投資詐欺の被害者になるのは「騙されやすい人」だけではない
「自分は騙されない」
多くの人がそう思っています。しかし、投資詐欺の被害に遭うのは、単純に「騙されやすい人」だけではありません。実は、私たちの脳は様々な心理的罠に陥りやすい仕組みになっているのです。
投資詐欺の手口は年々巧妙化しています。2025年現在、特にSNSを利用した「SNS型投資詐欺」や「SNS型ロマンス詐欺」の被害が急増しており、群馬県内だけでも2024年9月末までの被害額が10億円を超えたという報告があり、投資詐欺に強い弁護士への相談が後を絶ちません。
なぜ、教育レベルや社会的地位に関係なく、多くの人が投資詐欺の被害に遭ってしまうのでしょうか？
その答えは、私たちの脳に組み込まれた「心理的罠」にあります。詐欺師たちは、人間の心理的弱点を巧みに利用して、私たちを罠にはめようとしているのです。
1. FOMO（取り残される恐怖）の罠
「他の人が儲けているのに、自分だけ取り残されるのではないか？」
この感情は「FOMO（Fear of Missing Out）」と呼ばれ、投資詐欺に陥る最も一般的な心理的罠の一つです。SNSで友人や知人が投資で成功したという投稿を見ると、自分も同じように成功したいという気持ちが強くなります。この心理は、初心者だけでなくベテラン投資家でも油断すると陥る典型的な罠なのです。
仮想通貨市場での事例を見てみましょう。ある投資家は2020年に「芝犬コイン（SHIB）」を少額購入しましたが、価格が上がらないため売却しました。しかし2021年、SNSで話題になった同コインが急騰すると、FOMO心理から高値で再購入し、結局大きな損失を被ったのです。
FOMOの心理図解FOMOに駆られると、冷静な判断ができなくなり、高値掴みのリスクが高まります。
この心理的罠から身を守るためには、「○円儲かった！」などの羨ましい情報に惑わされず、自分なりに情報収集をした上で、一つの銘柄に全力投資せず分散投資を心がけることが重要です。
2. 損失回避バイアスで「損切り」ができない罠
「今売ると損になる、もう少し待てば戻るかも」
人は「利益を得る喜び」よりも「損失を被る痛み」を強く感じる傾向があります。この心理状態を「損失回避バイアス」と呼びます。
実際の例を見てみましょう。2022年、ある投資家はGMOコインでIEOが実施され、FCRコインを購入しました。しかし上場後すぐに大きく下落し、価格が1日で3分の1以下になりました。当然大きな含み損を抱えましたが、「売却しなければ損はしていない」という損失回避バイアスが働き、売却のタイミングを逃してしまいました。
結局1年間保有し続けましたが、価格は上昇するどころかさらに下落し、最終的に購入価格から80％の損失で売却することになったのです。
損失回避バイアスの概念図「損をしたくない」という気持ちは誰にでもありますが、この心理に囚われると損失が拡大するリスクが高まります。
投資を始める前に、「いくらまでなら損失を許容できるか」をあらかじめ決めておき、その金額に達したら迷わず損切りするルールを作っておくことが大切です。感情に流されず、冷静な判断ができるようになります。
3. 確証バイアスで都合の良い情報だけを信じてしまう罠
「この投資は絶対に成功する」と信じ込んでしまうと、その考えを支持する情報だけを集め、反対の意見や警告を無視してしまう傾向があります。これが「確証バイアス」です。
確証バイアスは、私たちが自分の信念や期待に合致する情報を優先的に受け入れ、矛盾する情報を軽視または無視する心理的傾向を指します。
例えば、ある投資案件に興味を持った投資家が、その投資の成功事例や高利回りの情報ばかりを集め、リスクや失敗事例についての情報を意図的に避けるような状況です。
確証バイアスと投資判断この心理的罠から身を守るためには、意識的に反対意見や批判的な情報も積極的に集めることが重要です。
投資判断を行う前に、「この投資のリスクは何か？」「失敗する可能性はどのくらいあるか？」といった質問を自分に投げかけ、バランスの取れた情報収集を心がけましょう。
あなたは最後に投資判断をする際、反対意見もきちんと調べましたか？
4. 権威への服従で専門家を装う詐欺師を信じてしまう罠
私たちは「専門家」や「権威」と認識した人物の言葉を信じやすい傾向があります。投資詐欺師はこの心理を巧みに利用し、金融の専門家や成功した投資家を装って近づいてきます。
特に金融や投資の知識が十分でない人ほど、専門的な用語を使う「エキスパート」の言葉に影響されやすくなります。
詐欺師は「秘密の投資法」や「限られた人だけが知っている特別な情報」を持っていると主張し、被害者の信頼を得ようとします。彼らは意図的に複雑な専門用語を使い、被害者が質問しづらい状況を作り出すのです。
権威を装う詐欺の概念図この心理的罠から身を守るためには、肩書きや外見に惑わされず、その人の主張する内容を客観的に評価することが重要です。
「この投資の仕組みがよく理解できない」と感じたら、それは理解力の問題ではなく、むしろ健全な警戒心のサインかもしれません。理解できないものには投資しないという原則を守りましょう。
5. 希少性と緊急性の罠に焦って判断してしまう
「この特別な投資機会は今だけ！」「先着10名様限定！」
詐欺師はしばしば「希少性」と「緊急性」を強調して、被害者に焦りを感じさせ、冷静な判断をする時間を与えません。限られた人数だけが参加できる「特別な投資機会」や「期間限定のキャンペーン」と称して、すぐに決断するよう促してきます。
人は希少なものや失う可能性のあるものに価値を見出す傾向があります。詐欺師はこの心理を利用して、「今決断しなければ二度とこのチャンスはない」と思わせるのです。
焦りを感じると、私たちの脳は合理的な判断よりも感情的な反応を優先するようになります。その結果、通常なら気づくはずの警告サインを見逃してしまうのです。
希少性と緊急性の罠の図解この心理的罠から身を守るためには、投資の決断を急がされているときこそ、一度立ち止まって考える時間を取ることが重要です。
「今すぐ決めなければならない投資」は、ほとんどの場合、良い投資ではありません。信頼できる投資機会であれば、十分な調査と検討の時間が与えられるはずです。
あなたは最後に投資を急かされたとき、どのように対応しましたか？
6. 社会的証明の罠で「みんなが投資している」と信じてしまう
「すでに多くの人が参加して成功しています！」
人は不確実な状況では、他の人々の行動を参考にする傾向があります。これを「社会的証明」と呼びます。詐欺師はこの心理を利用して、「多くの人がすでに投資して利益を得ている」と主張し、安心感を与えようとします。
SNS型投資詐欺では、架空の「成功者」の証言や偽の口コミを作り出し、多くの人が参加して利益を得ているという錯覚を生み出します。時には実際に少数の初期投資家に高い利益を還元し、その人たちの口コミを利用することもあります。
群馬県内で5000万円をだまし取られた被害者の例では、詐欺師は「仲間」の存在を強調し、被害者に安心感を与えていました。実際には「仲間」も詐欺グループの一員だったのです。
この心理的罠から身を守るためには、「みんなが成功している」という主張を鵜呑みにせず、独自に調査することが重要です。
特に、知らない人からの投資の誘いには慎重になるべきです。実際の投資実績や運用実態を確認し、第三者の客観的な評価を調べることを忘れないでください。
7. 互恵性の罠で「恩を返さなければ」と感じてしまう
「無料セミナー」「特別な情報のプレゼント」「初回限定の特典」
人は何かをもらったり、親切にされたりすると、お返しをしたいという気持ちになります。これを「互恵性の原理」と呼びます。詐欺師はこの心理を利用して、まず小さな「贈り物」や「特典」を提供し、その後により大きな見返りを要求してきます。
投資詐欺では、無料の投資セミナーや情報提供から始まり、徐々に投資を促すパターンがよく見られます。最初は小額の投資で利益を出させ、信頼を勝ち取った後に大きな金額の投資を促すのです。
互恵性の罠と投資詐欺SNS型ロマンス詐欺では、感情的な絆を形成することで互恵性の感覚をさらに強化します。群馬県の60代男性の事例では、詐欺師は米軍医として働く女性を装い、悲しい過去や危険な現状を語ることで同情を誘い、最終的に金銭を要求していました。
この心理的罠から身を守るためには、「無料」や「特典」には必ず何らかの見返りが期待されていることを認識し、冷静に判断することが重要です。
特に感情的な絆を形成した相手からの金銭的な要求には注意が必要です。「この人のために何かしたい」と感じたときこそ、一歩引いて状況を客観的に見つめ直しましょう。
8. 金融リテラシーの過信が招く罠
意外かもしれませんが、金融リテラシーが高い人ほど、投資詐欺に遭うリスクが高まる場合があります。
明治大学の研究によれば、金融リテラシーの高い人は、老後資金の計画をしっかり立て、ギャンブルをしない傾向がある一方で、投機的投資や過剰借り入れ、ナイーブな経済行動が多いという結果が出ています。
なぜ金融リテラシーの高さが不適切な金融行動につながるのでしょうか。研究者は、自らの財務能力への過信や偏った知識などがその理由ではないかと考察しています。金融リテラシーが高いと、自分の金融能力に対する自信が高くなり、それが大それた金融行動へと走らせる可能性があるのです。
金融リテラシーの過信と投資詐欺この心理的罠から身を守るためには、金融知識があっても「自分は騙されない」と過信せず、常に謙虚な姿勢を持つことが重要です。
どんなに知識があっても、「これは本当に大丈夫か？」と疑問を持ち続け、複数の情報源から検証する習慣をつけましょう。特に「確実に儲かる」という話には、知識がある人ほど警戒すべきです。
投資詐欺から身を守るための3つの黄金ルール
これまで見てきた8つの心理的罠を踏まえ、投資詐欺から身を守るための3つの黄金ルールをご紹介します。
第一に、「急かされたら立ち止まる」ことです。詐欺師は被害者に考える時間を与えないようにします。投資の決断を急かされたら、それは警戒すべきサインです。冷静に考える時間を必ず取りましょう。
第二に、「理解できないものには投資しない」ことです。投資の仕組みや利益が生まれる理由が理解できないなら、それは投資すべきではありません。わからないことを質問して明確な回答が得られないなら、それも警戒サインです。
第三に、「感情ではなく事実に基づいて判断する」ことです。FOMOや損失回避バイアスなど、感情に流されると冷静な判断ができなくなります。客観的な事実に基づいて判断することが重要です。
投資詐欺は年々巧妙化していますが、これらの心理的罠を理解し、警戒することで、被害を防ぐことができます。自分は大丈夫と過信せず、常に冷静な判断を心がけましょう。
私たちは誰もが心理的罠に陥る可能性があります。大切なのは、その事実を認識し、意識的に対策を講じることなのです。
投資詐欺の被害に遭わないために、これらの心理的罠を理解し、冷静な判断力を養いましょう。より詳しい情報や実際の被害事例については、投資詐欺被害者の戯言で体験談や対策法を確認することができます。