はじめに
2025年は「AIエージェント元年」と呼ばれました。
多くのカンファレンスや記事がその言葉を使い、
一方で多くの組織が、次のように判断しました。
- まだ早い
- 今年は様子を見る
- 来期以降に検討する
これらの判断は、決して珍しいものではありません。
むしろ、当時の条件下では合理的な意思決定でした。
本稿では、その判断が正しかったかどうかを論じません。
ただ、その意思決定が組織の中でどう扱われ続けたかを整理します。
「何もしない」は、なぜ選ばれやすかったのか
AIエージェントに関する判断が難しかった理由は、
技術そのものよりも、判断材料が揃っていなかったことにあります。
- 前例が少ない
- 成功と失敗の定義が曖昧
- ROIを説明しづらい
- 失敗した場合の責任範囲が読めない
こうした条件が重なると、
「何もしない」という判断は、最もリスクが低く見えます。
慎重であること自体は、問題ではありません。
問題になるのは、この判断が時間とともにどう扱われたかです。
判断しなかった結果、組織で起きたこと
2025年、多くの現場では次のような変化が見られました。
- 個人が非公式にAIツールを使い始める
- 業務の一部が、静かに置き換わる
- ノウハウが共有されず、人に溜まる
- 管理職は「詳しくは分からないが、便利らしい」と感じる
ここで重要なのは、
AIエージェントは導入されていなくても、使われ始めていたという点です。
組織として判断しなかった結果、
判断は現場に委ねられました。
2025年に起きていたのは「技術導入」ではない
この一年で起きていた変化は、
単なる新技術の導入ではありません。
AIエージェントは、
- 人の作業を代替し
- 人の思考を補助し
- 人の判断の前提を変える存在です
そのため、トップダウンの導入判断を待たずに、
下から滲み出るように広がる性質を持っています。
この構図は、AIエージェントに限った話ではありません。
それでも、2025年にまた同じ形で現れた。
それ自体が、今回の論点です。
「何もしなかった」組織に残りやすいもの
2025年に「何もしない」という判断を取った組織では、
目に見えた失敗が起きるとは限りません。
多くの場合、起きるのはもっと静かな変化です。
当時、この判断が会議で口に出されたとき、
反対意見はほとんど出ませんでした。
まず現れるのは、使いこなしている人の周囲に負荷が集まるという現象です。
AIツールを使える人は、
作業そのものは確かに早く終わるようになります。
しかし、その余白が「減った仕事」として回収されることはあまりありません。
代わりに、
- 判断が速い
- 話が通じる
- 仮説を立てられる
という理由で、
レビュー、相談、壁打ち、トラブル対応が集まってきます。
結果として、
作業は楽になったはずなのに、
なぜか常に呼ばれている
という状態が生まれます。
次に起きるのは、ノウハウの偏在です。
AI活用は個人の工夫として始まることが多く、
組織として整理されないまま成果だけが出ます。
その結果、
- 何をやっているのかは共有されない
- どう再現すればいいかも分からない
- それでも成果は期待され続ける
という歪みが生じます。
この段階で、組織には
「その人がいないと回らない仕事」 が増え始めます。
参考までに、個人レベルでのAI活用が進んだ組織では、
一部メンバーの生産性が20〜40%向上する一方で、
チーム全体の生産性は0〜5%程度に留まるケースが多く見られます。
これは、改善が起きていないからではありません。
改善が特定の人・特定の作業に局所化し、
生まれた余白が成果ではなく調整や判断に吸収され、
さらに、変化したものを測る指標が用意されていないために、
経営からは「何も起きていない」ように見えてしまうのです。
最後に残るのは、理解ではなく空気です。
- なんとなくAIは重要らしい
- でも自分たちは追いついていない気がする
- どこから手を付ければいいかは分からない
こうして、「うちはAIが弱い」という感覚だけが共有され、
具体的な議論は行われなくなります。
ここで強調しておきたいのは、
これは失敗談ではない、ということです。
あくまで、
組織として判断を更新せず、
個人の工夫に委ねた場合に起きやすい構造です。
危険なのは、誰かが頑張ったことではありません。
その頑張りを、組織として回収しなかったことです。
これは過去の話ではない
ここまで読むと、
2025年の話だと感じるかもしれません。
ただ、「何もしなかった」という意思決定は、
2026年に入った今も、静かに更新され続けています。
- 関心を持たない
- 話題にしない
- 誰かに任せきりにする
それらもまた、意思決定です。
結論が変わらなくても構いません。
ただ、判断が今の状況を前提に再実行されているかどうかは、
組織の振る舞いに確実に表れます。
おわりに
この記事は、何かを始めるための提案ではありません。
遅れを取り戻す方法を書くものでもありません。
2025年に
AIエージェントに何もしなかった、という意思決定が
いつ、どこで、どのように更新されるのか。
それを考えるための材料として、ここに置いておきます。
危険なのは、何もしなかったことではなく、
何も見なくなったことです。