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キャッチアップしないと不安。── AI時代のエンジニアが罹る病 「FOMO」 と付き合う。

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その気持ち、FOMO かも

毎日、毎時間、何かが出る。
新しいモデル、新しいフレームワーク。
誰かの「これ知らないとヤバい」。
タイムラインを開くたびに、自分が少しずつ取り残されていく感覚がある。

この感情には名前が付いている。
FOMO ── Fear of Missing Out。つまり、取り残される恐怖。

正直に言うと、最近これがずっとつらい。
追いつこうとするほど、追いつけてない部分が見えてくる。
昨日覚えたものが今日にはもう一段アップデートされていて、ようやく触れたツールの後継がもう話題になっている。

たぶん、同じしんどさを抱えてる人は多いと思う。
で、最近ずっとこれについて考えていて、まだ答えが出たわけじゃないんだけど、今のところこう思っている、というのを書いてみる。

先に、いちばん言いたいことだけ書いておくと ──
全部を完全に理解するのは、もう無理なんじゃないか。そして、それでいいんじゃないか。

「無理」は、たぶん自分のせいじゃない

「ちゃんと追えていない」と感じるとき、自分はだいたい自分を責めていた。
意志が弱い、勉強が足りない、要領が悪い。
でも、最近そこは切り離していいんじゃないかと思いはじめた。
全部を追えないのは、努力の問題じゃない。
単純に、量が人間の容量を超えている。

出てくるものの数には上限がない。
一方で、こちらの時間と認知には限界がある。有限の器に無限を注ごうとしている。
あふれるのは当たり前で、あふれたのはサボったからじゃない。器の大きさの問題ですらない。
注がれる側が無限なら、どんな器でもあふれる。

最新の何か、は忘れて「基礎をやれば大丈夫」とも、一瞬思っていた。
流行を捨てて土台を固めればいい、と。
でも、これも逃げ場にはならなかった。

基礎だって、ちゃんとやろうとすれば果てがない。
流行を追う焦りが、基礎が足りない焦りに移るだけで、構造は変わらない。
「何かが足りない」という感覚そのものは消えない。
むしろ基礎は「やって当然」とされる分、もっと逃げ場がなくなる。
そもそも、「やって当然」「知ってて当然」なことって、明確に定義できない。
つまり、「基礎」も無限なのだ。

ここで一つ、はっきりしたことがある。
問題は「基礎か、流行か」じゃない。
「全部やる」というマインドそのものが、何を対象にしても無限を生む。

だとしたら、「無理」は受け入れるしかない。
受け入れるのは敗北じゃなくて、前提の確認なんだと思う。
無理なものを無理と認めたところから、ようやく現実的な付き合い方を考えられる。

FOMOは、たぶん治る病気じゃない。
風邪みたいに治すものじゃなくて、持病みたいに付き合っていくものなんだと思う。
だとしたら、上手い付き合い方を覚えるしかない。

追わなくて、いいのかもしれない

全部の理解を諦めると、肩の力が抜ける。
そのうえで、じゃあ何ならできるんだろう、と考えてみる。

ここで一つ、分けて考えてみたいことがある。
「今すぐ理解しておくこと」と「必要になったときに拾えること」は、別物なんじゃないか。

FOMOが急かしてくるのは前者だ。
今すぐ触れ、今すぐ分かれ、乗り遅れるな。でも落ち着いて考えると、実務で本当に要るのは後者でしかない気がする。
新しいライブラリが出たとして、それを今日理解している必要はほとんどない。
自分の仕事でそれが必要になったとき、無理なく拾いに行ける ── それで十分まわってきた。

だから「全部追う」のをやめても、置いていかれるわけじゃないんだと思う。
常に追跡しておく必要はなくて、必要になったときに参照できればいい。
そう思えると、未読の山が「負債」から「索引」に見えてくる。
読んでないことは、遅れの証拠じゃなく、必要になったら引けるブックマークだ。

ここで効いてくるのが、さっきの「全部やるマインドを捨てる」だ。
すべてを拾おうとするから、拾う対象が無限に膨らんでつらくなる。
そうじゃなくて、何を拾って、何を拾わないかを決める。
拾わないものを決めれば、拾う母数そのものが減る。
一つひとつが楽になるわけじゃない。
拾う総量が減るから、結果として抱える負荷が減る。

ついつい拾ってしまうもの、だけでいいんじゃないか

そうなると、次の問いはこうだ。「じゃあ、何を拾って、何を拾わないのか」。
ここを義務感で決めると、また焦りに逆戻りする。
「これも拾うべき、あれも拾っておくべき」と並べた瞬間、無限の「べき」に押しつぶされる。

そうじゃなくて、拾うものには本当は2種類あるんじゃないか、と最近思う。

一つは、必要に迫られて拾うもの
仕事で要る、避けられない、外から降ってくる。
やりたいかどうかと関係なく、やらないと回らないから拾う。

もう一つは、ついつい拾ってしまうもの
誰に言われたわけでもないのに、気づいたら調べている。
おもしろくて手が止まらない。
これは選んでいるというより、勝手にそうなっている。意志でやっているわけじゃない。

そして、本来は後者だけで十分なんじゃないか、と思っている。

ついつい拾ってしまうものは、勝手に深まる。
義務で積んだ知識はすぐ抜けるけど、おもしろがって拾ったものは、放っておいても根を張る ── 少なくとも自分はそうだった。
しかも好奇心は有限で、自分に固有だ。
外から無限に湧いてくる「べき」と違って、「ついつい」は自分の内側からしか出てこない。
だから拾う基準としては、これがいちばん頼れるんじゃないかと思う。「べき」は無限だけど、「つい」はその人の大きさしかない。追いきれる。

もちろん、後者だけで回るのは理想論かもしれない。
現実には、必要に迫られて拾うものの比率が高い時期もある。
でも、それはあくまで仕方なく抱える部分であって、本命じゃない。
本命は、ついつい拾ってしまう方なんだと思う。

何を拾うか迷ったら、「べき」じゃなく「つい」を選ぶ。
自分が何をおもしろがるのかが、いまのところいちばん信頼できる指針になっている。

一人で抱えなくていいんだと思う

ただ、ここまでの話には前提がある。
「つい拾ってしまうものを指針にすればいい」と言えるのは、自分の興味の輪郭が、ある程度見えている人の話だ。

何も拠り所がない段階だと、すべてが新しく見えて、どれも同じくらい大事に見えてしまう。
何を追って何を流していいのか、自分では判断がつかない。
自分が何を「つい」やってしまうのかも、まだはっきりしない。
だからキャリアの早い時期にFOMOに飲まれるのは、当たり前のことだと思う。
甘えでも勉強不足でもない。判断の基準も興味の輪郭も、まだ育っていないだけだ。

そういうときに、メンターが必要になる。
AIに聞けばなんでも教えてくれる。そんな時代にメンターが必要な理由はなにか。
「それは今やらなくていい」「これは今やる価値がある」と、拾うものを絞ってくれること、なんじゃないかと思う。
自分の中に基準が育つまで、誰かの基準を借りる。
それは情けないことじゃなくて、とても賢いやり方だ。
情報の無限の海原において、灯台のように方向を指すのがメンターの役割のひとつだと思う。

AIが変えたのは、量じゃなくて速度

FOMO自体は、別にAIが生んだものじゃない。
エンジニアはずっと何かに追われてきた。新しい言語、新しいフレームワーク、新しいパラダイム。取り残される恐怖は、昔からこの仕事に貼り付いている。

AIが変えたのは、量じゃなくて速度だ。
新しいものが古くなるサイクルが、極端に短くなった。
数ヶ月、数週間前の「これが最前線」が、もう過去になっている。
この速度に追いつこうとする限り、どれだけ走っても焦りは増える。

だったら、速さで勝負するのをやめてみる。
表面は週単位で入れ替わっていくけど、その奥にある「扱っている問題」の側は、そんなに簡単には変わらない。
回転の速い表層を全部追いかけるより、回転の中心に近い、変わりにくいものに時間を使う。
それでいいんじゃないか、と今は思っている。

FOMOから自由になるって、焦りをゼロにすることじゃない気がする。焦りはたぶん、消えない。
できるのは、その焦りをどこに向けるかを選ぶことくらいだ。
湧き続けるもの全部を追う、という終わらない焦りから降りて、拾うと決めたものに力を使う。
全部は無理だと認めて、そのうえでできることをやる。
それくらいの距離感が、この速い時代と長く付き合っていくには、ちょうどいいんじゃないか ── というのが、いまのところの自分の結論だ。

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