方針1
「k次モーメントが存在」とは,「E[|X|^k]が有限である」と言い換えることができる.答案1を思いつくのは難しいが結果は重要.
答案1
0<h<kの時,任意のxに対して
|x|^h\leq 1+|x|^k
が成り立つ(|x|<1ならば|x|^h<1より不等式は成立.1<|x|ならば|x|^h<|x|^kより不等式は成立.).ゆえに,両辺の期待値を取ることで,k次モーメントが有限であることを用いて,
\begin{align}
\mathbb{E}_{X\sim f_X}[|X|^h]&\leq \mathbb{E}_{X\sim f_X}[1+|X|^k]\\
&= 1+\mathbb{E}_{X\sim f_X}[|X|^k]<\infty
\end{align}
となるため,
\mathbb{E}_{X\sim f_X}[|X|^h]<\infty
よりXはh次のモーメントを持つ.
方針2
凸関数の定義
区間Iにおいて関数phi(x)が凸であるとは,I内の任意のx,yと0<gamma<1に対し
\phi(\gamma x+(1-\gamma)y)\leq \gamma\phi(x)+(1-\gamma(y))
が成り立つ,ということである.
phiが凸関数である時,phi内の任意の点は,phi上の任意の接線よりも上にある(y=x^2を想像するとわかる).つまり,任意のzについて,phiの接線は
y=\phi'(z)(x-z)+\phi(z)
であって,全てのxについて
\phi(x)\geq \phi'(z)(x-z)+\phi(z)
が成り立つ.このことは後のJensenの不等式の証明に用いる.
凸関数の判定方法
phiが凸であることと,定義域内の全てのxについて
\phi''(x)\geq 0
が成り立つことは同値である.
例:
\phi(x)=-\log(x)
に対し,
\phi''(x)=\frac{1}{x^2}>0,\ \forall x>0
なので,phiは凸関数.
Jensenの不等式
確率変数Xについて,Xは一次モーメントが存在するとする.phiを確率空間上で凸な関数とすると,
\phi(\mathbb{E}_{X\sim f_X}[X])\leq \mathbb{E}_{X\sim f_X}[\phi(X)]
が成り立つ.(等号成立条件はXが定数か,phiが直線であること.)
(証明)
\mu=\mathbb{E}_{X\sim f_X}[X]
と置く.x=muにおけるphiの接線は,
y=\phi'(\mu)(x-\mu)+\phi(\mu)
である.この時,全てのxで
\phi(x)\geq \phi'(\mu)(X-\mu)+\phi(\mu)
が成り立つ.両辺の期待値を取ることで,
\mathbb{E}_{X\sim f_X}[\phi(X)]\geq \phi'(\mu)\mathbb{E}_{X\sim f_X}[X-\mu]+\phi(\mu)=\phi(\mu)=\phi(\mathbb{E}_{X\sim f_X})
答案2
関数phiを
\phi(x)=x^k
と置く.これは
\phi''(x)=k(k-1)x^{(k-1)(k-2)}>0, \forall x>0
より凸関数である.Jensenの不等式により
(\mathbb{E}_{X\sim f_X}[X^h])^{k/h}\leq \mathbb{E}_{X\sim f_X}[X^{h\times k/h}]=\mathbb{E}_{X\sim f_X}[X^k]
が成り立つ.今,k次モーメントは存在するので
\mathbb{E}[X^h]<\infty
参考文献
- 『現代数理統計学の基礎』(久保川達也 著)