はじめに:LaTeXの行列入力はなぜつらいか
LaTeXで行列を書くのは、慣れた人でも地味に大変な作業です。
たとえば4×4の行列を書こうとすると:
\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \\
a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\
a_{31} & a_{32} & a_{33} & a_{34} \\
a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44}
\end{pmatrix}
各行に & が3個、行末に \\ が必要で、最後の行だけ \\ は不要。サイズが5×5、6×6と大きくなるにつれて、カウントミスによるコンパイルエラーが増えていきます。
よくあるエラー:
-
Extra alignment tab has been changed to \cr—&が多すぎる -
Missing \& inserted—&が少なすぎる - コンパイルは通るが行列がずれている(最後の
\\を入れてしまった)
こういったミスを防ぐために、TeX64 のビジュアル数式入力とAI機能を使い始めました。この記事では、具体的にどう使っているかを紹介します。
TeX64とは
TeX64はmacOS向けのLaTeXエディタです。Apple SiliconとIntelの両方に対応しており、ローカルファーストで動作します(コンパイルはすべてMac上で完結、インターネット接続不要)。
主な特徴:
- ビジュアル数式入力パレット:記号や数式テンプレートをクリックして入力
- Axiom AIアシスタント:自然言語でLaTeXのコードを生成・修正
- 数式OCR:画像や手書きの数式をLaTeXに変換
- SyncTeX対応:PDFとソースを双方向でリンク
- 環境診断:TeX Live/latexmkなどの不足を検出して案内
コンパイルにはTeX LiveかMacTeXが別途必要です。インストールは別途ですが、TeX64が環境をチェックして案内してくれます。
方法1:ビジュアルパレットで行列を入力する
TeX64の数式入力パレットには行列テンプレートが含まれています。
操作手順:
- TeX64のエディタで数式を書きたい位置にカーソルを置く
- 数式パレットから行列テンプレートを選択
- 行数・列数を指定する
- スケルトンが生成されるので、各セルに値を入力する
この方法の利点は、入力中にリアルタイムでレンダリングプレビューが確認できること。& の数は自動で管理されるので、カウントミスが根本的に起きません。
生成されるLaTeXはクリーンで標準的なコードなので、後から手で編集するのも容易です。
方法2:Axiom AIに自然言語で指示する
TeX64内蔵のAI「Axiom」に、自然言語で行列の生成を依頼できます。
使用例:
プロンプト:「3×3の単位行列(identity matrix)を書いて」
Axiomの出力(diff形式で提示):
\begin{pmatrix}
1 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 1
\end{pmatrix}
プロンプト:「ブロック行列で、左上がA、右上がB、左下がゼロ行列、右下がCの形にして」
Axiomの出力:
\begin{pmatrix}
A & B \\
\mathbf{0} & C
\end{pmatrix}
Axiomはプロジェクト内のすべての.texファイル、コンパイルログ、BibTeXを読んでいます。変更はdiff形式で提示され、確認してからワンクリックで適用します。ファイルが自動で書き換わることはないので、意図しない変更が入る心配はありません。
方法3:画像からOCRで変換する
TeX64にはEquation OCR機能があります。
使えるケース:
- 手書きノートの行列を写真に撮って貼り付ける
- 教科書や論文PDFの行列をスクリーンショットで貼り付ける
- 過去の論文PDFから数式を再利用する
操作は画像をTeX64の入力フィールドに貼り付けるだけです。行列も含めた数式をLaTeXに変換してくれます。
実際の使い分け
| シチュエーション | 使う方法 |
|---|---|
| 2×2〜4×4の標準的な行列 | ビジュアルパレット |
| 複雑な構造(ブロック行列、条件付き行列) | Axiom AIに指示 |
| 手書きノートや既存PDFから起こす | OCR |
| コンパイルエラーが出た | AxiomにErrorログを読ませて修正依頼 |
コンパイルエラーの修正もAxiomに任せる
行列絡みのコンパイルエラーで行き詰まったとき、AxiomにログをそのままM読ませて「このエラーを直して」と頼むと、ログから該当箇所を特定して修正のdiffを出してくれます。
& の数のズレとか、\end{pmatrix} の閉じ忘れとか、こういった単純なミスはAIが一瞬で見つけてくれます。
制約・注意点
- macOSのみ対応(Apple Silicon / Intel)。Windows・Linux環境では使えません。
- コンパイルには TeX Live または MacTeX が別途必要。TeX64は LaTeX エンジンを同梱していません。
- ビジュアルパレットおよびAxiom AIのヘビーユース(大量のAI生成やOCR)は有料プランになります。
- 無料枠はあり、アカウント登録なしで試せます(tex64.comから直接ダウンロード)。
まとめ
LaTeXの行列入力のつらさは、& と \\ のカウントミスによるコンパイルエラーの繰り返しに起因することが多いと思います。TeX64のビジュアルパレットはそのカウントをそもそも不要にする設計で、Axiom AIはより複雑な行列を自然言語から生成してくれます。
macOSユーザーで、行列を含む数式を書く機会が多い方には試してみる価値があります。