はじめに
Amazon WorkSpaces Advisor は、AI を活用した WorkSpaces Personal の問題診断・解決支援機能です。この機能を使用して、実際にパフォーマンス問題を抱えていた WorkSpaces Personal を調査してみました。
WorkSpaces Advisor の特徴は以下の通りです:
- 追加料金なしで利用可能
- 60秒未満で過去3日間のデータを分析
- CloudWatch メトリクスやテレメトリデータを自動解析
- 具体的な修復アクションを提案
- Amazon Q Developer とのチャット機能で深掘り可能
調査した環境
- WorkSpacesタイプ: PERFORMANCE
- リージョン: ap-northeast-1 (東京)
-
主な症状:
- マウスやキーボード入力の遅延
- 画面のフリーズや反応の遅さ
- 全体的な動作の重さ
WorkSpaces Advisor の実行手順
調査は非常に簡単でした:
- Amazon WorkSpaces コンソールを開く
- ナビゲーションペインで WorkSpaces → 個人 を選択
- 調査対象の WorkSpaces を選択

図1: WorkSpaces Personal 画面で調査対象を選択
- WorkSpaces にチェックを入れて選択
- 調査 ボタンをクリック

図3: 「何が起こっているかを説明する」画面で症状を入力(オプション)
- 約60秒待つと調査が完了

図4: WorkSpaces Advisor が調査を実行中
調査結果:2つの重要な問題を検出
WorkSpaces Advisor は問題を重要度順に表示してくれます。今回は2つの重大な問題が特定されました。
問題1: メモリ飽和とネットワーク劣化による WorkSpaces の遅延
重要度: 高

図6: 問題1の詳細 - WorkSpaces Slowness Caused by Memory Saturation and Network Degradation
診断内容
WorkSpaces Advisor は以下の詳細なテレメトリデータを提示しました:
メモリ関連の問題:
- メモリ使用率が 90%以上を継続的に維持
- 切断中: 45.6時間
- 接続中: 4.2時間
- プロセス分析の結果:
- Google Chrome: 47-52%のメモリを消費
- Mozilla Thunderbird: 11-13%のメモリを消費
- 切断後もこれらのアプリケーションが起動したまま
- 合計で8GBメモリの 60-65%を常時消費
ネットワーク関連の問題:
- 9月15日 04:19のセッション:
- 平均パケット損失: 7.05%
- 平均レイテンシ: 72.07ms (最大347ms)
- 9月15日 23:34のセッション:
- 平均レイテンシ: 129.82ms (最大148ms)
- 直近5セッション中4セッションで 4.71-7.05%の重大なパケット損失
- 以前のセッション (9月11日、14日) では健全なレイテンシ (11.5-32.59ms) だった
- Palo Alto Networks (VPN/ZTNA) 経由の接続を検出
問題2: ネットワーク劣化とメモリ飽和によるマウスと入力の遅延
重要度: 高

図8: 問題2の詳細 - Mouse and Input Lag Caused by Network Degradation and Memory Saturation
この問題は問題1と関連しており、ネットワークとメモリの両方の問題が組み合わさって、ユーザーの操作に直接影響を与えていました。
WorkSpaces Advisor が提案した推奨アクション
WorkSpaces Advisor は各問題に対して、具体的で実行可能なアクションプランを提示してくれました。
アクション1: アプリケーション終了ポリシーの実装とブラウザメモリ制限の設定
目的: メモリ使用率を60%以下に抑える
具体的な手順:

図9: 代替アクション - ネットワーク変更の調査とアプリケーション終了ポリシー
- ユーザー教育: WorkSpaces 切断前に Chrome と Thunderbird を終了するよう指導
-
Chrome のメモリセーバーモード有効化:
- Chrome 設定 → パフォーマンス → メモリセーバー を有効化
- 非アクティブなタブのメモリ使用量を自動削減
-
Chrome 拡張機能の見直し:
- 不要な拡張機能を無効化
- メモリを多く消費する拡張機能を特定して削除
-
Thunderbird の最適化:
- フォルダの定期的な最適化を設定
- メモリフットプリントを削減
-
リマインダータスクの設定:
- 切断前にリマインダーメッセージを表示するスケジュールタスクを作成
-
モニタリング:
- 変更実施後、切断後5分以内にメモリが60%以下に下がることを確認
-
追加対応 (必要に応じて):
- 他のバックグラウンドプロセスを特定
- 不要なサービスを無効化
アクション2: ネットワーク安定性と VPN 設定の確認
目的: パケット損失を解消し、レイテンシを正常範囲 (30ms以下) に戻す
具体的な手順:
-
有線接続へのテスト切り替え:
- Wi-Fi から有線 Ethernet に切り替えて30分テスト
- 無線干渉を切り分け
-
VPN 有効時の継続的 ping テスト:
-
workspaces.ap-northeast-1.amazonaws.comへ30分間 ping - パケット損失を記録
-
-
VPN 無効時の比較テスト:
- VPN を切断して同様の ping テストを実施
- VPN の影響を特定
-
スプリットトンネルの設定:
- Palo Alto Networks VPN でスプリットトンネルを設定
- WorkSpaces トラフィック (ポート4195、UDP/TCP) を VPN から除外
-
エスカレーション (スプリットトンネルが不可の場合):
- VPN/ネットワーク管理チームへエスカレート
- WorkSpaces エンドポイント向けのルーティングオプションを検討
-
ISP レベルの輻輳確認:
- 異なる時間帯でテストを実施
- ISP 側の問題を切り分け
-
ファイアウォール/エンドポイント保護の確認:
- ローカルファイアウォールやセキュリティソフトウェアがポート4195のUDPトラフィックを妨害していないか確認
アクション3: 最近のネットワーク変更と VPN ルーティングの調査
目的: 9月14日から15日にかけてレイテンシが11-33msから72-130msに悪化した原因を特定
具体的な手順:
-
ユーザーへのヒアリング:
- 9月15日前後にネットワーク変更があったか確認
- 新しい VPN 設定、Wi-Fi ネットワーク変更、ISP 変更など
-
スプリットトンネル設定 (再掲):
- ポート4195の WorkSpaces トラフィックを VPN から除外
-
VPN なしでのレイテンシテスト:
- VPN の寄与度を切り分け
-
有線接続でのテスト:
- 無線干渉を排除
-
traceroute の実行:
traceroute workspaces.ap-northeast-1.amazonaws.com- 高レイテンシのホップを特定
-
ISP ルーティング変更の確認:
- 異なる時間帯でテストを実施
アクション4: POWER コンピューティングタイプへのアップグレード
前提条件: Chrome と Thunderbird を切断中も実行し続ける必要がある場合
理由: PERFORMANCE タイプの8GB RAMでは不十分。POWER タイプの16GBにアップグレードすることで、バックグラウンドアプリケーション用の十分なメモリヘッドルームを確保できます。

図10: POWER コンピューティングタイプへのアップグレードオプション
注意事項:
- ユーザーは最大1時間切断され、WorkSpaces にアクセスできない
- 保存されていない作業はすべて失われる
- コンピューティングタイプは 6時間に1回アップグレード可能、30日に1回ダウングレード可能
- 一部のコンピューティングタイプでは最小ボリュームサイズ (175GB ルート、100GB ユーザー) が必要
- ファミリー間の GPU 変更はサポートされていない
- 追加料金が発生する
WorkSpaces Advisor の優れている点
実際に使ってみて感じた WorkSpaces Advisor の強みをまとめます:
1. 包括的な診断
単一のメトリクスではなく、複数のデータソースを統合して分析:
- CloudWatch メトリクス (CPU、メモリ、ディスク使用率)
- ネットワークテレメトリ (パケット損失、レイテンシ)
- プロセス情報 (実行中のアプリケーション)
- WorkSpaces 設定情報
2. 時系列での変化を検出
「9月14日までは正常 (11-33ms) だったのに、9月15日から劣化 (72-130ms)」という時系列での変化を自動検出してくれました。これにより、「最近何か変わったはずだ」という調査の方向性が明確になりました。
3. 具体的で実行可能なアクションプラン
「メモリ不足です」だけでなく、以下のような具体的な手順を提示:
- どのアプリケーションが何%消費しているか
- どの設定をどう変更すべきか
- どの順序で対策を進めるべきか
4. リスクと影響の明示
アップグレードを提案する際に:
- ダウンタイム: 最大1時間
- 制約: 6時間に1回までアップグレード可能
- コスト: 追加料金が発生
このような情報を事前に提示してくれるため、意思決定がしやすくなります。
5. Amazon Q Developer との統合
調査結果から直接 Amazon Q Developer とチャットできるため、以下のようなフォローアップが可能:
- 「なぜこのパケット損失が発生しているのか?」
- 「スプリットトンネルの具体的な設定方法は?」
- 「他に考えられる原因は?」
利用時の注意点
必要なIAMアクセス許可
調査を実行するには、IAMロールに以下のアクセス許可が必要です:
{
"Version": "2012-10-17",
"Statement": [
{
"Effect": "Allow",
"Action": [
"workspaces:InvokeTroubleshootingInvestigation",
"workspaces:GetTroubleshootingRecommendation",
"workspaces:ListTroubleshootingRecommendations",
"workspaces:DescribeWorkspaces",
"cloudwatch:GetMetricData"
],
"Resource": "*"
}
]
}
修復アクションを実行する場合は、さらに以下が必要です:
workspaces:RebootWorkSpaces-
workspaces:ModifyWorkSpaceProperties
など
調査の制限
- 一度に1つの WorkSpaces のみ調査可能
- 過去 3日間 のデータのみ分析対象
- 分析は通常 60秒未満 で完了
まとめ
Amazon WorkSpaces Advisor は、従来なら以下の作業が必要だったトラブルシューティングを大幅に効率化してくれました:
従来の方法:
- CloudWatch でメトリクスを個別に確認
- WorkSpaces にログインしてプロセスマネージャーを確認
- ネットワークテストツールで手動計測
- 複数の情報源を突き合わせて原因を推測
- ナレッジベースやドキュメントから解決策を探す
WorkSpaces Advisor を使った方法:
- コンソールで「調査」ボタンをクリック
- 60秒待つ
- 問題と推奨アクションのリストを確認
- 提示された手順に従って対策を実施
特に優れているのは、複数の問題の相関関係を自動的に分析してくれる点です。今回のケースでは、メモリ問題とネットワーク問題が独立した問題ではなく、両方が組み合わさってユーザー体験を悪化させていることを明確に示してくれました。
WorkSpaces の管理者やサポート担当者にとって、WorkSpaces Advisor は非常に有用なツールだと感じました。追加料金なしで利用できるため、パフォーマンス問題が発生した際は、まず WorkSpaces Advisor で調査することをお勧めします。
参考リンク
- Amazon WorkSpaces Advisor 公式ドキュメント
- AWS Organizations のオプトアウトポリシー (サービス改善のためのデータ使用をオプトアウトする場合)


