はじめに
この記事は、2019/11/30(土)に開催された翔泳社主催イベント「Developers Boost 2019」にて、懇親会で行った「ふりかえりワークショップ」をふりかえるものです。
U30のエンジニア兼ファシリテーターとしてワークショップを実施させていただく機会を得られ、私としても非常に得るものの大きかったカンファレンスでした。今回初参加ながらも、U30最後の年でもありましたので、少し達成感があります。
この記事では、そんなワークショップを作るまでの流れや、実施、そして実施後の内容のふりかえりを行っていこうと思います。
普段は自分がどのようにワークショップデザインをするのか、というのを文字にして伝えたことがなかったように思いますので、いい機会だと思いアウトプットします。
ファシリテーションをしてみたい!という人に少しでも参考になれば幸いです。
以下の内容でワークショップをふりかえります。
- Developers Boostへの登壇公募から、ワークショップ実施決定まで
- ワークショップの企画
- ワークショップの設計とスライド作成
- イベント当日のワークショップ実施まで
- ワークショップ実施中
- ワークショップ実施後
なお、この記事のふりかえりはフラクタルのフレームワークによって行われています。イベントのふりかえりに特化したフレームワークですので、興味がありましたら、記事をご参照ください。
Developers Boostへの登壇公募から、ワークショップ実施決定まで
去年(2018)は公募して落選。今年はU30最後の年、ということで公募頑張るぞー、と去年から意気込んでいましたが、落選。
ふりかえりに関する取り組みや、好きを突き詰めた結果、今のチームファシリテーターをやっている、といったキャリアの話をしようと思ってたのですが、ニッチ過ぎた感じがします。
エンジニア向けのイベントでファシリテーターの話ってどうなんだろうなー、と思っていましたが案の定落ちました。
コミュニティButterfly Effectで一緒の蜂須賀さん(@@PassionateHachi)や、アジャイルチームを支える会で一緒の飯田さん(@ysk_118)が登壇を決めているのを見て、一人黄昏れていたりしました。
そんな中、技術書の販売イベントである「技術同人誌再販Night★#5 技術書集合&LT」に出展した際、Developers Boostのオーガナイザー近藤さん(@kondoyuko)のサークルとお隣になった際、近藤さんからお声がけいただきました。
~~以下回想~~
近藤さん「Developers Boost応募ありがとうございました。懇親会で落選した方にLTしてもらうか、ワークショップをするか、どうするか悩んでいるのですけど…」
私「是非ワークショップやりましょう。デブストのふりかえりしましょう。私やりますよ」
近藤さん「ありがとうございます。では、Messengerでまた詳細詰めましょう」
近藤さんとは技術書界隈で、技術書典6のアフターでPOStudyの関さん(@fullvirtue)に紹介していただいて繋いでもらったと記憶していますが、緩い繋がりでも縁があってこういったイベントに参加させていただくことになり、人とのつながりは本当に大事だなぁと感じています。
11/1に決まったタイミングの私のツイート。
拾う神もいる
— びば(森のフレンズ)ふりかえり読本シリーズ (@viva_tweet_x) November 1, 2019
そんなこんなで初参加かつ最後のDevelopers Boostへの参加の機会を得たのでした。
ワークショップの企画
ここからが本題です。
普段から様々な種類のワークショップを自分で企画したり、ご依頼を受けて行ったりしていますが、今回は普段とは毛色が違います。
イベントの制約(前提条件)として
- U30の集まりである
- 懇親会(酒が入っている場所)で行う
- 人数がとても多い
- Developers Boostの締めくくりであり、イベントで印象に残りやすい(=次年度以降の参加を決定づけるファクターになりうる)
という、かなりハードな前提条件です。
普段行っているアジャイル・チームビルディング・ふりかえり等の「コンテキストのあった参加者層に対して専門性を発揮する」タイプのワークショップと違い、「普段と違う未知の参加者層に対してイベントの要求を満たす」タイプのワークショップ。
~30人程度でしたらワークショップ中にある程度の揺らぎがあったとしても、現場のファシリテーションで方向の軌道修正が可能ですが、今回の想定参加者は最大200人。かなりの大物ワークショップでした。
こういった類のワークは、以前Agile Japan 2018で、イベントのサブタイトルである「Why Agile」を冠するワークショップを100人×90分の規模で行わせていただいたことがありましたが、今回はその時以上の難産だったと感じています。
企画をするうえで、近藤さんと何度かやり取りをさせていただきましたが、事前に確認したのは以下の点です。
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- ワークショップの目的・ゴール
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- ワークショップの対象人数
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- ワークショップの時間
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- ワークショップのファシリティ(会場のレイアウト、広さ)
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- 利用可能なリソース(人、道具など)
それぞれについて説明します。
1. ワークショップの目的・ゴール
最も大事なものの1つです。自分でワークショップを企画するときも同様に大事なものです。
ワークショップを通じてどんな体験をしてほしいか、ワークショップを終えた後どんな状態になってほしいか、というのを決めます。
こちらは、Developers Boostのテーマをベースに検討しました。
「Developers Boost(デブスト)」は、入門からハイエンドまでの技術書、Webメディア「CodeZine」、カンファレンス「Developers Summit」など、さまざまな媒体でITエンジニアの成長を応援してきた翔泳社が運営する、30歳以下(U30)の若手エンジニアのための技術カンファレンスです。
今回は「これが私の戦い方」をテーマに、試行錯誤しながら取り組んできた開発事例、困難を乗り越えてきた経験、これがあったからこそ切り開けたキャリア戦略など、さまざまな戦い方をシェアしてもらうことで、若手エンジニアのさらなる成長と交流をブーストします。
太字の部分が大事な箇所です。
ワークショップの実施時点では、既に何セッションかの話を聞き終わっており、他の人の「戦い方」を聞き終わっており、心地よい読後感がある状態でのワークショップスタートとなるはずです。
私が得意とする「ふりかえり」は「成長」と密接に関係がありますので、そちらも絡ませたい。そういう考えから、「セッションをふりかえり、その結果を他のエンジニアと積極的に共有することで、成長と交流両方をブーストする」というワークショップの大方針が確定しました。
こちらも近藤さんとMessengerでヒアリングしたり、候補を挙げさせていただきながら確定しています。
2. ワークショップの対象人数
こちらもかなり大事なポイントになります。
私の場合、ワークショップで全員をケアできる許容人数は25人です。それ以下であれば、ワークショップ中のファシリテートやフォローにより全体をカバーできますが、上限を超えた人数の場合、ワークショップのフレームワークをかなり厳密に設計して、満足度が低下してワークから離脱する割合を最小限に落とし込む必要があります。
今回は最大200人、ということでかなり気合を入れてワークショップ設計をすることが確定しました。
3. ワークショップの時間
こちらも大事なポイントです。
Developers Boostのような大規模イベントの場合、前後の予定が詰まっており、時間を超過すればするだけ運営側に迷惑をかけてしまいます。また、時間が短くなればなるほど、ゴールを達成するために必要なワークを緻密に設計しなくてはならなくなります。
今回は15~20分というある程度幅のある枠をいただきました。
ただ、イベントのふりかえりを行う場合、ふりかえりを主軸にワークショップを行う場合は、それなりに内省の時間が必要になります。ワークする時間だけでも20分は欲しいところです。交流を主軸にワークショップを行う場合は、交流する人数を増やそうとすればするほど、時間も必要になります。両方を加味しながら最大20分以内に行う、というのを検討する必要が出てきました。
4. ワークショップのファシリティ(会場のレイアウト、広さ)
会場のレイアウトによって、道具をどこに配置するか、動線をどうするか、という設計が変わってきます。今回は縦長の会議室レイアウトということで、スライドの見せ方は工夫が必要だということが分かっていました。奥のほうにいる人が、スライドが見えない状態が出てくる可能性があるためです。
5. 利用可能なリソース(人、道具など)
ワークショップをするうえで、ペンや付箋といった道具や、HDMIケーブルのような接続設備、そしてワークショップに協力してもらえる人、といったことを事前に知る必要があります。
今回はペンも人数分用意いただけましたし、ネームプレートに書くスペースがあることも事前に把握できました。
こういった事項を事前に確認しつつ、ワークショップのコンセプトをもとに、ワークショップの設計に進みます。
ワークショップの設計とスライド作成
ワークショップの設計
企画段階の構想は以下のようなものです。
- セッションをふりかえって内省に繋げる
- ふりかえった結果を多くの人と交流する
上記に加え、先述の「制約」にマッチするように色々と進行に書き加えをしていきます。
- ワークの趣旨を説明して、ワークに没入してもらう
- 短い時間の中で最大限の人数と話してもらう必要がある
- 話すことが苦手なタイプの人がいることを考慮する
- 「私の戦い方」だけをふりかえるテーマにすると、まだ戦い方が見つかっていない人にとってはふりかえりの時間が苦痛になることを考慮する
- 一度ワークに入ると相当な騒音になる(ファシリテーターの声が届かなくなる)可能性を考慮する
- ワーク実施後に交流時間があるため、その時間を有効活用する仕組みを取り入れる
こうした検討事項を元に出来上がったアウトラインがこちらです。
- 事前準備
- ペンを入場時に配る
- イントロダクション
- Developers Boostの趣旨を説明する
- ワーク/ファシリテーターへの安心感を持たせるための自己紹介
- 全体の進め方を事前に説明し、安心感を持たせる
- ワーク1:成長のブースト(ふりかえり)
- ワークの説明
- 止まり方の説明
- セッションをふりかえる(2分)
- 第1テーマ「あなたの戦い方」
- 第2テーマ「イベントの学び・気づき」
- 第3テーマ「イベントの感想」
- ワーク2:交流のブースト
- ワークの説明
- グループ作り(1分)
- 交流時間5分で終わるよう、最大5名
- グループができやすいよう、3-5名と幅を持たせる
- 交流のワーク/ラウンド1(5分)
- 「名前だけ」自己紹介。会社名や仕事の内容は不要
- テーマについて1人1分で共有
- 顔と名前を覚えてもらう
- 5分後、ストップ
- 交流のワーク/ラウンド2(5分)
- グループチェンジ。さっき話した人とあとで話せるよう、移動は最小限で
- グループは先ほどの人との重複をありにする。参加者への制約をきつくしない
- クロージング
- ふりかえりの促し
- パックマンルールの説明。次の交流へとつなげるため。
こうしたアウトラインのもと、スライドを作っていきます。
スライドの作成
画像の版権などを近藤さんに確認しつつ、スライドを作成していきます。
ワークショップの設計を満たすように作るのはもちろんのこと、参加者が極力読み間違い・認識違いを起こさないような図・文章の記載になるよう、いつも以上に気を配って作りました。
作成したスライドがこちらです。
スライドを読んでいただくと分かりますが、スライドごとに強調している部分が認識違いをなくすための部分です。
あとは細かい部分ですが、Developers Boostのテーマカラーである(と勝手に推測した)オレンジと赤をベースに、アイコンなどを作って、イベントとしての統一感を出そうとしています。
スライドを作っては読み上げて修正、読み上げては修正、を繰り返しながら、20分のワークショップ資料の作成に4時間くらいかけて作り終えました。
今回は本当に難産だった…。
実際のワークショップを想像しながらの発表練習も5回程度行います。
スライド作成で何度もプレゼンはしていますので、練習はほどほどです。
イベント当日のワークショップ実施まで
そうしてイベント当日。ワークショップ実施まで気は抜けません。
色々当日に対応した部分があるので、それを記載していきます。
1. 写真を撮る&スライド修正
現地でしか取れない写真が2枚あったので、現地入りしたあとにスライド修正です。
構成も大きく変わっていますが、それは次の理由からです。
2. スライドに対する文字・画像の配置場所の修正
最初のセッションでちょまどさん(@chomado)の講演を聞きに行ったのですが、後ろのほうに座っている人はスライドの下の部分が全く読めないことが判明。ワークショップ会場はこの会場の2倍以上の奥行きがあり、人も立っていることから、スライド下部に配置していたものを全部上部に持っていく修正を行いました。
ただ、懇親会会場を見に行くことができるのは17:00以降(懇親会は18:00から)とのことで、プロジェクターが立ち見でも見えるくらい上部についている可能性は否めません。ということで、作ってきたスライドは残しつつ、別バージョンで文字を上に寄せたスライドを作成しました。
スライド before。これだと3つ目が見えない可能性があります。
3. スライドの文字の大きさ修正
17:00に会場下見した結果、文字の大きさ25ptでは小さすぎて後ろの人が読めない可能性が高いことが発覚。急遽、デフォルトの文字サイズを40pt, 強調44ptのサイズに変更を行いました。
サイズを変更するにあたり、1スライドに文字が入りきらないものも出てきたので、うまく調整です。
こんな感じで全スライドの調整をギリギリまでかけていました。
何とか間に合ってよかった。
あとは、登壇者の15秒自己紹介を聞いたり、他の人と少し話したりして、会場にいる人たちの属性を少しでも掴むことをしました。
その結果、ワーク実施中のイントロダクションでいくつか活かされています。
ワークショップ実施中
イントロダクションでワークに多くの人に参加してもらうために、会場の特性と参加者属性をつかんだ結果を利用しています。
15秒自己紹介の時に、登壇者の話を聞かずにしゃべり続けていた人がいたことから(悪いことではありません。私もそのタイプ)、ワーク開始時にしっかり巻き込む必要があろうということ。
そして、ワーク開始前までに一人で飲んでいる人が点在していたため、その人たちの交流をブーストする必要があろうこと。
これらのことから、以下の3点を元の予定に加えて実践しています。
1. ワーク開始時に声掛けをして参加してもらう
「Developer Boostは楽しかったかー!?」「おー!」
という掛け声をやらせていただきました。こういう類の巻き込みは普段しないのですが、ワークに強制的に参加してもらう仕掛けをするために、二度行いました。
二度目はみんな声をしっかり出してくれていました。
2. ワーク中の声のトーンの設定や、ワーク後の「止まる」方法の周知徹底
ワーク前に参加者と話していて、周りがかなりにぎやかなため、近距離で話しているのに話が聞こえない、という事態に襲われました。ワーク中はさらに賑やかになることが想像できましたので、近距離でも大きな声で伝えること、止まるときの方法は全員でリハーサルを追加で行いました。
3. 1人になっている人を巻き込もう、という説明の追加
クロージングの際にパックマンルールを説明したのですが、当初想定以上に、「一人でいる人を自分から声掛けして、繋がりを作ろう」という点に念押しをしました。
他:「交流のブースト」ワーク中に、人が少ないグループに混ざる
私自身、他のグループに混ざって会話を行いました。
1ラウンド目は漫画家の湊川あいさん(@llminatoll)のいるグループが唯一2人だけで話していたので、そちらに混ざったり、2ラウンド目は欠けているグループはなかったため、ワークに混ざっていなかったスポンサーブースにいた方に話をしたり、イベント運営の方と話をしたり。会場全体の盛り上がりが冷めないよう、色々動き回っていました。
- ワークショップ実施後
ワーク実施後は、「ふりかえりチートシート」を配ったり、色んな人にふりかえりの相談を受けたり、という活動をしつつ、他の参加者の方とも自分から話にいったりできました。
夜まで気が抜けないままでしたが、ようやく一息、といった感じです。
終わりに
私にとってもU30最後の仕事としてかなりハードルの高いファシリテーションとなりましたが、無事終わってホッとしています。
Agile Japanで100人規模、Developers Boostで200人規模のワークを実施しましたので、次は500人規模くらいですかね?(ご依頼お待ちしております)
常にチャレンジし続けていこうと思います。