この記事はマイクロマウス Advent Calendar 2024に参加しています。前の記事はP4W4PROさんの、マイクロマウス参加動機タイプと進め方のススメでした。趣味でロボットを作っているとたまに”こんなの作らなくて良くない?”って萎えてしまうことがよくあります。そんな時は折に触れて読み返したくなる記事でした。
はじめに
私は年間20~30冊本を読んでいるので、何かしらOUTPUTできたらいいなと思っていました。
さらに、せっかく記事を書くならエンジニアがあまり読まないであろう非・技術分野にが良いと思ったので教養本1を3冊+α紹介させていただきます。
①「役に立たない」科学が役に立つ
エイブラハム・フレクスナー (著), ロベルト・ダイクラーフ (著)
科学研究は、その成果が網の目のように結びつき影響し合い何年~何十年後 2 にようやく花開くので、一見役に立たない研究も後ほど役に立つ。というタイトルそのまんまの内容です。
クリシェな提言だとは思いますが、この本はプリンストン高等研究所初代理事エイブラハム・フレクスナー氏が1939年に書いたエッセイを元に、同研究所元理事(2012年~2022年)のロベルト・ダイクラーフ氏がまとめたとなると重みが違うでしょう。
エンジニアの皆さんは文字を読み、知識・知見を溜め込むのが好きで公式ドキュメントや、コーディングについての本、マネージメントの本などをその欲望のはけ口としていると思います。
ところが、タイトルや評判などから役に立ちそうな本を優先的に読んでいるのではないでしょうか?(私もそうでした)
ただし、こんな言葉もあるのです。
「すぐに役に立つものは、すぐ役に立たなくなる」
慶應義塾大学元塾長 小泉信三
後々何が役に立つのかわからないのであれば、すぐに役に立つとは限らない本を読んでおくのも悪くはないな。
とこの本を読んで感じました。
(以降の本も、その提言の影響もあって読んだ感もあります)
②方法序説
ルネ・デカルト(著)。いわゆる「コギト・エルゴ・スム(我思う、ゆえに我あり)」の出典元。数学者でもあるデカルトらしくロジカルに、そして謙虚に真理に迫ろうとする姿勢は、哲学に対する「役に立たない」「なんだかよく分からない」などといったイメージを多少なりとも払拭してくれるでしょう。
そもそも、「方法序説」の「序説」とは、この後に続くいくつかの論文があることを指します。つまりこの本は続きの論文を書くための「方法(自分のルール)」を述べたものなのです。
まず、彼は今までの常識・知識を捨て、以下のルールを設けることにしました。
そのうえで、真理に到達するまでの"仮住まい"として以下のルールも追加しました。
- 法律や慣習に従う
- 可能な限り決心したことを毅然と行う
- 自分を律し、世界の秩序より自分の欲望を変えるように務める
そして最後に「我思う、ゆえに我あり]に到達したのでした。
実際の本文では、時代背景や彼の思想信条のために宗教色が強すぎる感はありましたが、現在の我々としてもすんなり納得できる
「人工知能はどこまで賢くなったら知能を持ったとみなせるか?」4や、「良い先輩とは何か?」5のように答えを科学では出しきれない哲学的な問題について、この本を読んで考えてみるのも面白いと思います。
(結構薄くて文体も読みやすいですし6)
③イノベーションの普及
エヴェリット・ロジャース(著)。基本情報技術者試験でも出題されるイノベーター理論を初めて提唱した本です。エンジニアは新しいもの好きを兼ねているので、ともすれば「〇〇を使っていない人はバカ」といった態度を取りがちだったりします(耳が痛い話です)。そのためか、 ”(俺達はイノベーターだが)〇〇の良さがわからない〇〇はラガード(笑)” という言説をこのグラフをセットで主張されているケース、チラホラ見るような...
(グラフはwikipediaより)
ところが、筆者はイノベーションに飛びつかない人をバカにするのは間違っているとはっきり主張しています。そして、学生全員が偏差値60を超えられないように、母集団の教育レベルが変わってもグラフの形は変わらないとも述べています。
(確かに思いっきり正規分布ですね)
この本はイノベーションがどのように普及するかはもちろん、一次資料をあたる大切さを学べた本でした。
一方で、ページ数が多いのに字も小さく結構読むのには時間がかかりました。かなり読書力も試されます7。
+α 月着陸船開発物語
タイトルから出落ち感のあるこの本は、教養本ではないですが紹介します。書いたのは、アポロ宇宙船の月着陸船開発主任に弱冠33歳で任命されたグラマン社のトーマス・J・ケリー氏です。
アポロ計画の”初めて宇宙だけで運用される有人宇宙船"であり"人類が触れたことのない地面への着陸もこなす” という夢のある大仕事でどんな困難に遭遇し、どう乗り越え達成感を感じたのか?
という期待感で本を読み進めたのですが。。。
製造不具合で客先(NASA)の納入検査不合格となりNASAから激詰めされる。進捗が遅れに遅れ、初めての有人飛行(アポロ8号)に月着陸船が間に合わず激詰めされる。しまいには主任をクビになってしまい工場の品質・日程の管理のために工場へ左遷される。という夢も希望もない話でした。
ここで某プロジェクトがエックスな番組なら起死回生の "銀の弾丸8"的なアイディア・妙案 が登場するわけですが、都合よくそんなもの見つかる訳もなく、コミュニケーションを密に行い、一つ一つの作業をマニュアル化し徹底的に検査し、サプライヤの工場の掃除を徹底させたといった、面白みのかけらもない方法で解決したのです。
筆者の言葉を借りるのなら、
「宇宙空間と月面専用の有人宇宙船を設計するという、冒険的で創造的な挑戦から、細部に至るまで図面化し、月着陸船が確実に任務を果たせることを試験と解析で証明する、根気と忍耐を必要とする作業に移っていった。」
「(細すぎるワイヤやエッチングによる軽量化など)自分の設計の付けを払わされた。懲罰として妥当だった。」
とのこと(涙)。
でも、技術ってキラキラしたものではなくこういった泥臭さの中にあるよなぁ。と思わされる本でした。
その他オススメ
3冊+αにいれるほどではないかな?と思った本を軽く紹介しておきます。
- いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学
センディル・ ムッライナタン 著 -
ルーキー・スマート
- こちらは以前単体で記事を書きました。タイトルオチですがルーキーはベテランに劣るものではないという話
- イノベーションのジレンマ
- 「イノベーションの普及」同様イノベーションを扱った名書です。こちらもエアプな人が適当に引用している(たいていは日本の大会社は〇〇でダメだという文脈で)ケースが見られるので、原著にあたっておくのがオススメです。
教養本1の読み方
読書習慣がない方は読書力7が足りず挫折してしまい、本から遠ざかるという悪循環に陥りやすいように思います。なので、私なりのコツを簡単にまとめました。
- 目次や本の評判、筆者のプロフィールなどから、どんな本なのかあらかじめ把握しておく。
- 一字一句読もうとしない。分からなければ遠慮なく飛ばす。
- 後々理由やかまとめが書いてあったりするので後から分かることも多い。
- 定期的に筆者の言いたいことを頭の中で要約してみて、分からなかったら分かるところまで戻る。
- 読み進めてから戻ると「あ、そういうことか!」ってなることも多い。
- エビデンスゾーンは読み飛ばしても構わない。
- 論を補強しているだけなので読み飛ばしても流れは追える。
- 優良な教養本ほど論理構造がしっかりしているので、筆者を信頼して飛ばす勇気を持つ。
- 論を補強しているだけなので読み飛ばしても流れは追える。
終わりに
この記事では本についてまとめてみました。マイクロマウス Advent Calendar 2024の翌日分の記事はこちらです。
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クリシェでしょうが、相対性理論のGPSへの応用(発見:1905年・1915年 ⇨ 利用:1978年~)などが挙げられます。 ↩
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井上ひさし著の短編小説『握手』に出てくるルロイ修道士が語った言葉として、遠い昔の国語の授業を思い出す人も多いでしょう。私もです。 ↩
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専門ではないのでよくわかりません。もしかしたら業界では何かしらきちんと定義があるのかもしれませんが、私は聞いたことないです。 ↩
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教え方や接しやすさなど、心理学的な答えが出せるものはあるでしょうが教え方が上手ければ良い先輩なのか?接しやすければ良い先輩なのか?ということは答えがないはずです。ある課題について、深堀りしたり分割したり反証したりと論理的に考えるのが哲学だと私は解釈しています。 ↩
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遅れてきた中二病で購入したニーチェが難解すぎて積読している私からすると、デカルトのわかりやすい文体には助かりました。 ↩
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ゆる言語学ラジオパーソナリティの水野氏によれば、ベンチプレスやダンベルを軽いものから始めるように、読書も読みやすい本から始めると良いとのこと(読書ガチ勢が、本を読むコツを教えます【◯◯を読んではいけない】より) ↩ ↩2
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銀の弾丸といえば「人月の神話」ですが、どうせみんな読んでいると思いますのであえて取り上げませんでした。 ↩