独学を始めようとすると、必ずこの分岐にぶつかる。技術書を買うか、Udemyの動画講座を買うか。
SNSを眺めていると、体感としては「もう動画の時代」という空気の方が強い気がする。セール中のUdemyのバナーは目に入りやすいし、「本より動画の方が挫折しにくい」という意見もよく見かける。実際、書店の技術書コーナーより先にUdemyのカート画面を開いたことがある人も少なくないはずだと思う。
tasklogでは、Qiita・Zennの記事の中で開発者が実際に引用・推薦した技術書とUdemy講座の件数を、分野別に集計している。今回、その「書籍の被引用件数」と「Udemy講座の被引用件数」を分野ごとに突き合わせてみた。
出てきたのは、「動画の時代」という体感とは裏腹の結果だった。というより、体感そのものが半分正しくて半分間違っていた、と言った方が近い。
表:分野別・書籍とUdemy講座の被引用件数
| 分野 | 書籍 | Udemy講座 | 動画講座の割合 |
|---|---|---|---|
| AI・機械学習 | 977 | 51 | 5.0% |
| Linux | 120 | 14 | 10.4% |
| Python | 371 | 46 | 11.0% |
| バックエンド総合 | 1,346 | 246 | 15.5% |
| AWS | 223 | 223 | 50.0% |
| フロントエンド総合 | 491 | 624 | 56.0% |
| TypeScript | 106 | 144 | 57.6% |
| React | 77 | 237 | 75.5% |
| Next.js | 28 | 107 | 79.3% |
見ての通り、きれいに二極化している。Next.js・React・TypeScriptといったフロントエンド系は、被引用の6割弱〜8割がUdemy講座(TypeScript57.6%〜Next.js79.3%)。逆にPython・Linux・AI/機械学習は9割前後、バックエンド全般でも8割半ばが書籍だ。AWSだけが、223対223とまるで狙ったかのように五分五分に割れている。
「動画の時代」という体感は、フロントエンドを主戦場にしている人にとっては正しい。だが、Pythonやインフラ、機械学習を主戦場にしている人にとっては、体感とはむしろ逆の世界が広がっている。同じ「プログラミング学習」というくくりの中に、動画優位の分野と書籍優位の分野が、ほぼ真逆の比率で同居している。
そして、いちばん示唆的なのは表の真ん中に座っているAWSだと思う。書籍223・講座223。小数点以下まで狙って合わせたような、ぴったりの五分五分だ。もしこれが「今どきは動画が流行っているから」という流行りの問題なら、全分野が一律に動画へ寄っていくはずで、こんなに分野ごとに割れたりはしない。AWSがちょうど真ん中で止まっているという事実が、「これは流行りではなく、学ぶ内容そのものが媒体を選んでいる」という仮説を静かに裏づけている。
なぜここまで綺麗に割れるのか
集計はあくまで「開発者が記事の中で何を引用・推薦したか」の件数であって、その理由までは教えてくれない。ここから先は数字の裏にありそうな構造についての、一つの見立てとして読んでほしい。
フロントエンドの学習でつまずくポイントは、「環境構築の手順」「UIがどう動くか」「エディタ上で今何が起きているか」といった、画面を見ながら手を動かして初めて腑に落ちる種類のことが多い。ここは、静止したコードとテキストで説明するより、実際に手元でタイプしながら見せてもらう方が明らかに早い。Next.js・Reactが8割近く動画に寄っているのは、この「画面で見せる方が早い」学習内容の比率が高いからだと考えると筋が通る。
一方でPython・Linux・AI/機械学習・バックエンドは、コマンドを一つ叩けば結果が見える類の学習というより、「なぜこの設計になっているか」「このアルゴリズムが何をしているか」を、腰を据えて読み込んで理解する場面が相対的に多い分野だ。動画の再生速度に合わせて情報を受け取るより、自分のペースで行きつ戻りつしながら読んだ方が、理解の定着には向いている。8割半ば〜9割が書籍に振れているのは、そういう「じっくり読む」ことが要求される内容の比率が高いからだろう。
AWSがちょうど中間で割れているのも、この見方に沿う。AWSの学習には、コンソール画面の操作手順という「見て学ぶ」要素と、IAMやVPCの設計思想という「読んで理解する」要素の両方が、ほぼ同じ重みで含まれている。だから引用も綺麗に二分される。
じゃあ、自分の分野では何から始める?
見立てを踏まえると、独学の初手はだいたい次のように置ける。
- フロントエンド(React・Next.js・TypeScript)を学ぶなら、まず動画講座で環境構築から画面が動くところまで一気に走り切る。手が動く感覚を先に掴んでから、詰まった箇所だけ書籍やドキュメントで裏を取る。ここは「読んでから作る」より「作りながら読む」方が、先行者の多数派が実際にたどった順路だ。
- Python・インフラ・機械学習を学ぶなら、逆に一冊を軸に据える。動画で手順をなぞるだけだと、「なぜこの設計なのか」「このアルゴリズムが何をしているのか」が素通りになりやすい。腰を据えて読める本を背骨にして、手を動かすところだけ動画やチュートリアルで補う。
- AWSのように両方が半々の分野なら、テーマ単位で切り替える。コンソール操作は動画で見た方が早いし、IAMやネットワーク設計は本で腰を据えて理解した方が定着する。「本か動画か」を分野でひとくくりに決めず、学ぶ内容ごとに選ぶのが、まさに五分五分という数字の意味するところだ。
大事なのは、この配分を「流行り」や「なんとなくの空気」で決めないことだと思う。あなたが次に学ぶ分野が、画面を見て体で覚える比率が高いのか、腰を据えて読んで理解する比率が高いのか——それを見極めれば、本と動画のどちらに寄せるべきかは自然と決まる。
「本か動画か」に、そもそも唯一の正解はない
こうして見ると、「独学は本と動画、どちらがいいか」という問いそのものが、少し的を外している。正解は分野ごとに違うし、同じ分野の中でもテーマによって変わる。一般論として一度きり決めてしまえるものではない。
独学のやり方に迷ったら、「本か動画か」を全体の方針として決めようとするのをやめて、自分がこれから学ぶ分野で、実際に開発者たちが何を引用しているかを見てから決める。遠回りに見えて、これがいちばん折れにくい入り方だと思う。
出典・集計方法:本文の割合は、開発者がQiita・Zennの記事の中で実際に引用・推薦した技術書とUdemy講座を、分野ごとに件数で集計したものです(tasklog)。分野別のデータは、ここから辿れます。
(集計方法:https://s-tasklog.com/methodology / 出典を明記すれば自由に引用できます)
集計元:Qiita・Zenn記事内の被引用・推薦件数(rankingsテーブル、period=all、2026年8月時点の暫定値)。書籍とUdemy講座の合計件数を分野別に突合したもので、売上・利用者数・学習効果を示すものではありません。