はじめに
研究ノートや黒板の写真から論文を書き起こす場合、一般的なフローは次のようになりがちです:
- 手書き数式を見ながら、LaTeXで一から打ち直す
- もしくはMathpixなど外部OCRツールを使い、変換結果をエディタにコピペする
どちらも地味に手間がかかります。特に後者は「ツールの行き来」が積み重なって疲弊します。
この記事では、TeX64というmacOS専用LaTeXエディタのOCR機能を使って、手書きノートをLaTeXに変換しながら論文を書く実際のワークフローを紹介します。
環境: macOS (Apple Silicon / Intel), MacTeX必須, TeX64(無料プランあり)
TeX64とは
TeX64 はmacOS専用のローカルファーストLaTeXエディタです。特徴的な機能は3つ:
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| Axiom(AIアシスタント) | コンパイルログを読んでエラーをdiffで修正提案 |
| 数式OCR | 手書き・印刷済み数式の写真 → editable LaTeX |
| ビジュアル数式パレット | 記号をクリックして数式を組み立てる |
コンパイルはすべてローカル実行。Overleafと違い、インターネット不要で動作します。
セットアップ
前提条件
-
MacTeX(または TeX Live)がインストール済みであること
- TeX64が環境を検知して案内してくれるので、不明な場合は起動してみると分かります
- TeX64本体のダウンロード: https://tex64.com
プロジェクトの作成
起動したらプロジェクトフォルダを指定するだけで開始できます。アカウント登録は不要です。
OCRワークフローの実際
Step 1:手書きノートの写真を用意する
スマホで撮影した写真でOK。照明さえ十分なら精度は安定します。光が均一に当たっているとベターです。
Step 2:TeX64にドロップしてOCR実行
エディタ上に画像をドロップすると、数式OCRが自動で走ります。
実際の変換例(ノートに書いたマクスウェル方程式):
\begin{align}
\nabla \cdot \mathbf{E} &= \frac{\rho}{\varepsilon_0} \\
\nabla \times \mathbf{B} &= \mu_0 \mathbf{J} + \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}
\end{align}
数秒で変換されて、そのままエディタ内で編集できる状態で渡ってきます。コピペ操作は一切不要。
精度の傾向:
- 印刷済み数式(教科書のスキャン等): ほぼ完璧
- 丁寧な手書き数式: 高精度
- 荒い手書き、特殊な略記: 誤認識あり。確認必須
- 手書きテキスト部分: 数式より精度が落ちる。手動確認を推奨
Step 3:Axiomで整形・修正を依頼する
TeX64にはAxiomというAIアシスタントがあり、変換後のコードの調整を任せられます。
「このequationにラベル \label{eq:maxwell_ampere} を追加して、
numbering をこのsectionの形式に合わせて」
Axiomはdiffを生成して提示します。確認してワンクリックで適用。ファイルをサイレントに書き換えることはありません。
Step 4:コンパイルしてSyncTeXで確認
コンパイルはローカルで実行されます(latexmk使用)。PDFが出たらSyncTeXで確認します。
PDF内の数式をクリック → ソースの該当行にジャンプ
ソースの行にカーソル → PDFの対応箇所にジャンプ
手書きから変換した式が正しくレンダリングされているかを、行き来しながら効率よく確認できます。
Step 5:コンパイルエラーの対処
手書き変換したLaTeXは括弧の対応ミスや環境タグの欠落が起きやすいです。コンパイルエラーが出た場合、Axiomがログを読んで原因を特定します:
! LaTeX Error: \begin{align} ended by \end{equation}
→ Axiom: 「247行目のend環境がalignに対してequationになっています。以下のdiffで修正できます」
自分でログを解読する手間が省けます。
精度と限界:正直なまとめ
| ケース | 精度 | 補足 |
|---|---|---|
| 印刷済み数式のスキャン | ★★★★★ | 教科書PDFのキャプチャなど |
| 丁寧な手書き数式 | ★★★★☆ | 多少の誤認識あり |
| 汚い手書き数式 | ★★★☆☆ | ある程度は変換できるが手直しが必要 |
| 手書きテキスト | ★★★☆☆ | 数式ほど高くない |
重要な制限:
- macOSのみ(Apple Silicon / Intel)。Windows/Linux不可。
- MacTeXまたはTeX Liveが別途必要。
- 無料プランはOCR・AI使用量に上限あり。論文全体を通してガッツリ使うには有料プランが現実的。
他のOCRツールとの比較
| ツール | OCR精度 | エディタ統合 | 料金感 |
|---|---|---|---|
| Mathpix Snip | 高い | なし(コピペが必要) | 月額あり |
| Underleaf | 高い | Overleaf連携 | 要確認 |
| TeX64 | 高い | エディタに内蔵 | 無料プランあり |
TeX64の最大のメリットは「OCRとエディタが同じアプリの中にある」こと。ツールを行き来するストレスがゼロです。
まとめ
手書きノートをLaTeX論文に変換するワークフローにおいて、TeX64のOCR機能は実用レベルでした。数式精度は特に高く、印刷済み数式なら追加編集がほぼ不要なレベルです。
macOSユーザーで、スタンドアロンのOCRツールとエディタを行き来することに疲れているなら、一度試してみる価値はあると思います。