※以下の企画です
今回は「態度と行動の関係性」についての内容です。
前回、「態度は計算できる(フィッシュバインモデル)」という話をしましたが、「じゃあスコアが高ければ絶対買うのか?」と言われると、そうでもないのが人間の面倒なところです。
それでは頑張ります〜
態度と行動の乖離
態度は行動を予測できない?(Solomon 2011)
心理学者のソロモン(Solomon)は、「態度の研究によって行動の予測はできないのでは?」 という指摘をしています。
有名なのが1934年のラピエールの実験です。
当時、アメリカでは中国人に対する偏見が強かったのですが、ラピエールが中国人夫婦を連れてホテルやレストランを回ったところ、251件中、拒否されたのはたった1件でした(行動)。
しかし、後で同じ店に「中国人の宿泊を受け入れますか?」とアンケート(態度)をとったところ、92%が「お断りします」と回答しました。
- 態度(アンケート): 拒否する(92%)
- 行動(実際の来店): 受け入れる(99%以上)
この「態度と行動の不一致」を解決するために、モデルが進化していきました。
フィッシュバインの行動意図モデル
前回の記事で紹介したフィッシュバインモデル(多属性態度モデル)は、あくまで「その対象が好きか嫌いか(態度)」を測るものでした。
しかし、行動を予測するにはそれだけでは不十分だとして、拡張版の 「合理的な行為の理論(Theory of Reasoned Action: TRA)」 が生まれました。
ここでのポイントは、「態度(Attitude)」に加えて「主観的規範(Subjective Norm)」という変数が追加されたことです。
$$
BI = w_1(A_{act}) + w_2(SN)
$$
- $BI$ (Behavioral Intention):行動意図(やろうと思うか)
- $A_{act}$ (Attitude toward the act):その行動に対する本人の態度
- $SN$ (Subjective Norm):主観的規範(周囲の目)
- $w_1, w_2$:それぞれの重み
この右側の項である $SN$(主観的規範) ですが、実はこれも以下のような総和の式で表されます。
$$
SN = \sum_{j=1}^{m} (NB_j \times MC_j)
$$
中身は単純な掛け算です。
-
$NB_j$ (Normative Belief):規範的信念
- 重要な他者 $j$ が、自分がその行動をすることを「期待している」と信じる強さ
- 「あの人は私に〇〇してほしいと思っているはずだ」という予測
-
$MC_j$ (Motivation to Comply):順応への動機づけ
- その他者 $j$ の期待に「従いたい」と思う強さ
- 「あの人の言うことなら聞かなきゃ(聞きたい)」という従順度
「周囲の目」というパラメータ
この「主観的規範(SN)」が重要です。
「この車が欲しい!($A_{act}$:高)」と思っても、「家族になんて言われるか...($SN$:低)」となれば、結果として行動意図($BI$)は低くなります。
人間は自分の好みだけで意思決定しているわけではなく、「世間体」「上司の評価」「家族の同意」といった外部制約を含めて計算しているということです。
稟議を通すときに「スペック的には最高だけど、部長が嫌いなメーカーだから通らないな」となるのは、まさにこの$SN$が作用している状態ですね。
MODEモデル(Fazio 1990, 2008)
さらに、「人間はいつもそんなに複雑な計算をしてるの?」という疑問に答えるのが、ファジオ(Fazio)のMODEモデルです。
これは、人が意思決定をするとき、「熟考する(計算モード)」か「直感で動く(自動モード)」かは、状況によるとするモデルです。
MODEは "Motivation and Opportunity as DEterminants" (決定要因としての動機と機会)の略です。
2つの処理ルート
-
熟考ルート(計算する)
- 条件: 動機(Motivation)が高く、かつ機会(Opportunity/時間や能力)があるとき。
- 処理: フィッシュバインモデルのように、メリット・デメリットや周囲の目をしっかり計算して行動します。
- 例: 家や車を買うとき。
-
自発的処理ルート(直感で動く)
- 条件: 動機が低い、または時間がない(機会がない)とき。
- 処理: 「態度のアクセス可能性(Accessibility)」 に依存します。つまり、パッと思い浮かぶ「好き/嫌い」の直感だけで行動します。
- 例: コンビニで飲み物を買うとき。
まとめ
今回は「態度と行動の複雑な関係」についてまとめました。
- 態度は行動を保証しない(ラピエールのパラドックス):テスト環境と本番環境は違う。
- 周囲の目が行動を決める(合理的な行為の理論):本人の「好き」だけでなく、「世間体(主観的規範)」も計算式に入っている。
- 余裕がないと計算しない(MODEモデル):時間ややる気がないときは、計算処理をスキップして「直感(キャッシュされた態度)」で動く。
ユーザーに行動(CV)してもらうには、「商品を好きになってもらう」だけでは不十分で、「周りを説得できる材料を与える」とか「直感的に選べるようにする」といったアプローチが必要だということが、心理学的に裏付けられています。
それでは、また明日!