超低空を飛ぶ人工衛星と「材料が削られる宇宙環境」の話
こんにちは。僕は大学で「機械工学」、特に「人工衛星の材料が宇宙環境でどう劣化するか」というテーマで研究しています。
ちょうど、論文を書かないといけない時期に差し掛かっていて、
実験とデータの解析に向き合う毎日を送っています。
せっかくなので、人工衛星の材料が宇宙でどんな目に遭っているのかを、専門知識がなくても分かるようにまとめてみます。
人工衛星は「過酷な場所」を飛んでいる
多くの人工衛星は、地上から数百kmの低地球軌道(LEO)を飛んでいます。
さらに最近注目されているのが、超低地球軌道(VLEO)と呼ばれる高度200〜300kmの領域です。
超低地球軌道は地球に近いため、より高精度の観測が可能であったり、打ち上げコストが削減できるというメリットがあります。
宇宙は“何もない空間”ではない
宇宙は真空だと思われがちですが、地球のすぐ近くを飛ぶ人工衛星の周りには、原子レベルのガスが存在しています。
特に問題になるのが、原子状酸素(Atomic Oxygen, AO)です。
原子状酸素とは酸素分子(O₂)がバラバラになった状態の物質で、化学的に非常に反応性の高い原子です。
人工衛星は時速約28,000km(約8km/s)で飛んでいるため、原子1個が弾丸のようなエネルギーで材料に衝突するという状況になります。
つまり、「超高速で飛んでくる反応性の高い原子が、ずっと材料を削り続ける」といった状況に人工衛星は晒されているのです。
原子状酸素などの物質などにより衛星の材料は、
- 少しずつ削れる(侵食)
- 表面がザラザラになる
- 見た目が白っぽくなる
といった劣化が起こります。下の写真のように段々サンプルが白濁していきます。
ここから劣化量を測定したいのですが、ここで問題。
材料を回収できない
宇宙にある人工衛星は大気圏に入るときに衛星が燃え尽きてしまうため、材料を回収できない
つまり、
「どれくらい削れたか」を直接は測れない
そのため現在は、
「画像の変化」から、材料の劣化を推定できないか?
という考え方が重要になっています。
材料の画像変化は、どれくらいの劣化を意味しているのか?
たとえば、
- ちょっと白くなった
- 明るさが変わった
- 模様っぽいものが見えてきた
こういう見た目の変化から、
「これ、たぶん〇〇μgくらい削れてるな」
と分かったら、とても便利です。
私の研究は、
画像の変化と、実際に削れた量を結びつけることがテーマです。
地上で「宇宙っぽい環境」を作る
もちろん本当に宇宙には行けないので、
地上にある実験装置で宇宙環境を再現します。

やっていることはこんな感じです。
- 原子状酸素(AO)を材料に照射
- 条件を変えて複数パターンで実験
照射前後で次の評価を行います。
① 質量変化
どれくらい削れたかを、μg(マイクログラム)単位で測ります。
② 表面形状
AFM(原子間力顕微鏡)を使って、ナノメートルスケールの凹凸を観察します。
③ 画像変化
表面の写真を撮って、明るさ(画素値)を数値として解析します。
論文の終着地点
最終的にやりたいことは、これです。
画像を見ただけで、材料の劣化量が分かるようにする
これができれば、
- 材料を回収しなくても衛星にカメラを載せるだけで材料の状態が分かる
ようになります。
超低い高度を飛ぶ人工衛星では、
こういう評価方法がかなり重要になります。
おわりに
宇宙の研究は、
「見えない現象をどう理解し、どう数値として扱うか」を考える
難しさと面白さが詰まった分野です。
一つひとつの結果は小さく見えても、
それらが積み重なることで、
より安全で高性能な人工衛星や新しいミッションにつながっていきます。
この難しさに向き合いながら、
宇宙環境を正しく理解する研究に取り組んでいきたいと思っています。

