みなさんこんにちは!
Google Cloud Next Tokyo 26 にて開催されたセッション 「Gemini によるグラウンディングと ADK で構築するリアルタイム Agentic RAG」(D2-AIML-14) を現地で聴講してきました。
スピーカーは、Cloud AI デベロッパー リレーションズ マネージャーの Dave Elliott 氏と、Cloud AI デベロッパー アドボケイト 佐藤 一憲 氏。
本セッションは、エンタープライズ AI を実務で動かすために不可欠な「グラウンディング(外部知識の接続)」の最新技術と、それらを統合して自律型 AI を素早く構築するための開発キット ADK 2.0(Agent Development Kit)の進化に迫る、非常にエキサイティングな内容でした。
本記事では、現地で示されたデモを交えつつ、自律型 AI の制御と外部データ接続がどのように進化するのか、そのアーキテクチャの裏側を技術的な視点から解説します!
🎙️ 会場で体験した「リアルタイム AI 字幕・通訳」の衝撃!
本セッションで驚かされたのは、登壇された Dave 氏の発表スタイルそのものでした。Dave 氏が英語でプレゼンテーションを行うと、その英語の音声がリアルタイムでテキスト解析され、スライド下部にタイムラグほぼゼロで日本語字幕が生成・投影されていました。さらに、イヤホンからは Gemini が低遅延で同時通訳した日本語音声が自然なイントネーションで流れてきたのです。
「実機デモや音声マルチモーダル処理の技術を、本物のアメリカ人スピーカーの登壇でそのまま実証する」という Google Cloud の粋な演出に、圧倒的な技術進化を肌で実感する幕開けとなりました!
1. エージェント開発のデファクトへ:進化を遂げた「ADK 2.0」
現在、ビジネスにおける AI エージェントの構築は強力な選択肢である一方、開発環境の分断や、依存関係管理の難しさ、そして本番運用におけるガバナンスの欠如といった複雑な課題に直面しています。
これらを解決し、より一元的に、標準化された効率的な開発・デプロイを実現するプラットフォームとして発表されたのが ADK 2.0 (Agent Development Kit) です。ADK 2.0 は Python や Go といった言語に標準対応しています。
ADK 2.0 では、複雑なワークフローを容易に構築するために、主に 3 つの強力なコントロールアプローチが提供されています。それぞれの仕組みと実装イメージを、スライドとともに詳しく見ていきましょう。
① グラフベースのワークフロー
エージェントの処理構造をグラフ(遷移図)として厳密に定義することで、タスクのルーティングや実行順序を明示的にコントロールします。これにより、従来の「LLM 任せ」だった曖昧な遷移を排除し、決定論的で予測可能性の高いワークフローを実装できます。

※スライド「1. ADK 2.0:グラフベースのワークフロー」
② 協調型エージェント(Collaborative Agents)
コーディネーターとなるメインエージェントが、特定の専門タスクを持つ複数の「サブエージェント」に対して自動的かつ自律的にタスクを委譲・連携するアーキテクチャを容易に構築できます。
③ ダイナミックワークフロー
グラフベースの静的なルーティングの代わりに、while ループや async/await などの使い慣れたコードベースのロジックを用いて、実行時にループや複雑な条件分岐を動的に構築・制御できます。

※スライド「3. ADK 2.0:ダイナミックワークフロー」
2. 不確実性を排除する「グラウンディング」の進化
LLM が本番業務で正しく機能するためには、モデルのカットオフ(学習データの締め切り)以降の最新情報や、企業内のプライベートデータを正しく参照させる「グラウンディング(外部知識への接続)」が必須です。
仮にグラウンディングがない状態で「2026年のスーパーボウルで優勝したのは誰ですか?」と尋ねても、AI は「まだ開催されていないため、勝者はいません」といった不正確な回答をしてしまいます。
しかし、グラウンディング機能が有効であれば、裏側で Google 検索を経由してリアルタイムに情報を取得し、「2026年2月8日、シアトル・シーホークスが優勝しました」と、正確な出典(ソースURL)付きで回答を生成することができます。
Google Cloud のプラットフォーム上では、この外部知識への接続がマネージドかつシームレスに統合されています。

※スライド「Google 検索、マップ、自社データでグラウンディング」
接続先は「Google 検索」や企業のナレッジベースである「自社データ(Agent Retrieval)」に留まりません。今回の Next で注目されたのは、画像生成モデル「Nano Banana Pro」におけるグラウンディング機能のデモです。

※スライド「Nano Banana Pro 画像生成時のグラウンディング」
「2026年のスーパーボウルで鷲が飛んでいる写真を生成して」という指示や、「ゴールデンゲートブリッジを歩く巨大なアヒル」の指示に対し、AI は Google 画像検索や Google マップの正確なストリートビュー画像を背景コンテキストとして裏側でグラウンディング(参照)することで、現実の風景に忠実でありながら、ユニークな画像を生成することに成功しています。
テキスト情報だけでなく、画像・空間情報のグラウンディングが高度に統合されている点に、Google Cloud の技術的優位性を強く感じます。
3. 「ラスベガスホテル・コンシェルジュ AI」の実力
セッション内では、これらのグラウンディング技術と ADK 2.0 を統合した、完成度の高い 「ラスベガスホテルのコンシェルジュ AI」 のデモが紹介されました。

※スライド「Gemini grounding demo: Las Vegas Hotel Concierge AI」
デモ画面では、ユーザーからの「お勧めレストラン」などの問いかけに対し、単なるテキストのレコメンドを返すだけでなく、リアルタイムに Google マップや YouTube、Web レビューを並行検索して右側のペインに統合表示しています。
この流れるような対話体験を裏でコントロールしているのが、以下の 4 つの要素をオーケストレーションするアーキテクチャです。

※スライド「Las Vegas Concierge Agent のアーキテクチャ」
-
World Intelligence(Google検索グラウンディング):
最新の外部トレンドやリアルタイム情報の取得 -
Enterprise Datasource(ベクトル検索/RAG):
ホテルの利用規約やプライベートなレストラン情報、ガイド等の参照 -
Spatial Logic(マップグラウンディング):
周辺店舗のリアルタイムな営業時間、正確な座標、ルート案内(ルート沿い検索) -
Contextual Rendering(画像グラウンディング):
ストリートビュー等を用いた、視覚的にわかりやすいルートガイド付き旅程の生成
4. 視覚と音声がシームレスに融合するマルチモーダル「LensMosaic」
本セッションで紹介されたもう一つのデモが、ライブ・マルチモーダル・ショッピングの実演である 「LensMosaic」 です。

※スライド「LensMosaic: a live multimodal shopping demo」
カメラに映したグラスやお茶をリアルタイムに視覚認識し、「これに合うティーカップはある?」と語りかけると、画面上のマトリックスに最適な類似商品や関連商品をマッピングして提案します。
「ユーザーが見ているもの」と「ユーザーが話している声(コンテキスト)」、そして裏側の「商品在庫・カタログデータベース」をシームレスに同期させて自律回答する様子は、チャットUIを超えた次世代のインターフェースそのものでした。
5. 大規模実用例:DoorDash に学ぶ「クエリインテント」の理解
最後に、自律型エージェントを大規模な商用サービスに適用した実践例として、フードデリバリー大手 DoorDash の事例が紹介されました。
ユーザーが「ricos gourmet(リコスのグルメ)」と検索した際、従来の LLM(グラウンディングなし)では「Gourmet Carousel(レストラン)」や「Round Table Pizza」といった、レストランの「思い込み分類」や曖昧な推薦を表示してしまいがちでした。
これは、ユーザーの検索意図が「レストラン(店舗)」なのか、特定の「食品・食材(Grocery)」を指しているのかを AI 単体で判断できないためです。
DoorDash は、この課題に対し、商品カタログ、ユーザーインテントの二重推論(レストラン vs 食材)、そして曖昧性を解消するための自律的な Web 検索を組み合わせた マルチソース検索(エビデンス検索)アーキテクチャ を実装して解決しました。
このグラウンディングを施した結果、検索精度は劇的に改善されました。
グラウンディングなしではピザ屋などの思い込み推薦が出ていたクエリに対し、グラウンディングを効かせることで、ユーザーが本当に求めていた「ricos gourmet」という特定ブランドの「ナチョスやサルサソース(Grocery)」を的確に判定し、正確に出典付きで表示することに成功しています。
実サービスにおける RAG は、単にテキストを検索するだけでなく、「ユーザーが本当に求めている意図(インテント)」をグラウンディングを交えて多角的に整理することが鍵であることが示されました。
6. まとめ
今回のセッションで示されたのは、AI エージェントを単なる「チャットボット」の領域から、ビジネスの文脈・空間情報・自社ルールを正確に理解して自律実行する 「リアルタイム Agentic RAG」 へと引き上げるための具体的なアプローチでした。
- ADK 2.0 によって複雑なワークフローやマルチエージェントを体系的に管理し、
- Google検索や Googleマップ、Agent Retrieval を組み合わせて、ハルシネーションのない信頼できる回答を生成する。
この「構造化された制御」と「強固な外部知識への接続」の融合により、今後のエージェント構築は単なるチャットボットの領域を超え、ビジネスプロセスを自律駆動する「次世代の強力なパートナー」になっていきます。
音声、マップ、そしてマルチモーダル。これらの技術が切り拓く「Agentic RAG」の未来は、データと AI がシームレスに融合する新たな開発パラダイムの到来を強く予感させるものでした。
Next Tokyo 26 で示されたこの圧倒的な進化のスピードを、ぜひ皆さんも開発環境やビジネスの現場で実際に体験してみてください!
※Next Tokyo 26 公式アンバサダーとして参加・執筆しています。
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