「EC2止めたのに請求が来た」── AWSの"無料のフリして課金してくるやつ"図鑑
前提
この記事は執筆時点(2026年7月)の公開情報をもとにまとめています。料金はおおよその目安(東京リージョン基準)なので、正確な金額は公式料金ページでご確認ください。
そして本記事に登場する請求は、すべてAWSの正当な課金です。こわいのはAWSではなく、仕様を知らない我々の方です。
はじめに
AWSを触り始めた人が必ず通る儀式があります。
「え、なんで請求来てるの??」
インスタンスは止めた。無料枠のはず。何も動かしてない。それでも月末、数百円〜数千円の請求メールが静かに届く。
この記事は、そんな「無料のフリして課金してくるやつ」たちを図鑑形式でまとめたものです。各モンスターには**「今すぐ確認する場所」**を付けたので、読みながら自分のアカウントを巡回できます。全部知っていたらAWS中級者。半分知らなかったら、この記事を閉じる前に請求ダッシュボードを開くことになるでしょう。
こわさは筆者の独断で★5段階です。
No.1 停止したEC2インスタンス
こわさ:★★☆☆☆
「EC2止めたから安心」——この認識が最初の罠です。
インスタンスを**停止(stop)**しても、くっついているEBSボリューム(ディスク)の課金は続きます。gp3なら約$0.096/GB・月。30GBなら月に数百円。金額は小さいですが、「止めたのに請求が来る」という心理的ダメージが大きい。
対策: 使わないなら停止ではなく終了(terminate)。データを残したいならAMIやスナップショットを取ってから消す、が基本ムーブです。
📍今すぐ確認: EC2コンソール → 「インスタンス」で停止中のものがないか
No.2 パブリックIPv4アドレス
こわさ:★★★☆☆
昔は「使っている間は無料」でした。しかし2024年2月から、パブリックIPv4アドレスは使用中かどうかに関わらず約$0.005/時間の課金対象になりました。1個あたり月に約$3.6。
これにはElastic IPも含まれます。以前は「インスタンスに関連付けていれば無料」でしたが、今は関連付けていても課金。そして関連付けずに確保だけしたEIPは、昔から今までずっと課金対象です。インスタンスを消したときにEIPだけ解放し忘れる、というのが王道の事故パターン。
「昔の入門記事を見ながら構築したら、記事に書いてない請求が来た」現象の代表格でもあります。古い記事が地雷原になっているのです。
対策: パブリックIPが本当に必要か毎回考える。EC2に入りたいだけならSSM Session Managerを使えばパブリックIPなしで入れます。
📍今すぐ確認: VPCコンソール → 「Elastic IP」。関連付け先が空欄のものは即解放候補
No.3 NAT Gateway
こわさ:★★★★★
図鑑のボスです。
NAT Gatewayは存在しているだけで約$0.062/時間。1個で月額約$45(7,000円弱)。何も通信していなくても、です。しかもチュートリアルやIaCテンプレートで「とりあえずマルチAZ」構成にすると2〜3個生えてきて、気づけば月2万円コース。通信すればデータ処理料(約$0.062/GB)も上乗せされます。
最凶ポイントは、請求書上で「NAT Gateway」と名乗らず**「EC2-Other」に合算される**こと。犯人が名乗らないタイプのこわさです。「EC2全部消したのにEC2の請求が来る」ミステリーの犯人は、たいていこいつです。
対策: 検証が終わったVPCは放置しない。CloudFormationやCDKで作ったならスタックごと削除すれば取りこぼしがありません。
📍今すぐ確認: VPCコンソール → 「NATゲートウェイ」。身に覚えのないやつがいたら要調査
No.4 消し忘れたEBSボリュームとスナップショット
こわさ:★★☆☆☆
インスタンスを終了しても、設定によってはEBSボリュームが残ります(「終了時に削除」のチェックが外れている場合)。そしてスナップショットは、元のボリュームを消しても残り続けます。
1個1個は少額なのに、気づいたら化石のようなスナップショットが数十個堆積している。地層かな?
対策: 状態がavailable(=どこにも付いていない)のボリュームは基本的に消し忘れです。ここが一番の埋蔵金ポイント。
📍今すぐ確認: EC2コンソール → 「ボリューム」と「スナップショット」
No.5 KMSのカスタマー管理キー
こわさ:★★☆☆☆
作ると1個あたり月$1。金額は小さいのですが、このキーの本当のこわさはすぐに消せないこと。削除には最短でも7日間の待機期間が必要です。
「削除をスケジュールしました」という表示を見て、「え、今すぐ消せないの…?」と初めて知る。誤削除で暗号化データが二度と読めなくなる事故を防ぐための優しさなのですが、初見だと軽くホラーです。しかも待機期間中も課金は続きます。
対策: 検証で気軽にキーを量産しない。多くの場面はAWS管理キー(無料)で十分です。
📍今すぐ確認: KMSコンソール → 「カスタマー管理型のキー」
No.6 Route 53のホストゾーン
こわさ:★☆☆☆☆
ドメインの検証をしようとホストゾーンを作ると、1ゾーン月$0.50。ワンコイン以下ですが、「DNSの設定画面を作っただけでお金がかかる」というのは初見だと驚きポイントです。
ドメイン本体の年間更新費と合わせて、「個人開発、何もしてないのに毎月ちょっとずつ減っていく」現象の一因になります。
対策: 使っていないホストゾーンは消す。それだけ。
📍今すぐ確認: Route 53コンソール → 「ホストゾーン」
No.7 Cost Explorer API
こわさ:★★★★☆(概念がこわい)
ここから「え、それも!?」ゾーンに入ります。
高すぎる請求の原因を調べようと、スクリプトでCost Explorer APIを叩くとします。このAPIは1リクエストごとに$0.01課金されます。そう、コストを調べる行為そのものが有料です。
さらに罠なのが、結果がページ分割されるとページごとに1リクエスト扱いになること。雑なスクリプトで全期間・全サービスをループで取得すると、「コスト調査のコスト」が請求書に登場します。哲学です。
なお、マネジメントコンソールでポチポチ見る分には無料なのでご安心を。
対策: 手動調査はコンソールで。自動化するならフィルタとキャッシュでリクエスト数を絞る。
📍今すぐ確認: 請求ダッシュボード → Cost Explorer(コンソールは無料なので堂々と開いてOK)
No.8 無料プランの「アカウントごと消滅」
こわさ:★★★★★(課金より深刻)
最後は課金の逆、タダで済む代わりにもっとこわいやつです。
2025年7月15日以降に作った新規アカウントは、従来の「12ヶ月無料枠」ではなくクレジット制の無料プラン(サインアップで$100、チュートリアル的なアクティビティ完了で追加最大$100の計$200)に変わりました。予期せぬ課金が発生しない親切設計……なのですが、その代償として、6ヶ月経過またはクレジットを使い切った時点でアカウントが自動的に閉鎖されます。
学習用に立てたサーバーも、載せていたデータも、アクセス不能に。90日以内に有料プランへアップグレードすれば復旧できますが、知らずに放置していたら消えます。「課金されないこわさ」というジャンルの新境地です。
ちなみに2025年7月14日以前に作ったアカウントは従来の無料枠のままなので、この仕様の対象外です。自分がどちらか把握していない人は確認を。
対策: 無料プランで作ったなら、クレジット残高と期限をカレンダーに入れておく。消えて困るものを置くなら早めに有料プランへ。
📍今すぐ確認: コンソールの請求とコスト管理 → 「クレジット」で残高と有効期限
【防御魔法】AWS Budgetsで請求アラートを張る
図鑑のモンスターを全部暗記するより確実な方法があります。「請求が○円を超えたらメールを飛ばす」設定を最初にやっておくことです。5分で終わります。
- マネジメントコンソール右上のアカウント名 → 「請求とコスト管理」
- 左メニューの「Budgets」 → 「予算を作成」
- 「テンプレートを使用」 → 「月次コスト予算」を選択
- 予算額に「これ以上は許せない」金額を入力(例: 10 USD)
- 通知先のメールアドレスを入れて作成
これで、しきい値を超えそうになった時点でメールが来ます。モンスターが何匹湧いても、被害が膨らむ前に気づける。AWSアカウントを作ったら、EC2を立てる前にまずこれです。
まとめ
- 「止めた」と「消した」は違う(EC2/EBS)
- IPアドレスは持っているだけでお金がかかる時代(2024年2月〜)
- ラスボスはNAT Gateway。しかも請求書で「EC2-Other」を名乗る
- 消し忘れ資源(EBS/スナップショット/ホストゾーン/KMSキー)は月1で棚卸し
- コストをAPIで調べるとコストがかかる(コンソールは無料)
- 新しい無料プランは課金されない代わりに、期限が来るとアカウントごと消える
- そして何より先にBudgetsのアラート。最強コスパの防御魔法
AWSの請求はこわい。でも、こわさの正体は全部「仕様を知らないこと」です。この図鑑を読み終えたあなたは、もう月末の請求メールに怯えなくて大丈夫。
……で、Elastic IP、ちゃんと解放しましたか?