おはようございます!
GMOコネクトの名もなきエンジニアです。
よろしくお願いします!
日刊IETFは、I-D AnnounceやIETF Announceに投稿されたメールをサマリーし続けるという修行的な活動です!!
今回は、2026-02-15(UTC基準)に公開されたInternet-DraftとRFCをまとめました。
- Internet-Draft: 30件
- RFC: 0件
30件と多めなので、20件ずつ2パートに分けてお届けします。こちらはPart 1です!
参照先:
その日のサマリー & Hot Topics
- 2026年2月15日は30件のInternet-Draftが公開されました。BGP関連の提案が3件と目立ち、SR PolicyへのBFD連携やネットワークリソースパーティション対応など、ルーティング制御の高度化が進んでいます。セキュリティ面では、IKEv2のヘッダ圧縮拡張やDiet-ESPの更新に加え、PTP向け鍵管理プロトコルNTS4PTPも改版されました。AERO/OMNIのモビリティ基盤関連が複数リビジョン同日公開されており、活発な議論が続いているようです。
- 注目はCATALIST BoFに向けたAIエージェントプロトコルの問題領域分析ドラフトです。IETFとしてAIエージェント間通信のどこを標準化すべきか、オープンソースの取り組みを踏まえて整理しています。また、デジタル著作権の証明を目的としたProof of Process(PoP)フレームワークが、アーキテクチャ編とフォレンジック評価編の2本立てで登場しました。VDF(検証可能遅延関数)を使って作成過程の真正性を証明するアプローチは、AI生成コンテンツ時代の新たな信頼基盤として気になるところです。
投稿されたInternet-Draft
JMAP File Storage extension
JMAPベースプロトコル(RFC 8620)は任意のバイナリデータをblobとしてアップロード・ダウンロードする機能を持っていますが、この拡張ではblobをファイルシステムとして公開する仕組みを追加します。リモートファイルシステムプロトコルが提供するようなメタデータの型定義も含まれており、JMAP上でファイルストレージを扱えるようになります。既存のJMAP拡張と組み合わせることで、メールやカレンダーだけでなくファイル管理まで統一的にJMAPで操作できる世界を目指した提案です。第4リビジョンとして更新されています。
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A Capability-Oriented Intent Routing Protocol
暗号学的に識別されたエンドポイント間で、異なる信頼ドメインをまたいでケイパビリティ指向のインテントをルーティングするトランスポート層プロトコルです。必須バージョニング付きのケイパビリティ識別子、5段階の可視性レベルによるスコープ付きディスカバリ、チケットベースのセッション認可、ハイブリッドPQC(ポスト量子暗号)鍵確立を含む暗号スイートのネゴシエーション、暗号化されたP2Pセッション確立、ハッシュチェーン完全性を備えた相互認証済み呼び出しレシートを定義しています。ペイロードのセマンティクスはトランスポート層にとって透過的です。
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Automatic Extended Route Optimization (AERO)
Overlay Multilink Network(OMNI)インターフェース上でのIP相互接続に向けた自動拡張ルート最適化とモビリティサービスを規定するドキュメントです。AERO/OMNIはIPv6近隣探索の制御プレーンメッセージをOMNI仮想リンク上で使用し、セキュアなネットワーク参加とリンク転送を実現します。フローベースのセキュアなマルチリンクパス選択やマルチネットトラバーサル、モビリティ管理、マルチキャスト転送、マルチホップ動作、ルート最適化を動的な近隣キャッシュ更新で自然にサポートしており、航空・陸上・海上・宇宙のモバイルインターネット用途に適しています。リビジョン54です。
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Group Address Allocation Protocol (GAAP)
軽量で分散型のマルチキャストグループアドレス割り当てプロトコルの設計を記述したドラフトです。設定作業や集中管理サービスを必要とせず、マルチキャストパケットの送受信に一意のグループアドレスが必要な参加者間で動作します。IPv4とIPv6の両方に対応しており、既存プロトコルを拡張するのではなく、シンプルかつ軽量な選択肢を提供する狙いがあります。名前の「GAAP」は「gap」と発音するそうで、命名のセンスにちょっとした遊び心を感じますね。第9リビジョンとして公開されています。
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Internet Key Exchange version 2 (IKEv2) extension for Header Compression Profile (HCP)
IKEv2にヘッダ圧縮プロファイル(HCP)のための拡張を加えるドラフトで、ルール導出に必要な属性について合意するための仕組みを定義しています。ESP Header Compression Profile(EHCP)、いわゆるDiet-ESPで使用するレジストリの整備が含まれており、IPsec通信のヘッダ圧縮をIKEv2のネゴシエーションフェーズで設定できるようになります。IoTや帯域が限られた環境でのIPsec運用を効率化するための重要なピースとなるドラフトで、第7リビジョンに更新されました。
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ESP Header Compression with Diet-ESP
IPsec/ESP通信における制御情報の圧縮メカニズム「Diet-ESP」を規定するドラフトです。Static Context Header Compression(SCHC)のルールを用いてESPヘッダを圧縮し、帯域消費を削減します。IoTデバイスやLPWAN(Low-Power Wide-Area Network)のように、パケットサイズの制約が厳しい環境でIPsecを使う際に効果を発揮します。上述のIKEv2拡張ドラフトと連携して動作する設計で、こちらは第10リビジョンとなっています。
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BGP Prefix Independent Convergence
数千のBGPピアが数百万の経路を交換するネットワークにおいて、障害発生後のトラフィック復旧時間をBGPプレフィックス数に依存させないアーキテクチャを提案しています。転送データ構造を階層的に整理し、できるだけ多くの経路間で転送要素を共有することで、ECMPや事前計算されたバックアップパスへの切り替えをプレフィックス数に関係なく実行可能にします。段階的な導入が可能で、設定や管理の手間もかからない点が特徴です。BGP-PICの効果はECMPまたはプライマリ・バックアップとして複数パスが存在することが前提になります。第23リビジョンです。
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BGP SR Policy Extensions for BFD Configuration
Segment Routing(SR)ポリシーの候補パスに対して、高速な障害検出を実現するBFD/S-BFDセッションの設定パラメータをBGPで同時に配信するための拡張です。従来はSRポリシーの配備とBFDの設定を別々に行う必要があり、手動設定やNETCONFなど追加のメカニズムで紐づける複雑な運用が避けられませんでした。Tunnel Encapsulation Attribute内にサブTLVを追加し、ディスクリミネータや間隔、倍率などのパラメータを伝搬する設計です。コントローラベースの環境で設定負担を軽減し、運用効率を高めることを目指しています。
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Problem Space Analysis of AI Agent Protocols in IETF
CATALIST BoFの目標に沿い、AIエージェントプロトコルに関するIETFとしての問題領域を特定するためのドキュメントです。オープンソースの取り組みを分析することで、IETF内外の調整や潜在的な作業領域・ワーキンググループの方向性を探っています。AIエージェント同士の通信やケイパビリティ交換をどう標準化していくか、IETFの立ち位置を議論するための土台となることを狙った初版ドラフトです。AI技術がネットワークプロトコル標準化の舞台にも本格的に登場してきたことを示す注目の一本です。
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BGP Extensions for Network Resource Partition
SR PolicyとNetwork Resource Partition(NRP)を1対1で紐づける従来の方法では、NRPの数が増えるほどSR Policyも線形に増加し、運用負荷が高くなる課題がありました。このドラフトでは、NRP識別子(NRP ID)情報をBGPで広告するための拡張を定義し、SR PolicyとNRPを分離することで複数のNRPが共通のSR Policyパスを共有できるようにします。SR Best Effort(SR BE)シナリオにも適用可能な設計で、運用の複雑さを低減することを目的としています。初版として公開されました。
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Automatic Extended Route Optimization (AERO)
先ほどと同じAERO/OMNIのモビリティサービス仕様ですが、こちらはリビジョン53です。リビジョン54と同日に公開されており、OMNI仮想リンク上でのIPv6近隣探索による制御プレーンメッセージング、セキュアなネットワーク参加、フローベースのマルチリンクパス選択、モビリティ管理といった機能群は共通しています。航空・陸上・海上・宇宙にわたるモバイルインターネット接続を想定した広範な用途を持つ仕様で、継続的にリビジョンが重ねられている活発なドラフトです。
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Transmission of IP Packets over Overlay Multilink Network (OMNI) Interfaces
航空機、地上車両、船舶、宇宙システム、企業無線デバイス、携帯電話を持つ歩行者など、さまざまなドメインで動作するモバイルノードのためのマルチリンク仮想インターフェース仕様です。モバイルルータがエンドユーザーネットワークのピアとインターネット上の通信相手を無線・有線データリンク経由で接続する場面を想定しています。ネットワークベースのモビリティサービスや固定ノード、他のモバイルノードピアとの連携をサポートするアダプテーション層サービスを提供し、セキュアなグローバルモバイルインターネット接続を実現します。第74リビジョンです。
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IPv6 Addresses for Ad Hoc Networks
アドホックネットワークでは、インターフェースの近隣関係が不確定なためIPv6アドレスの割り当てに課題があります。トポロジー指向のIPv6アドレス委任サービスが存在しない、あるいは断続的にしか利用できない場合でも、ノードがローカルで一意かつトポロジーに依存しないアドレスを自律的に割り当てる必要があります。このドラフトでは「Multilink Local Address(MLA)」と呼ばれる新しいIPv6アドレスタイプを導入し、アドホックネットワーク運用を支援します。第31リビジョンとして更新されました。
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A YANG Data Model of Performance Management Streaming
ネットワーク機器からクライアントへのパフォーマンス管理(PM)ストリーミングのためのYANGデータモデルを提供するドラフトです。PM測定方法、イベント通知、汎用PMパラメータ、ストリーミングサブスクリプションを定義しています。加えて、PMインターバル機能のディスカバリ用YANGモジュールも含まれており、PM測定の設定前にサポートされるサンプリング間隔や測定間隔をクライアントが把握できるようになります。ネットワーク監視の自動化を一歩進める提案で、第4リビジョンです。
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YANG Schema Comparison
2つのYANGスキーマリビジョン間の変更範囲と変更一覧を判定するための比較アルゴリズムを規定するドラフトです。アルゴリズムの出力は、新しいリビジョンに適切なリビジョンラベルやYANGセマンティックバージョン番号を選ぶ際の判断材料として活用できます。比較結果を記述するYANGモジュールも含まれており、スキーマの変更管理を体系的に行えるようになります。ネットワーク自動化が進む中でYANGモデルのバージョン管理は運用上の課題になりがちなので、地味ながら実務的に価値のある仕様です。第6リビジョンです。
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Internationalization for the NFSv4 Protocols
NFSv4.0、NFSv4.1、NFSv4.2およびその拡張、そして将来のマイナーバージョンを含むすべてのNFSv4プロトコルにおける国際化対応の扱い方を記述しています。ファイル名やパス名に含まれる多言語文字列の処理ルールを整理し、RFC 7530とRFC 8881を更新する内容です。分散ファイルシステムでUnicodeやロケール依存の文字列を安全に扱うためのルールは地味ながら大切で、特にグローバル環境でのNFS運用では避けて通れないテーマです。第14リビジョンとして更新されました。
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TCP RST Diagnostic Payload
TCP RSTセグメントに診断ペイロードを含めるフォーマットを規定するドラフトです。TCP接続がリセットされた理由をエンドポイントに共有することで、トラブルシューティングを容易にする狙いがあります。RFC 9293「Transmission Control Protocol (TCP)」にすでに存在する規定を活用して構築されているため、RFC 9293自体の変更は不要です。接続切断時に「なぜ切れたのか」がわからず苦労した経験のある方には嬉しい仕様ですね。第14リビジョンとして公開されています。
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NTS4PTP - Network Time Security for the Precision Time Protocol
IEEE Std 1588-2019(PTPv2.1)のAnnex Pに記載された統合セキュリティメカニズム(prong A)に対する自動鍵管理サービスを規定するドラフトです。NTPv4のセキュリティ確保のために定義されたNTS鍵確立プロトコル(RFC 8915)を拡張し、PTP向けに適用しています。NTS4PTPはprong Aの即時セキュリティ処理アプローチに従い、すべてのPTPモードに対応したセキュリティソリューションを提供します。NTPv4から完全に独立して動作する点も特徴で、精密時刻同期のセキュリティ強化に貢献する仕様です。第3リビジョンです。
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Carrying Traffic Shaping Mechanism in IPv6 Extension Header
ネットワーク確定性保証のコア技術であるトラフィックシェーピングに着目し、さまざまなトラフィックスケジューリング・シェーピング手法の特性を整理した上で、IPv6拡張ヘッダでそれらを搬送するソリューションを提案しています。確定性とセキュリティの両方を考慮した設計で、実用ネットワークの規模が拡大する中、確定的ネットワークサービスの要求がLANにとどまらずWANにも広がっている現状を踏まえています。LANで培われた確定性保証能力をネットワーク層技術によってWANへ拡張するという方向性を示した第1リビジョンです。
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Matroska Media Container Codec Specifications
マルチメディアコンテナフォーマットMatroskaのコーデックマッピングを定義するドラフトです。コーデックID、Block要素内のデータレイアウト、オプションのCodecPrivate要素内のレイアウトを規定しています。Matroskaは動画・音声・字幕を1つのファイルにまとめられる柔軟なコンテナとして広く使われていますが、その仕様をIETF標準として整備する作業が継続中です。日常的にMKVファイルを使っている方も多いと思いますが、その裏側の標準化がこうして着実に進んでいます。第17リビジョンです。
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発行されたRFC
今回、RFCの発行はありませんでした。
編集後記
- 今日はAIエージェントプロトコルの問題領域分析ドラフトが印象的でした。IETFの場でAIエージェント間の通信標準化をどう進めるか、オープンソースの動向を踏まえて議論する流れは、まさに今の技術トレンドを映しています。Proof of Processのような「作成過程の真正性を暗号学的に証明する」アプローチもAI時代ならではのテーマで、VDFを使った仕組みにはワクワクしますね。
- BGP周りも3件出ていて、SR PolicyとBFDの連携やNRPの分離など、ネットワーク運用の自動化・効率化がどんどん進んでいるのを感じます。Diet-ESPやIKEv2拡張のようなIoT向けIPsec軽量化の取り組みも地道に改版が重ねられていて、標準化って本当に積み重ねだなぁと実感する一日でした。
最後に、GMOコネクトでは研究開発や国際標準化に関する支援や技術検証をはじめ、幅広い支援を行っておりますので、何かありましたらお気軽にお問合せください。