副題:急落後リバウンドは「買える歪み」なのか、それとも「落ちるナイフ」なのか
- 通常時の単純な上げ下げ予測ではなく、分布の裾・高ボラ・Funding の偏りといった「市場が歪む局面」にエッジ候補が潜む可能性を、BTC/ETH/SOL の 4時間足(2020-08〜2026-05、各約12,700本)で探索した。
- 本サンプルでは結果に非対称性が強く示唆される。急落後ロングには平均回帰候補が見えるが、急騰後ショートには安定した根拠が見えにくい。
- 候補は高ボラ階層(Q5)に集中し、Funding が低い/マイナスの急落で特に強く見える。本探索内で期待値が最も高いのは
SOL Q5 72H(次足始値・重複除外で平均+4.56%、勝率69.0%、PF2.40)。 - ただし同候補の平均 MAE は
-12.21%、最大DD は-59.97%。「買えばよい」ではなく「耐えられるか」の問題。 - これは完成した売買ルールではなく、全期間分位を使った探索的イベントスタディである。多重検定バイアス、コスト、ローリング閾値、アウトオブサンプル検証はいずれも未通過。そのまま発注してはいけない。
仮の結論を先に言うと、エッジ候補は「急落そのもの」ではなく「急落の分類」に集中している可能性が高い。
0. 主要結果サマリー(先に結論の地図を置く)
図表が多いので、最初に本命・リスク・位置づけを一覧にする。詳細は各章で展開する。
| 候補 | 位置づけ | 平均R | 勝率 | PF | 平均MAE | 最大DD | コメント |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| BTC Q5 48H | 扱いやすい候補 | +0.77% | 56.4% | 1.39 | -5.32% | -39.28% | 現実性重視。エッジは薄い |
| SOL Q5 72H | 高期待値候補 | +4.56% | 69.0% | 2.40 | -12.21% | -59.97% | 期待値最大、ただし必要リスク許容量も最大級 |
| ETH all 24H | 弱い候補 | -0.05% | 53.4% | 0.97 | -4.88% | -63.21% | 重複除外で期待値が消失。主張対象から外す |
(数値は次足始値エントリー・重複除外の簡易バックテスト。コスト未考慮)
ひとことで言えば、SOL は派手、BTC は現実的、ETH は弱い。この前提を頭に入れて以降を読むと迷子になりにくい。
📦 用語
- MR(平均回帰リターン):平均回帰方向のリターン。急落後ロングでは将来上昇がプラス、急騰後ショートでは将来下落がプラス(ロングとショートで符号解釈が逆)。
- MAE:エントリー後の最大逆行幅(含み損の最大)。
- MFE:エントリー後の最大順行幅(含み益の最大)。
- Q5:過去20本の実現ボラ
vol20の最上位20%階層(高ボラ局面)。- 非重複:同一候補でポジション保有中に発生した次シグナルをスキップする処理。
⚠️ 本稿全体に効く前提(重要なので冒頭で宣言する)
本稿は複数の銘柄・閾値・ボラ階層・Funding分類・ホライズン・重複処理を横断的に探索している。最良候補の選択にはデータスヌーピング/多重検定バイアスが必ず入る。表中の t値・PF は確定的な優位性ではなく発見的(heuristic)指標として読むこと。White's Reality Check、block bootstrap、Deflated Sharpe Ratio、WFO(ウォークフォワード)での再評価を通すまでは仮説である。
1. 仮想通貨市場のエッジはどこにあるのか
「次の足は上がるか下がるか」を当てにいくと、ほとんどの局面でノイズに飲まれる。一方で、価格が急変し、ボラティリティが跳ね、Funding Rate が偏り、レバレッジが巻き戻る局面では、利益機会と大きな危険が同時に立ち上がる。
本稿の出発点は「急落後は買いか?」ではない。**「歪み局面にエッジが潜むなら、どこに、どんな形で出るのか」**を、分布 → 急変動後の挙動 → ボラ階層 → 経路リスク → Funding、の順で剥がしていく。急落後ロングは出発点ではなく、この探索の途中で浮かび上がった「候補」として登場させる。
2. 使用データと前提
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | BTCUSDT / ETHUSDT / SOLUSDT |
| 足種 | 240分足(4時間足) |
| 共通期間 | 2020-08-11 04:00 〜 2026-05-29 12:00 |
| 共通本数 | 各 12,704 本 |
| リターン定義 | log(close_t / close_{t-1}) * 100 |
| 欠損処理 | 4時間の時刻飛びをまたぐリターンは除外 |
| Funding | Binance USD-M Futures fundingRate API |
| OI・清算 | 取得制約あり。結論ではなく今後の課題として扱う |
データ検証(Phase 0)では、3銘柄とも軽微なタイムスタンプ欠損(数本〜7本)のみで、OHLC 整合性違反・パース失敗はゼロ。分析に使える品質だった。
💡 補足:現行 OHLCV が Spot 由来の場合、Funding データ(USD-M Futures)とは市場が完全一致しない可能性がある。Funding 章はこの前提で読む。
3. まず分布を見る──BTC・ETH・SOL は同じ暗号資産ではない
急変動後の分析に進む前に、3銘柄を一括りにできないことを確認しておく。
| 銘柄 | 4H標準偏差 | 歪度 | 超過尖度 | 最大下落 | 最大上昇 | 下位5%閾値 | 下位1%閾値 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| BTCUSDT | 1.24% | -0.16 | 8.77 | -11.12% | +13.76% | -1.90% | -3.86% |
| ETHUSDT | 1.64% | -0.31 | 6.89 | -15.02% | +11.42% | -2.53% | -5.06% |
| SOLUSDT | 2.53% | +0.24 | 10.50 | -31.26% | +26.78% | -3.72% | -7.04% |
読み取りは3点。
- 超過尖度が全銘柄で 6〜10。正規分布(超過尖度0)とはまるで別物で、4時間足ですら厚いテールを持つ。
-
SOL は標準偏差が BTC の約2倍、最大下落
-31%超。歪度はプラスだが「安全」の意味ではなく、上下どちらにも巨大ショックが出る。 - 同じ「下位5%急落」でも BTC は約
-1.9%、SOL は約-3.7%。固定パーセント閾値で横並び比較してはいけない。各銘柄の自分の分布で急変動を定義する。
QQプロットを見れば一目瞭然で、3銘柄とも両裾が正規直線から大きく外れる(QQ・ヒストグラムは裾の存在確認用の補足図)。
裾が厚い=極端イベントが頻発する。ならばエッジを探すべきは中央付近ではなく裾の後ろだ、というのが次章の動機になる。
4. 極端な値動きの「後」を見る──モメンタムか、平均回帰か
各銘柄の上げバー/下げバーの後、4H〜72H でリターンがどう動くかを見る(全期間、count は数千件規模)。
- 上げバー後・下げバー後とも、ホライズンを伸ばすほど平均将来リターンはプラスに寄る。ただしこれは**暗号資産の長期ドリフト(右肩上がりのβ)**を多分に含む。
- 重要なのは方向別の差ではなく、裾イベント(急変動)に絞ったときに何が起きるか。それを次に見る。
5. 急落後ロングに候補が見える──急騰後ショートには見えにくい
⚠️ 主要結果表の読み方(再掲)
以下の閾値(下位5%など)は全期間分布から算出した固定値で、未来情報を含む。これは探索のための定義であり、実運用では過去 N 本だけで計算するローリング分位に組み替える必要がある(付録に疑似コード)。また、24H〜72H 保有を 4H 足に重ねるためイベント間にリターンの重複が生じ、iid 前提の t値は楽観側に出やすい。t値は方向感の指標として読み、確定的な有意性とは見なさない。
下位5%急落後ロング、上位5%急騰後ショートの MR(平均回帰)リターンを、各銘柄の最良ホライズンで比較する(count = 636)。
急落後ロング(下位5%)
| 銘柄 | 閾値 | 最良H | 平均MR | 中央値MR | 勝率 | t値(参考) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| BTCUSDT | -1.90% | 48H | +0.49% | +0.48% | 55.7% | 2.23 |
| ETHUSDT | -2.53% | 24H | +0.35% | +0.57% | 55.7% | 1.51 |
| SOLUSDT | -3.72% | 72H | +2.52% | +2.75% | 61.5% | 4.32 |
急騰後ショート(上位5%)
| 銘柄 | 閾値 | 最良H | 平均MR | 中央値MR | 勝率 | t値(参考) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| BTCUSDT | +1.90% | 4H | +0.04% | +0.07% | 52.8% | 0.61 |
| ETHUSDT | +2.53% | 4H | +0.02% | +0.12% | 53.0% | 0.20 |
| SOLUSDT | +3.83% | 4H | -0.04% | +0.04% | 50.8% | -0.22 |
この非対称性が本稿の核心だ。本サンプルでは「大きく落ちたら短期反発する」候補が3銘柄で示唆される一方、「大きく上がったらすぐ反落する」は支持されない。むしろ SOL は上位5%急騰後72Hのショート MR が -1.90%(勝率 44.2%、t値 -3.60)。急騰を安易に逆張りショートすると上昇継続に踏まれる側のサインが出ている。
急落を深くするほど反発も大きく見える
| 銘柄 | 下位5% | 下位2.5% | 下位1% |
|---|---|---|---|
| BTC(48H 平均MR / 勝率) | +0.49% / 55.7% | +0.75% / 57.9% | +1.78% / 66.4% |
| ETH(24H 平均MR / 勝率) | +0.35% / 55.7% | +0.83% / 56.9% | +1.75% / 59.4% |
| SOL(72H 平均MR / 勝率) | +2.52% / 61.5% | +3.01% / 64.5% | +3.55% / 64.8% |
「投げ売りが大きいほど反発余地も大きい」仮説と整合的に見える。ただし下位1%は count=128 と少なく、特に SOL は外れ値に弱い。閾値を深くするほどサンプルが減り多重検定バイアスと過適合の余地が広がる点に注意。平均だけで「優秀」と断じない。
6. 高ボラ急落は反発が大きく見える──ただし条件付き
過去20本の実現ボラ vol20 で各銘柄を5分位に分け、下位5%急落後ロングを階層別に見る。
📌 上のスライドの MAE バーに付いた数値(
-2,623,297等)は作図ツール側のスケーリング不具合による表示崩れ。正しい平均 MAE は BTC Q5 が-6.00%、SOL Q5 が-13.65%(§7参照)。スライドは「Q5でリターンとMAEが同時に膨らむ」概念図として読む。
まず確認できるのは、高ボラ階層ほど将来の値動き(絶対値)も大きいこと。Q5/Q1 比は BTC・ETH で約2.1倍、SOL で約2.6倍。vol20 分類は機能している。
そして、下位5%急落イベント自体が高ボラ階層に偏在する。下位5%急落の多くは Q5_high で発生し、低ボラ局面ではほとんど出ない(例:BTC 24H の Q5 は count=324 に対し Q1 はわずか3件)。
Q5_high に絞った下位5%急落後ロングの最良ホライズン:
| 銘柄 | 最良H | 平均MR | 中央値MR | 勝率 | t値(参考) | count |
|---|---|---|---|---|---|---|
| BTCUSDT | 48H | +1.05% | +0.96% | 57.7% | 2.98 | 324 |
| ETHUSDT | 72H | +0.91% | +1.57% | 58.2% | 1.63 | 340 |
| SOLUSDT | 72H | +4.35% | +4.09% | 66.7% | 4.91 | 336 |
候補は高ボラ局面に集中して見える。ただしこれは「高ボラは有利」ではなく「高ボラはリターンもリスクも拡大する」と読むべきだ。それを次章で殴られる。
7. しかし MAE も大きい──「強い候補」ほど途中で殴られる
ここまでは終値で急落を判定し同時終値で買う前提だった。実売買に近づけるため、急落シグナルの次の4H足始値でロングし、候補ごとの時間で決済。エントリー後の MAE(最大逆行)/ MFE(最大順行)も測る。
| 候補 | 件数 | 平均R | 勝率 | PF | 平均MAE | 最悪MAE | 平均MFE |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| BTC all 48H | 636 | +0.50% | 56.0% | 1.27 | -5.11% | -36.83% | +4.37% |
| ETH all 24H | 636 | +0.34% | 55.7% | 1.18 | -5.56% | -57.21% | +4.15% |
| SOL all 72H | 636 | +2.52% | 61.5% | 1.62 | -11.64% | -96.93% | +12.38% |
| BTC Q5 48H | 324 | +1.05% | 58.0% | 1.54 | -6.00% | -36.83% | +5.63% |
| ETH Q5 72H | 340 | +0.90% | 58.2% | 1.26 | -10.53% | -65.47% | +8.55% |
| SOL Q5 72H | 336 | +4.35% | 66.4% | 2.07 | -13.65% | -87.32% | +16.05% |
次足始値に変えても平均リターンは生き残った。Q5 に絞ると3銘柄とも改善(SOL は +2.52%→+4.35%)。だが改善と同時に MAE も重くなる。SOL Q5 の平均 MAE は -13.65%、最悪は -87%。これは「浅い押し目買い」ではない。
重複シグナルを除いた簡易バックテスト
同候補内で保有を1つに限定し、決済前の追加シグナルはスキップ:
| 候補 | 採用件数 | 平均R | 勝率 | PF | 平均MAE | 最大DD |
|---|---|---|---|---|---|---|
| BTC all 48H | 337 | +0.31% | 56.1% | 1.18 | -4.46% | -53.95% |
| ETH all 24H | 423 | -0.05% | 53.4% | 0.97 | -4.88% | -63.21% |
| SOL all 72H | 274 | +1.57% | 59.9% | 1.43 | -9.62% | -69.24% |
| BTC Q5 48H | 149 | +0.77% | 56.4% | 1.39 | -5.32% | -39.28% |
| ETH Q5 72H | 120 | +0.39% | 52.5% | 1.12 | -8.60% | -65.71% |
| SOL Q5 72H | 113 | +4.56% | 69.0% | 2.40 | -12.21% | -59.97% |
📌 図10は**非重複イベントの累積リターン(cumulative event PnL)**であり、資金制約・レバレッジ・複利・手数料・スリッページを含まない。実運用の資産曲線(equity curve)ではないので、縦軸の絶対水準(数千〜数万%)はそのまま受け取らないこと。
読み取り:
-
SOL Q5 72Hが突出(平均+4.56%、PF2.40)。一方で最大DD-60%。累積PnLの派手さはリスクの裏返し。期待値は最も高いが、必要リスク許容量も最大級。 -
ETH all 24Hは重複除外で期待値が消える(-0.05%、PF0.97)。単体では主張対象から外す。 -
BTC Q5 48Hが「最も現実的」。派手さはないが MAE-5.3%、最大DD-39%と相対的に軽い。「期待値最大は SOL、最も扱いやすいのは BTC Q5」という棲み分け。
⚠️ このバックテストは手数料・スリッページ・板厚・約定遅延・資金制約を一切含まない。PF や累積PnL は確定値ではなく仮説検証材料。薄いエッジ候補(BTC Q5 の
+0.77%)はコスト次第で容易に消える(→ 付録のコスト感応度)。
8. 年別の挙動を見る──特定年の偶然ではないか
平均が高くても1年の当たりに依存していたら使えない。シグナル発生年で集計(2020・2026 は部分年)。年別ヒートマップ(図12)は情報量が多いため、本文では要約表を示し、詳細図は付録扱いとする。
| 候補 | プラス年率 | 年平均の平均 | 最悪年平均 | 最悪年DD | 安定性ラベル |
|---|---|---|---|---|---|
| BTC lower5 all 48H | 85.7% | +0.79% | -1.00% | -86.9% | broad_positive |
| SOL lower5 all 72H | 85.7% | +1.97% | -1.65% | -98.6% | broad_positive |
| BTC Q5 48H | 85.7% | +1.78% | -0.49% | -67.3% | broad_positive |
| SOL Q5 72H | 83.3% | +3.95% | -0.71% | -94.2% | broad_positive |
| ETH Q5 72H | 57.1% | +1.22% | -1.24% | -96.6% | positive_but_uneven |
| ETH all 24H(重複除外) | 57.1% | +0.04% | -1.22% | -60.2% | positive_but_uneven |
- BTC・SOL の急落後ロングは7年中6年でプラス。ただし「運用上安定」という意味ではない。プラス年が多い一方で、最悪年DDは
-67%〜-99%に達する。 -
SOL Q5 72Hでも年平均は-0.71%〜+9.00%とブレが大きい。「年次平均ではプラス年が多いが、ドローダウンは大きい」と読むのが正確。 - ETH は年別でもムラ。主役ではなく比較対象。
全期間平均だけ見せず、必ず年別のばらつき(できれば年別の N も)を併記すべき、という戒め。
9. Funding で急落を分類する──同じ急落でも意味が違う
ここから Perpetual 固有の指標を入れる。下位5%急落をシグナル時点の Funding 状態で3分類し、保有中 Funding を差し引いた調整後リターンを見る。
-
funding_low_or_negative(≤20%分位 or マイナス):悲観・ショート過熱・ロング需要低下 -
funding_high(≥80%分位):ロング過熱・買い需要過多 -
funding_neutral:中立
72H ホライズン、Funding 調整後:
| 銘柄 | Funding分類 | 件数 | グロスMR | 調整後MR | 勝率 | t値(参考) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| BTC | low/neg | 112 | +1.08% | +1.08% | 66.1% | 1.61 |
| BTC | neutral | 135 | +0.78% | +0.76% | 56.3% | 1.41 |
| BTC | high | 389 | +0.18% | +0.01% | 53.7% | 0.03 |
| ETH | low/neg | 146 | +0.30% | +0.32% | 58.2% | 0.41 |
| ETH | neutral | 162 | -0.59% | -0.61% | 45.1% | -0.99 |
| ETH | high | 328 | +0.30% | +0.10% | 53.7% | 0.19 |
| SOL | low/neg | 159 | +2.92% | +4.45% | 67.3% | 4.04 |
| SOL | neutral | 99 | +2.53% | +2.57% | 63.6% | 2.76 |
| SOL | high | 339 | +2.88% | +2.86% | 58.4% | 3.57 |
3つの読み取り:
-
BTC の高Funding急落はほぼ無価値。グロス
+0.18%が Funding 支払い後+0.01%に蒸発。「Funding が高いままの急落=ロング過熱の巻き戻し」で、押し目とは呼びにくい。 -
SOL の低/マイナスFunding急落が本探索内で最も強く見える。グロス
+2.92%が調整後+4.45%に増える(保有中 Funding 平均-1.52%をロングが受け取るため)。BTC の最良は low/neg の24Hで調整後+1.34%、勝率64.3%、t値3.13。 -
ETH は Funding を入れても主役になりにくい。中立Funding急落の72Hは
-0.61%。
同じ下位5%急落でも、Funding が低い/マイナスの急落(悲観・ショート過熱)は反発候補になりやすく、Funding が高い急落(ロング過熱の崩壊)は単純な押し目買いとして扱いにくい可能性がある。価格だけでは同じに見える急落が、需給状態で別物になり得る。
ただし SOL は高Fundingでも反発が残る(+2.86%)。SOL の急落後反発は Funding だけでは説明しきれず、高ボラの性質も効いている可能性がある。
10. OI・清算の必要性──ここから先は「データが足りない」
理屈上の次の一手は、急落を Open Interest で分けることだ。
| 価格 | OI | 解釈仮説 |
|---|---|---|
| 下落 | OI減少 | デレバレッジ・投げ売り・強制決済が進んだ → 反発余地あり |
| 下落 | OI増加 | 新規ショート増 or ロング捕まり継続 → 下落継続リスク |
だが今回、Binance openInterestHist API は直近約28.8日分(2026-04-30〜05-29)しか返さず、この窓の下位5%急落イベントは BTC/ETH/SOL で計5件。統計にならない。
清算履歴は公開エンドポイントが {"code":400,"msg":"The endpoint has been out of maintenance"} を返し、取得できなかった。
これは分析の失敗ではなく、公開APIだけで再現する場合の限界として提示する。本来は長期の OI・清算データで「投げ売り完了に近い急落」と「清算連鎖の途中」を分けたい。それが今後の拡張課題。
11. 結論──エッジ候補は「急落」ではなく「急落の分類」に集中している
検証を辿り直すと:
- 分布:BTC/ETH/SOL は別物。4時間足ですら超過尖度 6〜10 の厚いテール。
- 急変動後:本サンプルでは急落後ロングに候補が見え、急騰後ショートには見えにくい(非対称性が示唆される)。
- ボラ階層:候補は高ボラ Q5 に集中。リターンもリスクも同時に拡大。
-
経路リスク:次足始値でも平均は生き残るが、SOL Q5 の MAE は
-12〜14%、最悪-87%。 - 年別:BTC・SOL は年次平均でプラス年が多いが、最悪年DDは深い。ETH はムラ。
- Funding:低/マイナスFunding急落は強く見え、高Funding急落は BTC でほぼ消える。
- OI・清算:最終判定にはこのデータが要るが、公開APIでは今回取れなかった。
本探索内で期待値が最も高い候補は SOL Q5 72H、最も扱いやすいのは BTC Q5 48H、ただし両者とも深いドローダウンを伴う。
本稿の探索では、急落後リバウンドの期待値は「急落そのもの」ではなく、「急落がどの状態で起きたか」に依存する可能性が高い。特に高ボラ局面、かつ Funding が低い/マイナスに傾いた急落では、BTC・SOL を中心に平均回帰候補が確認された。一方で、高Funding の急落や急騰後ショートには安定した優位性は見えにくい。
ただし、これは全期間分位を用いた探索的イベントスタディであり、ローリング閾値・コスト・スリッページ・板厚・多重検定補正・アウトオブサンプル検証を通過した売買ルールではない。現時点で言えるのは、「急落を機械的に買う」ではなく、「急落を分類することで、検証すべきエッジ候補が浮かび上がる」ということだ。
「急落を買うこと」ではなく「急落を分類すること」。それが今回の探索で見えた、仮想通貨クオンツの本質的なエッジ候補だ。
付録A:実装前に通すべき検証(次の課題)
本稿は「実装前のリサーチメモ」である。発注ロジックにする前に、最低限これらを通したい。
A-1. ローリング閾値版(未来情報の除去)
全期間分位はリーク源なので、すべて過去 N 本だけで再計算する。
# すべての閾値・分位を過去ウィンドウのみで計算(lookbackは要検証パラメータ)
threshold_t = rolling_quantile(return_4h, 0.05, lookback=2y) # 下位5%
vol_q_t = rolling_quantile(vol20, 0.80, lookback=2y) # Q5境界
fund_q_t = rolling_quantile(funding, 0.20, lookback=2y) # 低Funding境界
signal = (
return_4h_t <= threshold_t # 自分の過去分布で見た急落
and vol20_t >= vol_q_t # 高ボラ局面
and funding_t <= fund_q_t # 低/マイナスFunding
)
entry = next_open # 次足始値
exit = entry + H # 候補ごとの保有時間(例: SOLは72H)
ローリング化で期待値がどれだけ削れるかが、エッジが本物かどうかの最初の関門。
A-2. 多重検定・データスヌーピング補正
銘柄×閾値×ボラ階層×Funding×ホライズン×重複処理を横断探索しているため、最良候補の見かけの強さには selection bias が乗っている。
- block bootstrap / event-level bootstrap で MR の分布を作り、t値を iid 前提に頼らず再評価する(24〜72H 保有のリターン重複・ボラクラスタリングを吸収するため)。あるいは重複イベントには Newey-West(HAC)標準誤差。
- 候補選択そのものの過適合を見るには White's Reality Check / SPA テスト、または最良候補の Deflated Sharpe Ratio。
- 最終的には WFO(ウォークフォワード最適化) でアウトオブサンプルの劣化幅を測る。
A-3. コスト感応度(薄いエッジの耐久試験)
クオンツ読者が見たいのは平均リターンではなくコスト後の残存期待値。下表は計算用テンプレート(数値は要算出。本稿では未計測)。
| 候補 | グロス平均R | 片道5bp後(概算) | 片道10bp後 | 片道25bp後 | 定性評価 |
|---|---|---|---|---|---|
| BTC Q5 48H | +0.77% | (要算出) | (要算出) | (要算出) | 薄く、コストに脆弱と推測 |
| SOL Q5 72H | +4.56% | (要算出) | (要算出) | (要算出) | バッファ大、ただしスリッページも大きい銘柄 |
| ETH all 24H | -0.05% | (要算出) | (要算出) | (要算出) | グロスで既に消失 |
定性的には、片道往復コストが数十bp規模になると BTC Q5 の +0.77% は容易に削られる一方、SOL Q5 の +4.56% は名目バッファが厚い。ただし SOL は高ボラ=スリッページ・板薄リスクも大きいため、コストモデルは保守的に置くべき。
A-4. パラメータ感応度グリッド
「たまたま 72H だけ良いのか、周辺も良いのか」を見る。
- 急落深さ:1% / 2.5% / 5% / 10%
- 保有:24H / 48H / 72H / 96H
- ボラ階層:Q4 / Q5
- Funding:10% / 20% / 30% 分位
周辺パラメータがなだらかに良ければ頑健、特定点だけ尖っていれば過適合を疑う。
A-5. 年別の N 表示
年別平均だけでなく、年別に N / mean / median / win rate / worst trade / max DD を出す。2020・2026 の部分年やイベント数の偏り(SOL 2020 は件数僅少)が見えるようになる。
本実験で使用したPythonコードやデータセット、詳細なグラフにつきましては、下記のGitHubリポジトリよりダウンロードしてご利用ください。(Lab_6の実験)
https://github.com/tikeda123/article_lab
付録B:データ上の注意点
- SOL の Funding は開始が
2020-09-13で価格共通開始より遅く、下位5%急落の39件に Funding 欠損あり。初期サンプルは割引いて読む。 - 3銘柄とも Funding の q80 が
0.01%近辺に張り付くため、funding_highは「上位20%」というより「標準的なプラスFunding上限付近を含む広めの高Funding状態」と解釈する。 - 現行 OHLCV が Spot 由来の場合、USD-M Futures の Funding とは市場が完全一致しない可能性。
※ 本記事は分析・研究の共有であり、投資助言ではありません。掲載数値は全期間分位を用いた探索分析の結果であり、コスト・ローリング閾値・多重検定補正・アウトオブサンプル検証を経ておらず、将来の成績を保証しません。























