アサーティブコミュニケーションとは
アサーティブコミュニケーションというものがあるのをご存知でしょうか。
簡単に言うと、「相手を尊重しながら自分の気持ちを伝えるスキル」のことです。
アサーティブ(assertive)という言葉には元々「自己主張する」という意味が含まれているそうです。
その意味のとおり、相手を一方的に尊重するだけでなく、自分の意見も主張しながらお互いが納得できるコミュニケーションのことを指します。
私は最近アサーティブコミュニケーションについて学ぶ機会に恵まれました。
その中で、アサーティブコミュニケーションについて、調べてみると、ビジネス上のコミュニケーションの手法として注目されていることがわかりました。
社内研修でも取り上げられている内容のようです。
よくあるアサーティブコミュニケーションの講座では、大事なことは適切な言葉遣い+表情+傾聴+Iメッセージ(私は〜と思うのような)…などと習います。
しかし、我々エンジニアのアサーティブコミュニケーションにはもっと根底に大切なものがあるのではないかと思ったので、今回はその話をしたいと思います。
著者のコミュニケーションについての体験談
私は過去、建設現場で働いた経験があります。
現場では自分一人で仕事をするわけではありません。
多くの職人さんと一緒に仕事をすることになります。
職人さんとコミュニケーションを取るためにまず大事なことは、相手に舐められないことではないかと思います。
こちらが「経験が浅いです」、「あまり現場に詳しくないです」ということがわかると、相手はこちらの言うことを聞いてくれなくなります。
職人さんと円滑なコミュニケーションを取るには、現場に詳しくなる、もしくは初日だけでもベテラン技術者に同行してもらうなどにより対等に話せることを伝える必要があります。
相手に「こいつは信用できる」と思わせる、もしくは会社に最初の信用を借りるということです。
これは、相手と「同じ土俵に立つ」とも言えると思います。
ただし、「同じ土俵に立つ」ことは「同じ能力を持つ」ことではありません。
相手が仕事の話をするために要求する技術レベルがあると思います。
それに達していることが「同じ土俵に立つ」ことだと思います。
相手が「こいつは同じ土俵に立てる人間だ」と思ってもらえると、以下のような会話・議論になります。
「それじゃ施工できねえよ」
「どこが無理です?」
「ここに機械入らないだろ」
「あー、確かに。じゃあこっちから入れるなら?」
「それならできる」
また、職人さんには譲れない自分のやり方というものがあります。
それを尊重しつつも、譲れない箇所については自分の意見を主張すると以下のような会話・議論になります。
「その施工方法でやっている理由は分かりました。ただ、今回はここだけは◯◯を確保する必要があります。そこを満たす方法ってありますか?」
「それならこうすればできる」
「それで要求条件は満たせます」
「じゃあそれでやろう」
アサーティブコミュニケーションで教わるような言葉遣いや表情ではないかもしれない(現場の職人さんは強面の人が多いというイメージはあながち間違いではない)ですが、お互いが相手の専門性を認めているので、ものすごくアサーティブな状態であると思います。
建設業はチーム作業なので、対等であればみんな意外と優しかったりします。
エンジニアにとってアサーティブなコミュニケーションとは
先ほどの経験を踏まえ、エンジニアにとってのアサーティブコミュニケーションに最も必要なことは、「同じ土俵に立つ」ことだと思います。
そして、自分が最低限譲れないところは主張し、かつ相手の技術力を尊重することがアサーティブなコミュニケーションではないでしょうか。
エンジニアの世界では、①同じ土俵に立つから始まり、②相手から専門的な対話者として信用される→③お互いに主張・質問・反論ができる→④言葉遣いや表情なので摩擦を減らすという順番になると思います。
④がアサーティブコミュニケーションとして教わる重要なポイントであることは間違いないでしょうが、①〜③が成立していないとお互いが尊重し合うという関係を築くことに限界が生じます。
ここで、注意したいのは、相手と同じ技術レベルである必要はないということです。
入社1年目と5年目では期待されるレベルが違って当然です。
ただし、自分の役割に応じて要求される専門性を身につけることは、対等な技術的コミュニケーションの土台になるのではないかと思います。
私は数値解析を専門にしていますが、例えば1年目の社員が「整合接線係数」という言葉を知らなくても問題はありません。
逆に10年目のある程度数値解析等の経験を積んだ社員が、「有限要素法とはなにか」という質問に答えられなければ、「勉強が足りないんじゃない?」と思われる可能性があります。
これは概念的に以下が成立しているかどうかということだと思います。
$$ L_{\mathrm{actual}} \approx L_{\mathrm{expected}} (\text{勤続年数、役割、担当業務})$$
一度、$L_{\mathrm{actual}} < L_{\mathrm{expected}}$と認識されると、その後のコミュニケーションそのものが変わってしまう可能性があります。
本来なら、
A「この条件なら◯◯の方がいいと思います」
B「なるほど。なぜ?」
という会話ができるはずなのに、
A「この条件なら◯◯の方がいいと思います」
B「…それ、ちゃんと分かって言ってる?」
という会話にになってしまいます。
発言内容ではなく、発言者の理解度を確認するところから会話が始まることになります。
そうなると、本人がアサーティブな表現をいくら勉強しても、対等な「議論」に持っていくコストが非常に高くなります。
逆に、対等な技術コミュニケーションができる相手とは、ただの雑談からでも「議論」に発展する可能性があります。
これは非常にいい兆候だと思います。
アサーティブコミュニケーションというと、言葉遣い、表情、傾聴などの「話し方」に注目しがちであるというのは最初に述べたとおりです。
しかし技術者同士では、その前に「お互いが専門的な対話者として同じ土俵に立てているか」が重要なのではないかと思います。
おわりに
技術力は、相手より優位に立つためのものではありません。
自分の要求を根拠とともに説明し、相手の専門的な提案を理解し、一緒に解決策を考えるためのものでもあります。