チームファシリテーションについて
この記事について
この記事はファシリテーター Advent Calendar 2018の15日目の記事です。敬愛する高柳師匠発のカレンダーということで、去年に引き続き記事を書かせていただきます。
去年の記事は「ふりかえりのファシリテーションを考えてみる」です。
はじめに
こんにちは。森です。
普段は「チームファシリテーター」として、社内外でチームビルディングや、ふりかえりなど、よいチームを作るための活動を行っています。
NRIというIT企業のなかで、ファシリテーターという存在自体が珍しいのですが、普段どんなことをやっているのか、どんなことを意識しているのか、というのを改めて言語化してみようと思います。
スクラムにおける「スクラムマスター」の行動に近いものもありますので、スクラムマスターの方は参考になるかもしれません。
ファシリテーターとは
人によってそれぞれ解釈は違います。私は「促すもの」という表現が好きです。この表現は師匠である高柳さんから受け継いでいます。
英語のfacilitateの意味を調べてみると、「促進する」「手助けする」という意味が出てきます。
高柳さんの解釈「促す」と、英語の意味である「手助けする」という2つの意味がファシリテーターの持つ役割なのかな、と私は考えています。
何を促すのか、手助けするのかによって色々頭に名前が付きます。
・会議ファシリテーター
・ダイアログファシリテーター
・プロジェクトファシリテーター
・ワークショップファシリテーター
・チームファシリテーター
etc...
その中でも、私のファシリテーター観にぴったり合うのが「チーム」でした。
そうしてチームファシリテーターという風に(勝手に)名乗っています。
今回は、チームファシリテーターとは何なのか?を深掘りしてみます。
チームファシリテーターとは
チームをファシリテートする、すなわち「チームを促す」「チームを手助けする」者。この役割をまとめると以下の2点だと考えています。
- 「個人」「グループ」が「チーム」となるように、人と人とのつながりを促進する
- チームがよりよいチームとなるように、あらゆる手段を用いてチームの力の向上を手助けする
チームだけがファシリテーションの対象ではなく、まだチームとなっていない人たちに対してのアプローチも行います。そして、チーム自身でよいチームを作っていけるような土台を作り、ファシリテーターがいなくなったとしてもチームが成長し続けるような状態にすることを目指します。
チームの成長モデルを分類したタックマンモデルにあてはめるとよさそうなので、どんなことをしているのかふりかえってみました。
チームの「形成期」
形成期では、チームのメンバーが集められたばかりで、まだチーム感が出ていない頃です。チームの目標も定まっておらず、お互いのこともよく知りません。
そんな状態においては、基本的には「コミュニケーション」「コラボレーション」がしやすい方向にチームを促します。
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価値観の共有
チームビルディングの最も最初にすべき初手だと考えています。仕事上の価値観や、私生活における価値観、そしてプロジェクト/プロダクト/チームに対する想いをチームのメンバー同士で共有します。価値観の共有がない状態でも仕事は問題なく進んでいきますが、コミュニケーションの密度が変わってきます。こちらはゲームという形で行うことが多いです。
(手法:Personal Maps, Story Telling, Moving Motivators, DiSC分析, MBTI分析, 価値観ババ抜きなど) -
目的の共有
チームに対してトップダウンで与えられたビジョン・ミッションを受けて、個々人がどう思ったのかを共有します。全員の目的を共有することで相互理解の強化が更に進みます。また、お互いの目的を知ることで、コラボレーションがしやすくなります。
また、チームにとっての目的を1つ打ち立てることで、チームが成長を感じるきっかけとなったり、「チームのために動く」という価値観が生まれやすくなり、チームとしてのモチベーションがあがりやすい土台を作ります。
さいごに、プロジェクト/プロダクトに対しての共通の目的を1つ打ち立てます。これにより、チームがプロジェクトやプロダクトに対して貢献するというエンゲージメントを高めます。
(手法:Success Factor、インセプションデッキ、チーム名決めなど) -
多様性の認識
価値観の共有に近いのですが、様々なスキルを持った人間が集まっているということを全員で認識するワークを行います。互いのスキルと、互いに対しての期待を明確に表現することで、よりコラボレーションをしやすくします。
(手法:ドラッカー風エクササイズ、スキルマップ、Personal Mapsなど) -
チーム独自の文化の形成
チームのメンバーそれぞれが納得する形で、チームのルールを決めていきます。チームの文化はチーム自身で更新されていく土台を作ります。
(手法:DPA、ワーキングアグリーメント、リズムの合意など)
チームの「混乱期」
チームの「形成期」でお互いの共通認識が取れてから、実際の業務を進めていったとしても、チームのなかでやり方が合わなかったり、認識齟齬が生まれることもよくあります。そんな中で、チーム自身が現状に合わせた形に変化していくのを促します。
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カイゼンの文化の定着
「ふりかえり」をすることにより、チームが自身の関係性をより高めていったり、プロセスをカイゼンするのを促進します。最初に作られたチームとしての形・枠を超え、現状やゴールを見据えた形へとチームが変化していくのを「ふりかえり」によって促進します。ふりかえりをすることにより成長・変化が実感できることや、次へのスタートを気持ちよく切れるようになる、ということが肝だと感じています。そのために、ふりかえりに関しては、この活動が途切れず自分たちで行えるようになるために、特に重点的にフォローしています。
(手法:ふりかえり) -
目的の定期的な見直しとむきなおり
ゴールまでどれくらい進んだのか、そしてそのゴールは今も変わらずそこにあるのか、というのを1ヶ月~2ヶ月単位でむきなおりします。こうすることで、チーム自身が成長を感じつつ、自分たちで前に進むための原動力であるモチベーション・エンゲージメントを高めます。
(手法:インセプションデッキ、むきなおりなど) -
文化の共有とカイゼン
自分たちの今のやり方にフィットする形へと文化やルールを作り直していきます。
(手法:DPA、ワーキングアグリーメント、リズムの合意など)
チームの「統一期」
チームがチームとしてのやり方に慣れてきて、役割分担もできてきた時期です。この状態では、チームがチャレンジをしやすくしたり、役割を超えた働きかけができるように促します。
やることの本質は「形成期」「混乱期」と変わらないのですが、色々なプラクティスも積極的に取り入れつつ、ティーチング&コーチングをしたりします。
また、チーム自身で「自立」「自律」できるように、離れたところから見守る、ということが多くなってくる時期です。
チームの「機能期」
自分たち自身でチームを運営できるようになった段階です。こうなったときに、チームファシリテーターがいなくても、新しいことにチャレンジしたり、目的の確認やむきなおり、ふりかえりなどがチーム自身で出来るようになっていればよいと考えています。
意識していること
常に意識しているのは、自身はあくまで「ファシリテーター」であり、「講師」ではないということです。色々と教えながら進める形式になってしまうことも多いのですが、あくまで色々決めていく、作っていくのはチーム自身。決めていくためのプロセスを手助けしたり、質問によって埋もれていた思いを引き出すことで、チームが動き始めるのを手助けする、ということに全力を割きます。
MBTIタイプ分析では、自身の本質は「幹部(ESTJ-A / ESTJ-T)」です。自身を押さえつけておかないとリードしたくなる性格です。
ファシリテーター自身がリーダーシップを発揮してチームの核となってしまうと、自身がいないときにチームの成長が鈍化します。私一人が投げかけた「答え」は間違っていることもままあり、あくまでチーム自身が自分たちなりの答えを見つけ、それに全力でコミットしていくことで成長する実感が得られ、成長が加速していきます。そのため、仕事上のペルソナは意識的に「領事官(ESFJ-A / ESFJ-T)」へと変化させています。
出てくる自己を押さえつけ、あくまで客観視・俯瞰する、というのもファシリテーターにとって大事なスキル(※)なのかなと最近思います。チームの成長を一番間近で見る、というのが、私が仕事をしているときの最高の喜びです。
(※ 大事、であって必要ではないと思います。人によってファシリテーションのタイプは異なってよいと思っています)
チームファシリテーターとしての引き出し
チームビルディングやふりかえりに関するワークの多様さ、だけでなく、人の特性を把握して人ごとに投げかけ方を変えたり、状況に応じてティーチング・コーチングを活用したり、と、複合的なスキルが必要そうです。私自身もすべてを揃えているわけではないので、実践しつつ訓練を進めている段階です。私の場合、エンジニアリングのスキルも活用しつつチームを形成していくことが多いため、アジャイルやDevOps関連のプラクティスも自身で実践して引き出しは出来るだけ多くなるようにしようと研鑽中です。
以下の知識・スキルがあると役に立つのかなぁ…と。(※分類は雑ですのでご容赦ください)
ほかにこういうものがあるとよさそうだね、というものがあればぜひ教えていただけますとうれしいです。
- 心理学
- 集団心理学
- 組織心理学
- 教育心理学
- 認知心理学
- ファシリテーション手法
- グラフィックファシリテーション(グラフィックレコーディング/ビジュアルファシリテーション)
- ファシリテーショングラフィック
- ワークショップデザイン
- ティーチング
- コーチング
- アクティブラーニング
- メンタリング
- 1on1など?
- チームビルディング手法
- アイスブレイク手法
- ワークショップ手法
- 傾聴
- ふりかえり
- エンジニアリング
- DevOps
- 種々のアジャイル関連プラクティス
常に学びの多い世界であり、やっている当人としても楽しくやらせていただいています。
今後の展望
2018年はアイスブレイクやチームビルディングに傾倒して技法を学んできたため、2019年は心理学・メンタリング・コーチングのいずれかを本格的に学んで取り込んでみたいなと考えています。