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REST APIと午後の曖昧な喪失 #4

Last updated at Posted at 2025-04-08

第四夜:名前をつけるというのは、誰かを想うということだ。

その夜のバーは少し賑やかだった。雨は止んで、店の窓には濡れた通りを歩く人影が映っていた。ジャズの音はどこか跳ねていて、カウンターの奥では誰かが赤いワインを注いでいた。

僕は少し遅れて店に入り、美咲の横に腰を下ろした。彼女はマティーニを飲んでいた。無言のままグラスを傾けるその姿には、静かな決意のようなものがあった。

「URIって、実はまだよくわかってないの」
彼女はぽつりと言った。「なんとなく住所ってことはわかるけど……それって、どうやって決めるの?」

僕は少し考えてから、こう言った。

「URIは、リソースの名前なんだ。つまり、“何か”に対して、世界に一つの名前を与える行為」

「名前……」

「たとえば、/users/123 ってURIは、“IDが123のユーザー”を示す。でもそれはただの記号じゃない。ある意味、世界の中でその人を見つけ出すためのタグなんだ」

「それって……名札みたいなもの?」

「そう。だけどURIには“どう名づけるか”ってセンスも必要なんだ。RESTの世界では、動詞じゃなくて名詞を使う。たとえば“/createUser”じゃなくて“/users”っていうふうにね。アクションじゃなくて“もの”を表現する」

「ふーん……なんだか、それってすごく文学的ね」

「その通り。URIの設計って、どこか詩を書くのに似てる。無駄を省いて、本質だけを名前にする。/letters、/dreams、/lost-places……そういうURIも成立するかもしれない」

美咲はゆっくり笑った。

「もし私がURIになるとしたら……どんな名前をつけてくれる?」

「そうだな……」僕はグラスの中で氷を回した。「たとえば、“/bars/shinjuku/misaki”とか」

「なんだか住所っぽいわね」

「そのURIをGETすれば、たとえば“マティーニを静かに飲む女性、美咲。REST APIの学習者。謎めいた空気をまとい、なにかを抱えている”ってレスポンスが返ってくるかもしれない」

「ちょっと恥ずかしいけど、うれしいかも」

「そして、君がそのURIに対してPOSTすれば、新しい想い出が追加される。たとえば今夜みたいな夜が、/memories に一つ加わる」

「そのリソースに名前がついた瞬間、それはもう、“ただの夜”じゃなくなるのね」

「そういうことだよ。RESTの世界では、名づけられたものだけが存在できる。URIがなければ、それは触れられない」

美咲は少しだけ視線を落とした。

「名前をつけるって、やっぱり愛情なんだね」

「うん。だから僕たちは、消えてしまいそうなものに名前をつけるんだ。誰かを思い出として保存するように。URIは、心のバックエンドみたいなものだから」

外では、風が窓を叩いていた。
その風の音が、どこか“/goodbyes/未送信の手紙”というURIを思い出させた。

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