アドベントカレンダー
こちらの記事、マイクロマウス Advent Calendar 2023へ参加しています。
前日の記事はアライさんの「マイクロマウス合宿の運営について」でした。マイクロマウス合宿は有志の勉強会・懇親会です。何度も開催するなかで得られた学び・ノウハウをドキュメント化することは、あとに開催する方にとってはありがたいことだと思います。特に学生が外部の人を呼ぶ大きなイベントを主催する場合、どうすれば良いのか途方に暮れることもあるので、ぜひ読んでもらいたいと思います。
はじめに
ある程度経験を積んだエンジニアなら、「先輩・後輩」の間柄で「教え・教えられる」関係になった経験があるでしょう。
しかし、残念ながらしばしばお互いが嫌な思いをしてしまうケースが発生します。そんなことが起きないよう、先輩の方が後輩に配慮してあげるのが道理というものでしょうが、後輩(ルーキー)に対してどんな配慮をすべきなのか、どのように行動するべきなのか迷っていたところ、こんな書籍を見つけました。
ルーキー・スマートとは
リズ・ワイズマン著「ルーキー・スマート」
によればルーキーとベテランは年齢や経験年数によらず、以下のような特徴で分類されるとのことでした。
- ルーキーの特徴
- 経験・知識がなく手探りで行動
- (上の性質から)致命的な失敗をしてしまう可能性がある
- 課題解決のために必死に質問や勉強する
- 失うものが少ない
- (体を使うタスクでは)熟練度が低くてうまくいかない1
- ベテランの特徴
- 知識・経験に基づいて直線的に行動する
- (上の性質から)もっと良い方法を見逃す事がある
- (やってはいけないことを知っているので)致命的なミスを犯しづらい
- 今までのやり方で課題解決しようとする
- 知識、経験、立場など失いたくないものが多い
- (体を使うタスクでは)熟練度が高くスムーズにこなす1
そして、ルーキー(後輩)の特徴が長所になることで、必ずしもベテラン(先輩)に劣るわけではなく、むしろルーキーは無知であるがゆえに強いと、筆者は述べています。
<映画「TENET」より>
逆に、ルーキーの心を忘れてしまったベテランは、ある種の罠に囚われてしまい、本人だけではなく周りのルーキーにも悪い影響を与えると警告もしています。
では、どんな罠があるのか、そしてその対策を紹介したいと思います。
ベテランが陥りやすい罠
ルーキー・スマートによれば、ベテランが陥りやすい罠は次のものが挙げられるようです。
(要約・加筆・改変(?)済み)
やり方を変えられない
ベテランは過去の経験で見つけた ”ベストなやり方” により、迷わずタスクを進められますが、それが最適解では無い可能性があります。
確かに、ベテランがルーキーから成長する過程で見つけたやり方は、当時は最適解だったのかもしれませんが、時代・環境の変化でそれが最適では無くなっている可能性があります。
環境変化に応じてやり方の見直しが出来れば良いのですが、ベテランは新しいやり方を試す必要性を感じておらず、やり方を変えるリスクに着目しすぎて、新たな最適解を見つけることが難しいと言えるようです。
コンフォートゾーンから抜けられない
ベテランは今まで培った人脈・立場(ポジション)を十分に駆使して結果を出していることでしょう。
しかし、その”心地良い空間(コンフォートゾーン)”では、外の情報の重要性が下がり、外部からの指摘・意見を排除してしまう壁ができやすくなります(内集団バイアス)。そればかりか、お互いの意見が肯定・強化されるエコーチャンバー現象が発生してしまい、間違った情報の流布に繋がることもしばしばです。
また、ベテランは組織内で人事的・儒教的な観点から敬われている事も、この現象に拍車をかけるでしょう。
知っている知識に縛られる
人間は物事を素早く判断できるよう、高いパターン認識能力を持ちます。そのせいでパターンに当てはまる情報を重視しがちで、それ以外を軽視しがちになります。
左の図からは様々な情報を自然と読み取れるのに対し、右の図から何かを読み取ろうとする人は少ないでしょう。同様に、知識が豊富なベテランはすでに知っている知識に関連する情報ばかり関心をもち、逆に(価値があるかもしれないのに)自分の持っている知識に反する情報をわざわざ入手しなくなります。
そして、ベテランがルーキーに「(実は意味があるかもしれないのに2)右の図には意味が無いので考える必要は無い」と教えてしまうことも想像に固くないでしょう。
ルーキーに学ぶ”ベテランの罠”の回避
逆に、ルーキーの良いところを取り入れれば、ベテランの罠は回避可能です。
まず、”罠”を脱出するベースとして、知らない・完璧ではないことを認める謙虚さ。新しい技術や知識等に好奇心を持ち続けること。遊び心を忘れないこという3つの心構えと、これらができているか定期的に振り返る計画性が大切になります。
その上で、自分が行うタスクに対して、本来の目的やニーズを再確認すべきです。過去の経験やしがらみにとらわれて、縛られる必要がないモノに束縛されているのが分かるかもしれません。
次に、時々でも自分の実力や専門分野の枠を少し超えたタスクにチャレンジすることが重要です。今までのやり方や技術・知識・経験が通用しなければ、コンフォートゾーンから抜け出さざるを得ないでしょう。
(この時、盛大な失敗をしないよう、ベテランの経験を活かして”命綱”を設けることを忘れないように)
また、日頃から新しい人脈を開拓したり、ルーキーや外部の専門家の意見を聞くなど、新しい意見・価値観を取り入れることも大切です。
ルーキーの罠
ところで、ルーキーであれば必ずルーキー・スマートの状態にあると言えるのでしょうか?
これに対する筆者の答えは ”No” でした。
なぜなら、ルーキーであるのにも関わらずベテランのような思考パターンに陥る可能性があるからです。
まず、ルーキーが失敗を恐れて立ち尽くしてしまい、色々なやり方を試さなければ、”やり方を変えられない罠”にとらわれてしまいます。そうならないよう、指導するベテランは失敗したり時間がかることを認め、自由に進められるよう指導すべきで、積極的に介入するのは、致命的なミスが起きそうな時だけにとどめておきましょう。
(もちろん、最初の方針決めしてあげたり、聞かれたときに答えることは大前提です。)
また、知らないこと・できないことを恥じて、周囲のベテランや専門家への質問や助けを求めることができないと、”周りに助けてもらえる”という特権が活かせなくなります。なのでルーキーは知らない・できないことが当然であると素直に認めて積極的に周囲の力を借りるべきですし、ベテランはそれを促すようなオープンな姿勢が求められます。
最後に、言われたまま・書いてあるままの方法を何も考えずにこなしたり、何から何まで教えてもらおうとしていると、本質を見逃しやすくなります。「なぜなのか?」。「どうしてなのか?」を、自分で考え続けることが鍵となります(別に何にでも抗う天邪鬼になれというわけではありません)。このような「純朴な質問攻め」を面倒がって「おまじないである」と答えないよう、日頃から勉強を欠かしてはなりません(難しいんですけどね)。
まとめ&おまけ
ルーキー・スマートを読んだことで、ルーキーの優れた特性とベテランが陥りやすい罠がよく理解できました。
ルーキー・スマートの状態を保てるよう、コンフォートゾーンに甘えないように(可能な範囲で)抗いがたいものです。
なお、この記事は斜め読みした内容を自分なりに咀嚼して書いているので、間違っていたり、歪んだ解釈になっている可能性は大いにあります。ぜひ原著に当たることをおすすめします(謙虚)。
宣伝
次のマイクロマウス Advent Calendar 2023の記事は、笹谷禎伸さんの「金沢の魅力とマイクロマウス」になります。金沢の魅力ということなので、観光地のことでしょうか?お酒のことでしょうか?内容が楽しみです。
-
「1万時間の法則」で知られるアンダース・エリクソン教授の研究は、「バイオリニスト」のうち「成功者」に分類される人は1万時間以上練習しているというものでした。つまり、練習したから成功したわけではなく、成功しているから(結果的に)
練習時間が長いという、相関の誤りが指摘されています。また、バイオリン演奏のように体をうまく動かすことを求められる職業を対象にしたものであり、プログラミングや執筆のような知的労働には必ずしも当てはまらないという見方もあります。 ↩ ↩2 -
ヒント:右の図を90度反時計回りに傾けてみてください ↩