェアの品質向上のための試験や解析もただやるのではなく、そのやる背景を知っておくことでムダなく的確に効率よく実施することができます。
この記事は自分への意識づけも込めて書きました。常に慢心することなく、高い品質を目指して取り組んでいきたいと思います。
最後まで読んでくれた方、読みづらい箇所もあったかと思いますがありがとうございました。

参考文献

「実践!電子部品の信頼性評価・解析ガイドブック Part3」 日刊工業新聞社 今井康雄・味岡恒夫 著

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