※以下の企画です
今回は「主に広告に係る記憶の定着と忘却」に関する内容です。
それでは頑張ります〜
注目を集めるための「新奇性」
意外性がフィルタを突破する(Fennis, B.M., & Stroebe, W., 2010)
人間は基本的に認知的倹約家(Cognitive Miser) です。つまり、できるだけ脳のリソースを使いたくないので、見慣れたものは「処理不要」としてスルーします(馴化)。
FennisとStroebeの研究によると、この自動的なスルー機能を解除するには新奇性(Novelty) が必要だとされています。
- 予期しない刺激:文脈に合わない画像や、奇抜なコピー
- 不一致:既存のスキーマ(常識)とズレている情報
故に奇抜な広告が蔓延っているとも言えそうです。
広告の潜在記憶(Yoo, 2008)
「Web広告なんて見てないし、クリックもしないから自分には無効だ」と思っている方は多いと思います(実は僕もそうです)。
しかし、Yooの研究によると、注意を向けていない(無視した)広告でも、潜在記憶(Implicit Memory)には痕跡が残ることが示されています。
- 明示的記憶:「あの広告を見た」と思い出せる状態
- 潜在的記憶:見た覚えはないが、脳内にはデータがある状態
恐ろしいのは、この潜在記憶が後の判断に影響を与える点です。
コンビニで無意識に商品を選ぶとき、スペック比較ではなく「なんとなく見たことある(処理の流暢性が高い)」という理由で選んでしまう。
つまり、意識的な防御壁(AdBlock的な思考)をすり抜けて、バックグラウンドプロセスとしてログが書き込まれていることになります。怖い。
広告クラッター(Advertising Clutter)
現代は情報爆発の時代です。Webページを開けばバナー、ポップアップ、動画広告がひしめき合っています。
このように広告が密集しすぎて埋没してしまう状態を広告クラッター(雑音・散乱) と呼びます。
入力信号(Stimulus)が多すぎると、人間の処理能力(帯域)を超えてしまい、結果としてどのメッセージも届かなくなります。
ユーザーはこれに対抗するために、「広告っぽいエリアを視界から除外する」というフィルタリングルールを脳内に実装して対抗しています(バナーブラインドネス)。
要は広告に疲れているときには休憩を挟ませないと、どんなに広告を与えても無駄とも言えます。
忘却(Garbage Collection)
せっかく長期記憶(ストレージ)に入れた情報も、時間が経つと消えます。
忘却には主に2つの説があるそうです。
- 減衰説: 時間経過とともにトレース(記憶痕跡)が薄れる。TTL(Time To Live)切れによる自動削除。
- 干渉説: ほかの情報が邪魔をして思い出せなくなる。データのOverwrittenやインデックスの破損。
特に現代のような広告クラッター状態では、後者の 「干渉」 による忘却が激しそうです
競合他社の似たような広告を見ると、前の記憶が上書きされたり、混同したりしてしまいます
これを防ぐには、やはり 「リハーサル(復習)」 や 「検索の手掛かり(リトリーバル・キュー)」 を適切に設置するしかなさそうです
まとめ
今回は、記憶の入り口(新奇性)と、無意識への書き込み(潜在記憶)、そして削除プロセス(忘却・クラッター)についてまとめました。
- Diff(新奇性)がないと脳は処理をスキップする
- 無視したつもりでも、バックグラウンドでログ(潜在記憶)は保存されている
- 情報過多(クラッター)はDDoS攻撃と同じで、すべてを遮断させる原因になる
- 忘却はGC(ガベージコレクション)のようなもの。時間経過だけでなく、他情報の干渉でも起こる
「見てないから影響ない」と高を括っていましたが、人間の脳は想像以上に勝手にデータを収集し、勝手に判断材料にしていることがわかりました。
マーケティング側としては「いかに潜在記憶に忍び込むか」、ユーザー側としては「自分の選択が本当に自分の意思なのか」を考えるきっかけになりそうです。
それではまた明日!