4
2

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

「勝てるバックテスト」から「壊れにくい戦略」へ:クオンツ戦略を鍛える無料講義ガイド

4
Posted at

— MIT・Stanford・Yale の名講義から厳選、ほぼYouTubeで完結 —

表紙

はじめに

クオンツトレードで本当に難しいのは、予測モデルを作ることではありません。
難しいのは、そのモデルが偶然のフィットではないかを疑い、コスト控除後でも残るエッジを見極め、破綻しないサイズで運用することです。

画像説明

  • バックテストでは勝てるのに、本番運用ではドローダウンが止まらない
  • 特徴量を増やすほど成績が良くなるが、OOSで消える
  • AIモデルを組んでも、何が「偶然のフィット」で何が「本物のエッジ」か判別できない
  • ポジションサイズを決める根拠が結局「勘」になる

こうした問題の多くは、個別テクニックではなく、数学・統計・最適化・市場構造の土台不足から起きます。

世界トップ大学の講義・過去講義・講義ノートの多くは、現在オンラインで無料または無料に近い形で利用できます(ただし、現行授業の一部資料や認定証はログイン制限・有料の場合があります)。本記事では、クオンツトレーダーがその土台を作るために有用な公開講義を5つに絞って紹介します。

ポイントは「有名講義だから観る」ではなく、**「観ないとどの実務判断で詰まるか」**です。


失敗パターン別・先に観るべき講義

「自分の問題はどれ?」から逆引きできるように、まず失敗パターンと対応する講義を示します。

画像説明

よくある失敗 主な原因 先に観る講義
バックテストは強いが本番で崩れる 過学習、リーケージ、非定常性 Statistical Learning → MIT 18.642
シグナルはあるが損益が安定しない サイズ設計・制約設計が弱い EE364A
オプション・ヘッジが感覚論になる 確率過程・動的ヘッジの理解不足 MIT 18.642
MLモデルの良し悪しが分からない 損失関数・汎化・正則化の理解不足 Statistical Learning → CS229
危機時に戦略が壊れる 市場制度・流動性・信用リスクの軽視 Yale Financial Markets

講義一覧

画像説明

優先度 講義 大学 強み
1 Topics in Mathematics with Applications in Finance (18.642) MIT 金融数学の総合基礎
2 Convex Optimization (EE364A) Stanford ポジションサイズ・資金配分
3 Statistical Learning Stanford 過学習を避ける統計感覚
4 Machine Learning (CS229) Stanford MLの体系的基礎
5 Financial Markets Yale 市場の現実とモデル外リスク

1. Stanford Statistical Learning

リンク

この講義が解く問題

過学習をどう避けるか」という、クオンツMLの中心問題に最も丁寧に答えてくれる講義です。Trevor Hastie、Robert Tibshirani(Lassoの発明者)らによる、統計的学習の事実上の標準コース。

画像説明

観るべき理由

金融時系列では、特徴量を増やすほどバックテスト成績が「説明できたように見える」リスクが高まります。深層学習に飛びつく前に、まずは以下を肌感覚で理解しておく価値があります。

  • バイアス・バリアンス分解
  • クロスバリデーションの正しい使い方
  • 正則化(Lasso / Ridge / Elastic Net)
  • 木系モデル(決定木、ランダムフォレスト、ブースティング)
  • モデル選択そのものが過学習を生む構造

Lassoはスパース化により変数選択的に振る舞い、Ridgeは多重共線性下での係数安定化に使えます。ただし、選ばれた特徴量が「真のエッジ」であるとは限らず、OOS、コスト控除後、期間分割後の検証が必須です。

画像説明

観た後に作るもの

  • Ridge/Lassoによる特徴量選択・係数安定化
  • 時系列分割によるOOS検証
  • nested CVによるハイパーパラメータ選択
  • 期間別・銘柄群別のモデル安定性チェック

補足コラム:金融時系列でCVを使うときの落とし穴

画像説明

通常のK-fold CVは金融時系列では危険です。ラベル期間が重なると、訓練データと検証データの間に**情報漏洩(leakage)**が起きます。金融MLでは、以下を別途学ぶ必要があります。

  • Purged K-Fold CV: 訓練・検証期間の境界で、ラベル期間が重なるサンプルを除去
  • Embargo: 検証期間の直後を一定期間訓練から外し、シリアル相関による漏洩を防ぐ
  • Walk-Forward Optimization: 時間順の前進検証
  • Combinatorial Purged CV: 複数の訓練・検証パスを生成
  • PBO (Probability of Backtest Overfitting): 戦略選択そのものの過学習を定量化
  • Deflated Sharpe Ratio: 試行回数を考慮したシャープレシオの補正

これらは Bailey, Borwein, López de Prado, Zhu によるPBO論文や、López de Prado Advances in Financial Machine Learning で詳しく扱われています。Statistical Learning で土台を作った後、この領域へ進むのが標準ルートです。


2. Stanford CS229 — Machine Learning

リンク

この講義が解く問題

機械学習を、応用ではなくアルゴリズムの導出から学ぶ講義です。教師あり学習、教師なし学習、学習理論、ニューラルネット、強化学習までを体系的にカバーします。

画像説明

観るべき理由

実務でscikit-learnやPyTorchを叩いているだけだと、「どのモデルがどういう仮定の下で何を最適化しているか」がブラックボックスになりがちです。CS229はそこを開けてくれます。

特にクオンツトレーダーにとっての価値は以下です。

  • 損失関数とMLE/MAPの関係(=なぜこの損失を選ぶのか)
  • 一般化誤差の理論的背景
  • なぜ正則化が機能するのか
  • 強化学習の基礎(ポジションサイズ学習・執行最適化に応用可能)

観た後に作るもの

  • 自作の線形回帰・ロジスティック回帰(勾配法から)
  • バイアス・バリアンス分解の数値実験
  • 簡易な強化学習エージェント(マーケットメイクや執行コスト最小化のおもちゃ問題)

注意点

CS229単体では、金融時系列特有の問題(非定常性、リーケージ、ウォークフォワード検証、PBO、コスト・スリッページ)はカバーされません。CS229は「ML一般の基礎」、その上に金融特有の検証設計を別途積み上げる、という二段階で考えてください。


3. Stanford EE364A — Convex Optimization

リンク

この講義が解く問題

「予測モデルはできた。ではどれだけのサイズで何を買うのか?」という問いに、体系的に答えるための講義です。Stephen Boyd教授の代表講義で、凸最適化を扱うコースとしては事実上の世界標準です。

画像説明

観るべき理由

クオンツトレードで利益を決めるのは、シグナルそのものではなく、シグナルからポジションへの変換工程です。

  • どの銘柄に・どれだけ・どのリスク制約で配分するか
  • 取引コストとレバレッジをどう織り込むか
  • セクター上限・ロングショート制約をどう数理的に表現するか

これらの多くは、制約を適切に置けば凸最適化として扱えます。実務には非凸問題(整数ロット、最小取引単位、非線形マーケットインパクト、ドローダウン制約など)も多く出てきますが、その場合でも凸近似と双対性は共通言語として機能します。

画像説明

観た後に作るもの

  • レバレッジ制約付き平均分散最適化
  • 取引コスト・ターンオーバー制約込みのポートフォリオ最適化
  • トラッキングエラー最小化(ベンチマーク追従)
  • セクター中立・β中立・ロングショート制約の最適化
  • リスクパリティ(凸定式化を使った実装)

注意点

数学的に堅い講義なので、最初の数回は線形代数の復習が必要かもしれません。Boyd & Vandenberghe のテキスト Convex Optimization は無料公開されており、辞書的に使えます。


4. MIT 18.642 / 18.S096 — Topics in Mathematics with Applications in Finance

リンク

この講義が解く問題

「クオンツに必要な数学を一本で総ざらいしたい」というニーズに、おそらく最も近い講義です。線形代数、確率、統計、確率過程、数値計算、そしてそれらの金融応用がワンパッケージになっています。

画像説明

観るべき理由

クオンツトレードでは、価格をチャートとしてではなく確率過程として扱う必要があります。これは比喩ではなく、以下のような実務判断に直結します。

  • なぜ単純移動平均は遅れるのか(=ローパスフィルタとしての性質)
  • なぜボラティリティ一定の仮定が危険なのか(=非定常性、ボラティリティ・クラスタリング、レジーム変化を無視しているから)
  • なぜジャンプがある市場で連続ヘッジが崩れるのか(=Black-Scholes型の連続拡散・連続取引・無摩擦市場という仮定の限界)

これらは、ブラウン運動・Ito積分・確率微分方程式の基礎なしには直感が育ちません。

観た後に作るもの

  • GBM、Ornstein-Uhlenbeck、ジャンプ拡散の価格シミュレーター
  • ボラティリティ・クラスタリングを考慮した簡易モデル(EWMA、GARCH(1,1))
  • Black-Scholesヘッジの離散リバランス損益シミュレーション(連続ヘッジとのギャップを定量化)
  • PCAを使った株式リターンのファクター分解

注意点

理論色は強めで、コードはほぼ出てきません。実装は別途自分で手を動かす必要があります。


5. Yale ECON 252 — Financial Markets (Robert Shiller)

リンク

この講義が解く問題

ノーベル賞経済学者Robert Shillerによる、**「数式だけでは見えない市場の現実」**を扱う講義です。

この講義は、アルファを作る講義ではありません。むしろ、アルファが消える局面、バックテストが意味を失う局面、市場制度が損益分布を変える局面を理解するための講義です。

画像説明

観るべき理由

数理モデルは強力ですが、現実の市場には以下が存在します。

  • 流動性消失(平常時の相関が崩壊する)
  • 信用イベント(カウンターパーティリスク)
  • 群集行動とバブル
  • 規制変更による市場構造の変化

これらを軽視すると、「過去20年のバックテストでは無敵だった戦略がリーマンショック級の局面で破綻する」という典型的失敗を踏みます。

行動ファイナンスは、多くのアノマリー戦略のエッジ仮説の源泉でもあります。

観た後に作るもの

  • 自分の戦略の「危機時チェックリスト」
  • 流動性喪失時の損失シナリオ(ストレステスト)
  • カウンターパーティ・規制変更・取引停止リスクの棚卸し
  • 行動バイアスを定量化した簡易アノマリー戦略の検証

注意点

数理的な深さはありません。テクニカルな講義と並行して観るのが効果的です。


5つの講義はどう噛み合うか

画像説明

5つの講義は独立したテーマではなく、クオンツシステム全体のレイヤー構造に対応しています。

  • Application層: CS229(予測モデルの構築)
  • Validation層: Statistical Learning(過学習の排除・汎化性能の確保)
  • Execution層: EE364A(サイズ設計・制約下の資金配分)
  • Reality層: MIT 18.642 & Yale(確率過程の土台と市場リスク)

AI(上層)だけを強化しても、最適化や数学的土台(下層)が抜けていれば、システム全体が本番で崩落します。


目的別・最短ルートマップ

画像説明

Route A. デリバティブ・確率過程ルート

MIT 18.642 → Yale → Stanford EE364A

Route B. AIエッジ探索ルート

Statistical Learning → CS229 → 金融特有の検証(Purged CV等)

Route C. 資金管理・サイズ設計ルート

Stanford EE364A → MIT 18.642 (VaR部分)

Route D. 市場の現実・危機管理ルート

Yale Financial Markets → MIT 18.642

Route E. 時間がない実務家向け(Fast-Track)

Statistical Learning(過学習)→ EE364A(サイズ設計)

システムトレーダーの場合、確率解析より先に「過学習」と「サイズ設計」を学ぶ方が成果に直結しやすいことが多いです。


学習時に意識したいこと

画像説明

これらの講義は、知識を増やすためではなく、自分の戦略を疑う筋肉を鍛えるために観るのがおすすめです。

クオンツトレードで最も危険なのは、「モデルが当たっているように見えること」をそのまま信じることです。講義を観ながら、常に以下を自分の戦略に当てはめてみてください。

  • このエッジは OOS でも残るか
  • コスト控除後でも期待値はあるか
  • パラメータ近傍でも同じ構造が残るか
  • 一回の大相場だけに依存していないか
  • テールイベントで破綻しないか
  • サイズを落とすべき局面を識別できるか

まとめ

迷ったらまず MIT 18.642 から始めるのが無難です。クオンツに必要な数学・統計・確率過程・金融応用が一本にまとまっており、その後の学習の地図にもなります。

ただし、すでにシステムトレードを動かしていて、本番運用で詰まっているなら、Statistical Learning → EE364A から入る方が即効性があります。

  • 本番運用を強化したいなら → Stanford EE364A
  • AI/MLでエッジ探索したいなら → Stanford Statistical Learning → CS229 → 金融ML特有の検証手法
  • モデル外のリスクを理解したいなら → Yale Financial Markets
  • デリバティブ・確率過程を深めたいなら → MIT 18.642

紹介した講義はいずれもYouTubeで主要回を無料視聴できます(一部の現行授業資料や認定証はログイン制限・有料の場合があります。英語ですが自動翻訳でも実用レベル)。通勤時間や週末を使えば、半年〜1年で土台が大きく変わります。

最後に、これらはあくまで学習基盤です。実際に勝てる戦略になるかは、ここで得た知識を自分のデータと自分の市場で検証し続けられるかにかかっています。講義は出発点であって、終点ではありません。

4
2
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
4
2

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?