はじめに
2025年11月、ダルビッシュ有投手がUCL(尺骨側副靭帯)の手術を受け、2026年シーズンの全休が発表されました。
パドレスでの5年間(2021-2025)、登板数は30試合から15試合へと推移。Statcastデータを分析してみると、この期間に球種配分や投球スタイルが大きく変化していることがわかりました。
この記事では、pybaseball + DuckDBで5年分のStatcastデータを取得し、球種配分・球速・空振り率の変化を見ていきます。あくまでデータから読み取れる傾向の紹介であり、投手本人の意図や判断について断定するものではありません。
分析に使用したGoogle Colabノートブックは記事末尾のリンクから実行できます。
5年間の経緯
データを見る前に、この期間の主な出来事を整理しておきます。
| 年 | 年齢 | 登板 | 投球数 | 主な出来事 |
|---|---|---|---|---|
| 2021 | 34-35歳 | 30試合 | 2,773球 | パドレス移籍1年目 |
| 2022 | 35-36歳 | 30試合 | 2,971球 | FF球速ピーク(95.0mph) |
| 2023 | 36-37歳 | 24試合 | 2,219球 | WBC日本代表参加(2月宮崎合宿〜)→シーズン開幕遅れ。8月に肘の骨棘(olecranon stress reaction)でシーズン終了 |
| 2024 | 37-38歳 | 16試合 | 1,264球 | 首・股関節・肘の故障が重なる。制限リスト入り(家族の事情)。9月復帰 |
| 2025 | 38-39歳 | 15試合 | 1,160球 | 右肘炎症で開幕IL → 7月に269日ぶり登板。11月UCL手術 |
2023年以降、肘を中心とした故障が続いています。この期間のデータにどのような変化が表れているかを見ていきます。
データ取得
from pybaseball import statcast_pitcher
import duckdb
PITCHER_ID = 506433 # Yu Darvish
YEARS = [2021, 2022, 2023, 2024, 2025]
dfs = []
for year in YEARS:
df_year = statcast_pitcher(f'{year}-03-01', f'{year}-12-31', PITCHER_ID)
df_year['season'] = year
dfs.append(df_year)
df_raw = pd.concat(dfs, ignore_index=True)
# レギュラーシーズンのみ
con = duckdb.connect()
df = con.execute("SELECT * FROM df_raw WHERE game_type = 'R'").df()
# → 10,387球(5シーズン合計)
注意:
game_type = 'R'でフィルタしないとオープン戦やポストシーズンのデータが混入します。
球種配分の変化
5年間の球種使用率の推移です。
| 球種 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 | 変化 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| SL(スライダー) | 31.0% | 31.5% | 17.7% | 23.3% | 14.9% | -16.1% |
| ST(スウィーパー) | 22.8% | 15.4% | 18.6% | 14.0% | 9.1% | -13.7% |
| FF(フォーシーム) | 22.1% | 25.5% | 16.7% | 18.4% | 16.0% | -6.1% |
| SI(シンカー) | 8.3% | 8.5% | 18.6% | 17.1% | 20.0% | +11.7% |
| CU(カーブ) | 4.6% | 4.0% | 5.0% | 8.6% | 15.4% | +10.8% |
| FC(カッター) | 2.5% | 4.3% | 8.9% | 4.6% | 12.2% | +9.7% |
| FS(スプリット) | 4.9% | 7.4% | 7.7% | 4.0% | 10.6% | +5.7% |
2021年はスライダー(31%)+ スウィーパー(23%)= 合計54%と、横系の変化球が中心でした。
2025年にはこの合計が24%まで減少し、代わりにシンカー(20%)、カーブ(15%)、カッター(12%)の割合が増えています。
2023年の変化が大きい
特に目を引くのが2023年のデータです。SLが31.5%→17.7%に減少し、SIが8.5%→18.6%に増加しています。この年はWBC参加後のシーズン開幕遅れと、8月の肘の骨棘が重なっており、こうした状況が球種配分の変化に影響している可能性があります。
一般的に、スライダーやスウィーパーは肘への負荷が比較的大きいとされています。一方で、シンカーは腕の自然な動きに近く、カーブは緩急で勝負する球種です。肘のコンディションを考慮した結果かもしれませんが、配球戦術上の判断など他の要因もありえます。
球速の推移
球種配分は変わりましたが、各球種の球速自体は大きくは変わっていません。
| 球種 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 | 変化 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| FF | 94.5 | 95.0 | 94.7 | 94.1 | 93.9 | -0.6 mph |
| SI | 94.0 | 94.7 | 94.3 | 93.6 | 93.4 | -0.6 mph |
| SL | 86.2 | 86.0 | 85.7 | 85.9 | 85.7 | -0.5 mph |
フォーシームで5年間-0.6mphは大きな低下とは言えない範囲です。球種配分の変化は、球速低下への対応というよりも、別の要因(コンディション管理や配球戦略の変更など)によるものかもしれません。
イニング別の球速変化
球速の平均値は維持されていますが、イニングを重ねた時のFF球速の推移には変化が見られます。
| 年 | 1回 | 最終回 | 変化幅 | データがある最終回 |
|---|---|---|---|---|
| 2021 | 94.5 | 95.0 | +0.5 | 7回 |
| 2022 | 94.9 | 94.4 | -0.5 | 8回 |
| 2023 | 94.9 | 93.7 | -1.2 | 7回 |
| 2024 | 94.4 | 93.3 | -1.1 | 7回 |
| 2025 | 94.2 | 92.8 | -1.4 | 6回 |
2021年は7回まで球速を維持できていたのに対し、2025年は6回の時点で-1.4mphの低下が見られます。ただし、2024-2025年は怪我からの復帰直後の登板も含まれるため、コンディションの影響を考慮する必要があります。
空振り率(Whiff Rate)の変化
空振り率 = 空振り数 / スイング総数(空振り + ファウル + インプレー)の推移です。
| 球種 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 |
|---|---|---|---|---|---|
| FF | 30.0% | 19.4% | 15.4% | 13.0% | 14.3% |
| CU | 29.2% | 26.8% | 44.0% | 41.1% | 33.8% |
| FS | 31.9% | 34.4% | 38.9% | 34.5% | 26.6% |
| SL | 26.2% | 24.4% | 22.7% | 26.6% | 18.3% |
| ST | 21.2% | 24.2% | 25.8% | 25.0% | 32.6% |
フォーシームの空振り率が30.0%→14.3%に低下している一方、カーブは2023年に44.0%まで上昇しています。空振りを取れる球種が変化したことが、球種配分の変更と関連しているように見えます。
2ストライクからの球種選択
追い込んでからの球種選択にも、同様の傾向が見られます。
| 年 | 1位 | 2位 | 3位 |
|---|---|---|---|
| 2021 | ST 25.6% | FF 24.4% | SL 15.4% |
| 2022 | FF 32.8% | FS 17.6% | ST 16.1% |
| 2023 | FF 22.4% | FS 17.9% | SI 15.6% |
| 2024 | FF 21.2% | SL 19.9% | ST 15.1% |
| 2025 | CU 21.8% | FS 17.2% | FF 15.1% |
2021-2022年はフォーシームやスウィーパーの割合が高かったのに対し、2025年ではカーブが最も多くなっています。
まとめ
ダルビッシュ投手のパドレス5年間のStatcastデータには、以下のような傾向が見られました。
- 球種配分: スライダー/スウィーパー中心(2021-2022)から、シンカー/カーブ/カッター中心(2024-2025)へ段階的にシフト
- 球速: 各球種の平均球速は5年間で-0.5〜-0.6mph程度の変化にとどまっている
- イニング別球速: 後半イニングでの球速低下幅が年々大きくなる傾向
- 空振り率: フォーシームの空振り率が低下し、カーブの空振り率が上昇
- 決め球: 2ストライクからの球種が、フォーシーム/スウィーパーからカーブ中心に変化
2023年のWBC参加と肘の骨棘あたりを境に変化が加速しており、コンディションの変化が球種選択に影響した可能性が考えられます。
注意: 2024年(16試合)と2025年(15試合)はサンプルサイズが小さいため、数値の信頼性には注意が必要です。特に球種別の空振り率は投球数が少ない球種ほどブレが大きくなります。また、怪我からの復帰直後のデータが含まれるため、通常時のパフォーマンスとは異なる可能性があります。
Google Colabで分析を再現する
この記事の分析は以下のノートブックで再現できます。PITCHER_IDやYEARSを変えれば他の投手にも応用可能です。