4
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

AI旋風の中でメインフレームとAIの位置づけを考える

Last updated at Posted at 2024-07-16

はじめに

昨今のAI関連の技術革新は目覚ましいものがあります。特に生成AIが世の中に与えたインパクトは相当大きいものでしょう。AIの活用はもはや前提になりつつあり、ほとんどの分野においてAIをうまく活用できるかどうかは今後の成長に大きく影響することでしょう。
ただ、AIに全振りしすぎる傾向は少々危険なのではないかと思う今日この頃であります。
メインフレームに携わっている技術者目線からAIとメインフレームの関連などを冷静に整理してみたいと思います。

メインフレームの位置づけ

IT利用形態の変遷

まず、ITの利用形態の変遷についてざっとおさらいしてみたいと思います。
image.png

これまで時代の経過とともにITの利用形態というのは様々に変化してきました。汎用機中心だった時代から、クライアント/サーバー、インターネット中心、SNS全盛の時代といったように、パラダイム・シフトが繰り返されITの利用形態が激しく変化してきた中でも金融系を中心に基幹システムの中核としてメインフレームは使い続けられているという経緯があります。
ちなみにIBM Zは2024年で登場からちょうど60周年を迎えました。当初System/360として発表されて以来60年にわたって世界中で使い続けられているということになります。
このように長期に亘り使い続けられている理由の一つとしては、IBMとしてメインフレームに継続的な投資を行い機能拡張/強化を進めてきたということがあると思います。最近の流れでいえばAI推論用のオンチップアクセラレーターを搭載したモデルを提供していますし、メインフレームへのサーバー統合による省電力化、ひいてはCO2排出量削減に貢献するという点での優位性が見直されたりしています。

バイモーダルIT

随分前から使い古された言葉ではありますが、ITの利用形態の特徴をバイモーダルIT という言葉で言い表すことがあります。これは、システムを大きく2つの特性に分類して捉えてみる、という考え方です。

image.png

1つはSystems of Engagementを略してSoEと言います。SoEというのは、エンド・ユーザーに近い領域で、お客様の要求に迅速に対応し即効果が求められるような領域のシステムを表します。つまり、柔軟性やスピードが重視されるシステムです。
もう一つはSystems of Record、略してSoRと呼ばれるものです。SoRは、確実に安定的に維持/稼働しなければいけない基幹システムを指します。この領域のシステムは堅牢性や正確性が重視されるシステムです。

最近では両者に求められる要件はオーバーラップしてきている部分が多いと思いますが、正確性や信頼性が重要視されるバックエンドの領域、いわゆるSoRの領域を担うインフラの代表格が"メインフレーム"であると言えます。

AIがもたらした変化

AIによってどのように世の中の状況が変化したかというのを自分なりに整理してみたいと思います。

image.png

これまでは、単純な処理/機械的な処理/大量の処理を、機械化/自動化/システム化することで、効率を上げてきたという流れがありました。事務手続きのような事前定義、ルールベースでできる作業というのはシステム化がしやすく、人手でやるよりも正確かつ迅速に行えるということで、こういう領域のものがシステム化の対象でした。
一方で、あいまいさが含まれる領域、特に認知系の処理が含まれるもの、例えば自然言語の処理とか画像/音声認識といったもの、それから推測/推論が必要になるもの、というのはシステム化が難しい領域でした。

image.png

この"あいまいさ"を含む、これまで人が行わなければならない、つまりシステム化が難しいとされてきた領域についても、AIが登場したことによってシステム化できる部分が広がってきていると言えます。
AIによって広がっているシステム化できる領域、図で言うと赤矢印の方向が重要です。これは、先ほどのSoE/SoRの分類で言うとSoE(左側の方)の領域、つまり、よりエンドユーザー側のシステムを中心とした領域についての変化が主になると思います。
人間 vs AI (人間の仕事がAIに奪われる)といったような議論はよく聞きますが、AI vs メインフレームといったような議論が見られないのは、両者の特性は根本的に異なるものだからと考えています。

AI と メインフレームの関わり

改めて整理すると、AIはメインフレームを置き換えるものではないと言えます。なぜなら、両者は特性の異なる領域をターゲットにしているからです。

さて、ここで以下のような問いについて考えてみたいと思います
大量のトランザクション処理を、不整合が決して生じないように、一定のセキュリティー基準/低レイテンシーを保ちながら効率よく処理するシステムを、大規模災害が生じた場合の事業継続性を担保しつつ運用することが、AIだけで実現できるだろうか?

あるいは、
"上のような要件を満たすシステムの設計/構築/運用をしてください" と言って実現してくれるAIはいつ頃登場するだろうか?

このような世界が早く到来することを願うばかりではありますが、もう少し時間がかかるのではないかと思われます。AGI(汎用人工知能)と言われているような領域のものが登場すればある程度のことはカバーされるのかもしれません。しかし、AIはあくまで学習データがベースとなる技術であることを考えると、適切な学習データをどのように与えるか、AIが生成した結果をどのように評価するか、という辺りを踏まえてメインフレームが担っているSoRのコアな領域に適用するにはまだまだ課題があるようにも思います。
(シンギュラリティにはいつごろ到達できるのか...)

ですので、直近ではAIの領域としては基本的にはエンドユーザーに近いSoEの領域についてシステム化の範囲を広げるものと捉えるのが妥当であり、フロントの間口が広がることでバックエンドのコアとなるSoRのトランザクション量/規模も増加するはず、となると、SoRを担うメインフレームの重要性はますます高まるであろうと考えています。

また、ここまでの流れだとメインフレームとAIは少し距離が遠いモノ、直接的な関係が無いモノという印象を持たれるかもしれませんが、それもちょっと誤解があります。メインフレームが担うコアな領域を補完/拡張する目的で直接的にAIを活用するということも様々な観点で行えるようになってきています。

例えば...

  • 基幹業務に取り入れる: 売上予測、不正検知
  • 開発支援: コード生成、リファクタリング
  • 運用支援: システム稼働状況の監視、トラブル予測
  • 問題判別支援: 過去事例をベースとした対応方法策定
  • Vup支援: 移行情報のQA対応
    などなど...

基幹業務にAIを用いた推論を含むロジックを取り込んだり、開発や運用支援、問題判別支援などでAIを活用する、といったようにメインフレームの世界でも様々観点でAI活用が模索されています。
ただ、AIに限った話ではありませんが、このような周辺環境の変化に対応していく、新しい技術に追随していくためには、これまでの使い方や考え方を絶えずアップデートしていくことが必要で、つまり、継続的にモダナイズしていくということが大事だと考えています。

おわりに

昨今の風潮として"AIをやらなければエンジニアにあらず"的な雰囲気を感じてしまう場面もあるかもしれません。確かにAIはゲームチェンジャーとなり得る大きなポテンシャルを持った技術であることは間違いないと思いますが、AIだけで世の中のシステムが成り立つかというとそういう訳でもないと思います。
現時点ではAIの活用が差別化を図るための重要な要素になっていると思いますが、AIの領域はあっという間にコモディティ化されていくのではないかと推察されます。そうなったときにはメインフレームの領域が逆に差別化を図る要素になり得るとも考えられます(メインフレームはインターネットが登場する前から使われている技術で、コアな部分はある意味枯れた技術ではありますが、クローズドな環境で長いこと使われてきたという経緯があり、オープンな場に情報がそれほど多く出回っていないという背景があります)。つまり技術者にとってはメインフレーム関連のスキルを持っていることの価値が高まるのではなかろうかとも思う訳です。
あくまでAIは数多くの重要な要素技術のうちの1つであり、メインフレームが担っているコアな領域の重要性は変わらないので、そこは大事にしつつ新しい技術を取り入れていく、というスタンスがよいのではないでしょうか。

4
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
4
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?