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ボラティリティは予測できるのか?――価格方向より当てやすい「危険度」の話

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ボラティリティは予測できるのか?――価格方向より当てやすい「危険度」の話

ボラティリティ特集 第1回 / 全3回

はじめに

相場で大きく負けるのは、方向を外したときだけではない。荒れる局面でポジションを持ちすぎたときである。

だから運用では、「上がるか下がるか」だけでなく、「次にどれだけ荒れるか」を見積もることに意味がある。個人投資家向けの情報の大半は方向当てに紙幅を割いているが、実務的なクオンツ運用の議論で先に考えるべきは、むしろ後者のほうだと筆者は考えている。

本稿では USD/JPY 1時間足を使い、GARCH(1,1) という基本モデルでボラティリティ予測の実力を実際に確かめる。結論を先に言えば、ボラ予測は万能ではないが、ポジションサイズ調整と損失制御には十分な実務価値がある、というのが本特集の立場である。


本特集の全体像

本特集は全3回で、次のように展開する。

  • 第1回(本稿):なぜボラ予測か。短期リターンの方向はなぜ当てにくいのか、一方でボラティリティはなぜ相対的に予測しやすいのか。USD/JPY 1時間足での実証結果を交えて、「ボラ予測は万能ではないが、実務上の意味は大きい」ことを示す。
  • 第2回:手法地図。EWMA、GARCH系、HAR-RV、Realized 系などの代表的な手法を整理し、目的とデータに応じた選び方を示す。本稿の GARCH(1,1) 実験と単純ベンチマークとの比較結果もここで詳しく扱う。
  • 第3回:サイズ調整への応用。ボラターゲティングの基本式、実務で必須の安全装置、そして GARCH 予測を入力としたサイズ調整シミュレーションの結果を紹介する。

本特集の特徴は、理論や数式だけで終わらせず、USD/JPY 1時間足の約10万本のデータで実際に GARCH(1,1) を学習・検証した結果を軸に議論する点にある。「このデータでこのモデルを回すと、こういう数字になる」という具体的な経験を読者と共有したい。モデルが当たる部分と当たらない部分を両方見せ、限界も正直に開示する。再現用スクリプトも末尾でリンクする。

想定読者は、自分でバックテストを書いたりクオンツ系のトレード研究をしている個人・実務家、方向予測モデルは作ったがリスク管理が手薄だと感じている人、GARCH や EWMA という言葉は聞いたことがあるが実データでの性能感覚を持ちたい人、などである。


それでは、本題に入る。

1. 価格方向の予測はなぜ難しいのか

短期の価格変動をモデル化しようとしたことがある人は、だいたい同じ壁にぶつかる。1時間先や1日先のリターンの符号を安定して当てることは、想像以上に難しい。

理由は単純で、短期リターンはほとんどノイズだからである。効率的市場仮説を強く信じるかどうかはさておき、少なくとも経験的には、短期リターンの系列相関は非常に弱いことが多い。

その結果、方向予測の世界は「小さな優位性を膨大な試行回数で積み上げる」ゲームになりやすい。これ自体は成立するアプローチだが、誰にでも勧められるものではないと筆者は考えている。

2. ボラティリティには持続性がある

一方で、リターンの大きさ(絶対値や二乗)には、方向とは違う性質がある。荒れた相場の後はしばらく荒れやすく、静かな相場の後はしばらく静かでありやすい。これはボラティリティ・クラスタリングと呼ばれ、為替・株式・暗号資産など、ほとんどの金融市場で観測される頑健な経験則である。

言い換えると、

  • リターンの符号 → ほぼ予測不能に近い
  • リターンの大きさ → 持続性がある

という非対称性がある。だからこそ、「次の1本が上がるか下がるか」よりも、「次の1本がどれだけ荒れるか」のほうがモデル化しやすい、という状況が生まれる。

3. 実データで見る持続性――USD/JPY 1時間足

抽象的な話だけでは説得力がないので、筆者が手元で回した実験結果の一部を紹介する(実験の全体像と他モデルとの比較は第2回で詳しく扱う)。

実験設定

  • 対象:USD/JPY 1時間足
  • 期間:2010年3月〜2026年3月(約10万本)
  • 学習:2010-03〜2023-01(79,999本)
  • テスト:2023-01〜2026-03(20,000本、アウト・オブ・サンプル)
  • モデル:正規誤差の標準的な GARCH(1,1)
  • 推定方式:学習期間でパラメータを一度だけ推定し、テスト期間では1期先条件付き分散を逐次予測(固定パラメータ、ローリング再推定なし)

後半の「1期先の逐次予測」は、各時点で利用可能な情報だけを使って次の1時間のボラを予測していることを意味する。つまり未来情報は一切使っていない。

持続性の強さ

学習データで推定された GARCH(1,1) のパラメータのうち、本稿で注目したいのは次の値である。

α = 0.0270
β = 0.9712
α + β ≈ 0.9982

α + β はボラティリティの持続性を表す量で、1に近いほど過去のショックが長く尾を引くことを意味する。USD/JPY 1時間足で推定された 0.9982 という値は、極めて高い持続性を示している。

具体的にショックの影響がどれくらい残るかを半減期で表現すると、約385時間、日数にして約16日となる1。つまり、一度ボラが跳ね上がると、その影響が半分になるまで2週間強かかる計算である。

これは「荒れた相場はしばらく荒れやすい」という冒頭の直観と、定量的に整合する結果だと筆者は受け止めている。

ただし、一点補足しておく。α + β が 1 にここまで近い場合、純粋なボラティリティ・クラスタリングだけでなく、学習期間中の構造変化(平均分散水準そのものの長期的なシフト)を GARCH が「持続性」として拾っている可能性も否定できない。したがって、ここで言う「持続性」は純粋な条件付き分散のダイナミクスだけを表しているとは限らない、という点は留保しておく。

予測ボラと実現ボラの対応

下の図は、テスト期間の直近約250日について、GARCH(1,1) による予測ボラを日次集約したものと、実現ボラ2を重ねたものである。

daily_garch_vs_realized.png

この図から読み取れることは、次の通りである。

  • 高ボラ期(2025年夏、2025年10月、2026年2月頃)と、低ボラ期(2025年11月〜2026年1月頃)の切り替わりを、予測ボラはおおむね追随できている
  • 個々のスパイクに対しては、予測値が実現値の裾まで届かないことも多い。特に、突発的な急変は予測ボラではなだらかにしか表現されない
  • ただし、「レジームがどちらに傾いているか」という中期的なうねりは、視覚的にもよく一致している

数値的にも、このテスト期間(20,000時間)でのGARCH(1,1) 予測ボラと実現ボラ(Garman-Klass 分散ベース)の相関は 約 0.42 であった。これは「非常に高い」とは言えない数字だが、方向予測のような符号当てゲームと比べれば、はっきりとした関係性がある。

この相関値は「売買シグナル単独としては弱いが、サイズ調整の入力としては十分に価値がある」という水準である。なぜその主張が成り立つのかは第3回で詳しく扱うが、少なくとも「全くランダムではない」こと、そして「個々のスパイクは捕捉できないが、レジームの大小は拾えている」ことは、この図と数字から読み取ってほしい。

ARCH 効果の存在

念のため補足すると、学習データに対して ARCH-LM 検定3を行ったところ、明確な ARCH 効果(過去の変動が将来の変動に影響する構造)が検出された。これは「このデータに対して GARCH 系モデルを当てはめること自体に統計的な根拠がある」という、出発点の確認である。

4. それでもボラティリティは完全には予測できない

ここは強調しておきたい。ボラティリティ予測には持続性という強い味方があるが、それでも完全な予測は不可能である。

理由はいくつかある。

  • 中央銀行発表や経済指標、地政学イベントなど、事前に織り込みきれないショックが存在する
  • ジャンプ(価格の不連続な飛び)は、連続過程を仮定するモデルでは原理的に捕捉しにくい
  • 分布の裾は厚く、正規分布を仮定したモデルでは過小評価しがちである

実際、本稿で推定した GARCH(1,1) でも、標準化残差4にわずかな ARCH 性が残っており、モデルがボラティリティ構造を完全には取り切れていないことが確認されている。これは GARCH(1,1) が無力だという意味ではなく、「有効なベースラインだが最終形ではない」ということだと筆者は考えている。

したがって、ボラティリティ予測について語るときに適切な態度は、「当たる/当たらない」の二元論ではなく、**「ベンチマークより安定して良いか」**という相対評価であると思う。この相対評価の話は、第2回で他モデルとの比較として具体的に扱う。

5. で、それは何の役に立つのか

ここが本特集で最も伝えたい部分である。

GARCH にせよ他のモデルにせよ、ボラティリティ予測の相関は高くても 0.4〜0.5 程度であることが多い。本稿の実験でも約 0.42 だった。これは、売買シグナルとして単独で使うには弱すぎる数字である。

では、使い物にならないのか? そうではない。ボラ予測の価値は売買方向にはなく、ポジションサイズと損失制御にある。

具体的には、次のような判断に直接効いてくる。

  • 今は大きく張ってよい局面か、サイズを落とすべき局面か
  • 損切り幅はどのくらい必要か
  • レバレッジは現在のリスクに対して高すぎないか
  • ボラターゲティングで言うところの「目標リスク量」にどう合わせるか

勝率を上げるためではなく、破綻を避けるためにボラ予測を使う。これが本特集全体を通しての主張である。

相関 0.42 程度の予測器は、売買シグナルとしては弱いが、サイズ調整の入力としては十分に価値がある。なぜなら、サイズ調整で必要なのは「方向を当てること」ではなく、「今日の危険度が平時より高いか低いか」という相対的な判断だけだからである。この論点は第3回で詳しく扱う。


6. まとめ

本稿の論点を整理しておく。

  • 短期リターンの方向はほぼノイズに近く、予測は難しい
  • 一方で、ボラティリティには持続性があり、方向よりはモデル化しやすい
  • USD/JPY 1時間足での推定では、GARCH(1,1) の持続性パラメータ α + β は 0.9982、ショックの半減期は約385時間(約16日)と、極めて高い持続性が確認された
  • テスト期間における予測ボラと実現ボラの相関は約 0.42。レジームの大きなうねりは追随できている一方、個々のスパイクは捕捉しきれていない
  • GARCH(1,1) は「使えるベースライン」であって最終形ではなく、標準化残差にも構造が残る
  • ボラ予測の本当の価値は、方向当てではなく、ポジションサイズと損失制御にある

相場を当てるより、まず「次にどれだけ危ないか」を当てるほうが、運用には効く。

次回(第2回)では、EWMA、GARCH系、HAR-RV、Realized 系、インプライドボラティリティといった代表的な予測手法を整理し、「どの環境・目的で何を選ぶべきか」という方法論の地図を提示する。本稿の実証実験で得られた他モデルとの比較結果(GARCH は単純ベンチマークに対してどれだけ改善するのか、そして改善しきれない部分はどこに残るのか)も、第2回で詳しく紹介する予定である。


再現用スクリプトについて

本特集で使用している GARCH(1,1) 実証実験のスクリプトは、以下で公開している。手元で USD/JPY 1時間足データを用意すれば、同じ結果を再現できる。

[再現用スクリプト URL]
https://drive.google.com/file/d/18lapYy-hEaqkS_c8C2jzm-ytdI_LPOhv/view?usp=sharing

本特集では、コードそのものの解説には踏み込まない。興味のある読者は、ぜひ手元で回して、パラメータやモデル選択を自分で変えながら感覚をつかんでもらえたらと思う。


本記事はボラティリティ特集 全3回の第1回です。
第2回:ボラティリティ予測の代表手法――EWMA、GARCH、HAR-RV、確率モデルの違い
第3回:ボラ予測をどう利益につなげるか――ポジションサイズ調整と損失防止

  1. 表示されている丸め値 0.9982 をそのまま使うと半減期は約385時間になる。未丸めの内部値から計算するとわずかに異なる値が出るが、本稿では読者が検算したときに数字が合うように、丸め値ベースで表記している。

  2. ここでの実現ボラは、1日を構成する1時間収益率の二乗和の平方根として計算した。「実際にその日どれだけ動いたか」の代理指標である。

  3. ARCH-LM 検定:時系列データの分散が一定か、それとも過去の値に依存して変化するかを判定する検定。分散が一定でないと判定されれば、GARCH のようなモデルを当てはめる意味がある。

  4. 標準化残差:モデルで説明された分散で割った後に残る誤差。もしモデルが構造を完全に捉えていれば、標準化残差にはもう時系列構造が残らないはずである。

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