前書き
マルコフ連鎖を使って自分らしい文章をツイートする
こちらの記事の内容がとても面白かったのですが、Pythonのバージョンが上がっていたりで少し苦戦したので、現環境で動くコードを置いておきます。
この記事の前にマルコフ連鎖を使って自分らしい文章をツイートするをさっと読んでおいていただけると、スムーズに進めると思います。
まとまったコードはここに
https://github.com/tktcorporation/marcof_texts_generater
レベル感
- とりあえずpython3を入れてみたけど何やったら良いのかさっぱり
- いい感じのチュートリアルを探している
環境
$ python3 -V
Python 3.7.0
パッケージがないと怒られた場合は適時入れてください。
実行履歴が残っていた分を一応載せておきます。
$ pip3 install tqdm
$ pip3 install mecab-python3
$ pip3 install pandas
やってみる
https://github.com/o-tomox/TextGenerator
マルコフ連鎖による文章生成の部分はここのコードを一部修正したものを使用しています。
##LINEのトーク履歴を使う場合
「Tweetはろくにしてないけど、LINEならよく使うよ。」という方なんかのために。
ただ、tweetと違ってがっつり個人情報だったりが含まれている場合があると思いますのでそこはご注意を。
LINEアプリからトーク履歴をダウンロードして、そこから特定のユーザーの発言だけを抽出、CSVで書き出しておきます。
import csv
import pandas as pd
import re
csvfilepath = input('LINEでダウンロードしたテキストファイル filepath : ')
line_name = input('解析したいユーザーの名前 : ')
data = pd.read_table(csvfilepath, names=('time', 'name', 'text'), encoding='utf-8')
print("line_name: " + line_name)
data = data[data["name"] == line_name]
data.to_csv("line_texts.csv")
$ python3 line_to_csv.py
##加工(Tweet履歴を使う場合はここから)
tweet履歴の取得方法はここから「マルコフ連鎖を使って自分らしい文章をツイートする」
メンション、URL、LINEのトークを読み込んだ場合の「写真」メッセージなんかを取り除きます。
網羅しているわけではないので、他に取り除きたいものがあればいい感じに追加してください。
import pandas as pd
import re
csvfilepath = input('csv filepath : ')
df = pd.read_csv(csvfilepath)
tweets = df['text']
replypattern = '@[\w]+'
urlpattern = 'https?://[\w/:%#\$&\?\(\)~\.=\+\-]+'
moviepattern = '\[動画\]'
picturepattern = '\[写真\]'
stickerpattern = '\[スタンプ\]'
notepattern = '\[ノート\]'
processedtweets = []
for tweet in tweets:
i = re.sub(replypattern, '', tweet)
i = re.sub(urlpattern, '', i)
i = re.sub(moviepattern, '', i)
i = re.sub(picturepattern, '', i)
i = re.sub(stickerpattern, '', i)
i = re.sub(notepattern, '', i)
if isinstance(i, str) and not i.split():
pass
else:
processedtweets.append(i)
processedtweetsDataFrame = pd.Series(processedtweets)
newDF = pd.DataFrame({'text': processedtweetsDataFrame})
newDF.to_csv('processed.csv')
$ python3 processed_texts.py
DBへ保存
与えられた文書からマルコフ連鎖のためのチェーン(連鎖)を作成して、DBに保存する。
drop table if exists chain_freqs;
create table chain_freqs (
id integer primary key autoincrement not null,
prefix1 text not null,
prefix2 text not null,
suffix text not null,
freq integer not null
);
# -*- coding: utf-8 -*-
"""
与えられた文書からマルコフ連鎖のためのチェーン(連鎖)を作成して、DBに保存するファイル
"""
import unittest
import re
import MeCab
import sqlite3
from collections import defaultdict
class PrepareChain(object):
"""
チェーンを作成してDBに保存するクラス
"""
BEGIN = "__BEGIN_SENTENCE__"
END = "__END_SENTENCE__"
DB_PATH = "chain.db"
DB_SCHEMA_PATH = "schema.sql"
def __init__(self, text):
"""
初期化メソッド
@param text チェーンを生成するための文章
"""
if isinstance(text, str):
text = text
self.text = text
# 形態素解析用タガー
self.tagger = MeCab.Tagger('-Ochasen')
def make_triplet_freqs(self):
"""
形態素解析から3つ組の出現回数まで
@return 3つ組とその出現回数の辞書 key: 3つ組(タプル) val: 出現回数
"""
# 長い文章をセンテンス毎に分割
sentences = self._divide(self.text)
# 3つ組の出現回数
triplet_freqs = defaultdict(int)
# センテンス毎に3つ組にする
for sentence in sentences:
# 形態素解析
self.tagger.parse('')
morphemes = self._morphological_analysis(sentence)
# 3つ組をつくる
triplets = self._make_triplet(morphemes)
# 出現回数を加算
for (triplet, n) in list(triplets.items()):
triplet_freqs[triplet] += n
return triplet_freqs
def _divide(self, text):
"""
「。」や改行などで区切られた長い文章を一文ずつに分ける
@param text 分割前の文章
@return 一文ずつの配列
"""
# 改行文字以外の分割文字(正規表現表記)
delimiter = "。|.|\."
# 全ての分割文字を改行文字に置換(splitしたときに「。」などの情報を無くさないため)
text = re.sub(r"({0})".format(delimiter), r"\1\n", text)
# 改行文字で分割
sentences = text.splitlines()
# 前後の空白文字を削除
sentences = [sentence.strip() for sentence in sentences]
return sentences
def _morphological_analysis(self, sentence):
"""
一文を形態素解析する
@param sentence 一文
@return 形態素で分割された配列
"""
morphemes = []
node = self.tagger.parseToNode(sentence)
while node:
if node.posid != 0:
morpheme = node.surface
morphemes.append(morpheme)
node = node.next
return morphemes
def _make_triplet(self, morphemes):
"""
形態素解析で分割された配列を、形態素毎に3つ組にしてその出現回数を数える
@param morphemes 形態素配列
@return 3つ組とその出現回数の辞書 key: 3つ組(タプル) val: 出現回数
"""
# 3つ組をつくれない場合は終える
if len(morphemes) < 3:
return {}
# 出現回数の辞書
triplet_freqs = defaultdict(int)
# 繰り返し
for i in range(len(morphemes)-2):
triplet = tuple(morphemes[i:i+3])
triplet_freqs[triplet] += 1
# beginを追加
triplet = (PrepareChain.BEGIN, morphemes[0], morphemes[1])
triplet_freqs[triplet] = 1
# endを追加
triplet = (morphemes[-2], morphemes[-1], PrepareChain.END)
triplet_freqs[triplet] = 1
return triplet_freqs
def save(self, triplet_freqs, init=False):
"""
3つ組毎に出現回数をDBに保存
@param triplet_freqs 3つ組とその出現回数の辞書 key: 3つ組(タプル) val: 出現回数
"""
# DBオープン
con = sqlite3.connect(PrepareChain.DB_PATH)
# 初期化から始める場合
if init:
# DBの初期化
with open(PrepareChain.DB_SCHEMA_PATH, "r") as f:
schema = f.read()
con.executescript(schema)
# データ整形
datas = [(triplet[0], triplet[1], triplet[2], freq) for (triplet, freq) in list(triplet_freqs.items())]
# データ挿入
p_statement = "insert into chain_freqs (prefix1, prefix2, suffix, freq) values (?, ?, ?, ?)"
con.executemany(p_statement, datas)
# コミットしてクローズ
con.commit()
con.close()
def show(self, triplet_freqs):
"""
3つ組毎の出現回数を出力する
@param triplet_freqs 3つ組とその出現回数の辞書 key: 3つ組(タプル) val: 出現回数
"""
for triplet in triplet_freqs:
print("|".join(triplet), "\t", triplet_freqs[triplet])
class TestFunctions(unittest.TestCase):
"""
テスト用クラス
"""
def setUp(self):
"""
テストが実行される前に実行される
"""
self.text = "こんにちは。 今日は、楽しい運動会です。hello world.我輩は猫である\n 名前はまだない。我輩は犬である\r\n名前は決まってるよ"
self.chain = PrepareChain(self.text)
def test_make_triplet_freqs(self):
"""
全体のテスト
"""
triplet_freqs = self.chain.make_triplet_freqs()
answer = {("__BEGIN_SENTENCE__", "今日", "は"): 1, ("今日", "は", "、"): 1, ("は", "、", "楽しい"): 1, ("、", "楽しい", "運動会"): 1, ("楽しい", "運動会", "です"): 1, ("運動会", "です", "。"): 1, ("です", "。", "__END_SENTENCE__"): 1, ("__BEGIN_SENTENCE__", "hello", "world"): 1, ("hello", "world", "."): 1, ("world", ".", "__END_SENTENCE__"): 1, ("__BEGIN_SENTENCE__", "我輩", "は"): 2, ("我輩", "は", "猫"): 1, ("は", "猫", "で"): 1, ("猫", "で", "ある"): 1, ("で", "ある", "__END_SENTENCE__"): 2, ("__BEGIN_SENTENCE__", "名前", "は"): 2, ("名前", "は", "まだ"): 1, ("は", "まだ", "ない"): 1, ("まだ", "ない", "。"): 1, ("ない", "。", "__END_SENTENCE__"): 1, ("我輩", "は", "犬"): 1, ("は", "犬", "で"): 1, ("犬", "で", "ある"): 1, ("名前", "は", "決まっ"): 1, ("は", "決まっ", "てる"): 1, ("決まっ", "てる", "よ"): 1, ("てる", "よ", "__END_SENTENCE__"): 1}
self.assertEqual(triplet_freqs, answer)
def test_divide(self):
"""
一文ずつに分割するテスト
"""
sentences = self.chain._divide(self.text)
answer = ["こんにちは。", "今日は、楽しい運動会です。", "hello world.", "我輩は猫である", "名前はまだない。", "我輩は犬である", "名前は決まってるよ"]
self.assertEqual(sentences.sort(), answer.sort())
def test_morphological_analysis(self):
"""
形態素解析用のテスト
"""
sentence = "今日は、楽しい運動会です。"
morphemes = self.chain._morphological_analysis(sentence)
answer = ["今日", "は", "、", "楽しい", "運動会", "です", "。"]
self.assertEqual(morphemes.sort(), answer.sort())
def test_make_triplet(self):
"""
形態素毎に3つ組にしてその出現回数を数えるテスト
"""
morphemes = ["今日", "は", "、", "楽しい", "運動会", "です", "。"]
triplet_freqs = self.chain._make_triplet(morphemes)
answer = {("__BEGIN_SENTENCE__", "今日", "は"): 1, ("今日", "は", "、"): 1, ("は", "、", "楽しい"): 1, ("、", "楽しい", "運動会"): 1, ("楽しい", "運動会", "です"): 1, ("運動会", "です", "。"): 1, ("です", "。", "__END_SENTENCE__"): 1}
self.assertEqual(triplet_freqs, answer)
def test_make_triplet_too_short(self):
"""
形態素毎に3つ組にしてその出現回数を数えるテスト
ただし、形態素が少なすぎる場合
"""
morphemes = ["こんにちは", "。"]
triplet_freqs = self.chain._make_triplet(morphemes)
answer = {}
self.assertEqual(triplet_freqs, answer)
def test_make_triplet_3morphemes(self):
"""
形態素毎に3つ組にしてその出現回数を数えるテスト
ただし、形態素がちょうど3つの場合
"""
morphemes = ["hello", "world", "."]
triplet_freqs = self.chain._make_triplet(morphemes)
answer = {("__BEGIN_SENTENCE__", "hello", "world"): 1, ("hello", "world", "."): 1, ("world", ".", "__END_SENTENCE__"): 1}
self.assertEqual(triplet_freqs, answer)
def tearDown(self):
"""
テストが実行された後に実行される
"""
pass
if __name__ == '__main__':
# unittest.main()
# 『檸檬』梶井基次郎
text = """えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。焦躁と言おうか、嫌悪と言おうか――酒を飲んだあとに宿酔があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。それが来たのだ。これはちょっといけなかった。結果した肺尖カタルや神経衰弱がいけないのではない。また背を焼くような借金などがいけないのではない。いけないのはその不吉な塊だ。以前私を喜ばせたどんな美しい音楽も、どんな美しい詩の一節も辛抱がならなくなった。蓄音器を聴かせてもらいにわざわざ出かけて行っても、最初の二三小節で不意に立ち上がってしまいたくなる。何かが私を居堪らずさせるのだ。それで始終私は街から街を浮浪し続けていた。
何故だかその頃私は見すぼらしくて美しいものに強くひきつけられたのを覚えている。風景にしても壊れかかった街だとか、その街にしてもよそよそしい表通りよりもどこか親しみのある、汚い洗濯物が干してあったりがらくたが転がしてあったりむさくるしい部屋が覗いていたりする裏通りが好きであった。雨や風が蝕んでやがて土に帰ってしまう、と言ったような趣きのある街で、土塀が崩れていたり家並が傾きかかっていたり――勢いのいいのは植物だけで、時とするとびっくりさせるような向日葵があったりカンナが咲いていたりする。
時どき私はそんな路を歩きながら、ふと、そこが京都ではなくて京都から何百里も離れた仙台とか長崎とか――そのような市へ今自分が来ているのだ――という錯覚を起こそうと努める。私は、できることなら京都から逃げ出して誰一人知らないような市へ行ってしまいたかった。第一に安静。がらんとした旅館の一室。清浄な蒲団。匂いのいい蚊帳と糊のよくきいた浴衣。そこで一月ほど何も思わず横になりたい。希わくはここがいつの間にかその市になっているのだったら。――錯覚がようやく成功しはじめると私はそれからそれへ想像の絵具を塗りつけてゆく。なんのことはない、私の錯覚と壊れかかった街との二重写しである。そして私はその中に現実の私自身を見失うのを楽しんだ。
私はまたあの花火というやつが好きになった。花火そのものは第二段として、あの安っぽい絵具で赤や紫や黄や青や、さまざまの縞模様を持った花火の束、中山寺の星下り、花合戦、枯れすすき。それから鼠花火というのは一つずつ輪になっていて箱に詰めてある。そんなものが変に私の心を唆った。
それからまた、びいどろという色硝子で鯛や花を打ち出してあるおはじきが好きになったし、南京玉が好きになった。またそれを嘗めてみるのが私にとってなんともいえない享楽だったのだ。あのびいどろの味ほど幽かな涼しい味があるものか。私は幼い時よくそれを口に入れては父母に叱られたものだが、その幼時のあまい記憶が大きくなって落ち魄れた私に蘇えってくる故だろうか、まったくあの味には幽かな爽やかななんとなく詩美と言ったような味覚が漂って来る。
察しはつくだろうが私にはまるで金がなかった。とは言えそんなものを見て少しでも心の動きかけた時の私自身を慰めるためには贅沢ということが必要であった。二銭や三銭のもの――と言って贅沢なもの。美しいもの――と言って無気力な私の触角にむしろ媚びて来るもの。――そう言ったものが自然私を慰めるのだ。
生活がまだ蝕まれていなかった以前私の好きであった所は、たとえば丸善であった。赤や黄のオードコロンやオードキニン。洒落た切子細工や典雅なロココ趣味の浮模様を持った琥珀色や翡翠色の香水壜。煙管きせる、小刀、石鹸、煙草。私はそんなものを見るのに小一時間も費すことがあった。そして結局一等いい鉛筆を一本買うくらいの贅沢をするのだった。しかしここももうその頃の私にとっては重くるしい場所に過ぎなかった。書籍、学生、勘定台、これらはみな借金取りの亡霊のように私には見えるのだった。
ある朝――その頃私は甲の友達から乙の友達へというふうに友達の下宿を転々として暮らしていたのだが――友達が学校へ出てしまったあとの空虚な空気のなかにぽつねんと一人取り残された。私はまたそこから彷徨い出なければならなかった。何かが私を追いたてる。そして街から街へ、先に言ったような裏通りを歩いたり、駄菓子屋の前で立ち留まったり、乾物屋の乾蝦や棒鱈や湯葉を眺めたり、とうとう私は二条の方へ寺町を下り、そこの果物屋で足を留めた。ここでちょっとその果物屋を紹介したいのだが、その果物屋は私の知っていた範囲で最も好きな店であった。そこは決して立派な店ではなかったのだが、果物屋固有の美しさが最も露骨に感ぜられた。果物はかなり勾配の急な台の上に並べてあって、その台というのも古びた黒い漆塗りの板だったように思える。何か華やかな美しい音楽の快速調の流れが、見る人を石に化したというゴルゴンの鬼面――的なものを差しつけられて、あんな色彩やあんなヴォリウムに凝り固まったというふうに果物は並んでいる。青物もやはり奥へゆけばゆくほど堆高く積まれている。――実際あそこの人参葉の美しさなどは素晴しかった。それから水に漬けてある豆だとか慈姑だとか。
またそこの家の美しいのは夜だった。寺町通はいったいに賑かな通りで――と言って感じは東京や大阪よりはずっと澄んでいるが――飾窓の光がおびただしく街路へ流れ出ている。それがどうしたわけかその店頭の周囲だけが妙に暗いのだ。もともと片方は暗い二条通に接している街角になっているので、暗いのは当然であったが、その隣家が寺町通にある家にもかかわらず暗かったのが瞭然しない。しかしその家が暗くなかったら、あんなにも私を誘惑するには至らなかったと思う。もう一つはその家の打ち出した廂なのだが、その廂が眼深に冠った帽子の廂のように――これは形容というよりも、「おや、あそこの店は帽子の廂をやけに下げているぞ」と思わせるほどなので、廂の上はこれも真暗なのだ。そう周囲が真暗なため、店頭に点けられた幾つもの電燈が驟雨のように浴びせかける絢爛は、周囲の何者にも奪われることなく、ほしいままにも美しい眺めが照らし出されているのだ。裸の電燈が細長い螺旋棒をきりきり眼の中へ刺し込んでくる往来に立って、また近所にある鎰屋の二階の硝子窓をすかして眺めたこの果物店の眺めほど、その時どきの私を興がらせたものは寺町の中でも稀だった。
その日私はいつになくその店で買物をした。というのはその店には珍しい檸檬が出ていたのだ。檸檬などごくありふれている。がその店というのも見すぼらしくはないまでもただあたりまえの八百屋に過ぎなかったので、それまであまり見かけたことはなかった。いったい私はあの檸檬が好きだ。レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色も、それからあの丈の詰まった紡錘形の恰好も。――結局私はそれを一つだけ買うことにした。それからの私はどこへどう歩いたのだろう。私は長い間街を歩いていた。始終私の心を圧えつけていた不吉な塊がそれを握った瞬間からいくらか弛んで来たとみえて、私は街の上で非常に幸福であった。あんなに執拗かった憂鬱が、そんなものの一顆で紛らされる――あるいは不審なことが、逆説的なほんとうであった。それにしても心というやつはなんという不可思議なやつだろう。
その檸檬の冷たさはたとえようもなくよかった。その頃私は肺尖を悪くしていていつも身体に熱が出た。事実友達の誰彼に私の熱を見せびらかすために手の握り合いなどをしてみるのだが、私の掌が誰のよりも熱かった。その熱い故だったのだろう、握っている掌から身内に浸み透ってゆくようなその冷たさは快いものだった。
私は何度も何度もその果実を鼻に持っていっては嗅いでみた。それの産地だというカリフォルニヤが想像に上って来る。漢文で習った「売柑者之言」の中に書いてあった「鼻を撲つ」という言葉が断れぎれに浮かんで来る。そしてふかぶかと胸一杯に匂やかな空気を吸い込めば、ついぞ胸一杯に呼吸したことのなかった私の身体や顔には温い血のほとぼりが昇って来てなんだか身内に元気が目覚めて来たのだった。……
実際あんな単純な冷覚や触覚や嗅覚や視覚が、ずっと昔からこればかり探していたのだと言いたくなったほど私にしっくりしたなんて私は不思議に思える――それがあの頃のことなんだから。
私はもう往来を軽やかな昂奮に弾んで、一種誇りかな気持さえ感じながら、美的装束をして街を闊歩した詩人のことなど思い浮かべては歩いていた。汚れた手拭の上へ載せてみたりマントの上へあてがってみたりして色の反映を量ったり、またこんなことを思ったり、――つまりはこの重さなんだな。――
その重さこそ常づね尋ねあぐんでいたもので、疑いもなくこの重さはすべての善いものすべての美しいものを重量に換算して来た重さであるとか、思いあがった諧謔心からそんな馬鹿げたことを考えてみたり――なにがさて私は幸福だったのだ。
どこをどう歩いたのだろう、私が最後に立ったのは丸善の前だった。平常あんなに避けていた丸善がその時の私にはやすやすと入れるように思えた。
「今日は一つ入ってみてやろう」そして私はずかずか入って行った。
しかしどうしたことだろう、私の心を充たしていた幸福な感情はだんだん逃げていった。香水の壜にも煙管にも私の心はのしかかってはゆかなかった。憂鬱が立て罩めて来る、私は歩き廻った疲労が出て来たのだと思った。私は画本の棚の前へ行ってみた。画集の重たいのを取り出すのさえ常に増して力が要るな! と思った。しかし私は一冊ずつ抜き出してはみる、そして開けてはみるのだが、克明にはぐってゆく気持はさらに湧いて来ない。しかも呪われたことにはまた次の一冊を引き出して来る。それも同じことだ。それでいて一度バラバラとやってみなくては気が済まないのだ。それ以上は堪らなくなってそこへ置いてしまう。以前の位置へ戻すことさえできない。私は幾度もそれを繰り返した。とうとうおしまいには日頃から大好きだったアングルの橙色の重い本までなおいっそうの堪えがたさのために置いてしまった。――なんという呪われたことだ。手の筋肉に疲労が残っている。私は憂鬱になってしまって、自分が抜いたまま積み重ねた本の群を眺めていた。
以前にはあんなに私をひきつけた画本がどうしたことだろう。一枚一枚に眼を晒し終わって後、さてあまりに尋常な周囲を見廻すときのあの変にそぐわない気持を、私は以前には好んで味わっていたものであった。……
「あ、そうだそうだ」その時私は袂の中の檸檬を憶い出した。本の色彩をゴチャゴチャに積みあげて、一度この檸檬で試してみたら。「そうだ」
私にまた先ほどの軽やかな昂奮が帰って来た。私は手当たり次第に積みあげ、また慌しく潰し、また慌しく築きあげた。新しく引き抜いてつけ加えたり、取り去ったりした。奇怪な幻想的な城が、そのたびに赤くなったり青くなったりした。
やっとそれはでき上がった。そして軽く跳りあがる心を制しながら、その城壁の頂きに恐る恐る檸檬を据えつけた。そしてそれは上出来だった。
見わたすと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。私は埃っぽい丸善の中の空気が、その檸檬の周囲だけ変に緊張しているような気がした。私はしばらくそれを眺めていた。
不意に第二のアイディアが起こった。その奇妙なたくらみはむしろ私をぎょっとさせた。
――それをそのままにしておいて私は、なに喰くわぬ顔をして外へ出る。――
私は変にくすぐったい気持がした。「出て行こうかなあ。そうだ出て行こう」そして私はすたすた出て行った。
変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。
私はこの想像を熱心に追求した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉みじんだろう」
そして私は活動写真の看板画が奇体な趣きで街を彩っている京極を下って行った。"""
chain = PrepareChain(text)
triplet_freqs = chain.make_triplet_freqs()
chain.save(triplet_freqs, True)
from PrepareChain import *
import pandas as pd
from tqdm import tqdm
import sys
def storeTextsToDB():
df = pd.read_csv('./processed.csv')
texts = df['text']
print(len(texts))
chain = PrepareChain(texts[0])
triplet_freqs = chain.make_triplet_freqs()
chain.save(triplet_freqs, True)
for i in tqdm(texts[1:]):
chain = PrepareChain(i)
triplet_freqs = chain.make_triplet_freqs()
chain.save(triplet_freqs, False)
if __name__ == '__main__':
storeTextsToDB()
$ python3 storeTextsToDB.py
それっぽい文章を生成
# -*- coding: utf-8 -*-
"""
マルコフ連鎖を用いて適当な文章を自動生成するファイル
"""
import os.path
import sqlite3
import random
import sys
from PrepareChain import PrepareChain
numb_sentence = 5
class GenerateText(object):
"""
文章生成用クラス
"""
# def __init__(self, n=10):
def __init__(self):
# print ("sentence_numb=" + str(numb_sentence))
"""
初期化メソッド
@param n いくつの文章を生成するか
"""
self.n = numb_sentence
def generate(self):
"""
実際に生成する
@return 生成された文章
"""
# DBが存在しないときは例外をあげる
if not os.path.exists(PrepareChain.DB_PATH):
raise IOError("DBファイルが存在しません")
# DBオープン
con = sqlite3.connect(PrepareChain.DB_PATH)
con.row_factory = sqlite3.Row
# 最終的にできる文章
generated_text = ""
# 指定の数だけ作成する
for i in range(self.n):
text = self._generate_sentence(con)
generated_text += text
# DBクローズ
con.close()
return generated_text
def _generate_sentence(self, con):
"""
ランダムに一文を生成する
@param con DBコネクション
@return 生成された1つの文章
"""
# 生成文章のリスト
morphemes = []
# はじまりを取得
first_triplet = self._get_first_triplet(con)
morphemes.append(first_triplet[1])
morphemes.append(first_triplet[2])
# 文章を紡いでいく
while morphemes[-1] != PrepareChain.END:
prefix1 = morphemes[-2]
prefix2 = morphemes[-1]
triplet = self._get_triplet(con, prefix1, prefix2)
morphemes.append(triplet[2])
# 連結
result = "".join(morphemes[:-1])
return result
def _get_chain_from_DB(self, con, prefixes):
"""
チェーンの情報をDBから取得する
@param con DBコネクション
@param prefixes チェーンを取得するprefixの条件 tupleかlist
@return チェーンの情報の配列
"""
# ベースとなるSQL
sql = "select prefix1, prefix2, suffix, freq from chain_freqs where prefix1 = ?"
# prefixが2つなら条件に加える
if len(prefixes) == 2:
sql += " and prefix2 = ?"
# 結果
result = []
# DBから取得
cursor = con.execute(sql, prefixes)
for row in cursor:
result.append(dict(row))
return result
def _get_first_triplet(self, con):
"""
文章のはじまりの3つ組をランダムに取得する
@param con DBコネクション
@return 文章のはじまりの3つ組のタプル
"""
# BEGINをprefix1としてチェーンを取得
prefixes = (PrepareChain.BEGIN,)
# チェーン情報を取得
chains = self._get_chain_from_DB(con, prefixes)
# 取得したチェーンから、確率的に1つ選ぶ
triplet = self._get_probable_triplet(chains)
return (triplet["prefix1"], triplet["prefix2"], triplet["suffix"])
def _get_triplet(self, con, prefix1, prefix2):
"""
prefix1とprefix2からsuffixをランダムに取得する
@param con DBコネクション
@param prefix1 1つ目のprefix
@param prefix2 2つ目のprefix
@return 3つ組のタプル
"""
# BEGINをprefix1としてチェーンを取得
prefixes = (prefix1, prefix2)
# チェーン情報を取得
chains = self._get_chain_from_DB(con, prefixes)
# 取得したチェーンから、確率的に1つ選ぶ
triplet = self._get_probable_triplet(chains)
return (triplet["prefix1"], triplet["prefix2"], triplet["suffix"])
def _get_probable_triplet(self, chains):
"""
チェーンの配列の中から確率的に1つを返す
@param chains チェーンの配列
@return 確率的に選んだ3つ組
"""
# 確率配列
probability = []
# 確率に合うように、インデックスを入れる
for (index, chain) in enumerate(chains):
for j in range(chain["freq"]):
probability.append(index)
# ランダムに1つを選ぶ
chain_index = random.choice(probability)
return chains[chain_index]
if __name__ == '__main__':
param = sys.argv
if (len(param) != 2):
print(("Usage: $ python " + param[0] + " number"))
quit()
numb_sentence = int(param[1])
generator = GenerateText()
gen_txt = generator.generate()
print(gen_txt)
$ python3 GenerateText.py 1
それっぽいというか、もはや自分の発言と区別つかないです。
参考
https://qiita.com/hitsumabushi845/items/647f8bbe8d399f76825c
https://qiita.com/betit0919/items/4fbba42de6df90bc7088#text-generatorの利用
https://ja.stackoverflow.com/questions/53340/attributeerrorの直し方
GitHub