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BTCトレードの新しい視点:ボラティリティには隠れたリズムがある

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BTCトレードの新しい視点:ボラティリティには隠れたリズムがある

はじめに

ビットコイン(BTC)のトレードを始めてみると、多くの人が直面する壁があります。それは「いつエントリーすればいいのか」「なぜ同じ戦略でも日によって結果が違うのか」という疑問です。チャートを眺めていても、価格の動きは予測不可能に見え、まるでランダムウォークのように感じられるかもしれません。

しかし、実は市場には目に見えないリズムが存在します。今回は、2023年から2025年8月までのBTC 1時間足データを詳しく分析して発見した、ボラティリティの興味深い周期性についてお話しします。この知見は、あなたのトレード戦略を組み立てる上で、重要な手がかりになるかもしれません。

ボリンジャーバンドとその幅:市場のリズムを測る指標

まず、今回の分析で使用した指標について説明しましょう。ボリンジャーバンドは、多くのトレーダーに馴染みのあるテクニカル指標です。

ボリンジャーバンドの計算式

ボリンジャーバンドは以下の3本の線から構成されます:

  • 中央線(ミドルバンド) = n期間の単純移動平均線(SMA)
  • 上限バンド = 中央線 + (k × n期間の標準偏差)
  • 下限バンド = 中央線 - (k × n期間の標準偏差)

一般的には、n = 20期間、k = 2(2シグマ)が使われます。つまり:

$$
\text{上限バンド} = \text{SMA}(20) + 2 \times \sigma(20)
$$

$$
\text{下限バンド} = \text{SMA}(20) - 2 \times \sigma(20)
$$

ここで、$\sigma(20)$ は20期間の標準偏差を表します。

ボリンジャーバンド幅の計算

今回の分析で注目したのは、このバンドの「幅」です。バンドの幅は市場のボラティリティ(価格変動の激しさ)を表します:

$$
\text{BB幅} = \frac{\text{上限バンド} - \text{下限バンド}}{\text{価格}}
$$

$$
= \frac{2 \times 2 \times \sigma(20)}{\text{価格}} = \frac{4 \times \sigma(20)}{\text{価格}}
$$

なぜ価格で割るのでしょうか?BTCが100万円のときの10万円の変動と、1000万円のときの10万円の変動では、意味合いが全く異なるからです。価格で割ることで、「価格の何パーセントが変動しているか」という相対的な尺度になり、異なる時期のボラティリティを公平に比較できるようになります。

具体的には、BB幅が0.03という値は、価格の約3%分の変動幅があることを意味します。この数値が大きいほど、市場が活発に動いており、トレードのチャンスも増える一方で、リスクも高まります。逆に小さいときは、市場が静かで値動きが少ない状態です。

図1:週単位の明確なサイクルの発見

分析の最初のステップは、このBB幅に周期性があるかどうかを調べることでした。**図1「ACF of BB Width/Close」**は、自己相関関数(ACF:Auto-Correlation Function)という統計手法を使って、BB幅の時系列パターンを可視化したものです。

bb_width_acf.png

ACF(自己相関関数)とは?

自己相関関数とは、簡単に言えば「過去の自分と現在の自分がどれくらい似ているか」を測る指標です。

例えば、今日のボラティリティと7日前(1週間前)のボラティリティが似ていれば、ACFのグラフの「168時間後(7日×24時間)」の位置に高い値が出ます。もし毎週同じようなパターンが繰り返されていれば、7日ごとに規則的なピークが現れるはずです。

  • 横軸:時間のズレ(ラグ)を時間単位で表す
  • 縦軸:相関の強さ(-1〜1の範囲。1に近いほど強い正の相関)
  • ピーク:その時間差で似たパターンが現れることを示す

図1から読み取れる重要な発見

  • 168時間(7日)付近に最初の大きなピーク
  • 336時間(14日)504時間(21日)、**672時間(28日)**にも明確なピーク
  • これらはすべて1週間の倍数

これは何を意味するのでしょうか?BTCのボラティリティには、1週間という明確なリズムが刻まれているということです。今週の月曜日のボラティリティパターンは、来週の月曜日と似ている傾向がある。今週の金曜日の値動きは、来週の金曜日とも相関がある。このような規則的なサイクルが、統計的に確認できたのです。

さらに図1を見ると、初期(ラグ0〜50時間)では非常に高い相関があり、その後急速に減少していきます。これは、短期的には連続性が強いものの、数日経つと一旦相関が弱まり、そして週単位で再び似たパターンが現れることを示しています。

図2と図3:曜日で変わるボラティリティの顔

週単位のサイクルがあるなら、曜日ごとに何か違いがあるのでしょうか?この疑問に答えるのが図2と図3です。

図2「Average BB Width/Close by Day of Week (prefix=all)」

この図は、すべてのデータを曜日別に平均したものです。横軸が曜日(0=月曜日)、縦軸がBB幅の平均値です。

bb_width_dow_all.png

グラフから明確に読み取れるのは:

  • 月曜日から金曜日:BB幅は約0.031〜0.034の範囲で、ほぼ同じ高い水準を維持
  • 土曜日と日曜日:BB幅は約0.016〜0.021に低下

週末のボラティリティは、平日の約半分になっているのです。

なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?BTCは24時間365日取引できる市場ですが、市場参加者の行動パターンには明確な週次リズムがあります。機関投資家や大口のトレーダーの多くは、週末は取引を控える傾向があります。彼らの資金が市場から一時的に離れることで、全体の流動性が低下し、大きな価格変動が起こりにくくなるのです。

図3「Average BB Width/Close by Day of Week (prefix=breakouts)」

この図は、ボリンジャーバンドをブレイクアウトした瞬間のデータのみを集計したものです。つまり、価格が上限バンドを上抜けたり、下限バンドを下抜けたりした時点だけを抽出しています。

ブレイクアウトとは?
ブレイクアウトとは、価格がボリンジャーバンドの上限または下限を突き抜ける現象のことです。

上方ブレイクアウト:価格が上限バンドを上抜ける(強い買い圧力)
下方ブレイクアウト:価格が下限バンドを下抜ける(強い売り圧力)

通常、価格の約95%はボリンジャーバンド内に収まるように設計されているため、ブレイクアウトは「異常な値動き」や「トレンドの始まり」を示す重要なシグナルとされています。

bb_width_dow_breakouts.png

図3を図2と比較すると、興味深いことがわかります:

  • 平日のパターン:月曜日が約0.031で最も高く、火曜日は約0.029とやや低下、水曜日は約0.030に回復、そして木曜・金曜と徐々に低下(約0.029〜0.028)
  • 週末のパターン:土日は約0.016と大幅に低下

ブレイクアウト時でも、週末は依然として低ボラティリティです。しかし注目すべきは、平日の中でも月曜日と水曜日が相対的に高いという点です。これは、週の初めや中盤に大きな値動きが起こりやすいことを示唆しています。

図4と図5:1日の中でも変化するボラティリティ

週や曜日のパターンだけでなく、1日の中でも時間帯によってボラティリティは大きく変化します。

図4「Average BB Width/Close by Hour (prefix=all)」

この図は、全データをUTC(協定世界時)の時刻別に平均したものです。横軸がUTCでの時刻(0〜23時)、縦軸がBB幅の平均値です。

bb_width_hour_of_day_breakouts.png

グラフから読み取れる時間帯のパターン:

  • UTC 0〜5時(深夜〜早朝):BB幅は約0.031と高い水準
  • UTC 10〜15時(昼間):BB幅は約0.025と最も低い水準に低下
  • UTC 18〜23時(夕方〜夜):BB幅は約0.029〜0.031と再び上昇

この時間帯のパターンは、世界の主要市場の取引時間と密接に関連しています:

  • UTC 0〜5時:アジア市場(東京、シンガポール、香港)の午前中であり、同時に米国市場の前日夕方にあたる時間帯
  • UTC 10〜15時:欧州市場の午前中から昼過ぎで、アジア市場は終了、米国市場は未開場という、主要市場の「端境期」
  • UTC 18〜23時:米国市場(ニューヨーク)の午後で、欧州市場の夕方と重なる重要な時間帯

つまり、複数の主要市場の取引時間が重なるタイミングで、BTCのボラティリティが高まるのです。

図5「Average BB Width/Close by Hour (prefix=breakouts)」

この図は、ブレイクアウト時のデータのみを時刻別に集計したものです。

bb_width_hour_of_day_all.png

図5の特徴的なパターン:

  • UTC 0〜2時:約0.028と比較的高い
  • UTC 6〜12時:約0.019〜0.023と低下(特にUTC 10時が最低点)
  • UTC 17〜20時:約0.030とピークに達する
  • UTC 21時:約0.030でもう一つのピーク

図4と比較して、図5で特に注目すべきはUTC 18〜20時のピークです。この時間帯は、ブレイクアウトが最も起こりやすい重要な時間帯なのです。

なぜUTC 18〜20時が特別なのでしょうか?この時間帯は:

  • 米国東部時間の午後2時〜4時(ニューヨーク市場の活発な時間)
  • 欧州市場の夕方(ロンドン市場のクローズ前)
  • 重要な経済指標の発表が多い時間帯

これらの要因が重なり、市場全体が最も敏感に反応しやすい時間帯となっているのです。

トレード戦略への具体的な活用法

5つの図から明らかになった周期性を、実際のトレードにどう活かせるでしょうか?

1. タイミング戦略:ボラティリティの波に乗る

図4と図5から、平日のUTC 18〜20時は最も重要な時間帯であることがわかりました。この時間帯は:

  • トレンドフォロー戦略に最適
  • ブレイクアウト戦略で大きな値動きを狙える
  • エントリーのゴールデンタイム

一方、図4が示すように、UTC 10〜15時はボラティリティが最も低い時間帯です。この時間帯は:

  • レンジ取引(サポートとレジスタンスの間での往復を狙う)
  • スキャルピングは避けるべき(動きが少ないため)
  • 新規ポジションを取るより、既存ポジションの調整に適している

2. 週次サイクルの活用:月曜日の戦略

図1のACFが示す週次サイクルと、図2・図3の曜日パターンから:

  • 月曜日のUTC 0時前後:新しいボラティリティサイクルの始まり、方向性を見極める絶好の機会
  • 水曜日:図3では月曜日に次いでブレイクアウトが多い。週の中盤での再エントリーチャンス
  • 金曜日の夕方:週末に向けてボラティリティが低下するため、ポジション整理のタイミング

3. 週末の戦略:守りに徹する

図2と図3が明確に示すように、週末はボラティリティが平日の半分になります:

  • レバレッジを下げる:流動性が低下し、突発的な値動きのリスクが高まる
  • レンジ取引:大きなトレンドは期待できないため、小さな値幅での往復を狙う
  • ポジションを持ち越さない:金曜夜に手仕舞い、月曜朝に新規エントリーという週次リズムを作る

4. リスク管理の最適化

時間帯と曜日に応じたストップロス設定:

  • 高ボラティリティ時間帯(UTC 0〜5時、18〜23時、平日):ストップロスを広めに設定。狭すぎると、正しい方向の予測でも一時的な変動で振り落とされる
  • 低ボラティリティ時間帯(UTC 10〜15時、週末):タイトなストップロスも有効。ただし新規ポジションは慎重に

5. ボラティリティ・トレーディング(上級者向け)

図1の週次サイクルを利用したオプション戦略:

  • 月曜早朝:ストラドル/ストラングル(価格がどちらに動いても利益が出る戦略)を購入
  • 金曜夕方:ボラティリティポジションをクローズ
  • 週末前のボラティリティ低下を見込んだボラティリティ売り戦略

実践例:典型的な1週間のトレードプラン

これらの知見を組み合わせた、具体的な1週間のトレードプランを考えてみましょう。

月曜日(UTC 0〜5時)

  • 図2・図3では月曜日のボラティリティが最も高い
  • この時間帯に市場の方向性を見極める
  • トレンドが確認できたら、UTC 18〜20時のブレイクアウトタイムに向けてポジションを構築

火曜日〜木曜日

  • 図5のパターンに従い、UTC 18〜20時を最重要視
  • 図4が示すように、UTC 10〜15時は様子見
  • 水曜日は図3でブレイクアウトが多いため、特に注意深く観察

金曜日(UTC 15時以降)

  • 週末に向けてボラティリティが低下し始める
  • 保有ポジションの利益確定または損切りを検討
  • 週末持ち越しのリスクを評価し、必要ならポジションを縮小

土曜日・日曜日

  • 図2・図3が示すように、ボラティリティは半減
  • レンジ取引に徹するか、完全に休む
  • 次週の戦略を練り、チャートを冷静に分析する時間に充てる

知っておくべき重要な注意点

ここまで周期性の存在とその活用法について説明してきましたが、実際にトレードに応用する際には、いくつかの重要な注意点があります。

1. 相関は因果ではない

図1〜5が示すのは統計的なパターンであり、平均的な傾向です。個々の日や時間帯で必ず同じ動きをするわけではありません。月曜日のUTC 0時が常に高ボラティリティとは限らず、例外も多く存在します。

2. 市場効率性の壁

このような明確なパターンは、多くのプロトレーダーやアルゴリズム取引システムが既に認識している可能性があります。市場は非常に競争的な環境であり、誰もが知っている情報は、すでに価格に織り込まれている(プライスインされている)ことが多いのです。

この周期性を知っているだけでは優位性にならず、それをどう独自の方法で活用するかが重要になります。

3. レジームチェンジ(市場環境の変化)

今回の分析は2023年から2025年8月までのデータに基づいています。この期間には、BTCスポットETFの承認(2024年1月)や半減期(2024年4月)といった重要なイベントがありました。

今後、以下のような変化によってパターンが変わる可能性があります:

  • 規制環境の変化
  • 機関投資家の参入増加
  • 市場の成熟化
  • 新しいトレーディング技術の普及

**過去のパターンが未来も続くという保証はありません。**定期的にデータを更新し、パターンの変化を監視する必要があります。

4. バックテストの必須性

この周期性の知見を実際に活用する前に、必ず以下のステップを踏んでください:

  1. 戦略の定式化:周期性をどう具体的な売買ルールに落とし込むか
  2. バックテスト:過去データで検証し、リスク調整後リターン(シャープレシオなど)を計算
  3. 取引コストの考慮:現実的な手数料とスプレッドを織り込む
  4. ペーパートレード:実際の資金を使わず、リアルタイムでテスト
  5. 小額から開始:最初は小さなポジションで実践し、徐々に拡大

補足:データ分析の手法について

今回の分析では、統計的に信頼性の高い手法を用いました。

自己相関関数(ACF)の読み方(図1)

ACFの縦軸が0.2以上のピークは、統計的に有意な相関があることを示します。図1では、168時間、336時間といった週単位のラグで明確なピークが見られ、これは単なる偶然ではなく、構造的なパターンであることを示しています。

サンプルサイズと信頼性

2023年から2025年8月までの1時間足データは、約22,000〜23,000本のローソク足に相当します。これは統計的に十分なサンプルサイズであり、図2〜5で示される平均値は信頼性が高いと言えます。

ただし、ブレイクアウトのデータ(図3、図5)は全データの一部のみを使用しているため、サンプル数は少なくなります。そのため、図2・図4と比べると、図3・図5の方が若干ノイズ(ランダムな変動)が多い可能性があります。

まとめ:周期性を味方につける

今回の分析で明らかになったことをまとめましょう:

図1(ACF)が示したこと

BTCのボラティリティには、168時間(7日)を基本とする明確な週次サイクルが存在する

図2・図3(曜日パターン)が示したこと

平日のボラティリティは週末の約2倍。ブレイクアウトも平日、特に月曜日と水曜日に集中

図4・図5(時間帯パターン)が示したこと

UTC 18〜20時がブレイクアウトのゴールデンタイム。UTC 10〜15時は最も静かな時間帯

これらの周期性の理解は、トレード戦略を構築する上での重要な基礎になります。いつ市場が活発になり、いつ静かになるかを知ることで、より効果的なタイミングでエントリーし、リスクを管理することができます。

しかし、これは魔法の公式ではありません。市場の周期性は、あなたのトレード戦略のワンピースに過ぎず、他のテクニカル指標、ファンダメンタル分析、そして何よりも厳格なリスク管理と組み合わせて使う必要があります。

ボリンジャーバンドの計算式を理解し、その幅が示すボラティリティの意味を把握する。図1のACFで市場のリズムを感じ取り、図2〜5のパターンを自分のトレードスケジュールに組み込む。そして常に、データを継続的に監視し、パターンの変化に敏感であること。

トレードの3つの柱

トレードは、知識、経験、そして規律の組み合わせです。今回の分析が示す周期性の知見を活用しつつ、常に市場を謙虚に観察し、自分の戦略を継続的に改善していくことが、長期的な成功への道となるでしょう。

市場のリズムを感じ取り、それに合わせて自分のトレードスタイルを調整する。データに基づいた戦略を構築し、感情ではなく統計に従う。そんな科学的なアプローチこそが、BTCトレードで生き残るための鍵なのです。

参考

  • 分析期間:2023年1月〜2025年8月
  • データソース:BTC 1時間足
  • 使用指標:ボリンジャーバンド(期間20、標準偏差2)
  • 統計手法:自己相関関数(ACF)分析
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