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和製プログラミング英語の悲劇 - あなたの英語、実は通じてないかも!?

Last updated at Posted at 2025-06-16

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生成AIが登場する以前、海外のエンジニアとやりとりする際は、DeepL翻訳やGoogle翻訳を駆使して何とかコミュニケーションを取っていた。しかし、技術的な内容になると、どうも話が噛み合わない。

「I need to version up this application and take evidence of the degradation test...」

DeepLで翻訳した文章を自信満々で送信した私。返ってきたのは「What do you mean by 'version up'? And what kind of evidence?」という困惑のメッセージだった。

「あ、俺の英語、全然通じてない...」

今ならChatGPTやClaude等の生成AIでより自然な翻訳ができる。しかし油断は禁物だ。先日も「手戻りが発生した」を生成AIに翻訳させたら「The hand has returned」という、まるでホラー映画のような文章が出力された。文脈を無視した翻訳は今でも起こる。

結局のところ、エンジニアとして国際的に活躍するなら、英語の基礎知識は必須なのだ。特に、日本のIT業界で培ってきた「英語力」は、実は壮大な勘違いの塊かもしれない。

和製英語という名の地雷原

まずは基本中の基本、「ノートパソコン」から始めよう。

日本人エンジニア:「I forgot my note.」
外国人同僚:「Oh, just write it on a new piece of paper!」
日本人:「No, I mean... my computer...」
外国人:「???」

ノートパソコン → laptop という事実。noteと言えば「メモ」だ。あなたが忘れたのはメモ帳じゃない、ラップトップだ!

続いて「コンセント」の同意問題。

日本人:「Where is the consent?」
外国人:「Consent for what? Did someone harass you?」
日本人:「No! I need to charge my phone!」
外国人:「Oh... you mean an OUTLET!」

コンセント(consent)= 同意・承諾。電源の話をしているのに、いきなりセクハラ相談になってしまう恐怖。正解はoutletsocketだ。

「Can I borrow your USB memory?」と言った瞬間、相手の頭上に「?」が見える。USBに記憶力があるとでも?正しくはUSB driveflash drive。メモリは記憶装置の部品であって、持ち運ぶものじゃない。

カタカナ発音の落とし穴

null問題から見ていこう。

if (value == null) {
    // 日本人:「バリューがヌルの時...
    // 外国人:「ヌードル?」
}

null = ナル。「ヌル」と言い続けていると、いつか「ヌードル好き?」と聞かれるかもしれない。

日本人が「パラメーター」と伸ばして言うたびに、英語圏の人は内心で「パ・ラ・ミ・タ」と区切りたくなる衝動と戦っている。parameterに伸ばす音はない!

直訳できない日本の開発文化

横展開 - この日本独特の概念を英訳しようとして「horizontal expansion」と言ったら、「建物でも増築するの?」と聞かれた。正解は文脈によるが、roll out to other departmentsapply the same approach across teamsなど、説明的にならざるを得ない。

日本人:「This task has 手戻り(hand-return)」
外国人:「Hand... return? Are you returning someone's hand?」
(ホラー映画かな?)

reworkrevisionと言おう。手は返さなくていい。

日本の開発現場で、あらゆるバグや不具合を正当化する魔法の言葉「仕様です」。これを「It's a specification」と直訳すると、「それは仕様書です」という意味不明な発言に。

正しくは:

  • "It's by design"(設計通りです)
  • "It's intended behavior"(意図した動作です)
  • "It's not a bug, it's a feature"(バグじゃない、機能だ!)← これは世界共通のジョーク

職種名の混乱

日本のSEは、実は欧米のSoftware Engineerとは別物。日本のSEは要件定義から基本設計まで何でもやる謎の職種。海外で「I'm an SE」と言うと、「で、具体的に何するの?」と聞かれる。

日本では「PGからSEにステップアップ」なんて言うが、シリコンバレーで「I'm just a programmer」なんて言ったら、年収2000万円の専門職かもしれない序列意識は日本独特なのだ。DeveloperSoftware Engineerと名乗ろう。

さらに混乱するのが雇用形態だ。「私はBPです」と言ったら「Blood Pressure?」と健康を心配された。BP(ビジネスパートナー)は完全に日本独自の婉曲表現で、実態はcontractorvendor engineer

「プロパーの方に確認します」を「I'll check with the proper person」と訳したら、「適切な人って誰?」と聞き返された。プロパー = permanent employee(正社員)という日本独特の使い方は通じない。

省略語の罠

日本人:「デービーにアクセスして...」
外国人:「誰?デイビッド?」

DB = ディービー。人の名前じゃない、データベースだ。

  • MTG → 外国人「マジック・ザ・ギャザリング?」
  • FB → 外国人「Facebook?」
  • NW → 外国人「ノースウェスト?」

省略するな!meetingfeedbacknetworkと言え!

最恐の和製英語たち

日本人:「This update caused a degrade」
外国人:「The system degraded? How badly?」
日本人:「No, I mean... it's a regression」
外国人:「Why didn't you say so!」

デグレ = regression。degradeは「劣化・低下」で、ニュアンスが違う。

「Let's リスケ this meeting」と言ったら、「リスクを取る?」と勘違いされた。rescheduleと最後まで言おう。

日本のIT業界では、ログファイルからスクリーンショット、議事録まで何でも「エビデンス」。CSI(科学捜査班)かな?

  • ログ → logs
  • スクリーンショット → screenshots
  • 議事録 → meeting minutes
  • 証跡 → audit trail

エビデンス(evidence)は、本当に「証拠」が必要な時だけ使おう。

希望の光

しかし、絶望することはない。我々日本人エンジニアには、世界に誇れる強みがある。

  1. 過剰なまでの丁寧さ - バグ報告が小説みたいに詳細
  2. 謎の几帳面さ - コメントが俳句レベルで整理されている
  3. 無駄に高品質 - 「仕様です」と言い張るバグすら愛おしい

今では私も海外のエンジニアと問題なくコミュニケーションが取れるようになった。その秘訣?

「My English was 'by design' - designed to fail, but refactored to succeed!」

(私の英語は『仕様通り』だった - 失敗する設計だったが、リファクタリングして成功した!)

生成AIは強力なツールだが、それに頼りきりでは真の国際エンジニアにはなれない。基礎を押さえてこそ、AIも正しく活用できるのだ。

和製プログラミング英語 完全対照表

IT機器・周辺機器

和製英語/カタカナ語 正しい英語 備考
ノートパソコン laptop, notebook computer noteは「メモ」の意味
デスクトップ desktop computer desktopだけでは「机の上」
コンセント outlet, socket, power point consentは「同意」の意味
タップ(電源) power strip, extension cord tapは「蛇口」の意味
USBメモリ USB drive, flash drive USB memoryは通じない
ルーター router ○ これは正しい
ハブ hub ○ これは正しい

プログラミング・開発用語

和製英語/日本独特の表現 正しい英語 備考
バージョンアップ version upgrade, update version upは和製英語
デグレ regression degradeは「劣化」の意味
ステップアップ level up, advance step upは「前に出る」の意味
スキルアップ improve skills, upskill skill upは和製英語
リスケ reschedule 略し方が日本独特
エビデンス evidence, proof, documentation 日本では「証跡」の意味で多用
カットオーバー go-live, launch, cutover 日本独特の使い方
リリースアップ release update release upは和製英語
フィックス fix, finalize 「確定する」の意味は日本特有

発音要注意リスト

カタカナ 正しい発音 IPA表記 よくある間違い
null ナル /nʌl/ ヌル
height ハイト /haɪt/ ヘイト
width ウィズ、ウィドス /wɪdθ/ ワイズ
false フォルス /fɔːls/ ファルス
data デイタ、ダータ /ˈdeɪtə/ データ
image イミッジ /ˈɪmɪdʒ/ イメージ
parameter パラミター /pəˈræmɪtər/ パラメーター
algorithm アルゴリズム /ˈælgərɪðəm/ アルゴリズム(ムは軽く)
archive アーカイヴ /ˈɑːrkaɪv/ アーカイブ

日本特有の概念の英訳

日本語 英訳の選択肢 使い分け
仕様書 specification, spec document, requirements document 内容により使い分け
障害 failure, fault, defect, bug, incident, outage 重要度・種類により使い分け
改修 modification, refactoring, enhancement, revision 変更の規模により使い分け
基幹システム core system, mission-critical system, enterprise system 文脈により選択
運用 operation, maintenance, administration 業務内容により使い分け
保守 maintenance, support メンテナンスかサポートか
問い合わせ inquiry, query, question, ticket フォーマルさにより使い分け
切り戻し rollback, revert, fallback 状況により使い分け
横展開 horizontal deployment, roll out to other departments 直訳は通じない
手戻り rework, revision, going back 文脈により表現を変更

職種・役割の表現

日本での呼称 英語圏での対応 注意点
SE(システムエンジニア) systems engineer, software engineer 日本のSEは設計寄り
PG(プログラマー) programmer, developer 日本では実装専門の印象
PL(プロジェクトリーダー) project lead, team lead 責任範囲が異なる
PM(プロジェクトマネージャー) project manager ○ ほぼ同じ
情シス(情報システム部) IT department, IS department information systemsの略
保守要員 maintenance staff, support engineer maintenanceだけでは不十分
運用担当 operations engineer, system administrator 業務により使い分け
インフラエンジニア infrastructure engineer, DevOps engineer 最近はDevOpsが一般的

雇用形態・契約関係

日本での表現 英語での表現 注意点
正社員 permanent employee, full-time employee regularは使わない
契約社員 contract employee, fixed-term employee contractorとは異なる
派遣社員 temporary staff, agency worker dispatchedは使わない
BP(ビジネスパートナー) vendor engineer, contractor 日本独特の婉曲表現
協力会社 subcontractor, partner company cooperating companyは直訳的
プロパー permanent employee, direct hire properは「適切な」の意味
試用期間 probation period, trial period 欧米では一般的
常駐 on-site, resident engineer 日本独特の働き方
客先常駐 client-site assignment 直訳は通じにくい
SES契約 engineering service contract System Engineering Serviceは和製英語
会長 Chairman, Chairperson 現役か名誉職かで異なる
社長 President, CEO, Representative Director 企業規模により使い分け
副社長 Executive Vice President, EVP VPだけだと部長級の意味
本部長 Division Director, General Manager 日本独特の階層
部長 Department Manager, Director Directorは欧米では役員級

省略語・業界スラング

日本での省略 完全形/正しい表現 英語圏での扱い
DB(デービー) database DB(ディービー)
PG programmer / program 文脈により異なる
AP, APL application app
I/F interface interface, API
MTG meeting meeting(略さない)
FB feedback feedback(略さない)
NW network network, net
SW software software, SW
HW hardware hardware, HW

完璧な英語を話す必要はない。通じれば良いし、問題があれば聞き直すように事前に伝えると良い。でも、可能な限り正しく通じる英語を話す努力をしなければならない。

おわりに - グローバルエンジニアへの道

ここまで、日本のIT業界に潜む和製英語の地雷原を歩いてきた。正直、全部覚えるのは大変だ。でも安心してほしい。

今すぐできる3つのアクション

  1. まずは発音から - null(ナル)、parameter(パラミター)。この3つだけでも正しく発音すれば、相手の「?」が半減する。

  2. 直訳を疑え - 「手戻り」「横展開」「仕様です」のような日本独特の概念は、一度立ち止まって「これ、英語圏の人に通じるか?」と自問しよう。

  3. 省略するな - MTG、FB、DBなど、日本人同士なら通じる省略語も、国際的な場では丁寧に言い切ろう。相手の理解>自分の手間。

失敗を恐れるな

私も「USBメモリ貸して」と言って困惑された経験がある。「ヌルポインターエクセプション」と言って「ヌードルポインター?」と聞き返されたこともある。でも、それでいい。

間違いは成長の種だ。 バグと同じように、見つけたら直せばいい。

生成AIとの正しい付き合い方

ChatGPTやClaudeは素晴らしいツールだ。でも、「手戻りが発生した」を「The hand has returned」と翻訳されても気づけるのは、基礎知識があってこそ。

生成AIは補助輪であって、エンジンではない。

最後に

グローバルに活躍するエンジニアになるために、ネイティブレベルの英語は必要ない。

  • 相手に伝わる英語
  • 誤解を生まない表現
  • コミュニケーションへの意欲

この記事の対照表を片手に、まずは一つずつ直していこう。そして忘れないでほしい。

「It's not a bug, it's a feature」は世界共通のジョークだということを。

この記事を読んで「あ、私もやってた...」と思った和製英語があったら、ぜひコメントで教えてほしい。みんなで地雷原マップを完成させよう。

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