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導電糸をミシン刺繍して「布キーボード」を作った話

Last updated at Posted at 2025-12-21

1. はじめに

こんにちは。今回は、導電糸のミシン刺繍と手縫いを駆使して、服のように身につけられるウェアラブル・キーボード「nüno type」を製作したので、そのプロセスと知見を共有します。

作ったもの

完成品はこちら。腰に巻くエプロン型のBluetoothキーボードです。
nunoType.png

デモ動画

なぜ「布」と「物理スイッチ」のハイブリッドなのか?

私はこれまでも swipe apronnüno といった、導電繊維を全面に使った作品を製作してきました。これらの作品では、インターフェース全体が布で構成されていましたが、今回はアプローチを変え、導電糸を回路部分にのみ使用し、人が直接触れる入力部分はソリッドな物理キースイッチにしました。

これは、衣服としての柔軟性と、入力装置としての確実性を両立させるための設計思想です。布の柔らかさを活かしつつ、確かな打鍵感と安定した入力を担保することを目指しました。

技術スタック

  • マイコン: Seeed Studio XIAO nRF52840 (Bluetooth)
  • キースイッチ: Kailh ロープロファイルスイッチ × 32個
  • 回路: 導電糸 (Aliexpressで購入)
  • 構造: 布、絶縁布

2. 仕組みと作り方

システム構成

キー入力は、導電糸で刺繍した4行×8列のマトリクス配線で制御しています。これにより、最小限の配線(4+8=12本)で32個のキーを認識できます。

スクリーンショット 2025-12-21 15.38.41.png

回路は、ショートを防ぐために絶縁布を挟んだ3層構造になっています。

*スクリーンショット 2025-12-21 15.39.32.png

  • 1層目(表面): 列(Column)の配線を刺繍
  • 2層目(中間): 絶縁布
  • 3層目(裏面): 行(Row)の配線を刺繍

製作プロセス

1. 刺繍:導電糸で回路を形成

業務用刺繍ミシンを使い、布に直接マトリクス回路を刺繍します。この際、縫い方の密度(ピッチ)が抵抗値にどう影響するかを検証しました。

刺繍ピッチと抵抗値の検証

ジグザグ縫いの頂点同士の距離を0.5mm〜2.0mmまで0.5mm刻みで変え、15cmの配線の抵抗値を測定しました。

当初は「ピッチが短い(密度が高い)ほど抵抗値が低くなる」と予想していましたが、結果は以下の通り、必ずしもそうはなりませんでした。

ピッチ 抵抗値 (15cm)
0.5mm 6.5 Ω
0.75mm 9.1 Ω
1.0mm 6.5 Ω
2.0mm 7.1 Ω

抵抗値に大きな差はなかった一方で、ピッチが短いほど刺繍時間は大幅に長くなりました。そのため、今回は作業効率を重視し、2.0mmピッチを採用しました。

2. 実装:手縫い

ここが一番の山場です。16x19.5mmのカスタム基板32個を、導電糸でスルーホールに手で縫い付けていきます。

IMG_4400.jpg
(必死過ぎて手縫い時の写真がなかった‥)

この工程では、数々の問題に直面しました。

  • 張力管理: 導電糸をきつく縫うとすぐに切れてしまい、緩いと接触不良やショートの原因になります。
  • ほつれ: 糸が少しでもほつれると、隣の配線と接触してショートします。

結局、安定した導通を得るために、32個すべての基板を2回は縫い直すという、まさに地獄の作業でした。

3. 解決策:液体ゴムによる絶縁

最終的に、縫い付けた接点に「液体ゴム」を塗布することで、物理的に絶縁と固定を行いました。これにより、ショートのリスクを大幅に低減できました。

IMG_4391.jpg


3. まとめ

こうして、身体の動きを妨げない、柔軟な布キーボードが完成しました。Kailhロープロファイルスイッチのおかげで、布の柔らかさを保ちつつ、しっかりとした打鍵感も得られています。
将来的にはARグラスなどと組み合わせ、散歩中でもタイピングできる環境を構築していきたいです。

ar_coding_walk_v4 (1).png

今後の課題

  • 耐久性: 導電糸の断線リスクをどう減らすか
  • 量産性: 「地獄の手縫い」からの脱却

課題はまだ多いですが、普段遣いデバイスにできるよう引き続き制作していきます。

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