はじめに
毎日つい開いてしまうアプリはありますか?
アプリにとって、ユーザーに一度開いてもらうだけでなく、継続的に使ってもらうことが重要です。継続利用は、アクティブユーザーの増加につながるだけではなく、その先の課金や売り上げを考える上でも重要な要素になります。
今回はこのアプリの習慣化設計について考える中で得た気づきを、有名な2つのアプリを比較してまとめました。
対象読者
アプリを習慣化させたい人、習慣化設計に興味がある人
前提知識
習慣化を考える上で、フックモデルというフレームワークをご紹介します。
有名なので知っている方もいるかもしれませんが、ニール・エヤルという人が2014年に出した本『Hooked』で提唱した概念です。
簡潔にいうと、
トリガー → アクション → リワード → インベストメント
この4ステップをループすることで、ユーザー自らプロダクトを利用するように習慣化できるというものです。

出典:UX TIMES「フックモデル」
- トリガー:通知・広告などの外的トリガーと、退屈・不安などの内的トリガー
↓ - アクション:アプリを開く、タイムラインを引っ張る、再生ボタンを押す、いいねを押す
↓ - リワード:新しいコンテンツ、他人からの反応、進捗による達成感
↓ - インベストメント:フォロー、ブックマーク、学習履歴の蓄積
本題ではないので詳細は省略しますが、ここで言いたいことは、このフックモデルの4ステップを整えることが習慣化設計の基本になるということです。
※フックモデルについてもっと知りたい方はこちらの本を参考にしてみてください。
4つのステップをただ整えるだけじゃ足りない
このフックモデルを知って私が最初に考えたのは、「今のプロダクトには、どこのステップが欠けているんだろう?」ということです。欠けている部分を補ってまんべんなく整えれば良いんだと。しかし、実際に毎日使用しているアプリを参考にすると、それだけではないことに気づきました。以下で説明していきます。
今回参考にしたアプリ
参考にしたアプリは、DuolingoとYoutubeです。
選んだ理由としては、単純に私自身が毎日使用していること。また、私だけでなく世界的にも知名度が高く、習慣的に利用している人も多いアプリだからです。
2つのアプリの特徴を簡潔にまとめるとこんな感じです。
Duolingo
|
YouTube
|
|
|---|---|---|
| アプリの特徴 | ゲーム感覚で語学を学べる学習アプリ | 動画を視聴・投稿できる動画プラットフォーム |
| 主な利用目的 | 語学学習 | 娯楽・情報収集 |
| 主な利用行動 | レッスンを受ける | 動画を視聴する |
比較して見えた習慣化設計の違い
1 . 提供する価値に応じて、4つのステップの重点が変わる
まず、2つのアプリの価値の違いはこんな感じです
| Duolingo | YouTube | |
|---|---|---|
| ユーザーの目的 | 語学を身につけたい・上達したい | 楽しみたい・知りたい・暇をつぶしたい |
| 届ける価値 | 語学力の向上・学習の達成 | 娯楽・情報・発見 |
| 価値を得るまで | 継続した先で得られるため長期的 | 利用するとすぐ得られて短期的 |
Duolingoはトリガーとインベストメント
Duolingoを利用するユーザーの目的は、語学を習得することです。
そのためにユーザーは毎日Duolingoを開き、用意されたレッスンを受けて、それを継続することで得られる語学スキルの習得が、ユーザーにとって最大の価値になります。
しかし、Duolingoの届ける価値をユーザーが得られるまでは、長期的な時間が必要です。学習を日々繰り返した先にやっと得られるもので、今すぐアプリを開いたからといって得られるものではありません。
行動の負荷が高いのです。さらに言えば、語学の習得は終わりがなくユーザーは次第にモチベーションがなくなり、アプリを開かなくなる未来が見えます。
では、Duolingoはどのようにしてアプリのリテンション率84%(参照)を保っているのでしょうか。
Duolingoは、トリガーとインベストメントに重点的に力を入れています。
利用者の人はわかると思いますが、メール、プッシュ通知、ウィジェットなどを駆使してうざいくらいリマインドしてきます。内容も感情に訴えかけるようなものもあれば、ストリークを示してこちらの継続に対する損失回避を煽ってきます。
メールの例:
「今日のレッスンがまだです」「デュオがストレスで老けています」と、ユーザーの罪悪感を突く
また、インベストメントとしてストリークを積み上げさせることで、次はそれを失いたくないというユーザーの損失回避を生み出しています。
| フックモデル | Duolingoで確認できる主な仕組み |
|---|---|
| トリガー | プッシュ通知/パーソナライズ通知/ストリーク切れ通知/メールリマインド/ホーム画面ウィジェット |
| アクション | 短時間レッスン/1レッスンでストリーク更新 |
| リワード | XP/宝箱/正解・完了演出/リーグ等 |
| インベストメント | デイリーストリーク/ストリークフリーズ/フレンドストリーク/学習進捗/XPの蓄積/ストリークマイルストーン/ストリークの可視化 |
YouTubeはアクションとリワード
一方で、YouTubeを利用するユーザーの目的は、面白い、興味のあるものを見て楽しむことです。
毎日YouTubeを開いて、面白いコンテンツを見て暇をつぶす、自分の関心のあることをもっと知りたい欲求を満たすことがユーザーにとっての価値になります。
YouTubeは、アプリを開いた瞬間にパーソナライズされたおすすめコンテンツが絶え間なく表示されます。ユーザーの面白いものを見たい・知りたい欲求を満たすためにかかる時間は非常に短期的なものです。ユーザーにとって行動から報酬への距離が短く、行動の負荷はDuolingoに比べて低い。短期的に欲求を満たそうとする人間の性質上、自然な流れで行動に持っていきやすいです。
したがって、YouTubeが重点を置いているのはアクションとリワードです。
いかにユーザーにパーソナライズされた新規性のあるコンテンツを、簡単に、断続的に提供し続けられるかが重要になります。まず開くと最近見ていたジャンルの動画がずらっと並ぶ、目をひく動画を見る、見ている間にもスクロールすると関連動画がさらに並び、まだ見ていないものが気になる。使っている読者の中にも、知らないうちに数時間YouTubeを見ていた!みたいな経験もあると思います。
アクションを最低限で簡単にし、思考する前に行動させる → 即座にリワードを提供する流れに重点を置いていることがわかります。
トリガーやインベストメントに頼らずとも、ユーザー自らが抱く「暇をつぶしたい」内的な欲求がトリガーになり、行動につながりやすいのです。
2. 外的トリガーの役割が変わる
外的トリガーは、文字どおり通知など外部からきっかけを与え、ユーザーをアクションへ促すものです。これを繰り返すことで、プロダクトの利用が「暇だな」「勉強したいな」といった感情と結びつき、その感情自体が内的トリガーとなって、自発的な利用につながります。
Duolingoはマイナスの回避
Duolingoの外的トリガーは不快感や損失回避を煽る傾向があります。例えば、Duolingoからの通知で今日の学習をまだやっていないことに気づく、ストリーク切れに気づく → 未達の不快感、継続が途切れる不快感を感じる。この不快感を解消したいという気持ちからアプリを開くアクションにつながります。
YouTubeはプラスの獲得
一方でYouTubeは、少し異なります。
YouTubeの外的トリガーの役割は期待感や好奇心を高めることです。例えば、チャンネル登録をしているYouTuberの通知は、目に入ると「見てみたい」という期待を生み出します。その期待を満たしたいという気持ちから、アプリを開くアクションにつながります。
このように、同じ外的トリガーでも役割が異なります。Duolingoは「マイナスを回避したい」という気持ちから行動を促す一方、YouTubeは「プラスを得たい」という期待から行動を促していることがわかります。
3. 遠いリワードは短期リワードで補える
遠いリワードを近づけるDuolingoの工夫
調べていて面白いと感じたのが、Duolingoのゲーミフィケーション効果を使ったリワードを生み出す仕組みです。
ここまで2つのアプリを比較して、YouTubeは行動からリワードまでの距離も近く、見たい欲求も生まれやすい。一方でDuolingoは、行動からリワードへの距離が遠い上に学習そのものにも一定の負荷がある。どう考えてもDuolingoの習慣化のハードルが高く感じます。
Duolingoは、このリワードまでの遠さをどう補っているのでしょうか。
これにはゲーミフィケーション効果が大きな役割を担っています。
ゲーミフィケーション効果
ゲーム以外のサービスに、ポイント・レベル・ランキング・連続記録などのゲーム要素を取り入れ、ユーザーの意欲や継続を促す仕組み
Duolingoは、ストリーク、XP、リーグ、宝箱、デイリークエスト、効果音、アニメーションなどをアプリ内に散りばめています。私も初めて使用したとき、レッスン中やレッスン後のXP獲得やストリーク更新に伴うアニメーションや振動、触覚フィードバックは過剰だと思うほど、他のアプリと比べても多くて驚いた記憶があります。
これは、単に勉強を楽しくするためだけではなく、
本来は遠いところにあるリワードを、人工的に近くに持ってくる役割があると考えられます。
- 本来の構造:
レッスンを受ける $\rightarrow$(長い期間)$\rightarrow$ 語学力が伸びる(遠いリワード) - Duolingoの構造:
レッスンを受ける $\rightarrow$ XP獲得!ストリーク更新!宝箱ゲット!(人工的な短期リワード)
実際、Duolingo自身もユーザー本来の語学学習の動機を、デイリークエスト、XP、ストリーク、ランキングなどによる追加的な動機で補完していると説明しています。
「Duolingoは、デイリークエスト、XP、ストリーク、リーダーボード、そして楽しく親しみやすいコンテンツを通じて、練習を続けたいという動機を生み出し、ユーザーが再び戻ってくるよう促します。これらは、現実世界におけるユーザー自身の動機を補完するよう設計されています。」(筆者訳)
本来は遠い語学スキルの向上というリワードを待つだけではなく、日々の学習の中にも小さなリワードをつくってアクションとの距離を近づけることで、ユーザーの行動に繋がりやすくしているところが面白い設計だと感じました。
※Duolingo公式ブログでは、他にもストリークと習慣化の関係や、アニメーションによる達成感の演出、ウィジェットによる学習リマインドなど、実際のデータを交えたプロダクト改善事例が紹介されています。
結論
プロダクトの重みはどこにあるか?
フックモデルを学ぶと、「4つのステップを綺麗に満遍なく整えよう」と思いがちですが、2つのアプリを観察してわかったことは、以下の3点です。
- プロダクトが届ける価値が長期的か、短期的かで重み付けするステップが変わる
- 行動ハードルが低いアプリは、アクションの排除とリワードの最大化に集中する
- 行動ハードルが高いアプリは、トリガーとインベストメント。さらに人工的な短期的リワードが必要
自分が携わるプロダクトで、ユーザーにとってどんな性質の価値を提供しているのか見極めた上で、どのステップに重みを置くか考えることが習慣化設計の一歩になることを学びました。
最後に
ここまで読んでいただきありがとうございます!
参考にした書籍は12年前に出版されたもので、情報が古いかと思いきや、今読んでも全然通用する習慣化設計の本質を押さえた一冊でした。興味がある方はぜひ読んでみてください。
本記事が今後アプリの習慣化を考えるためのきっかけやヒントになれたら嬉しいです!
参考文献

