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この記事について

ふりかえりの手法を1つずつ紹介していきます。
ふりかえりをより楽しくしていくためにお使いください。

出典

この内容は ふりかえり読本 学び編~経験を力に変えるふりかえり~ 3章(3.4) で紹介しています。

出典(原典)

Esther Derby・Diana Larsen・角 征典(訳)(2007).アジャイルレトロスペクティブズ 強いチームを育てる「ふりかえり」の手引き.オーム社。
こちらを参考に、ファシリテーションテクニック等を汎化したものが本記事となります。

目的・ねらい

アクションが確実に実施されるために、できるかぎり具体的にしていきます。確実に実施されると確信できるくらいまで具体化されたアクションは、効果の予測もしやすく、アクションに不備も見つけやすくなります。不備が見つかれば、すぐに軌道修正を行うことができます。また、アクションが具体的になり、実施されることにより、結果が成功・失敗どちらにせよ、実施の結果が次に活かされ、経験学習サイクルを回しやすくなります。

SMARTは、以下の頭文字をとった、コンサルティングでよく利用されるフレームワークです。

  • Specific(明確な・具体的な)
  • Measurable(計測可能な)
  • Attainable(達成可能な)
  • Relevant(適切な・問題に関連のある)
  • Timely / Time-bound(すぐにできる / 期限の決まった)

次に実行するアクションを、SMARTのうち多くの項目を満たすように具体化していきます。SMARTの考え方は、ふりかえりのアクションを検討するうえで土台になります。どのようなシチュエーションでふりかえりをする場合にも、アクションがSMARTとなるよう心がけましょう。つぎに、アクションがSMARTではない例と、SMARTな例を示します。

SMARTでないアクションの例

Aさんの設計が、誤字脱字のミスが多く手戻りしてしまったので、誤字脱字をしないように意識する

SMARTなアクションの例

Aさんの設計が、誤字脱字のミスが多く手戻りしてしまったので、チーム全員が相互に設計をレビューしあう仕組みをつくる。まずは、今週に設計書X, Yのレビュータスクが発生するので、XはAさん・Bさんが、YはCさん・Dさんが相互にレビューしあい、指摘数を数える。指摘数や内容を次回の定例会でチーム全体に共有し、そのときに再度カイゼン案を検討する。

SMARTでないアクションでは、「誤字脱字をしないよう」という具体的ではない行動が記載されています。また、「意識する」というのもどうやったら達成可能かわかりません。このように、「意識する」「注意する」「頑張る」「なんとかする」といった心の持ちようでカイゼンをしようとするのはSMARTでないアクションの典型です。このような単語を見かけた場合は、どうやったら意識できるのか、どうやったら注意できるのか、というように、より具体的なアクションに落とし込んでいきます。

SMARTなアクションの例では、「チーム全員が相互に設計をレビューしあう仕組みをつくる」という、問題に関連のある対応策を練っています。仕組みの一例として、「XはAさん・Bさんが、YはCさん・Dさんが相互にレビューしあい、」というように、どうしたら達成可能なのか、というのが一目で理解できるアクションに落とし込まれています。また、「今週に設計書X, Yのレビュータスクが発生するので」ということから、すぐにできる状態ということもわかります。さらに、「指摘数を数える。」「指摘数や内容を次回の定例会でチーム全体に共有し、そのときに再度カイゼン案を検討する」という部分から、効果がうまくいくかわからないという不確実性を見据えて次のカイゼンをどう加えていこうか、という検討までが行われています。
これらのことを踏まえて、SMARTなアクションの例について、どこがSMARTになっているのかの該当箇所を斜体で表記します。

SMARTなアクションの例(解説)

Aさんの設計が、誤字脱字のミスが多く手戻りしてしまったので、チーム全員が相互に設計をレビューしあう仕組みをつくる(Relevant)。まずは、今週に設計書X, Yのレビュータスクが発生する(Timely)ので、XはAさん・Bさんが、YはCさん・Dさんが相互にレビューしあい、指摘数を数える。(Specific, Measurable, Achievable)
指摘数や内容を次回の定例会でチーム全体に共有し(Time-bound)、そのときに再度カイゼン案を検討する。(Specific, Time-bound)

所要時間

ひとりのふりかえりの場合、5分~10分程度。複数人で行う場合は、最大でも5名程度のグループに分かれて実施します。その場合は、5~20分程度使ってアクションの作成と共有を行います。

事前準備・道具

このアクティビティに慣れていない場合は、SMARTの意味や例を記入したフリップチャートやホワイトボード、またはスライドを用意します。また、グループでアクションをSMARTにしていく場合は、全員で書くことのできるフリップチャート・ホワイトボードや、模造紙、そして書くためのペンを用意しておきます。
話し合った結果が一目でわかるように、結論を記載するためのボードや付箋を別途用意してもよいでしょう。

ステップ

慣れないうちは、アクションの候補を出してから、アクションの内容をSMARTにするよう肉付けしていきます。SMARTがなにかをふりかえりの参加者全員が理解していない場合は、事前にSMARTなアクションの例を挙げて説明しておきます。
5人までの1グループで行う場合は、SMARTになるよう話し合ったあと、SMARTなアクションになっているかを検査します。「こういう場合はどうするのか」「どうなったらアクションが出来たと判断できるのか」という点をお互いに質問しあうことで、足りない点があれば補完しあうことができます。
複数グループで行う場合は、1つまたは複数のアクションに対して、お互いにSMARTになるように肉付けをしていきます。1つのアクションを全員でSMARTにした場合は、グループによって違った特色が出るはずですので、グループ間で意見を共有した後、意見を統合・取捨選択してよりSMARTなアクションを1つ作成します。複数のアクションをそれぞれSMARTにした場合は、グループごとに考えたアクションを共有し、SMARTになっているかを確認しあいます。十分SMARTであり、実行できると全員が確信を持てるものであれば、次のアクションとして採用します。
SMARTにアクションを考えることに慣れている場合は、アクションの候補を検討する時点で、「SMARTにアイデアを出しましょう」と伝えることで、最初から具体的な案を出せるようになります。その場合は、アクションを選んだあとに、SMARTに足りない部分を補う程度の議論を行えば問題ありません。

ファシリテーションのポイント

SMARTはあくまで目標の指針として活用するだけにとどめるようにします。SMARTに沿って、S=なになに、M=なになに、というように個別にアクションを詳細化していくと歪なアクションが出来上がりやすくなります。
このアクティビティはアクションの候補の時点で、手の出しようがないもの(課題が大きすぎたり、解決が困難なもの)を選んでしまうと、人によっては行き詰ってしまう可能性があります。その場合は、問題を切り崩すための第一歩として何をするのか、ということを考え、再度アクションの候補を検討しなおしたうえで、アクションをSMARTにしていきます。
慣れないうちは(SMARTを導入しはじめて2~6回程度は)、想定よりも多く時間がかかるため、時間を十分にとっておきます。最初からSMARTな状態のアクションを出すことは困難です。慣れが必要な部分もありますので、ふりかえりの結果が徐々にSMARTになっていく様子が確認できれば、それでよいと考えてつぎへ進みましょう。

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