はじめに
LLM をプロジェクトに組み込むとき、一番手軽な判断は「ランキングを開いて 1 位を選ぶ」ことです。
ただ、ランキングが答えているのは「総合スコアが最も高いのはどれか」であり、こちらが知りたいのは「自分のタスクに向いているのはどれか」です。この 2 つの問いの答えは、想像以上に食い違います。
本記事では、2026 年 10 月 12 日時点の公開ランキング上位 11 モデルに対して、同一のリクエストを API で投げ、usage の中身を記録しました。結果として、ドキュメントに書かれていない挙動が 2 つ見つかっています。
先に、この記事で一番お伝えしたい数値を書いておきます。
総合 1 位のモデルは、1 位を獲得したその設定において、初回トークンまで 748 秒かかります。 一方、2 位のモデルは推論レベルを変えると初回応答が 0.87 秒です。
スコアの差は 13 ポイント、初回応答の差は約 265 倍です。
個人的には、この「順位では見えない差」こそが選定時に効いてくると考えています。
環境
| 項目 | バージョン・値 |
|---|---|
| OS | Windows 10 Pro 10.0.19045(Build 19045) |
| curl | 8.13.0(libcurl/8.13.0 Schannel zlib/1.3.1 WinIDN、Release 2025-04-02) |
| PowerShell | 7.6.6 |
| API エンドポイント |
https://api.crazyrouter.com/v1/chat/completions(OpenAI 互換) |
| 認証方式 | Authorization: Bearer <API_KEY> |
| 計測日 | 2026 年 10 月 12 日 |
| 対象モデル | ランキング上位 11 件のうち、実際に呼び出せた 8 件 + claude-haiku-5-5、grok-4.6 の計 10 件 |
| スコア出典 | Artificial Analysis Intelligence Index v4.3.2 |
ランキング上位 11 件のうち 3 件は、呼び出そうとした時点でモデル ID が見つかりませんでした。ランキングに載っている型番と、各サービスが実際に提供している型番は別管理であり、更新タイミングも揃っていません。この点は後述します。
計測手順
1. 疎通を確認する
API キーは環境変数に入れ、コードには書きません。
export API_KEY="あなたのキー"
curl -s -X POST https://api.crazyrouter.com/v1/chat/completions \
-H "Authorization: Bearer $API_KEY" \
-H "Content-Type: application/json" \
-d '{
"model": "claude-haiku-5-5",
"messages": [{"role": "user", "content": "Reply with exactly: OK"}],
"max_tokens": 512
}'
実際のレスポンス(所要 2.69 秒、要点のみ抜粋):
{
"model": "claude-haiku-5-5",
"choices": [{"message": {"content": "OK"}, "finish_reason": "stop"}],
"usage": {
"prompt_tokens": 42,
"completion_tokens": 4,
"total_tokens": 46,
"completion_tokens_details": {"reasoning_tokens": 0}
}
}
2. usage の 3 フィールドを必ず出力する
後述する 2 つの問題は、どちらもこの 3 フィールドを見ていなければ気づけませんでした。
| フィールド | 見るべき理由 |
|---|---|
prompt_tokens |
実際に送った長さと比較する。大きく乖離していれば固定オーバーヘッドがある |
reasoning_tokens |
見えないところに消費された枠を把握する |
completion_tokens |
max_tokens と同値なら打ち切られている。本文が空になることもある |
3. 同一リクエストを全モデルに投げる
model だけを差し替えて同じボディを順に送り、所要時間と usage を記録します。評価フレームワークは不要で、ループ 1 つで足ります。
対象 10 件はすべて HTTP 200 を返しました。所要時間は 1.80 秒から 7.80 秒の範囲でした。
ハマった点と解決方法
ハマった点 1:hi の 2 文字に対して prompt_tokens が 4223 だった
gpt-6.1-sol に、本文が hi だけのリクエストを送ったところ、次の値が返りました。
"prompt_tokens": 4223
同時刻に claude-sonnet-5-5 へ 18 トークン相当のリクエストを送った場合は、prompt_tokens は 18 です。2 回再計測しましたが、4223〜4227 で安定していました。
つまり、このモデルには 1 回の呼び出しあたり約 4200 トークンの固定入力オーバーヘッドが存在します。
影響:入力が数千トークンある長文タスクでは誤差の範囲です。しかし「1 回あたり数十トークンの短いリクエストを 1 日に数十万回」という構成では、このオーバーヘッドが請求額の主成分になります。
解決方法:自分のユースケースで最も短いリクエストを 1 回送り、usage.prompt_tokens を想定長と突き合わせます。確認は 10 秒で終わりますが、本番投入後に桁が違うと気づく事態を避けられます。
ハマった点 2:max_tokens は応答長の上限ではなかった
glm-5.3 に max_tokens=64 を指定したところ、本文がほぼ空で返ってきました。usage を見ると原因が分かります。
"completion_tokens": 64,
"completion_tokens_details": { "reasoning_tokens": 60 }
出力 64 トークンのうち 60 が推論に消費され、本文に残ったのは 4 トークンでした。
max_tokens=512 に変更して再送すると、出力 34 トークン・うち推論 32 で、本文は正常に返りました。同じリクエストを claude-sonnet-5-5 に送った場合、reasoning_tokens は 0 です。
原因:このモデルは推論が既定で有効であり、推論トークンが max_tokens の枠を消費します。「想定する回答の長さ」を基準にこの値を設定すると、エラーにならないまま空の本文が返ります。
解決方法:usage.completion_tokens_details.reasoning_tokens を必ず出力し、max_tokens は推論分を見込んで余裕を持たせます。既定で推論が有効なモデルは一通り確認しておくと安全です。
補足:ランキングの型番がそのまま使えるとは限らない
上位 11 件のうち 3 件は、モデル ID が見つからず呼び出せませんでした。
特に注意が必要なのは Grok です。ランキングに載っている構成は **Grok 4.7(xhigh)**ですが、実際に呼び出せたのは Grok 4.6 でした。別バージョンであり、同一モデルの別名ではありません。したがって 4.7 のスコアを 4.6 の判断材料にすることはできません。
解決方法:順序を逆にします。先に「自分が呼び出せる型番」を確定させ、その型番のスコアをランキング側で探します。型番を推測して組み立てると、存在しないモデル ID を叩くことになります。
まとめ
総合スコア上位 11 件(2026 年 10 月 12 日時点)
| 順位 | モデル(構成) | スコア | タスク費用(USD) | tok/s | 初回応答 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Claude Opus 5.5(max with fallback) | 58 | 5.98 | 96 | 748.61 秒 |
| 2 | Claude Sonnet 5.5(max with fallback) | 56 | 5.46 | 137 | 484.09 秒 |
| 3 | Claude Fable 5.1(max with fallback) | 53 | 7.63 | 65 | 250.30 秒 |
| 3 | GPT-6 Astra(max) | 53 | 3.26 | 64 | 383.62 秒 |
| 3 | Gemini 4 Argon(high) | 53 | 1.99 | 未報告 | 未報告 |
| 6 | GPT-6.1 Sol(max) | 52 | 0.72 | 65 | 330.58 秒 |
| 7 | Muse Spark 1.3(max) | 48 | 1.60 | 121 | 48.89 秒 |
| 8 | Grok 4.7(xhigh) | 46 | 3.74 | 83 | 88.14 秒 |
| 8 | MiMo-V2.6-Pro | 46 | 0.13 | 48 | 3.51 秒 |
| 10 | Qwen3.8 Max(0902) | 45 | 5.41 | 36 | 2.82 秒 |
| 10 | GLM-5.3(max) | 45 | 2.01 | 66 | 3.36 秒 |
同点は同順位としているため、「TOP 10」に 11 件が含まれます。
推論レベルは順位より効く
ランキングが表示しているのは各モデルの最高スコア構成です。運用では、どのモデルを選ぶかより、どの推論レベルで動かすかの方が効く場面が多くあります。
| モデル | 推論レベル | スコア | タスク費用(USD) | 初回応答 |
|---|---|---|---|---|
| Claude Opus 5.5 | max | 58 | 5.98 | 748.61 秒 |
| Claude Opus 5.5 | high | 54 | 1.82 | 44.34 秒 |
| Claude Opus 5.5 | medium | 51 | 1.34 | 21.61 秒 |
| GPT-6.1 Sol | max | 52 | 0.72 | 330.58 秒 |
| GPT-6.1 Sol | medium | 48 | 0.21 | 7.55 秒 |
Opus 5.5 を max から high に落とすと、スコアは 4 ポイント下がりますが、タスク費用は約 70 %、初回応答は約 94 % 減ります。GPT-6.1 Sol を max から medium に落とした場合は、同じく 4 ポイント減で、初回応答は約 98 % 減です。
個人的には、推論レベルは「既定値」ではなく「検証対象のパラメータ」として扱うべきだと考えています。推論は難問向けのスイッチであり、常時オンにするものではありません。ハマった点 2 は、推論が不要なタスクで既定有効になっていた結果とも言えます。
タスク別の選び方
| タスク | 候補 | 理由 | 投入前に確認すること |
|---|---|---|---|
| アーキテクチャレビュー、重要なリファクタリング(オフライン) | claude-opus-5-5 |
スコア 58、本期最高 | まず high で同じ検証を通す。通れば max は不要 |
| 日常のコーディング、対話的な利用 | claude-sonnet-5-5 |
137 tok/s、medium の初回応答 0.87 秒 | 平均ではなく P95 のレイテンシを測る |
| コーディングエージェント、多段のツール呼び出し | claude-fable-5-1 |
Agent 系評価での位置が総合順位より上 | 自分の harness で測る。スキャフォールド依存が大きい |
| 夜間バッチ、長文レポート(出力量を抑えたい) | gpt-6-astra |
1 タスクあたり出力が約 27K トークン | 1 件完了までの総出力トークンで比較する |
| 予算を抑えつつ高めの能力が必要(オフライン) | gpt-6.1-sol |
50 点台で費用が 1 USD 未満の唯一の構成 |
先に prompt_tokens を確認(ハマった点 1) |
| 大量の分類・タグ付け、自社環境での運用 | mimo-v2.6-pro |
0.13 USD、初回応答 3.51 秒、オープンウェイト | 合否基準を先に決める。順位だけで除外しない |
| 短い出力で初回応答を速くしたい | qwen3.8-max |
初回応答 2.82 秒で最速。ただし出力速度は最も遅い | 初回応答と総所要時間を分けて測る |
| バランス重視、ツール呼び出しも使う | glm-5.3 |
3 指標に大きな弱点がない |
max_tokens に余裕を持たせる(ハマった点 2) |
| チケット分類など高スループットの単純処理 | claude-haiku-5-5 |
235 tok/s、0.21 USD。TOP 10 圏外 | 実際の同時実行数で負荷をかける |
最後の行がこの記事の主旨です。スコア 43 のモデルが、タスク次第でスコア 58 のモデルより適切になります。
本記事の限界
- スコア・費用・速度・初回応答は公開ランキングの値であり、筆者がベンチマークを再実行したものではありません。自分で測ったのは疎通とトークン計測のみです。
- 収集日は 2026 年 10 月 12 日です。収集日は各モデルの測定日ではありません。
- この指数は英語・テキスト中心の評価です。画像入力、音声、多言語の能力は別評価です。日本語タスクの指標として読むことはできません。
- 呼び出せなかった 3 件については、適性の判断を行っていません。
参考リンク
- Artificial Analysis:LLM Leaderboard — スコア、構成、タスク費用、出力速度、初回応答の出典
- Artificial Analysis:Benchmarking Methodology — タスク費用・速度・レイテンシの定義。トークンは o200k_base で統一、指標は 72 時間移動窓の中央値
-
Anthropic:Introducing Claude Opus 5.5 —
with fallbackが示す既定のフォールバック機構について -
モデル一覧と課金方式(日本語) — 本記事で参照した提供中モデル ID と
discountフィールドの取得元。同フィールドは個別アカウントの精算条件を保証するものではありません


