はじめに
社内で使うAIエージェントが、気づけばSlack用・営業支援用・ヘルプデスク用とバラバラに増えていた、という現場は珍しくありません。
それぞれ別の管理画面・別のログで動いていると、障害が起きたときにどこを見ればいいのか分からなくなります。
MuleSoft AgentFabricは、こうした状態を防ぐための統制レイヤーです。
ここでは、Anypoint Code BuilderでのAgent Networkの流れと、Agent BrokerによるGuided Determinismの設定方法を整理します。
Agent Fabricって結局なに?
Agent Fabricは、MuleSoftが提供する「AIエージェント専用の管理コンソール」です。要するに、社内外に散らばったAIエージェントを一つの画面から見渡せる、司令塔のようなものだとイメージしてください。
正直、最初にこの説明を読んだときは「Agentforceと何が違うの?」と混乱しました。整理すると、Agentforceは「Salesforce上でエージェントを作って動かすための土台」で、Agent Fabricは「Agentforceを含む、あらゆるベンダーのエージェントをまとめて管理する統制レイヤー」です。Amazon Bedrock、Microsoft Foundry、Google Vertex AIなど、他社プラットフォームで作られたエージェントも対象に含まれます。
Agent Fabricは4つの柱で構成されています。
- Discover(発見): Agent Registryという台帳に、社内外のエージェントやMCPサーバーを自動登録する。Agent Scannersという仕組みが、各プラットフォームを自動でスキャンして見つけてくれる。
- Orchestrate(連携): Agent Brokerが、複数のエージェントに仕事を振り分けて連携させる。
- Govern(統制): Flex Gatewayというゲートウェイで、通信のセキュリティ・権限・利用量を一括管理する。
- Observe(観測): Agent Visualizerで、どのエージェントがどう連携しているかを地図のように可視化する。
社内に散らばったAIエージェントを「見つけて」「つなげて」「監視して」「見える化する」ための一式。まずはその理解で先に進んで大丈夫です。

Guided Determinismって何のこと?
つまずきやすいのが「Guided Determinism(誘導的決定論)」という言葉です。正直、設定情報を読んだ瞬間は「うわ、難しそう…」と身構えました。
要するに、これは「決められた手順は必ずその通りに実行しつつ、細かい判断の部分だけAIに任せる」やり方のことです。カーナビで例えると、目的地までのルート(手順)はナビが指定した道を通るけれど、渋滞を避けるための微調整はAIが臨機応変に考える、というイメージに近いです。
Agent Fabricでは、この仕組みを「Agent Script」という記法を使って実現します。「顧客情報を確認する」「在庫を引き当てる」「送料を計算する」といった固定の手順(決定論的な部分)を先に決めておき、その手順と手順の間の判断だけをLLM(AIモデル)にまかせる形です。すべてをAI任せにしないことで、毎回同じ質問に対してブレのある回答が返ってくる、という事態を防ぎやすくなります。
実務で使うなら、ここは特に注意しておきたいところです。「AIエージェントに丸投げすれば良い」という発想ではなく、「どこを固定手順にして、どこをAIの裁量に任せるか」を設計する作業が必要になります。
実際にどう使い始めるの?
ここは正直に書きます。Agent Fabricは、いつものSalesforce設定画面(設定 > ○○ > △△)から触るものではありません。開発者向けツールである「Anypoint Code Builder」を使って、YAML形式の設定ファイルを書いていく流れになります。
現時点で公式に確認できている大まかな流れは、次の通りです。
- Anypoint Code Builderを開き、コマンドパレットから「MuleSoft: Create an Agent Network Project」を実行する。
-
agent-network.yaml(エージェント同士の連携ルールを定義するファイル)とexchange.json(カタログ登録用のメタ情報ファイル)が生成される。 - YAMLファイルに、使いたいエージェント・MCPサーバー・LLMプロバイダーと、Agent Broker(仲介役のエージェント)の設定を記述する。
- コマンドパレットから「MuleSoft: Publish Agent Broker Project to Exchange」を実行し、Anypoint Exchange(社内カタログ)に公開する。
- CloudHub 2.0にデプロイし、Flex Gatewayでアクセス制御・監視の設定を有効にする。
Salesforce管理者として日頃「設定」画面を触っている方からすると、かなり毛色の違う作業に感じるはずです。私も最初は「管理者の自分には縁がない話かも」と思ったのですが、Agent Registryに何が登録されているかを確認したり、Agent Visualizerでエージェント同士のつながりを見たりする部分は、管理者目線でも押さえておく価値があります。実装は開発チームに任せるとしても、仕組みの全体像だけは頭に入れておきたいところです。
出典:MuleSoft Agent Fabric Deep Dive(Salesforce Architects公式ブログ)
ここは注意!つまずきポイント
まず、機能ごとにGA時期がバラバラな点に気をつけてください。2026年4月時点の公式発表によると、Agent FabricのGovern機能(AI Gateway、MCP Bridge、Trusted Agent Identityなど)はすでにGA(一般提供)済みです。
一方でAgent Brokerによる決定論的オーケストレーションはベータ提供として2026年4月に開始し、ビジュアル編集画面やSalesforceモデル対応を含む正式GAは2026年6月からとされています。「もう全部使える」と思い込んで進めると、機能によってはベータ扱いのまま止まっている、という状態にぶつかります。
追加費用については、公式情報だけでは断定できませんでした。Agent FabricはMuleSoft Anypoint Platformのライセンスに紐づく機能で、AI GatewayのトラフィックやAgent Scannersでの検出量に応じた従量課金の要素が含まれると説明されています。
ただし具体的な金額や、Salesforce・Agentforceの契約にそのまま含まれるのかどうかは、公式ページ上で明記されていませんでした。導入を検討するなら、担当の営業窓口に金額を確認するところから始めてください。
管理者にとって見落としがちなのが、Salesforceの「設定」画面ではこの機能が完結しないという点です。前述の通り、実際の構築作業はAnypoint Code Builderという別ツールで行います。Agentforceの設定画面を探してもAgent Fabricの項目は見当たりません。この記事の内容を思い出してもらえれば、迷わずに済むはずです。
まとめ
- Agent Fabricは、Agentforceを含む複数ベンダーのAIエージェントを一元管理する統制レイヤー
- Discover(発見)・Orchestrate(連携)・Govern(統制)・Observe(観測)の4つの柱で構成される
- Guided Determinismは「固定の手順はそのまま守りつつ、手順の間の判断だけAIに任せる」考え方
- 実際の構築はSalesforceの「設定」画面ではなく、Anypoint Code BuilderでのYAML編集が中心
- 機能ごとにGA時期が異なり、追加費用の詳細は公式情報だけでは確認しきれなかったので、導入前に営業窓口へ確認が必要
Salesforceの世界は本当に機能追加のスピードが早くて、正直ついていくだけでも大変です。一緒に少しずつ慣れていきましょう!
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