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LTE→5Gがブレークスルーになるには 〜電波政策提言編〜

Last updated at Posted at 2019-12-29

前回の記事「LTE→5Gがブレークスルーになるには」の補遺として、LTE→5Gがブレークスルーになるには電波政策をどうしていけばよいか、について提言をしてみます。意外と真面目に考えて有効そうな政策ができましたので、関係者の目に留まることを期待します。

なお、これまでの記事より、かなりマニアックな内容になっています。

1. <5G>の電波関連の状況

提言をするにあたって、5Gの電波関連の状況をまとめておきます。

1.1. <5G>は3つの周波数帯の組み合わせ

5Gの利用には大きく分けて3つの周波数帯があります。1GHz未満のサブギガ、6GHz未満(特に3〜4GHz)のSub6、24GHz〜のミリ波です(正式なミリ波の定義は30GHz〜ですが、便宜上それに近い周波数をまとめてミリ波と呼んでいます)。こちらの記事1を見ると、その3つの周波数帯を採用している国が多いことがわかるでしょう。なお、こちらの記事の中国の記載はやや古いようです。

周波数が高くなるほど、広い帯域幅が取りやすいため、5Gの特徴である超高速、超低遅延、多数接続が実現しやすくなります。一方、直進性が強く減衰しやすくなるためエリア展開には苦労します。よって、この3つの周波数帯を組み合わせて利用することが推奨されています2

1.2. パブリック5GはSub6が本命

5Gのサービスが世界で開始されて半年あまりが過ぎ、実態が明らかになってきました。どうも、パブリック5GはSub6が本命なようです。

1.2.1. サブギガは「Better LTE」に過ぎない

T-mobileのサブギガのエリア展開3は目をひきましたが、実態は「LTEと大差がない5G」となっているようです4。LTEと比較して平均で20%高速である、という記事もあります5。エリアを重視してサブギガで展開するのは、5Gの魅力を損なってしまう、ということが明らかになってきました。

サブギガのエリア展開は、屋内などSub6/ミリ波が届きにくいところでLTEへのフォールバックを防止する効果(スイッチ遅延が韓国では1〜3秒発生して問題になったそうです6)はあるものの、優先度は高くないようです。

1.2.2. ミリ波を見限る米国

一方、ミリ波は、エリアが小さ過ぎて展開が進まず、かつ屋内にはほとんど浸透しないため、使い物にならないようです7。また、天候にも影響を受けやすいという弱点があります8

もともと、ミリ波の利用は、米国・韓国・日本が中心でした。特に米国はSub6の空き周波数帯があまりなく、サブギガ+ミリ波の組み合わせで展開することが必要でした9。しかし、後で述べるように中国はSub6に集中し、韓国もSub6重視に舵を切っています6。米国国防総省はこの状況に痺れを切らして方針を転換し、Sub6の開放を強く推奨しはじめました10。国防総省自身が保有するSub6帯域を開放する方法として、LTEと5Gを同一周波数位帯に重畳する技術であるDSS1112や、空き周波数を優先度に応じて動的に割り当てるCBRS/SASといった方式を取り入れようとしています6

1.2.3. 中国はSub6に集中

一方、中国はSub6に集中しているようです。中国国内スマホは、n41(2.5〜2.7GHz)、n78(3.3〜3.8GHz)がほぼ全機種対応、その次にn79(4.4〜5.0GHz)が対応される、という感じで、サブギガ対応はほとんどなく、ミリ波対応は全くありません13141516171819。比較対象として、例えば韓国サムスンはミリ波対応しています20

なお、Sub6であっても屋外基地局から屋内には電波がほとんど届かないことは、これまでの記事での旧ソフトバンクやUQの例からも明らかです。最近では楽天が同じ憂き目にあっているようです21。しかし、だからといってサブギガでエリア展開するのは5Gにとって本質的では無いことは、これまでに述べたとおりです。むしろ、大規模施設では屋内基地局の設置、小規模施設や一般家庭には屋外〜屋内の中継アンテナ(5G〜5Gまたは5G〜Wi-Fi6)での対応が正解のようです22

1.3. ローカル5Gの屋内利用に期待されるミリ波

それでは、ミリ波は使えないのでしょうか。そうではありません。ある程度エリアカバレッジが必要なパブリック5Gでは扱いにくいミリ波ですが、特定場所で使えれば良いローカル5Gにおいては、むしろ期待できると考えます。

1.3.1. 期待される超高速・超低遅延の組み合わせ

工場や病院では、高精細画像を超高速伝送して実現する高度な検査や、製造ロボットや手術ロボットを超低遅延でリアルタイムに制御することが期待されます。これまでは有線ネットワークによって実現していましたが、これらを無線化することで、変化への対応力が高まります。より高速、より低遅延を得るためには、広い帯域幅が必要であり、ミリ波が優位です。

なお、多数接続はどちらかといえば競技場や広域IoT利用など、パブリックで必要となる特性と考えます。

1.3.2. ミリ波×ローカル5Gで日本が先行

ローカル5Gのように一般企業に5Gライセンスを供与する動きは国際的にはまだあまり多くなく、ドイツに取り組みがあるくらいです23。また米国ではCBRS/SASで一般企業でも5Gネットワークが作れるようになっています6。しかし、ドイツ・米国とも対象はSub6であり、ミリ波をローカル5Gに開放しているのは日本だけです。

パブリック5Gは国際協調がエコシステム上重要ですが、ローカル5G、特に何億円もの産業機器を無線化するような用途では、先行者利益が上回ります。

1.3.3. 超低遅延の実現に必要なエッジコンピューティング技術も日本は先行

超低遅延には注意が必要です。帯域幅で実現する部分は低遅延化の一部であり、低遅延化の多くはエッジコンピューティングで実現するためです。

この時、5Gの特徴であるU-plane(ユーザデータ通信)とC-plane(制御通信)の分離が生きてきます。すなわち、ユーザデータはコアである5GCまで到達する必要はなく、基地局のCUで終端することが可能になります。これにより、基地局内や基地局近辺に設置したエッジコンピュータにユーザデータ通信を低遅延で直結させることができます2425

日本はものづくり系企業を中心にエッジコンピューティング周辺の技術開拓が行われており26、この点でも相性が良いです。

なお、5GC〜CUのインタフェースは3GPPで規程されO-RANによって実装互換性が図られています27。O-RANはDU〜RU間のインタフェースが有名ですが、それ以外の活動も行っており、5GC〜CUのインタフェースであるE2に関する技術検討WGも存在します。またCUは厳密には制御側とユーザ側で分離され、相互のインタフェースがE1として規程されており、O-RANではE1のオープン化を推進するWGも存在します(WG作業の進捗は未確認です)。

1.3.4. 距離問題はビームフォーミングで解決

ミリ波の伝送距離は50m〜200mと言われており、屋内であってもやや心許無い状況です。しかし、指向性を持たせるビームフォーミング技術により長距離伝送は可能です28。ローカル5Gであれば、特定の機器との接続を実現できれば良いため、ビームフォーミングとの相性は良い関係にあります。

2. 提言の前提条件

提言をするにあたって、前提条件を示します。

2.1. 既存電波政策の延長で考える

日本のパブリック5G/ローカル5Gの電波政策はスタートされており29、これを全く無に帰することは提言しても実効性がありません。そのため、既存電波政策の延長で考えることにします。

なお、日本では、n77(3.3〜4.2GHz)、n78(3.3〜3.8GHz)をパブリックのSub6帯域としており、n79(4.4〜5.0GHz)を一部パブリック、一部ローカルに割り当てています。サブギガは未使用です。また、n41(2.5〜2.7GHz)をローカル5GのアンカーLTE、および全国/地域BWA事業者で利用しています。全国BWA事業者の要望により、DSS方式での5G利用が今後解禁される見通しです30。この他に28GHz近辺のミリ波であるn257が規程されており、特にローカル5Gのミリ波は最大900MHz幅を誇ります(現状解禁されたのは100MHz幅のみ)。

2.2. キラーアプリ議論は棚上げする

前回の記事「LTE→5Gがブレークスルーになるには」で、キラーアプリ不在を示していますが、ここについての深堀はしないものとします。現時点でキラーアプリ探しに終始しても不毛ですので、5Gのインフラ展開を加速して、コンシューマイノベーションを含むブレークスルーが発生することを期待します。

3. 提言

以上の状況、前提をもとに、電波政策への提言をします。

3.1. Sub6はパブリック5Gとローカル5Gの相互接続の促進を

Sub6は5Gのメイン周波数として位置付け、あらゆる手段で国内エリア展開を図る政策をとるべきです。特に、昨今のキャリアのインフラ投資抑制に対応する形で、ローカル5Gによるキャリア以外の投資をうまく活用すべきです。産業用途や自治体用途での需要家が自らエリア展開できるのがローカル5Gの良いところですので、その考えを推し進めて、キャリアのパブリック5Gエリア展開とローカル5Gとの全体最適がされるようにするべきです。

(案A) 信号機基地局スキームの拡張

現在、信号機20万機へのパブリック5G展開が検討されています31。そのスキームは検討中ですが、誘致したい主体(国)とサービス主体(キャリア4社)が別である基地局が生まれることになります。

このスキームを拡張して、工場や病院、自治体などが、望む場所へ基地局を誘致できるようにすることを考えます。すなわち、自ら基地局を設置し、もしくはキャリア4社に費用を払って共同基地局を設置してもらい、キャリアに使ってもらうのです。共同基地局の提供母体として信号機20万機を提供することになった組織が入り、企業や自治体とキャリアを仲介するスキームも考えられます。これにより、ローカル5Gという体裁を取らなくてもエリア整備ができ、キャリアにとっても設備投資の最適化ができるようになります。また20万機を前提にした設備開発調達スキームを広げることで、低コストでの展開も可能になります。

(案B) E1/E2の開放

ローカル5Gのスキームを使うのであれば、基地局のみ自身でローカル設置運営し5GCはキャリアから借りることができると効率的です。この時、E1/E2インタフェースをローカル5G〜パブリック5Gのインタフェースとして公開を促進する、ということが望ましいです。E1/E2で分界することでローカル側にCU-UPを配置できるため超低遅延が実現可能になります。

2つの案を比較すると、すでにスキーム構築がされようとしている前者の方が、実現可能性は高いように思います。すでにWi-Fiホットスポット展開では同様のスキームが使われています。

3.2. ローカル5Gミリ波の屋内利用には一層の規制緩和を

ミリ波の広い帯域幅は、産業用途に期待ができます。ローカル5G利用促進のために、アンライセンス化とまではいきませんが、届出のみで利用可能にしたり、電波使用料徴収を止めたりするなど、一層の規制緩和が望まれます。

産業用途は変化への対応が生命線です。現状の制度では、レイアウト変更や新しい機器の導入にあたって、ビームフォーミングを調整するだけで、アンテナの位置や出力の調整をするだけで、ライセンス修正申請が必要になってしまいます。※2020/1/9修正: 有識者の方から、ビームフォーミングの調整はライセンス修正申請は不要、との見解をいただきました。またわずかな電波使用料の徴収との引き換えに、面倒な管理報告を義務付けてしまっています。屋内限定で良いので、これらを無くして、事実上自由にミリ波を使えるようにすべきです。

前回記事で紹介したOCP-UAやumati32など、情報収集・見える化の標準化は国際的に進展しています。こういった方面では国際協調しつつ、未着手の高精細画像系や制御系の分野にミリ波を活用して垂直ユースケースを作るべきです。

また、これらの成果としての次世代工場や次世代病院のモデルを、5G〜業務の垂直統合でパッケージングし、官民一体で海外に輸出することで、ビジネスが大きく拡大すると思います。

3.3. 設備コストを下げるための政策を

最後に、各種設備コストを下げるための政策を推奨します。

3.3.1. オープン技術開発への補助金投入

5Gが発展途上であるここ数年で、いたずらに5Gのインフラ整備や利活用に対して補助金をばら撒くのはあまり効果がありません。それよりも以下のようなオープン技術開発に補助金を投入すべきです。

  • 5GCや基地局ソフトウェアのオープンソース開発
  • O-RAN対応機器の開発、特に低価格の屋外〜屋内中継アンテナの開発
  • 5G端末として機能する屋外5G〜屋内Wi-Fi6中継機の開発(BuffaloやI/Oデータなどが数千円で販売できるレベルにしたい)

米国でもオープンソース開発を促進させようとする動きがあるようです33。なお、日経のニュース34ではオープンソースとO-RAN(インタフェースのオープン化)を混同しているようなのはご愛嬌です。

3.3.2. 中国リスクのコントロール

日本のSub6周波数帯は、狙ったかのように中国の重点周波数と適合しています(n77を除く)。数年前まで、各キャリアがこぞってファーウェイを採用しようとしていたので、その名残りなのでしょうか。しかも、n41(2.5〜2.7GHz)、n79(4.4〜5.0GHz)は国際協調から外れていて不利な周波数帯と思われた1のが、しっかりと中国での重点周波数となっていたのは、これまで述べたとおりです。

この状況を生かして、中国からの局設備や端末の調達を、もっと積極的に行うことで、設備コストの一層の低減による、エリア展開の加速が可能になります。

しかし、米中貿易戦争のため、ファーウェイなど米国から名指しされた企業に関して輸入規制がかかっています。それ以外の企業でも、中国企業はいつ米国から名指しされ輸入規制がかかるかわからないリスクがあります。一方、欧州は日本よりも米中等距離外交をしており、米国の規制要望に対して議論はあるものの対抗しています35

ファーウェイをOKにせよ、とまでは言いません。しかし、日本のエリア展開において中国企業を活用した際に、リスクをコントロールできるようなルールを明確にすべきと思います。


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