Google I/O 2021 フロントエンドまとめ(1/6)〜 Webプラットフォーム最新情報(1/3): プライバシー関連〜
この記事は、Google I/O 2021で発表されたフロントエンド関連情報の中で個人的に気になったものをまとめたもので、
全6記事中1本目。
Webプラットフォームの話
ウェブ プラットフォームの最新情報 @Google I/O 2021
Attribution Reporting API
っていう新しいAPIを提案したよ。というお話
Google Chromeはリリース以来、サイトごとにプロセスを分離する「サンドボックス」という機能を特徴としてきたが、近年のプライバシー意識の高まりにより、サードパティーCookieを初めとしてユーザを追跡することが忌避されるようになってきた。
そこでユーザを追跡することなく広告の成果(コンバージョン)やそれに至るユーザの行動の貢献度(アトリビューション)を測定する方法として、サイト間でユーザ識別データ(いわゆるトラッキングID)を共有することなく、ブラウザがAPIへ暗号化・匿名化されたレポートを送信する仕組みを作ったよ、Chromeで使えるようになったよ、とのこと。
ちなみに、レポート作成で遅延とノイズが発生することでよりユーザを特定する試みが抑制されるとのことで、これを「差分プライバシー」と呼んでいるらしい。
「サードパーティCookieを廃止する準備を段階的に進めている」←なんだって?!
上述の「Attribution Reporting API
がChromeで使えるようになった」という話の中でしれっと「サードパーティCookieを廃止する準備を段階的に進めている」という衝撃発言があった。
要は
Google「(Google自身の収益事業でもある)広告において『サードパーティCookie使わないとコンバージョンやアトリビューションが計測できないよね』問題があったけど、それを解決するAttribution Reporting API
ってのを使えるようにしたんだから、サードパーティCookieとかいう危なっかしいものはもう必ず使わなくても良くなってきてるよね?ね?こっち使お?サードパーティCookieつかうのやめよ?てことでじゃあ、段階的に廃止してくね。」
てことでしょうか?
Google「(よ〜し、これでうちらだけはこの先生きのこれる。もしみんながついてこなくても、それはそれでうちらだけが一人勝ちィ(๑•̀ㅂ•́)و✧)」的な?
とりあえずGoogle ChromeでAttribution Reporting API
が使えるようになったという発表で、 Web標準なったわけでもないまだ「新しい提案」レベルであるため、これによって本当にサードパーティCookieが廃止廃止されると判断するのはまだ早計と考えられる。
しかし、現在Webブラウザの世界シェアにおいて"強い寡占状態"を既に獲得しているChromeであるからこそこれほど強気の発信ができているのも事実であり、今後の成り行きを注視する必要があるかもしれない。
私見
(長文&私見のため、折りたたみ。「そういうのダルい」人は読み飛ばしてください)
サイト間および特定ベンダによるユーザの追跡はプライバシー保護の観点において健全ではないのは事実で、それを実現しているサードパーティCookieも(広告というWeb業界における重要な収益化手段に関らざるを得ない要素ということから一旦目を背ければ)プライバシー保護の観点において好ましくない技術であることは否定できないと思う。
もちろん、Web収益上の問題を孕まない手段でサードパーティCookieを廃止できるならそれに越したことはなく、そして確かにAttribution Reporting API
はその一つの出口足り得る設計には見受けられる気がした。(→EFFテクノロジストであるBennett Cyphers氏による評価では「bad」とのこと1)
しかし一方で、その提案・推進のしかたにおけるGoogleのやり方には眉をひそめざるを得ず、強い寡占状態を人質にした強引にも見える提案()は、市場経済における「寡占企業によるプライスリーダシップ(価格誘導)」にも似た「技術標準誘導」にも見えなくもない。
もし仮にGoogle Chromeが現在の圧倒的なブラウザシェアを持っていなかったとしても、同様にこのような提案・推進をおこなっていただろうか?
このような進め方は、Web界隈にとって健全だろうか?
「GoogleによるWeb標準の私物化」の危惧が現実味を帯び始めていはいないか?
そういえば、かの有名な「Don't Be Evil」って、もうGoogleの行動規範から外されているそうですね。いまは「Do the Right Thing」ですか、"正しさ"とは誰にとっての正しさですか?その"正しさ"には"「ゴールの」正しさ"だけでなく"「手段の」正しさ"も含まれているのでしょうか?
Webがこれからも健全で素敵な技術・市場でありますように。
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Bennett Cyphers氏が
Attribution Reporting API
を「bad」と評価した主な理由は、そのunique IDのフィールド長が64bit(18×1018=1800京くらいまでの値を取れる)という、その気になったらネット上のユーザの行動を追跡できるであろう十分な大きさとなってしまっているから、とのこと。(比較対象とされたAppleのものの場合、6bit(64までの値しか取れない)である) ↩