はじめに
SIer、自社開発、SESは、求人票では働き方の選択肢として並びます。しかし実際に働いてみると、会社形態だけでは仕事の裁量や面白さは分かりませんでした。
私は、SIer、自社開発の会社2社、SESの会社を経験しました。同じ自社開発でも、裁量の大きさや知識の共有方法は違いました。SESも、案件や配属先によって担当する役割が変わります。
会社形態が違っても、責任範囲と裁量が似ていれば、日々の仕事の感覚は近くなります。この記事では、経験を通じて見えた5つの判断軸と、転職時に確認したい質問を整理します。
「SES」という言葉は、契約や営業上の使われ方が一様ではありません。この記事では、一般にSESと呼ばれる客先案件に参画する働き方を指します。
会社形態より、5つの条件を確認する
会社形態だけでは、日々の仕事や成長の機会を判断できません。私が転職先を考えるときに見るのは、次の5点です。
| 判断軸 | 確認すること |
|---|---|
| 責任範囲と意思決定者 | 顧客、プロダクト、契約上の役割のどこに責任を持ち、誰が要件や優先順位を決めるか |
| エンジニアの裁量 | 仕様、設計、技術選定、改善にどこまで関われるか |
| 事業の安定性 | 会社が何で収益を得ていて、売上やキャッシュフローの見通しが開発にどう影響するか |
| 知識の共有方法 | 設計や過去の判断が文書やレビューで共有されているか |
| 配属先・契約・異動の選択肢 | 客先案件で何を任されるか、上司や現場との相性が合わないときに別のチームや案件へ移れるか |
SIerでは、技術以外の調整も仕事になった
最初にいたSIerでは、商流によって顧客の要望と実装を担う立場の間に入ることがありました。そのため、技術だけを見ていればよいわけではありませんでした。
この経験で身に付いたのは、工数、予算、納期、要件変更をまとめて扱う力です。実装の正しさだけでは案件は進まず、誰が何を決めるのか、変更の影響がどこまで及ぶのかを整理する必要がありました。
調整の比重が大きくなると、特定の技術を深く掘る時間は意識して確保する必要があります。技術の専門性を伸ばしたいのか、関係者と調整して成果を出したいのかによって、合う役割は変わります。
大規模案件を主軸とするSIerでは、案件全体の調整や進行管理が欠かせません。そのため、個人の技術力だけでなく、チームや関係者を動かすマネジメントにも価値が出やすくなります。技術が好きな人でも、早い段階からマネージャー業務を任されることがあります。
同じ自社開発でも、裁量と暗黙知は違った
1社目の自社開発では、エンジニアが自分で決められる範囲が広くありました。営業と協力しながら、エンジニアの責任で改善を進められました。実装、運用、顧客への影響が近く、技術的な判断が事業にどうつながるかを見やすい環境でした。
もう1社の自社開発では、以前からの開発のやり方や判断が社内に根付いていました。長く働く人の間では共有されている前提でも、文書に残っていないと、新しく加わった人には判断の背景が見えません。コードを読めても、なぜその設計なのか分からず、変更を決めにくいことがあります。
同じ自社開発でも、裁量を持って改善できる環境と、暗黙知が多く判断の背景を追いにくい環境がありました。この経験から、自社開発という言葉だけで裁量や開発文化を想像するのは難しいと分かりました。
裁量の大きさを見るときは、事業がそれを支えられるかも確認が必要です。収益が安定していないと、会社の存続や優先順位の変化が日々の仕事に影響します。また、設計の背景や過去の制約を、文書やレビューで共有できるかも、改善の進めやすさを左右します。
収益モデルはキャッシュフローにも影響する
自社開発では、プロダクトの開発や運営に先行して費用がかかり、利用者や売上が伸びるまで投資の回収に時間がかかる場合があります。一方、SIerには請負だけでなく準委任の案件もあります。派遣やSESと呼ばれる事業も、稼働が続き対価を定期的に得る契約なら、売上やキャッシュフローを見通しやすくなります。
ただし、会社形態だけで資金繰りが決まるわけではありません。プロダクトの継続収益、案件の稼働率、契約期間、支払い条件などによって変わります。SESは契約形態の名称ではないため、転職先の事業を見るときは、実際の契約と支払い条件も確認したい点です。
SESでも、案件によって裁量は変わる
SESだから裁量がないとは限りません。私が経験した範囲でも、案件や配属先によって担当する役割は異なり、設計や技術選定、長期的な改善に関われる範囲も変わりました。
担当範囲が明確で、過度な社内調整を抱え込まずに仕事を進められる場合もあります。一方で、任される範囲は契約内容や配属先の状況に左右されます。会社の看板だけではなく、参画する案件で何を任されるのかを確認する必要があります。
SESを検討するときは、会社形態への印象だけで判断せず、案件の開発工程と期待される役割、現場の技術と既存コードを改善できる余地を確認します。契約の更新、異動、待機が発生した場合の扱いや、自社側の営業・上長が技術やキャリアの相談にどこまで関わるかも聞いておきます。
合わない環境から移れる余地も確認する
SIerやSESでは、会社によっては複数の案件や現場を持っており、上司や現場との相性が合わないときに、別の現場へ移れる可能性があります。ただし、異動先の有無や時期は会社や案件の状況によるため、必ず変えられるわけではありません。
自社開発では、社内のチームやポジションが限られていると、上司やチームとの相性が合わなくても、別の環境へ移りにくいことがあります。特に組織が小さい場合は、配置転換の選択肢が少なく、関係性の問題から距離を置くのが難しいかもしれません。自社開発ならではの裁量や事業への近さだけでなく、社内で役割やチームを変えられるかも確認したい点です。
面接では、日々の仕事を具体的に聞く
自分に合う職場を選ぶには、会社形態を聞くだけでなく、日々の仕事を具体的に聞くことが役立ちます。面接やカジュアル面談では、次のように確認しています。
- 直近の開発で、要件からリリースまで誰がどのように関わったか
- 要件変更があったとき、影響範囲と優先順位を誰が決めるか
- エンジニアが改善提案を出した事例と、実際に反映された事例
- 新しく入った人が、ドメイン知識や設計判断を学ぶための資料や場があるか
- 事業や案件の収益が、開発計画にどのような影響を与えるか
- 上司やチーム、案件との相性が合わない場合、異動や配置転換を相談できるか
回答の内容だけでなく、質問に具体例が返ってくるかも見ています。実例を交えて説明してもらえると、役割や意思決定の流れを把握しやすくなります。
まとめ
SIer、自社開発、SESを経験して、会社形態だけでは働き方を判断できないと分かりました。転職先を比べるときは、責任範囲と意思決定、エンジニアの裁量、事業の安定性、知識の共有方法、配属先・契約・異動の選択肢を確認します。
会社形態ではなく、自分が伸ばしたい力と引き受けたい責任に合うかを、会社ごとの実態から判断することが大切です。