「AI疲れ」って、たぶん人によって中身が違う
最近「AI疲れ」という言葉をよく見かけます。ただ、中身を聞いてみると人によってバラバラです。キャッチアップが追いつかない疲れ、ツールが増えすぎた疲れ、レビュー依頼が増えた疲れ。
私の場合、疲れの正体はもっと具体的でした。AIが作った成果物のレビューです。
そしてしばらく考えて、その理由は「AIが間違えるから」ではないことに気づきました。間違いを探す足場が消えたからです。この記事はその話です。
昔は「どこで間違えたか」がわかった
AIを使う前、私はモノを作るときにExcelで作業シートを作っていました。前提条件を並べたシート、計算過程のシート、それらを踏まえた最終成果物。
手間はかかります。でも一つ大きな利点がありました。最終成果物がおかしいとき、どこで思考を間違えたかを遡れるんです。前提が間違っていたのか、途中の変換で落としたのか、シートを見れば切り分けられました。
AIに頼むと、成果物だけが降ってくる
AIに頼むと、確かに速い。ただし出てくるのは完成品だけです。
「思考過程は見えるじゃないか」と言われそうですが、あれは独り言であって、成果物との対応関係が取れていません。「なるほどこう考えたのか」とは読めても、「この判断がここの出力に効いている」までは追えない。
結果、レビューでは完成品を頭から読み下して、自分の中で作業シートを再構築することになります。作ってもらったはずなのに、検算のために自分で作り直している。
抽象論のままだと伝わらないので、同じお題を3つのやり方でやってみます。
同じお題を、3つのやり方でやってみる
お題
- エンジニア単価:60万円/月
- 1人月 = 20営業日
- 実稼働率 80%(会議やレビューなどの間接工数を除く)
- 工数:設計10人日、実装30人日、テスト20人日
正解は 60人日 ÷ (20日 × 0.8) = 3.75人月 で 225万円。ここで「稼働率が消える」という、よくある間違いを起こしてみます。
実際の業務ではもっと工程も変数も多く、単価も工程ごとに違います。この規模なら私も間違えません。
ここで見たいのは金額の正しさではなく、間違いが起きたときに、どこを見れば見つかるかという仕組みの違いだけなので、極端に簡単にしています。
ケース1:昔のExcel
作業シートはこうなります。
| シート | 内容 |
|---|---|
| 前提 | 単価60万 / 20営業日 / 稼働率0.8 |
| 工数 | 設計10・実装30・テスト20 |
| 見積 |
=工数合計/20*60 → 180万円 |
金額がおかしいと気づいたとき、見るのは見積シートの数式1つです。/20 の後ろに *0.8 がない。前提シートには稼働率0.8がちゃんと書いてある。
つまり「前提は正しくて、参照が漏れている」と即座に切り分けられます。 探す場所は数式バーの1行だけです。
ケース2:普通にAIに頼む
こう頼みます。
単価60万/月、1人月20営業日、実稼働率80%、
工数は設計10人日・実装30人日・テスト20人日。
見積を作ってください。
出てくるのはこれです。
| 工程 | 工数(人日) | 金額 |
|---|---|---|
| 設計 | 10 | 30万円 |
| 実装 | 30 | 90万円 |
| テスト | 20 | 60万円 |
| 合計 | 60 | 180万円 |
各行は破綻していません。日額3万円(60万÷20日)で計算すれば、どの行も正しい。思考の独り言にも「月額単価から日額を算出します」と書いてあって、これも間違ってはいない。
でも225万円になりません。
問題はここです。表のどこにも「稼働率を考慮しなかった」という痕跡がありません。
こちらは確かに80%と伝えたのに、成果物の上では最初から存在しなかったように見えます。
なので、やることは自分で前提を洗い出して、成果物と一行ずつ突き合わせる作業になります。それはもう、自分で作業シートを作っているのと同じでした。
ケース3:今の頼み方
同じお題を、二段階に分けます。まず計算させません。
(同じ条件)
まず、この見積で使う前提条件だけを表にしてください。
計算はまだしないでください。
私が指定していない前提を補った場合、
または指定した条件を使わなかった場合は、その旨も書いてください。
出てくるのはこれです。
| 前提項目 | 値 | 出所 |
|---|---|---|
| 月額単価 | 60万円 | 指定 |
| 月あたり営業日 | 20日 | 指定 |
| 日額単価 | 3万円 | 単価÷営業日で算出 |
| 工数合計 | 60人日 | 指定 |
稼働率の行がありません。
金額を1円も検算しないまま、この時点で間違いが確定します。
消えた前提を完成品から探すのは大変ですが、最初に並べさせておけば「ない」ことは一目でわかります。
ここで稼働率0.8を足させてから見積を作らせると225万円が出ますし、前提表を通した後の成果物は、前提表と突き合わせるだけでレビューが終わります。
3つを並べるとこうなります
| 前提はどこにあるか | 間違いに気づく場所 | レビューの労力 | |
|---|---|---|---|
| ケース1(Excel) | 前提シート | 数式1行 | 小 |
| ケース2(普通に依頼) | どこにもない | 全行を自分で再計算 | 大 |
| ケース3(今の頼み方) | 前提テーブル | 表の1行の欠落 | 小 |
やっていることは、Excelの前提シートをAIに書かせているだけです。成果物を良くする工夫ではなく、レビューする自分のための足場を先に作らせている、という整理になりました。
同じ発想でやっている、他の3つ
Plan mode を使う
Claude Code なら Plan mode で計画を先に確認できます。ケース3と同じで、判断が成果物に溶ける前に見るという話です。完成したコードのレビューは重いですが、「何をどの順で作るか」のレビューは軽い。同じ間違いを捕まえるなら軽い側で捕まえたい。
CLAUDE.md に書いておく
毎回口頭で指示していると、指示を忘れた回だけレビューが重くなります。前提を明示する・省略した条件があれば書く、といったルールをCLAUDE.mdに置いて、ケース3をデフォルトにしました。
一度に頼む量を、レビューできる量に合わせる
前提を見える化しても、量が多ければ結局読み切れません。作れる速度ではなく、自分が検算できる速度が上限だと割り切りました。速さを一部返上した形です。
正直なところ
「それはプロンプトが下手なだけでは」と言われそうですし、実際その要素はあると思います。
それに、これで疲れがゼロになったわけでもありません。レビューの手間を前工程に移しただけ、という見方もできます。
そして白状すると、こういう頼み方を毎回考えること自体が、そこそこ疲れます。
前提を出させるべきお題なのか、そのまま頼んでいいお題なのか、その判断を都度やっているわけで、
疲れの総量が減ったかと言われると自信がありません。
それでも、どこを見れば間違いが見つかるかが分かっている疲れと、全部読まないと分からない疲れでは、私にとってはだいぶ違いました。
みなさんはどうしていますか
同じような疲れを感じている方、どう対処しているか教えてもらえると嬉しいです。特に「前提を先に出させる」以外のアプローチを取っている方や、そもそもレビューの考え方から変えた方の話が聞きたいです。