0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

はじめよう分散AIプラットフォーム with Chutes

0
Last updated at Posted at 2026-05-09

背景

生成AIの実行基盤はハイパースケーラ(ベンダーロックイン、検閲やプライバシーへの懸念)に集中している。対抗策としてユーザローカルで学習・推論をすることが考えられるが、高性能なモデルを使うにはハードルが高い。

第三の選択肢として台頭しているのが、DePINである。DePINはオープンなインフラ・オープンなモデルに支えられた分散型AIネットワークである。

この記事ではChutesというアプリケーションプラットフォームからDePINの実際を見ていく。

Chutesとは?

ChutesとはBittensorネットワーク上(後述)の分散型サーバーレスAI推論プラットフォームである。このプラットフォームは、ユーザー向けのシンプルなAPIおよびWeb UIと、モデルを大規模に実行するGPU「マイナー(採掘者)」の分散型バックエンドを組み合わせることで、従来のクラウドサービスに対するWeb3的な代替案を提供している 。

Chutesの成長速度は、分散型ネットワークの潜在能力を如実に示している。1日あたり約1,000億トークン、月間換算で約3兆トークンを処理しており、これは前年のGoogleのNLP(自然言語処理)スループットの約3分の1に匹敵する驚異的な規模である。このスループットを支えているのは、世界中に分散した2,100以上のノードであり、これらはNVIDIA H100やA100といった最新のGPUリソースを提供している。

マイナーとバリデーターが最高のサービスを提供するために競い合うBittensor独自のインセンティブ構造により、ネットワーク全体の品質は継続的に向上し、中央集権的なクラウドに匹敵、あるいはそれを凌駕する弾力性と回復力を実現している。

↓Web UIで推論する様子

Bittensorとは?

Chutesが機能するための基盤となるのがBittensorである。Bittensorは、ブロックチェーン技術を用いて、機械学習モデルのトレーニング、推論、評価を分散化・インセンティブ化するプロトコルである 。その目的は、特定の巨大企業によって独占されているAI開発を、グローバルな市場へと変革することにある。

Bittensorの全体図

image.png

Subtensor

Subtensorは、Bittensorネットワークの根幹をなすブロックチェーンであり、PolkadotエコシステムのSubstrateフレームワークを用いて構築されている 。Subtensorは、ネットワーク全体のタスクの要約を記録し、参加者の貢献に対する透明性を確保する役割を担う。各参加者の貢献の質に基づき、ネイティブトークンであるTAO(τ)を自動的に計算・配布する 。Bittensorは、Proof-of-Stake(PoS)とProof-of-Intelligence(PoI)を組み合わせたハイブリッドモデルを採用しており、有用なオフチェーンの知性を提供した者が報酬を得る仕組みとなっている。

Subnet

Bittensorネットワーク内には、特定のAIタスクに焦点を当てた独立した市場である「サブネット」が多数存在する。各サブネットは、マイナー(情報の生産者)とバリデーター(情報の評価者)から構成される自己完結型のインセンティブ・システムである。

↓例

例えばZeusは、AIを環境および気象予測に適用するサブネットである。従来の気象予測が少数の巨大なスーパーコンピューターに依存していたのに対し、Zeusは世界中に分散したセンサーデータとAIモデルを活用して、より高速で正確、かつコスト効率の高い予測フレームワークを構築している。

Chutesを運営するRayon Labsは、単一のサブネットに留まらず、Bittensorエコシステム内で垂直統合的なアプローチをとっている。Gradients (SN56): モデルのトレーニングとファインチューニングに特化。分散型GPUリソースを用いて、RLHF(人間によるフィードバックからの強化学習)などの重い計算を実行する。Nineteen (SN19): 画像生成などの高頻度・低遅延の推論タスクに最適化されたネットワーク。「Gradientsでモデルを鍛え、Chutesで汎用的な推論を提供し、Nineteenで特定のメディア生成を加速させる」という、AI開発の全ライフサイクルをカバーする強力なエコシステムが構築されている。

サブネットの一覧(実際にBittensor Python SDKからチェーンに接続して取得したもの)

Chutesの収益モデル

Chutes(Subnet 64)の最大の特徴は、多くのBittensorサブネットがネットワークからの排出(Emissions)のみに依存しているのに対し、実際のサービス利用料に基づく「外部収益」を確立している点にある。このモデルの背景には、投機的な報酬ではなく、実需に基づいた持続可能な経済圏を構築するというRayon Labsの強い意志がある。マイナーは計算リソースを提供し、ユーザーから直接支払われるTAO(またはその相当額)を収益として受け取る。

Why Chutes(DePIN)?

データ主権

分散型ネットワークの最大の懸念は、「自分のデータがどこの誰ともわからないマイナーのサーバーで処理される」という点にある。Chutesはこの問題に対し、Trusted Execution Environments (TEE) を導入することで回答している 。TEEを使用すると、計算プロセスがハードウェアレベルで隔離・暗号化されるため、サーバーの所有者であっても実行中のデータやモデルの内部を覗き見ることができない。Chutesでは、Qwen3、DeepSeek V3、MiniMaxなどの主要モデルにおいて、TEE対応版が提供されており、企業は機密性の高いデータを扱うワークロードを分散型ネットワーク上で安全に実行することが可能になっている。

コスト効率

分散型ネットワークの最大の武器は、そのコスト効率である。AWSなどの従来型クラウドと比較して、Chutesは約85%低いコストで同等の推論能力を提供している 。これは、世界中に散らばる余剰計算リソース(Idle compute)を市場原理に基づいて動員しているためであり、巨大なデータセンターを自社保有・維持する中央集権的モデルに対する構造的な優位性である。

Qwen3 32Bの1Mトークンあたりの料金(in / out[USD/1M])

Chutes: 0.08 / 0.24
Bedrock: 0.15 / 0.60

検閲耐性

中央集権的なプラットフォームでは、提供企業の政治的判断や法規制により、特定のモデルの使用が制限されたり、出力が過度にフィルタリングされたりするリスクがある。Bittensorは許可不要のプロトコルであり、Chutesはその上でオープンソースモデルをありのままに提供する。これは、各個人や国、コミュニティが、外部の意思決定に左右されることなく、自らの価値観に合致したAIを保有・運用できる「主権的AI(Sovereign AI)」の実現に直結する。

Templar の Covenant-72B は、Bittensor の Subnet 3 のみで事前学習された 727 億パラメータの大規模言語モデル(LLM)であり、暗号資産の歴史の中で最大の共同トレーニングによる AI モデルとなった。

Chutes 全体図

image.png

0
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?