概要
- ワークフローのないPKMツールに生じた問題について
- ツェッテルカステンを始めるために「TAKE NOTES!」を読むのがおすすめ
- ツェッテルカステンする我流ワークフローについて
これまで使っていたPKMツールと生じた問題
以前はScrapbox(現Cosense)を使って読書メモなどを記録していた。
これといったワークフローは決めずに読書メモや百科事典的なページを気軽に追加していた。
しかし、続けるうちに「ページの繋がりのコンテキストが分からない」という大きな問題が生じていた。
このようなことから、手元にある情報をキープしつつ新しいPKMでやり直したいと思うようになり、Obsidianというエディタにたどり着いた。
ObsidianをPKMツールとする
Obsidianはファイルをローカルで管理するという思想からなっているツールで、ファイルの階層化表示もありながらScrapboxで好ましく思っていたページの作りやすさとリンクの作りやすさを兼ね備えている。
VSCodeやNotionといったツールでも似たようなことは可能だが、シンプルさの面でObsidianをPKMツールにした。
Obsidianにはオンラインで使えないという欠点があるが、後述のScrapboxと組み合わせる運用でカバーしている。
Obsidianの使い方を調べていると、ニクラス・ルーマンが考案したツェッテルカステンという情報の分類手法に辿り着いた。
ツェッテルカステンを始めるためのおすすめ方法
PKMツールをObsidianに変えてツェッテルカステンで情報を分類したところで、実は「ページの繋がりのコンテキストが分からない」という問題は完全には解決しない。
そこで、ツェッテルカステンを紹介する書籍「TAKE NOTES!」を読むことで、ツェッテルカステンはただの情報分類方法ではなくワークフローであるということが理解しやすくなる。
ウェブ上でもツェッテルカステンのやり方は調べられるが、ハウツーの紹介だけの記事や別の分類方法と組み合わせた記事も検索される。
なのでまずは「TAKE NOTES!」を読みながら基本的なツェッテルカステンのやり方とワークフローを学び、さらにツェッテルカステン方式でメモをとりながらPKMツールに情報を記録していくのがおすすめだ。
この記事ではツェッテルカステンのハウツーや「TAKE NOTES!」のことは深掘りしないのでまずはこの本を読もう。
ツェッテルカステン我流ワークフロー
以降は自分がツェッテルカステンを続けて落ち着いたワークフローの説明になる。
デジタルでしているということ以外は「TAKE NOTES!」で説明されているツェッテルカステンと大きくは変わらないと思う。
以降Obsidianを使う前提で書いているが、フォルダ分けとメモ同士のリンクが作れるならどのエディタやツールでも問題ない。
メモのワークフロー
メモを書くワークフローの図は以下のとおり。
メインのメモと読書メモは永久保存版のメモとして扱われ、一度入れたら削除しないし更新もしない(デジタルなのでてにをは程度は直すことがある)。
メモを保存するフォルダ(箱)とワークフローの図は以下のとおり。
四角はフォルダ名。
-
_wip
- 走り書きメモ用フォルダ
-
Info
- 文献用メモフォルダ
- さらにその下に読書メモ用の
book
と百科事典的メモ用のwiki
を作成する
-
Main
- メイン用メモフォルダ
-
_files
- 添付ファイル用フォルダ
基本は以上のフォルダのみで、他は必要に応じて追加する。
ニクラス・ルーマンが使っていたツェッテルカステンはアナログの箱と紙だったので、メモを入れる箱には複数の引き出しがあった。
しかし、デジタルでやる場合は引き出し(フォルダ)に細分する必要はなく、ファイル名が整列してさえいれば1つのフォルダで十分である。
「走り書きメモを書く」
永久保存版のメモ(メインのメモと読書メモ)にはいきなりメモは追加しない。
まず一時的に走り書きメモを専用の箱( _wip
フォルダ)に保存する。ここには読書メモ、思考メモ、疑問メモといった全てのメモを管理する。
今使えない情報であってもいつか役に立つことがあるし、そのときの考えなどを記録し後で繋げられるのがツェッテルカステンのいいところである。
この時点ではメモのファイル名は特に考えないでデフォルトにしておく。
走り書きメモは可能なら数日以内にツェッテルカステンのメモにするかどうかを判断する。
ただしこの数日以内というのが自分には重く、そこまで重要視していない。
ここで重要なのは、すべての走り書きメモをツェッテルカステンのメモにしなくてもいいということで、捨てる決断も重要になる。
「メインのメモ・読書メモの箱に入れることを考えてメモを書く」
走り書きメモからメインのメモの箱に入れてもよさそうだと判断したら、次はそのメモが既存のメモとどう関わりがあるかを考えながらあらためてメモを書く。
関わりがなければ新しいものとして扱う。
もし既存のメモと関わりがあるなら、関わりがあるメモの続きとして扱う。
メインのメモは体系的ではなく、繋がりさえわかればいいという点が重要になる。
各フォルダの関連性は前述のフォルダとワークフローの図のとおりで、主体となるのはメインのメモである。
読書メモは参照される側にすぎないので、関連性は同じ本かどうか程度しかない。
ここで注意したいのが、読書メモはメインのメモから極力参照した方がいいということ。
読書メモはなんらかの興味があって記録している、そのコンテキストは読書メモには残らない。
そのコンテキストをメインのメモに保存しておくことで、「ページの繋がりのコンテキストが分からない」という問題に対応できる。
専用のMOC(Map Of Content、いわゆる目次)を作ってこのコンテキストが失われる問題に対応できないことはないが、メインのメモが育たないためお勧めできない。
以下の図がメインのメモによりコンテキストを保持する例になる。
このメインのメモがあることにより、自分がどうしてその部分を読書メモに設定しようとしたのか覚えていられる。そして新たな疑問や考えが浮かんだときに繋げることができる。
以下の図のメモはどちらが先に作られてもいい(疑問から記事を調べてその回答の読書メモでもいいし、記事を読みながら疑問が生じてメインのメモを書いてもいい)。
「メインのメモ・読書メモの箱に入れる」
永久保存版となるメモを作ったので Main
や Info
にファイルを追加する。
フォルダ移動時には移動対象のフォルダによって以下のような命名規則がありファイル名を変更する。
-
_wip
- 1つのファイルに走り書きをまとめてもいい
- メモごとにファイルを作るなら新規作成時のデフォルトまたは作成日時のUUID
-
Info
-
book
- 作成日時のUUIDベースに同じ文献は枝番を振る
-
wiki
- タイトル
-
-
Main
-
1
から始まる数字を幹として関連するメモに枝番を振る
-
メインのツェッテルカステンは以下のような構造になるようにファイルを命名していく。
以下のリストの 1
は新しい情報にまつわるメモのファイル名である。
Obsidianでは [[ファイル名|タイトル]]
という形式でリンクを作成できる。
- [[1|マルウェアはなぜ難読化しているのか]]
- [[1a|マルウェアの難読化は検出回避の技法の一つ]]
- [[1a1|難読化エンジンBatCloak]]
- [[1a2|難読化ツールAceCryptor]]
- [[1b|Ryukによる検出妨害の仕組み]]
- [[2|文章を書く上で気をつけること]]
- [[3|タイトルプロパティを設定することについて]]
1a
もファイル名で、 1
に関連するメモなので a
という枝番をつけている。
1b
は 1
に関連するメモだが 1a
とは違う情報もしくは並列に扱いたいメモとする。
1a1
なども上と同様に続けて命名する。
1
とは関連がない情報のメモであれば、新たな 2
のメモを作成する。
リストから分かるように、 1
や 2
といった「幹」に当たるメモは全く関係がなくてよい。
世の中のものが体系的に整理されているため最初は気になるが、とにかく気になった順に入れていき関係性は後から追加するという割り切りが大事になる。
また、ファイル名を番号にすることは優先順位付けではないと意識することも重要である。
メインのメモは枝の構造が重要なので、ファイル一覧で見ることはせずに、専用のインデックスファイルを作成する。
書き方は前述のリストのように枝番号の分だけインデントを深くしていく。
ファイル一覧で見るよりも構造が一眼見て分かる。
この枝番システムは文献メモのうち読書メモ( book
)でも使う。
読書メモの場合は、メインメモとは少々異なり以下のリストのように管理する。
このとき、書籍ノートのファイル名を作成日のUUIDとし、章ノートはその枝番、その章に対する読書メモはさらに枝番を追加する命名規則としている。
メインのメモのようにあらためて番号を振らないのは、読書メモそれ自体は書籍ノートの命名で悩むことは重要ではないためである。
(それを参照するメインのメモがどこに位置するのかが重要)
- 20241111(書籍Aの書籍ノート)
- 20241111a(書籍Aの章ノート:第1章)
- 20241111a1(書籍Aの読書メモ:第1章に関するメモ)
- 20241111b(書籍Aの章ノート:第2章)
- 20241111b1(書籍Aの読書メモ:第2章に関するメモ)
- 20241112(ウェブサイトAの書籍ノート)
- 20241112a(ウェブサイトAの読書メモ)
書籍ノートにはその書籍の書誌情報と章ノートへの一覧を記載する。
章ノートは読書メモへのリンクを作成し、そのリンクをObsidianの埋め込みリンクとしてリンク先に飛ばずに読書メモの内容が見えるようにしている。
ウェブの記事なども文献フォルダの読書メモとして扱うが、この場合は分量が少ないので書籍ノートと章ノートを足したノートを作る。
以下は章ノートの例。
![[Pasted image 20241128141510.png]]
文献メモのうちウィキ( wiki
)はこれらとは異なり、ファイル名はその用語とする。
他のメモの文中にリンクを張る際の利便性のため、あくまでリンクを貼られる側でありこれ自体にコンテキストや繋がりは存在しないためといった理由がある。
「ツェッテルカステンは百科事典ではない」と「TAKE NOTES!」にもあるが、とはいえ百科事典的メモも手元に保持したい・リンクを作りたいのが実情である。
メインのツェッテルカステンでは百科事典的なメモは作らずに、このように別枠として用意している。
ここまでがツェッテルカステンの基本的なワークフローとなる。
以降、このワークフローを実践する上での具体的な課題への対応について説明する。
以前のPKMツールのデータを扱う
自分は以前はScrapboxにさまざまなメモを保存していた。
Scrapboxはjson形式でページデータをエクスポートできるので、このjsonを元にページ単位でMarkdownファイルに変換し、Obsidianで保管するようにしている。
このデータは数千件あり、かつ以上の分類を行っていないため一度に分類することは困難である。
そのため、 _yet
というフォルダを作成し、Scrapboxで管理していたファイルを管理している。
このフォルダのファイルは新しくファイルを作る際にリンクされる・検索で重要そうだと判断したら、ワークフローに則って整備し wiki
フォルダなどに入れる運用にしている。
Obsidianのデメリットを運用でカバー
Obsidianの最大のデメリットはローカル環境でしか使えないことである。
Scapboxのブラウザから入力できた容易さから比べるとこの点はかなり問題になる。
(コミュニティプラグインでGitHubのリポジトリと連携する方法はある)
情報管理の主体はObsidianで行うが、ブラウザでの検索用に定期的にScrapboxに情報をインポートするというワークフローにした。
ただし、Scrapboxでは走り書きメモ以外は新たにメモを追加しない。
Scrapboxは規定のjson形式であれば、そのデータを元にページを新規作成・上書きができる。
Obsidianの保管庫に対してMarkdownからScrapbox記法に変換するスクリプトを書いて週に一回実行するようにしている。
自動化したらより楽になりそうだが、定期的にObsidianのツェッテルカステンを見るTODOとして違和感なく続けている。