はじめに
はじめまして!
NTTデータ テクノロジーコンサルティング事業本部 デジタルサクセスコンサルティング事業部の@tanaddです。
この記事では、Amazon Bedrockのマルチエージェント機能であるMulti-agent collaborationについて、設定の変更に伴う細かな挙動を検証した結果を紹介します。
Multi-agent collaborationについて
Multi-agent collaborationはAmazon Bedrockエージェントの機能の1つです。複数のAIエージェントが連携しながら、ユーザから与えられたタスクをこなす仕組みを簡単に構築することができます。
エージェントの役割
本機能で登場するエージェントは以下のような役割を持っています。
- スーパーバイザエージェント:
ユーザからの指示を分析し、必要に応じて適切なサブエージェントへ指示を与えます。また、サブエージェントの回答を受け取り、ユーザへ返す役割も担います。Multi-agent collaborationは、このスーパーバイザエージェントを作成するための機能です。 - サブエージェント:
特定のタスクをこなすことに特化したエージェントです。スーパーバイザエージェントから指示を受け、ナレッジベースを利用した検索や分析などを行い、回答を返します。
ルーティングモード・オプションの選択
Multi-agent collaborationにはモードの選択やオプションが存在し、これらを変更することで挙動が変わります。
- スーパーバイザエージェントのルーティングモード
- Supervisorモード:
どのような指示でも、スーパーバイザエージェントが入力を思考分析し、適切なサブエージェントへ指示を送ります。 - Supervisor with routingモード:
ユーザの指示がサブエージェントへ任せるべき内容か、Classifierによる判定が最初に入ります。サブエージェントと関連した指示だと判定された場合、スーパーバイザエージェントによる思考判断がスキップされ、直接サブエージェントへ指示がルーティングされます。
- Supervisorモード:
- 会話履歴共有
スーパーバイザエージェントが保持する会話履歴を、サブエージェントへ共有するかどうかを設定できます。
整理の結果
検証部分が長いので、検証の結果をもとに整理した、各ルーティングモード・オプションによるメリットとデメリットを先にまとめます。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
Supervisor モード |
・スーパーバイザエージェントがユーザの指示を全て思考 →より会話感が増す ・スーパーバイザエージェントの思考過程がトレースに残る →判断の根拠を把握できる |
・スーパーバイザエージェントの 思考過程が入る →回答に時間がかかる ・スーパーバイザエージェントの 思考精度の問題 →回答をコントロールしにくい |
Supervisor with routing モード |
・スーパーバイザエージェントの思考過程が入らない →回答時間を短縮できる ・Classifierによって適切なサブエージェントへ指示をルーティング →回答をコントロールしやすい |
・スーパーバイザエージェントの 思考過程を確認できない →判断の根拠は把握できない |
履歴共有 | ・ユーザの指示やスーパーバイザ エージェントの回答を サブエージェントにも連携 →複数のサブエージェントを利用する際に情報の欠落を防げる |
・これまでの履歴がインプットとしてサブエージェントに渡される →文章量が増えると処理可能な トークン数やコストに影響する 可能性あり |
実際の挙動を知りたい方は、以下も読んでいただけますと幸いです。
検証マルチエージェントの概要
機能検証のため、営業活動を支援することを想定したマルチエージェントを構築しました。1つのスーパーバイザエージェントに、アポイントメントに関するサポートを行う2つのサブエージェント(業界エキスパート、営業エキスパート)を繋げています。今回の検証ポイントはスーパーバイザエージェント側の設定による挙動の違いであるため、スーパーバイザエージェントの構築のみ、簡単に紹介いたします。
スーパーバイザエージェントの構築
Bedrockコンソールからエージェントを作成します。作成時、Multi-agent collaborationのチェックを入れます。
利用する基盤モデルや必要なロール、役割を定義した後、エージェントビルダー下部にあるMulti-agent collaborationの編集を選択します。
Multi-agent collaborationの編集画面からAgent collaboratorを展開します。ここで、連携するサブエージェントを設定します。Collaborator instructionには、サブエージェントの説明を記述します。これはスーパーバイザエージェントがどのサブエージェントを利用するか判断する際に利用されます。サブエージェントは事前にエイリアスを含めて作成しておく必要があります。
Agent collaboratorを追加したら、編集画面上部のSave and exitを選択し、エージェントビルダーに戻ります。正常に設定が完了していれば、エージェントビルダー下部のMulti-agent collaborationにあるView collaboratorsから連携しているエージェントを確認できます。
機能検証
ここからは、Multi-agent collaborationのルーティングモードやオプションを変更した際の挙動について検証していきます。
Supervisorモード、履歴共有オン
Multi-agent collaborationの編集画面にある、Collaboration configurationの項目においてSupervisorを選択します。
各Agent collaboratorのEnable conversation history sharingにチェックを入れます。
テストしてみた
【1度目のやり取り】テストエージェントの画像左側に表示されているのが、ユーザからの指示と最終的なエージェントからの回答となります。右側にはエージェントの思考およびエージェント同士のやり取りの過程が記録された、トレースが表示されます。
「アポイントメント準備をお願いします」というユーザの指示をスーパーバイザエージェントが思考、分析し、業界エキスパート(サブエージェント)へ指示を改めて送っています。
スーパーバイザエージェントからの指示を受け、サブエージェントから回答が返されます。
(サブエージェント側の思考、処理過程もトレースから確認できますが、今回は省略します。)
サブエージェントからの回答をスーパーバイザエージェントが思考、分析した後、ユーザへ最終的な回答を返します。
【2度目のやり取り】ユーザが「問題ないです」と返答すると、スーパーバイザエージェントは続いてその後の作業に適した別のサブエージェントへ指示を送ります。その後のやり取りは1度目と同じですが、この際、これまでのユーザの指示とスーパーバイザエージェントの回答は別のサブエージェントにも連携されます。
【処理時間】サブエージェントの処理の前後にスーパーバイザエージェントによる思考分析が入る分、処理時間がかかっています。
Supervisor with routingモード、履歴共有オン
Multi-agent collaborationの編集画面にある、Collaboration configurationの項目においてSupervisor with routingを選択します。
各Agent collaboratorのEnable conversation history sharingにチェックを入れます。
テストしてみた
【1度目のやり取り】Supervisor with routingモードの場合、ユーザから指示を送ると、スーパーバイザエージェントによる思考の前にClassifierによるルーティング判定が行われます。
サブエージェントに関連した指示であると判定された場合は、対応するサブエージェントへ、ユーザの指示を直接送ります。スーパーバイザエージェントによる思考、分析は実施されず、この点がSupervisorモードとの違いになります。
ユーザへの回答も、スーパーバイザエージェントによる思考分析が実施されず、サブエージェントによる回答がそのまま返されます。
(スーパーバイザエージェントとしては、ユーザの指示やサブエージェントの回答はしっかり保持しています。)
【2度目のやり取り】ユーザの返答後も1度目と同様にルーティング処理が入り、その後の作業に適した別のサブエージェントに指示が送られ、回答が返ってきます。この際、これまでのユーザの指示、スーパーバイザエージェントの回答(Supervisor with routingモードの場合はサブエージェントの回答と同義)は別のサブエージェントにも連携されます。
【処理時間】Classifierによるルーティングと、サブエージェントからの回答をそのままユーザに返すという挙動により、実質サブエージェントによる思考時間のみかかっています。
Supervisorモード、履歴共有オフ
Supervisorモードの状態で、Agent collaboratorのEnable conversation history sharingのチェックを外します。
テストしてみた
【1度目のやり取り】1度目のやり取りは履歴共有オンの時と同じ挙動になります。
【2度目のやり取り】ユーザの返答後の挙動が変化しており、別のサブエージェントにはスーパーバイザエージェントからの指示のみ連携されます。履歴共有をオフにすると、これまでのユーザの指示やスーパーバイザエージェントの回答は連携されません。Supervisorモードの場合はスーパーバイザエージェントが思考分析してサブエージェントに指示を送るため、これまでの履歴が共有されなくても必要な情報をスーパーバイザエージェントが補完して指示し、問題なく回答が得られます。
Supervisor with routingモード、履歴共有オフ
Supervisor with routingモードの状態で、Agent collaboratorのEnable conversation history sharingのチェックを外します。
テストしてみた
【1度目のやり取り】1度目のやり取りは履歴共有オンの時と同じ挙動になります。
【2度目のやり取り】Supervisorモードと同様、ユーザの返答後の挙動が変化しており、別のサブエージェントにはスーパーバイザエージェントからの指示のみ連携されます。Supervisor with routingモードの場合、ルーティング処理が発生するとユーザの指示がそのままサブエージェントに送られるため、「問題ないです」という指示のみ別のサブエージェントに送られてしまいます。その結果、別のサブエージェントはこれまでのやり取りを把握できず、適切な回答を返すことができていません。
まとめ
ルーティングモードやオプションを変更することで、同じような回答が返ってきているように見えても、内部の挙動としては大きく異なっていることが分かりました。それぞれにメリット、デメリットがあり、ユースケースによって使い分けていくべきだと思います。
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