#概要
本シリーズでは、初学者を対象に、ChandraX線天文衛星の観測データの解析手順について説明する。
本トピックはデータのダウンロードからイメージの生成までを目標とする。
#解析に必要なツール
・ciao:ChandraX線天文衛星の観測データを解析するツール。
・ds9:天文系の画像などを描像するソフトウェア。
著者の環境
ciao version:4.13
これらの環境構築については本トピックでは触れない。以下の記事などが参考になる。
https://qiita.com/yamadasuzaku/items/638b60fb7f9f7d8c0e73
#手順
##1. データの取得
###1-1. Observation Searchからデータを検索
以下のサイトからまずデータのID(Obs ID)を取得する。
https://cda.harvard.edu/chaser/mainEntry.do
Target Nameに目標天体の名称を入力==>Search
以下は超新星残骸"Cassiopeia A"の検索結果
ここで欲しいデータのObs IDを控えておく。
###1-2. CIAOを起動
(base) ajisai:casA tsuchioka$ ciao
###1-3. データをダウンロード
(ciao-4.13) ajisai:casA tsuchioka$ download_chandra_obsid 4634
*download_chandra_obsid [Obs ID]
##2. イメージの作成
###2-1. Obs IDデータセットの処理
(ciao-4.13) ajisai:casA tsuchioka$ chandra_repro 4634 4634/repro
*chandra_repro [入力ディレクトリ] [出力ディレクトリ]
###2-2. イメージの作成
(ciao-4.13) ajisai:casA tsuchioka$ fluximage 4634/repro/acisf04634_repro_evt2.fits 4634/4634
*fluximage [入力(イベントファイル)] [出力(flux image)]
・実際にはパラメータとしてカメラの領域やエネルギーバンドなども選べるが、指定しないと勝手にデフォルトの値が採用される。
・先ほどchandra_reproコマンドで生成したイベントファイルにはX線光子のイベントデータが含まれており、これを入力に使う。
・同時に生成される3種類のイメージファイルについて説明する。
- flux image:各画素値がX線のflux(単位時間あたり単位㎠あたりの光子量)に対応するイメージ。ファイル名が"flux.img"で終わる。
- thresh image:各画素値がX線光子のカウントに対応するイメージ。ファイル名が"thresh.img"で終わる。
- exposure map:単なるカウントのマップを物理的に意味のあるフラックスに変換するため(※1)に必要な情報を含んだイメージ。ファイル名が"thresh.expmap"で終わる。
(※1)衛星に搭載されている検出器については、入射場所や入射エネルギーによって検出効率が異なる。そのため有効面積に量子効率をかけたexposure mapを使って各ピクセルのカウント数を補正しなければならない。
→つまり実際にはflux imageはthresh imageをexposure mapで割り算することによって得られている。
###2-3. (応用) 複数のIDから1枚のイメージを作成する
(ciao-4.13) ajisai:casA tsuchioka$ merge_obs 4634/,4635/,4636/,4637/,4638/,4639 merged
*merge_obs [ID]/, ... /,[ID] [出力(flux image)]
・同じ天体で複数のIDがある場合、それらを組み合わせることで露光時間を増やし統計をよくすることができる。
・merge_obsは、個々のイベントファイルを同じ接線上に再投影するreproject_obsと、観測ごとのイベントファイルからexposure mapやflux imageを作成し、それらを1枚の画像に統合するflux_obsを組み合わせたものである。
##3. イメージの確認
最後にds9というソフトを用いて、作成したイメージの確認を行う。
(ciao-4.13) ajisai:4634 tsuchioka$ ds9 4634_broad_flux.img
ここでは表示されているイメージを見やすくするためにds9の設定を操作する。
-「色==>b」でカラーバーの種類を変える。
-「スケール==>対数」でカラーバーを対数軸にする。
-「スケール==>スケールの設定」で表示エネルギー幅を選択。
すると以下のようなイメージが表示された。
#まとめ
本トピックでは、ChandraX線天文衛星の観測データについて、データのダウンロードからイメージの生成までの一通りの流れを説明した。ここでは「必要最低限の解析手順」の説明に留めたが、より解析に工夫を求める場合は以下のサイトからciaoの各コマンドの説明を参考にしていただきたい。
https://cxc.cfa.harvard.edu/ciao/