はじめに
AWSを利用していると、セキュリティ対策は何から始めればよいのか
- AWSのベストプラクティスをどの順番で実装すべきか
- 自社のセキュリティレベルをどのように評価すべきか
といった悩みに直面することがあります。
AWSにはWell-Architected FrameworkやAWS CAF(Cloud Adoption Framework)などのフレームワークが存在しますが、「何を優先して実施すべきか」まで具体的に示してくれるわけではありません。そこで役立つのが AWSセキュリティ成熟度モデルです。
セキュリティ成熟度モデル
AWSのセキュリティ専門家が作成した実践的なガイドラインであり、組織のセキュリティレベルに応じて優先順位を付けながら対策を進められることが特徴です。
本記事では、AWSセキュリティ成熟度モデルの概要と、各フェーズで実施すべき主な施策について紹介します。
AWSセキュリティ成熟度モデルとは
AWSセキュリティ成熟度モデルは、AWS環境のセキュリティ対策を段階的に強化するための成熟度モデルです。
単なるチェックリストではなく、
- 実装の容易さ
- コスト効率
- セキュリティ向上効果
を考慮して、実施すべき施策の優先順位を示している点が特徴です。
AWS Well-Architected Frameworkが個別ワークロードに着目するのに対し、AWSセキュリティ成熟度モデルは組織全体の技術・プロセス・人材を対象としています。
成熟度モデルの4つのフェーズ
AWSセキュリティ成熟度モデルでは、セキュリティ施策を4つのフェーズに分類しています。
| フェーズ | 分類 |
|---|---|
| Phase1 | クイックウィン |
| Phase2 | 基礎 |
| Phase3 | 効率化 |
| Phase4 | 最適化 |
段階的に取り組むことで、限られたリソースでも効率よくセキュリティレベルを向上できます。
Phase1:クイックウィン
まずは低コストかつ高い効果が期待できる施策から着手します。
1〜2週間程度で実装できる対策でセキュリティ姿勢を大きく改善する効果があります。
代表的な施策は以下です。
多要素認証 (MFA)
AWSアカウント保護の基本です。
特にルートアカウントに対してMFAを設定していない環境は大きなリスクとなります。
API 呼び出しの監査
AWS CloudTrailを有効化することで誰が何を実行したかを追跡するための監査ログを取得します。インシデント発生時の調査にも必須です。
請求アラームとコスト異常検出
潜在的な攻撃を検出するために、請求アラーム を設定することをお勧めします。この設定により、AWS アカウント内でビットコインのマイニングや、ボットネットインスタンスとしての悪用、といった異常なアクティビティを検出できます。不正利用や設定ミスによる課金の急増を早期に検知できます。
セキュリティ連絡先情報の割当てと最新化
セキュリティに関する連絡先の情報が最新であり、メールアドレスが利用可能であることを定期的に確することにより、AWSセキュリティチームが検出したインフラストラクチャの不正使用や潜在的なセキュリティインシデントについて、アラートを受け取ることができます。
Phase2:基礎
基本的なセキュリティ基盤を構築するフェーズです。実装には少し労力がかかるものの、非常に重要な対策であり、クラウド上で本番ワークロードを運用する全ての組織が実施すべき基礎的な推奨事項です。
代表的な施策は以下です
インフラストラクチャの脆弱性管理と侵入テストの実施
EC2 インスタンスのインフラストラクチャの脆弱性や、OS の設定が CIS によって確立されたベストプラクティスの推奨事項に従っているかを確認するために、Amazon Inspector などの脆弱性管理サービスを利用することをお勧めします。
インベントリと設定変更モニタリング
各アカウントについて、少なくとも概要レベルでインベントリ情報を管理することが重要です。アセットには、アプリケーション、関連するビジネスプロセス、必要なリソース、そして適用すべき重要なセキュリティ設定などの情報を含めるべきです。このような情報を整理しておくことで、アカウント管理とセキュリティ対策をより効果的に行うことができます。
データのバックアップ
情報を暗号化して身代金を要求する悪意のあるプログラム (ランサムウェア) が広く蔓延していることを考えると、情報を失わないようにデータをバックアップすることが不可欠です。
AWS Backupを活用することで、複数のAWS サービスでデータのバックアップを一元化し自動化することを容易にします。
###コードからのシークレットの削除と安全な管理
コードにシークレットを保存することは、認証情報が意図せずに公開や露出する可能性があります。コードから長期的な認証情報を使用するサービスにアクセスする必要がある場合は、AWS Secrets Manager を活用して、認証情報はローテーションして、必要な時に取得してください。
Phase3:効率化
セキュリティ運用を効率化するフェーズです。クラウドセキュリティを効率的に管理できるようにする対策・推奨事項で、多くの組織がこれらの推奨事項との整合を目指す計画を持つべきとされています。Phase2までの「基礎を固める」段階から、「日々の運用負荷を下げながら統制を効かせる」段階へと軸足が移るのが特徴です。
代表的な施策は以下です。
最小権限の見直しと最適化
開発者が IAM ロールを作成するときに、どの権限を付与する必要があるかわからず、できるだけ早くデプロイしようと急いでいると、必要のない追加の権限が必要になることがよくあります。しかし、これは最小原則の原則に沿っていません。IAMロールの不要な権限を削除して、可能な限り最小権限の原則に近づけるように努めましょう。
一元的なログ管理とモニタリングの自動化
複数アカウント・複数サービスのログをAWS Configや集約先アカウントに集約し、逸脱があった際に自動的にアラートが飛ぶ仕組みを整えます。人手による監視から、仕組みによる継続的な監視へ移行するフェーズです。
タグ付け戦略
リソースへのタグ付けルールを統一することで、コスト管理だけでなく、セキュリティ上重要なリソースの識別や、自動化スクリプトによる一括対応がしやすくなります。
Phase4:最適化
高度なセキュリティ運用を実現するフェーズです。日々のセキュリティ姿勢に継続的改善サイクルを適用できるようにする対策です。
Phase3までが「仕組みを整えて効率的に回す」段階だとすると、Phase4は「その仕組み自体を常に検証し、進化させ続ける」段階です。特定のツールを導入して終わりではなく、組織文化としてセキュリティ改善を継続する体制が求められます。そのため、技術的な施策だけでなく、チーム体制やプロセス面の成熟も含まれるのがこのフェーズの特徴です。
代表的な施策は以下です。
SOARの活用とチケット管理
検知から対応までの一連のプロセスを自動化し、インシデント対応にかかる時間と属人性を減らします。たとえば不審なIAMアクティビティを検知した際に、担当者の確認を待たずに該当の認証情報を自動的に無効化する、といった自動対応(Auto Remediation)の仕組みが該当します。運用負荷の軽減だけでなく、対応の初動を人手より高速化できる点が大きなメリットです。
ゼロトラストアクセス
「社内ネットワークにいるから安全」という境界防御の前提を置かず、すべてのアクセスをユーザー・デバイス・コンテキストに基づいて都度検証するモデルです。IAMのコンテキストベースアクセス制御(アクセス元IP、デバイス状態、時間帯などによる条件付きアクセス)を組み合わせることで、リモートワークやマルチクラウド環境でも一貫したセキュリティレベルを維持できます。
レッドチーム / ブルーチーム演習
攻撃側(レッドチーム)と防御側(ブルーチーム)に分かれて実践的な攻防演習を行い、検知・対応プロセスの実効性を検証します。机上のプレイブックが実際のインシデントで機能するかを確認し、見つかった課題を継続的にフィードバックすることで、組織全体の対応力を底上げします。
まとめ
実際に活用して感じたメリット
AWS環境のセキュリティ改善を検討する際、このモデルの最大の価値は「優先順位付け」にあると感じています。
現場では、Security Hubを入れるべきか、GuardDutyを有効化すべきか、IAMを整理すべきか
など、多数の施策候補があります。しかし、限られた時間と予算の中で全てを同時に実施することはできません。
AWSセキュリティ成熟度モデルは、
「まずMFAを有効化する」
「次に監査ログを取得する」
「その後に運用自動化へ進む」
という現実的なロードマップを示してくれるため、クラウドセキュリティ推進の指針として非常に有効です。
AWSセキュリティ成熟度モデルは、AWS環境のセキュリティを段階的に強化するための実践的なフレームワークです。
ポイントは以下の3つです。
- セキュリティ対策の優先順位を明確化できる
- 技術・人材・プロセスを含めた組織全体を対象としている
- クイックウィンから始めることで短期間でリスクを低減できる
AWSを利用している組織で「何からセキュリティ対策を始めるべきか迷っている」という場合は、まずAWSセキュリティ成熟度モデルを確認し、自社がどのフェーズに位置しているかを評価してみることがおすすめです。